企業法Ⅰ講義資料 No.03 File No.03 I. 株式の担保化(質入れ) II. 株式の併合・分割 III. 単元株式制度 IV. 株券 テキスト参照ページ:81~86p、88~101p、113~116p 1 Ⅰ:株式の担保化 1. 意義:株式は財産的価値をもつので担 保権の対象となりうる ⇒会社法上は株式の質入れ(略式質・ 登録質)のみ規定されているが、実務 では譲渡担保(略式譲渡担保、登録譲 渡担保)の方法が多く利用されている 2 2:株式の質入 ① 成立(146):質権設定の意思表示(株券発行 会社では株券の交付も必要)によって成立 ② 対抗要件(147):株主名簿に質権者の氏名・ 名称および住所を記載(147Ⅲ、民364参照) (株券発行会社では株券の継続占有が対抗要 件):設定者の名簿への記載請求権(148) ③ 略式譲渡担保:規定はないが、質入に対応し て譲渡担保が認められている ④ 登録譲渡担保:形式的には名義書換えと同じ :売買契約か、譲渡担保権設定の意思表示か 3 の違い 『論点』 • 譲渡制限株式(2⑰)の略式譲渡担保には 取締役会の承認が必要か? →最判昭48.6.15民集27.6.700百選18事件は 譲渡担保も譲渡なので必要とする →学説は不用説が多数:担保権実行時に承 認請求(136、137)をすれば足りる(名 義書換を請求する登録譲渡担保の場合は 承認請求が必要) 4 3:担保の効力① ① 質権自体の効力:留置的効力、優先弁済権、 転質権(民362Ⅱ、342、348) ② 質権の物上代位的効力:剰余金の配当、残余 財産分配等にも及ぶ(151):登録株式質権者は金 銭の場合、それを受領し優先弁済に充てることができる (154Ⅰ):但し特例登録質権者を除く(218Ⅴ) ③ 株券発行会社を除き、会社が株主に株式を交 付する一定の行為(151①~③、⑥)を行う場 合、質権者が登録株式質権者である場合、株 主が新たに受けることができる株式について 株主名簿に質権者の氏名または名称および住 所を記載・記録しなければならない(152Ⅰ) 5 3:担保の効力② ④ 株券発行会社を除き、会社が株式併合または 株式分割を行う場合、質権者が登録株式質権 者である場合、併合した株式または分割した 株式について、株主名簿に質権者の氏名また は名称および住所を記載・記録しなければな らない(152Ⅱ、Ⅲ) ⑤ 株券発行会社の場合、152Ⅰについては、登録 株式質権者に株券を引き渡さなければならな い(153Ⅰ):株式併合した株式にかかる株券 または株式分割した株式について新たに発行 する株券についても同じ(153Ⅱ、Ⅲ) 6 ※担保権の実行方法 • 質権では競売または簡易実行(民354) による。 • 譲渡担保では任意売却や自ら担保物を取 得することができる(裁判所の関与が不 要な点で譲渡担保の方が担保権者にとっ ては便利) 7 Ⅱ株式の併合・分割 • 株式会社は、株式の併合および分割 をすることができる。 • 株式の併合は、発行済株式総数が 減少する(180~182) • 株式の分割は、発行済株式総数が 増加する(183~184) 8 1.株式の併合 1. 意義:数個の株式を合わせてそれより少数の 株式にすること(180Ⅰ) :発行済株式総数減少⇒消却と違い、全ての 株式について一律に行う 2. 平成13年改正により、一定の手続(株主総会 の特別決議)により会社が自由に行うことが できることとなった ※株主の管理コスト削減のため株式単位を引 き上げる、資本金額の減少と同時に行い、下 落した株価を引き上げる、合併や株式交換・ 移転などでの株式割り当て比率の調整などの 9 ために利用 発行可能株式総数との関係 • 株式消却・併合により発行済株式総数が減少した 場合、同時に発行可能株式総数も減少するか? ⇒定款を変更して発行可能株式総数を減少しない 限り、当然には減少しない :原則として、消却や併合により減少した発行済株 式は、未発行授権資本枠に振り替えられる • 発行済株式総数が変更するため変更の登記が必 要(911Ⅲ⑨、915) 10 2.株式併合の手続 1. 「株主総会の特別決議」+総会で取締役は株式併合 を必要とする理由を開示(180Ⅱ・Ⅲ、309Ⅱ④) • 決議事項(併合の割合、効力発生日、種類株式発 行会社では併合する株式の種類) • 株式併合に関する通知・公告(181) 2. 効力発生日:前日に有する株式数×併合割合で得た 数の株主となる(182) 3. 株券発行会社で対象株式について株券が発行されて いる場合:株券提出公告・通知が必要(219) 4. 一株に満たない端数が生じた場合:235、234Ⅱ~Ⅴ (原則として、端数分を競売し、代金を分配) 11 3.株式の分割 1. 意義:株式を細分化して発行済株式総数を増 加すること(183Ⅰ) ・新たに出資が行われるわけではないので、会社資 産に変動はない→各株主は増加した株式をその持株 数に応じて取得するので、株主の割合的地位に変化 はない 2. 株式分割と同時に、分配可能額の資本組入を 行うかつての株式配当、又は準備金の資本組 入(かつての無償交付)については、株式無 償割当の制度へ(185以下)→この場合会社資 産に変動はないが、資本の額が増加する 12 4.株式分割の手続 ①株主総会決議(取締役会設置会社では取締役会決議) (183Ⅱ):株主に不利益をもたらすものではないため 普通決議または取締役会決議で足りる ・決議事項(分割割合および分割の基準日、効力発生 日、種類株式発行会社の場合分割する株式の種類) ②公告:基準日の定めにかかる公告(124Ⅲ) ③効力発生 (184Ⅰ) :基準日に分割割合に応じた数の 株主となる ※株式分割に際して、分割に応じて発行可能株式総数を分割割 合に応じた数の範囲内で増加させる場合、株主総会決議によら ずに定款変更をすることができる(184Ⅱ):ただし、現に2種以 上の種類株式を発行している会社を除く ④発行済株式総数など登記事項の変更登記(911Ⅲ⑨、 13 915) 5. 株式の無償割当 1. 意義:株主に対して