422103 無機化学2(農学部・応生化) ○出席: 10回以上 ○レポート: 5回程度 ○期末試験:授業+レポートより 4/7/2014 ●授業内容・教科書はHP(暫定)に掲載 http://saitolab.meijo-u.ac.jp/index.html ●予習・復習を ●無機化学1の復習以外はできるだけ板書で行う 無機化学1 復習 どこが理解しにくいかチェックする 授業中の私語、携帯使用は厳禁 1 2章 原子、元素の成り立ち ●質量(mass) 電子(electron)静止質量(me = 9.1091031 Kg) 陽子(proton: 1.67261027 Kg)や中性子(neutron: 1.67491027 Kg) の1/1836・・・原子の質量はほとんど原子核(atomic nucleus)が決定 ●同位元素また同位体(isotope):陽子の数が同一で、中性子の数が 異なる元素。 水素の場合 1)質量数が1の1H(hydrogen) 2)一個の中性子が加わった重水素(2HまたはD:deuterium)、 3)さらに一個の中性子が加わった三重水素(3HまたはT:tritium) Dは自然の水素中に1/3500~1/5000含まれている。Tは自然界にも存 在するが、主に核反応により人工的に作られる放射性(radioactive)元 素である。1 + 陽子 2 – 3 – – H – + H(D) + 電子 H(T) + 水素 1H、重水素 2H(D)、三重水素3H(T)の構成 原子核 中性子 電子の軌道(s軌道、p軌道、d軌道、f軌道) 図2.15 s軌道 図2.17 d軌道 図2.16 p軌道 2-2-1 電子を詰める パウリの排他律とフントの規則 電子の運動・・・軌道運動(n、ℓ、mℓ)+自転運動(スピン 運動) スピン運動を規定する量子数・・・スピン量子数 (s=+1/2, -1/2) アップスピン、ダウンスピン。磁場により エネルギーは2本に分裂する。 パウリ(Pauli)の排他律 二つの電子は4つの量子数を同一にで きない・・・一つの軌道上の電子はアッ プとダウンの2個の電子 磁場ナシ 磁場アリ フント(Hund)の規則 同一エネルギ-の縮退軌道には、同じ向 きのスピンを極大まで入れる O Be B F C y s軌道 2s軌道 px軌道 1s軌道 3重縮退 p軌道 Ne N 多電子原子の電子軌道と電子配置 多電子原子では、他の電子とのクーロン相互作用などにより、クーロンポテンシャ ルは球対称でなくなる。このため、主量子数が同じ軌道でも方位量子数が異なると、 軌道エネルギーも異なるようになる。 ●前表の最後のNeの次の元素Na(Z = 11)からAr(Z = 18)までは、電子が素直に 3s, 3pを埋める。Ar (Z=18) アルゴン(1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p6) [Ar] ●アルゴンの次に来る元素から、電子は3d軌道よりもエネルギーの低い4s軌道に 入る;K(Z = 19, [Ar]4s1)), Ca(Z = 20, [Ar]4s2)。 ●4s軌道が満たされた次のZ = 21-23までは4p軌道に電子が入ると予想されるが、 3d軌道が優先する。 Sc(Z = 21, [Ar]3d14s2))からCu(Z = 29, [Ar]3d104s1) の 最初の遷移金属系列では3dが順次満たされ、これらは、種々の原子価を取る、強 く着色した化合物を作る、単体は硬く、高融点の重金属で、多くは磁性を示すなど の共通点を持つ。このうち、Cr(Z = 24, [Ar]3d54s1)とCu([Ar]3d104s1)以外は4s2 の電子配置を持つ。例Mn(Z=25, [Ar]3d54s2) 多電子原子における電子収容の順序は次図。 電子の詰まり型(電子配置) l =0,1,2,3,4の軌道をs(sharp), 電子収容の順序。左肩上がりの矢印に 沿ってs、p、d、f軌道に2個、6個、10個、 p(principal),d(diffuse),f(fundamental)軌道 とする。4f軌道、5f軌道が未閉殻の元素がラ 14個づつ詰める ンタノイド、アクチノイドである。 n 遷移金属 l= m=0,1,••l 殻 n1,・ 軌道数 2l+1 ・・0 1 K 0 1s 2 L 0 2s 1 2p 3 M 0 3s 1 3p 2 3d 4 N 0 4s 1 4p 2 4d 3 4f 5 O 0 5s 1 5p 2 5d 3 5f 4 5g 0 0 1,0 0 1, 0 2, 1, 0 0 1, 0 2, 1, 0 3, 2, 1, 0 0 1, 0 2, 1, 0 3, 2, 1, 0 4, 3, 2, 1, 0 総軌 殻に 道数 入る n2 総電 子数2n2 1 1 2 1 4 8 3 1 9 18 3 5 1 16 32 3 5 7 1 25 50 3 5 7 9 総 電 子 数 2 H,He 10 Li~Ne 28 Na,Mg Al~Ar 60 11 0 K, Ca ●分子の集合体である分子性結晶(ファンデルワールス結晶、例:ドラ イアイス、ワックス)において、個々の分子は、大きな結合エネルギー をもつ共有結合やイオン結合で形成されているが、分子間をつなぐ結 合は人の指でも十分切断できるほど弱い結合である。この弱い結合を ファンデルワールス結合とよび、ファンデルワールス力が主要なもので ある。 ●分散効果(全ての物質間)+誘起効果(双極子物質と無極性物質) +配向効果(双極子物質間) ●結晶を形成するのに必要なエネルギーの目安は格子エネルギー (=成分分子やイオンに分離するに必要なエネルギー、昇華熱)であ る。ファンデルワールス結晶の格子エネルギーは数10 kJ mol1であ り、イオン結晶(この結合も人の手で切断可能なものが多い)の格子エ ネルギー250~1000 kJ mol1に比べてかなり小さい(表4.1)。 ●不活性ガス(He, Ne, Ar, Kr, Xe, Rn) 単原子分子の凝集は分散効果 ●ファンデルワールス相互作用のなかで最も重要な分散効果(ロン ドンの分散力として知られる)の起因となる瞬間的電場とそれによる 分子間相互作用エネルギーの大きさを示す。また、分子が充填して 結晶を形成するときの最密構造と各原子のファンデルワールス原 子半径を述べる。 表4.1 代表的な4種の結晶と例 結晶の種類 分子性結晶 イオン結晶 共有結合結晶 金属 代表 Ar O2 NaCl CaF2 C(ダイヤモンド) Si Hg Na Cu Ti W 凝集エネルギー / kJ/mol 7.74 7.1 764.0 1680 711 446 65 107 336 468 859 融点 /C 189.4 219.1 803 1360 3572 1410 38.8 97.8 1083 1725 3400 アルカリ金属元素とハロゲン元素のイオン化 H, Li, v K, Na, Rb, Cs イオン化(ionization) イオン化エネルギー s軌道 (ionization energy) H, Li, v K, Na, Rb, Cs s軌道 Hydrogen Lithium Sodium Potassium – 水素、アルカリ金属元素 F, Cl, Br, v I, At 電子構造は不活性ガス型 電荷は +1価 陽イオン(cation) イオン化 Fluorine Chlorine Bromine Iodine F, Cl, Br, v I, At + p軌道6e 電子親和力 で満席 (electron affinity) ハロゲン元素 p軌道 電子構造は不活性ガス型 電荷は –1価 陰イオン(anion) 電子式 例 L殻電子(n=2)の元素 s軌道、p軌道を考えず、元素記号の周囲に 8電子までを記す。一個の丸は不対電子を示し、2個揃うと電子対を形 成したとする(共有電子対、非共有電子対(=孤立電子対 lone pair)。 Li Be O +2H B C N O Ne F H H + H OH H O H H O+ ヒドロキソ H2 O 共有結合(covalent bond) N +3H H + H NH H NH3 3 ニウム 配位結合(coordinate bond) H HNH H NH4+ アンモ ニウム 共有結合、配位結合は、結果として、等価である 3章 1) CsCl(cesium chloride)型:配位数8 陽イオンの半径と陰イオンの半径に大きな違いがない 時(r/R>0.73 であると)、主に塩化セシウム型: CsX(X = Cl, Br, I)、NH4X(X = Cl, Br, I)など、約50種の化合物があ る。配位数8。 2r R 2 2 1 1 2 1 (2R+2r)/2R=3 r/R=0.732 全 て の 原 子 が 同 種 な ら 体 心 立 方 格 子 (body centered cubic, bcc, 占有率68%, 全てのアルカ リ金属、Ba, 多くの遷移金属が属す。 11 2)岩塩(rock salt)型: 配位数 6 陽イオンが小さくなり0.73 > r/R > 0.414ならば岩塩型:上 記CsX(X = Cl, Br, I)を除く全てのハロゲン化アルカリが 属す。200種以上の化合物がある。配位数6。 1 1 2r 1 (2R+2r)/2R=2 r/R=0.414 2R 陽 イ オ ン 、 陰 イ オ ン は 各 々 面 心 立 方 格 子 (face centered cubic, fcc, 占有率74.1%)、全てが同種原子な ら単純立方格子(simple cubic, sc, 占有率52%, Poの低 温相)である。 12 3)閃亜鉛鉱(zinc-blend)型 陽イオンが小さくなり、陰イオン が大きくなると(0.414 > r/R)( 閃亜鉛鉱(ZnS)、CdS、ハロ ゲン化銅(I)など40種近くの化合物がある。配位数4)。 2 O Q Q O 1 2r P L R L P r/R =0.225(R/(R+r)=2/3) 全原子が同種でダイヤモン ド(diamond)型構造 (4配位、Si,Ge,灰色Sn,占有率は34%) 元素記号(symbol of element) 原子記号(atomic symbol) 炭素(carbon) 12 C, 6 質量数(陽子数+中性子数) mass number 13C 6 原子番号(陽子数) atomic number 13 ボルン-ハーバー サイクル ●格子エネルギーを直接測定することは不可能である。 ●実験により得られる標準状態(常圧、298 K (25℃)なので0 Kでの値 より2.48 kJ mol-1だけ大きい)の熱力学データを用い、イオン結晶の格 子エネルギー(Hc: エンタルピー)を求める方法としてボルンとハーバ ーが独立に提案した循環過程をボルン-ハーバー サイクルという。図 に塩化ナトリウム結晶の例を示す。 ΔH (1 / 2) ΔH d Na(固体) + 1/2Cl2(気体) sub Na(気体) + Cl(気体) Hf ↓ ↓ +I p – E A Hc NaCl(固体) Na+(気体) + Cl-(気体) Hf: Na(固体) +1/2 Cl2(気体)からNaCl(固体)への生成熱 Hc: 格子エネルギーU、Ip:Naのイオン化電位 EA:Clの電子親和力、Hsub: Naの昇華熱、Hd: Cl2の解離熱 昇華: sublimation、解離: dissociation、電荷:electric charge 誘電率:dielectric constant 14 ΔH (1 / 2) ΔH sub d Na(固体) + 1/2Cl2(気体) Na(気体) + Cl(気体) Hf ↓ ↓ +I p – E A Hc NaCl(固体) Na+(気体) + Cl-(気体) 上図は、一回りすると元に戻る(ゼロ)なので A → B ↑ ↓ D ← C A+B+C+D=0 ー Hsubー (1/2)Hd +Hf(NaCl 固体)+Hc = Ip – EA Hc = –Hf(NaCl 固体) + Hsub + (1/2)Hd + Ip – EA (3.13) 15 4章 17族元素:ハロゲン元素(halogen) 分子間 相互作用はファンデルワールス力 非金属:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素 非金属と金属の中間か?・・・アスタチン(不明元素) ●フッ素(F2, F, fluorine) 淡黄緑色の気体、反応性 極めて高い、猛毒、電気陰性度最大の元素 フッ化水素酸HF:腐食性強い、 ガラスのエッチング フロン:炭素との化合物、沸点が高くエアコン冷媒 ・・・・オゾン層の破壊(オゾンホール) テフロン:フッ素樹脂 耐熱性、耐薬品性、摩擦係数 低い ●塩素(Cl2, Cl, chlorine) 黄緑色の気体、反応性極 めて高い、猛毒、不快臭、殺菌(プール、浄水場)、 漂白作用(さらし粉 Ca(ClO)2) CaCl(ClO)H2O Cl2ガスを用いずに、次亜塩素酸ナトリウムNaClOを 使う(次亜塩素酸ソーダとも呼ばれる。強アルカリ性 である。希釈された水溶液はアンチホルミンとも呼ば れる) 2NaOH + Cl2 → NaCl + NaClO + H2O 特異な臭気(いわゆるプールの臭いや漂白剤の臭い と言われる臭い)を有し、酸化作用、漂白作用、殺菌 作用がある。 ●家庭用の製品の「混ぜるな危険」などの注意書 きにもあるように、漂白剤や殺菌剤といった次亜塩 素酸ナトリウム水溶液を塩酸などの強酸性物質(ト イレ用の洗剤など)と混合すると、黄緑色の有毒な 塩素ガスが発生する。浴室で洗剤をまぜたことによ る死者も出ているので取り扱いには注意が必要で ある。 NaClO + 2HCl → NaCl + H2O + Cl2 ●有機塩素化合物 DDT, BHC, PCB, ダイオキシン ・・・人体に有害 ●ポリ塩化ビニル(塩ビ) ●臭素(Br2, Br, bromine) 赤褐色、重い液体(全元素 中HgとBr2のみ液体)・・・取扱に注意(ドラフト使用) ピペットから落ちる・・蒸発しやすい・・赤色気体・・吸引 しないこと、猛毒、刺激臭、性欲減、皮膚に臭素が触 れると腐食を引き起こす 臭化銀(AgBr) 銀板写真の原料 ●ヨウ素(I2, I, iodine)黒紫色固体、高い昇華性、毒物 AgI: 人工雤、でんぷんの検出:ヨウ素でんぷん反応、 ●消毒薬:ヨウ素のアルコール溶液がヨドチンキ、ヨウ 素とヨウ化カリウムのグリセリン溶液がルゴール液 ●放射能汚染が起きた場合、放射性でないヨウ素の 大量摂取により、あらかじめ甲状腺をヨウ素で飽和さ せる防護策が必要である。 4.9) プロトン移動と酸・塩基[2] 4.9.1) ブレンシュテッド-ローリーの酸(acid)・塩基(base) 酸はH+を供与する分子(HAA-+H+)、塩基はH+を受容する分子 (B+H+BH+)と定義された(1923年)。水中では、H2Oが塩基また は酸として働く。 溶液中 HA + B ⇌ A- + BH+ (4.2) 酸 HA + H2O ⇌ H3O+ + A- (4.3) pKa=-logKa (4.4) 塩基 B + H2O ⇌ HB+ + OH- (4.5) より , pKb=-logKb (4.6) 共役酸・塩基で pKa + pKb = 14.0 (4.7) である。 塩酸(hydrochloric acid): 塩化水素(hydrogen chloride)の水溶液 硝酸(HNO3) nitric acid 硫酸(H2SO4) sulfuric acid 水素イオン指数(hydrogen ion exponent) pH = - log10[H+] (1909年の提案) [H+]は水素イオンのモル濃度(mol/dm3) ●25℃, 中性で [H+] = [OH-]=10-7 mol/dm3 pH = 7 酸性 pH <7, 塩基性 pH > 7 pH試験紙 ●強酸 H+を出しやすい酸:塩酸 強塩基 OH-を出しやすい塩基:水酸化ナトリウム 22 ●中和反応:酸と塩基の反応で水と塩が生成する 塩の加水分解:塩と水との反応で酸と塩基が生成 中和 酸 + 塩基 塩 + 水 加水分解 ●生じた塩中に、依然としてH+が存在する塩: 酸性塩:H2CO3 + NaOH →NaHCO3 + H2O ●生じた塩中に、依然としてOH-が存在する塩: 塩基性塩:Ca(OH)2 + HCl →CaCl(OH) + H2O ●塩中に、OH-, H+が存在しない塩:正塩 ●塩の水溶液の酸性・塩基性 中和反応における酸と塩基の内、強い方の性質 NaHCO3(酸性塩)は? NaCl(正塩)は? 23 4.10) ルイスの酸-塩基 ●ブレンシュテッドの酸・塩基の提案と同じ1923年に、八偶説(オク テット則)を提唱したルイスが提案 ●酸は共有結合を形成するため他の物質から一対の電子対を奪い (電子対受容体、ルイス酸)、塩基(電子対供与体、ルイス塩基)は電 子対を与え、ともに希ガス型電子配置をとる。 ●BF3 + :NR3 ⇌ F3B:NR3 を八偶説に沿って図示(図4.5)。 F F F B BF3 F R N R R :NR3 F R F B N R R F3B:NR3 図4.5 :最外殻電子(価電子)、B3個、N5個、 F7個、R1個、 有原子価結合、 :配位共有原子価結合 :正常共 ●オクテット則を満たさない第13族元素(B, Al)の共有結合化 合物は、空の軌道(空軌道, vacant orbital, 非占有軌道 unoccupied orbital)を持つので強いルイス酸で、配位結合 により錯体を形成する。 ●遷移金属元素の多くは共有結合に利用される価電子の 他に空のd軌道などを持ち(空軌道)ルイス酸となり、多くの 種類の金属錯体が配位結合により形成される。 ●非共有電子対が空軌道に入り込む 空軌道 非共有電子対 酸 塩 基 NH3(sp3) NH3BF3 混成による非共有電子対と空軌道の形成 非共有(孤立)電子対 不対電子 N 2p sp3 2s 1s 1s B 2p 不対電子 sp3 2s 1s 1s 空軌道 Bの電子(sp3電子 3電子) Fの電子(2s22p5電子 7電子) F F BF3 B F 共有結合 2 分 子 構 造 か ら は sp 混成 Fの周りには8電子・・満杯 Bの周りには赤3個+青3個・・・6電子・・2個分余裕あり F F F B BF3 (F上の緑の線が 関与していない電子 を除く) R N B R R :NR3 R N R F3B:NR3 配位結合 配位結合(Coordinate bond) ●結合を形成する2つの原子の一方からのみ結合電子が分 子軌道に提供される化学結合である。電子対供与体(ルイ ス塩基)となる原子から電子対受容体(ルイス酸)となる原 子へと、電子対が供給されてできる化学結合であるから、ル イス酸とルイス塩基との結合でもある。 ●したがって、プロトン化で生成するオキソニウムイオン(3 つの化学結合をもった酸素のカチオンの総称(最も単純なオ キソニウムイオンはヒドロニウムイオン H3O+ 。より正確には オニウムイオン、図4.6)は配位結合により形成される。 図4.6 オキソニウム R2R’O+ ●酸素の6個の最外殻電子(赤丸)に2個のRX(H, Xは不対 電子)が共有結合(covalent bond)で付き、酸素周りに8個 の最外殻電子が存在する(飽和状態)。ここに、R’(電子 対受容体H+)が酸素の電子対に配位し、結合を形成する。 非共有(非結合、孤立) 電子対(lone pair) H+ 図4.7 ヒドロニウム H3O+ H2O 4.12) ピアソンの酸-塩基: Hard and Soft Acid-Base(HSAB) ●ピアソンは、1963年に硬さと軟らかさで酸・ 塩基を分類した。この硬さ・軟らかさは電子雲 の性質と考えればよい。最外殻の電子軌道が 外電場に対して分極し難い物質が硬い酸・塩 基であり、大きく分極する物質が軟らかな酸・ 塩基である。 5章 混成と共有結合 5.2.1) 混成(hybridization) ●炭素原子は2s22p2の最外殻電子配置をもち、このままでは2個のp 軌道電子のみが結合に関与した水素との化合物H-C-Hを与えると予 想されるが、実際はメタンを始めとする飽和炭化水素CnH2n+2、エチレ ンやアセチレンのような2重結合や3重結合を持つ不飽和炭化水素を 与える。これは、図5.6に示す混成軌道を用いて説明された(ポーリン グ, スレーター)。 2p 2s 1s 図5.5 炭素原子(C)の軌道エネルギー ●1個の2s軌道電子が2pに励起され、あたかも同一のエネ ルギー軌道(混成軌道)に4個の電子(2s12px12py12pz1)が あり、飽和炭化水素やダイヤモンドに見られる4本の結合を 持つ化合物(sp3混成という、結合角は10928')、3個の電 子が他の3種の元素と結合するとエチレンのような3本の結 合を持つ化合物(sp2混成という)、2個の電子が他の2種の 元素と結合すると2本の結合を持つアセチレンのような化合 物(sp混成という)を与える。 sp3混成 s 2p 2s 1s px py pz 混成軌道 1s sp2混成 sp混成 図5.6炭素の1s22s22p2電子配置とsp(青), sp2(赤), sp3(緑)混成軌道 A) sp3混成 s軌道とp軌道の寄与が1:3である分子軌道の形を考える。軌道の混 成を各軌道の線形結合で表し、4つの独立な(互いに直交している)規 格化された分子軌道を作り、分子軌道への各p軌道の寄与が同等とし て、そのうちの1つの軌道の向くベクトルをxyz面内の第一象限にすると 分子軌道は5.14式~5.17式である。 1 = (1/2)(s + px + py + pz) (5.14) 2 = (1/2)(s – px – py + pz) (5.15) 3 = (1/2)(s + px – py – pz) (5.16) 4 = (1/2)(s – px + py – pz) (5.17) sp3混成を正四面体混成(tetrahedral hybrid)ともいう(図5.8、各軌道 の成す角は10928')。 図5.8 sp3 混成軌道 B) sp2混成 s軌道とp軌道の寄与が1:2の分子軌道で、寄与するp軌道をpx, pyと する。3つの同等で独立な混成軌道は、エチレンやベンゼンのように平 面状で、各々が互いに120の角を成すものを考える。4はpz軌道そ のものである。1をx軸方向の5.18式と定め、2および3軌道の中の px, pyの係数を規格化と直交の条件より得る。 1 = s/3 + 2px/6 (5.18) 2 = s/3 – px/6 + py/2 (5.19) 3 = s/3 – px/6 – py/2 (5.20) sp2混成軌道は3方混成(trigonal hybrid)といわれ、各軌道は互いに 120を成す(三角型構造、図5.9)。残りの4 = pz は、1~3が作る平面 (xy面)に垂直に延びている。 2 図5.9 sp2混成軌道(7.18~7.20式) 1 3 1 2 3 C) sp混成 p軌道としてpx軌道を選ぶと、5.21~5.24の4つ分子軌道が得られ、 1と2はxの正、および負の方向に延び、2方混成(diagonal hybrid)をなし直線型構造、残りの2つの軌道はy、z軸方向に延びる (図5.10)。 1 = (1/2) (s + px) (5.21) 2 = (1/2) (s – px) (5.22) 3 = py (5.23) 4 = pz (5.24) 図5.10 sp混成軌道(5.21,5.22式) 1 2 炭素以外でも価数と結合の方向性から、表5.1、図5.7の ような混成軌道が得られている。 表5.1 混成の例 混成 形 sp 直線形 sp2 sp3 sp3 d sp3 d2 角度 180 例 BeCl2 [Be:1s22s21s22s2p], CH CH、CO2 平 面 三 120 ベンゼン、ポリアセチレン、黒鉛 (面内)、BF3, SO2, SO3 角形 四面体 1092 ダイヤモンド、BF4、NH3, H2O 8' 三 角 両 90,1 PCl5、SF4、I3 20 錐形 SF6, IF5, PCl6 八面体 90 図5.7 混成軌道 BeF2(sp), BF3(sp2), メタン(sp3), NH3, H2O 非共有 電子対 BeF2(sp) NH3(sp3) BF3(sp2) CH4(sp3) H2O(sp3) 5章 共有結合 ② 5.4) 結晶 5.4.1) 14族 C, Si, Ge, Sn, Pb : C, Siが非金属元素に 分類されるが、Ge、aSnは半導体(金属でない) ●C(carbon, 地殻濃度480ppm)より成るダイヤモンドは典 型的なsp3共有結合結晶であり、巨大分子とも言える。結晶 構造は閃亜鉛鉱型(CuCl型)で2種の元素を炭素にしたもの。 充填率は0.340であり、高価な割に隙間だらけの物質であ る。 O Q P L ●重要な課題ダイヤモンドの大量・大型サイズ結晶の人工 合成と、ダイヤモンドに導電性を付与できる手法の開発、新 たな半導体素子 ●黒鉛、グラフェン、フラーレン、ナノチューブはp電子を含 む炭素化合物である。 C70 黒鉛 フラーレン ナノチューブ C60-C60 C60 ●Si(silicon,半導体・太陽電池の原材料、濃暗灰色結晶、 地殻濃度277100ppm)。SiO2(二酸化ケイ素、シリカ、石英) として地殻に存在, 還元(電気的に)して99.999999999% (11N)とし半導体の基板に使用する。 バンドギャップが常温 付近で利用するために適当な大きさであること、BやPなどの 不純物を微量添加させることにより、p型半導体、n型半導体 のいずれにもなることなどから、電子工学上重要な元素であ る。半導体部品として利用するためには高純度である必要 があり、このため精製技術が盛んに研究されてきた。現在、 ケイ素は15Nまで純度を高められる。 ●重要課題:SiO2→高純度Siの安価な精製技術 シリカ シリコン単結晶 元素(典型元素+遷移元素) 遷移元素:「完全に満たされていない(閉殻していない)d軌 道を持つ元素、あるいは完全に満たされていないd軌道を 持ったイオンを生成する元素」 ●典型金属元素(典型元素の中の金属元素) 1族 アルカリ(Li, Na, K, Rb, Cs, Fr) 2族 アルカリ土類(Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Ra) 12族 Zn (3d104s2), Cd(4d105s2), Hg(5d106s2) 13族 Al, Ga, In, Tl 14族 Ge, Sn, Pb 15族 Bi 16族 Po 第12族元素(亜鉛族元素)は化学的性質が典型元素の金 属に似ており、またイオン化してもd軌道が10電子で満たさ れ閉殻していることから日本では一般に典型元素に分類さ れるが、遷移元素に分類される例も多く見られる。 14族、15族、16族の金属:Ge, Sn, Pb, Bi, Po ●Ge(germanium, 灰白色結晶、1.8ppm)はダイヤモンド構 造の元素。初期のトランジスタに使われ、安定性に優れるケ イ素(シリコン)が登場するまでは主流だった。石英を用いた レンズに添加すると屈折率が上がり、また赤外線を透過す るようになるので、光学用途にも多用される。 ●Sn(tin, 地殻濃度2.2ppm)はaスズ(灰色スズ)⇌スズ(白 色スズ)⇌スズの3種の同素体があり、普通の金属スズは で13.2℃でaに極めてゆっくり転移。金属スズを曲げると独 特の音がするが、これはスズ鳴き (tin cry) と呼ばれる。結晶 構造が変化することにより起こる。同様の現象は、ニオブや インジウムでもある。 aスズはダイヤモンド構造の非金属で、 Sn-Snの結合エネルギーは小さく、脆い。 →aの転移速 度は30℃以下で急速に進み、腫物状に膨張しボロボロに なる(スズペストとナポレオンのロシア遠征の敗退)。 ●四塩化スズ(SnCl4 爆発性、水との反応でHCl発生)は常温 で発煙性の液体(融点33.3℃)でありSn4+と塩素原子との 結合はイオン的でなく共有結合。 ●銅との合金:青銅(ブロンズ)、鉛との合金は半田として利 用、鉄板にメッキするとブリキ ●重要課題 毒性のない(鉛フリー)はんだの開発 ITO(indium tin oxide): 酸化インジウムと酸化スズの混合 物で、透明な電導膜であり、液晶、有機ELの透明電極材料 である。インジウム(地殻濃度0.049ppm)は中国のレアメタ ル戦略物質。 ●重要課題Inを含まない透明電極の開発 ●Pb(lead, 地殻濃度14ppm)は金属、共有結合性はない。 軟らかい金属で紙などに擦り付けると文字が書けるため、古 代ローマ人は羊皮紙に鉛で線および文字を書き、これが鉛 筆 (lead pencil) の名称の起源。 鉛蓄電池(自動車バッテリー)、放射線遮蔽材、 毒性:テトラエチル鉛(アンチノック剤)のような脂溶性の有 機物質は細胞膜を通過して直接取り込まれるため、非常に 危険である→ローマの滅亡。
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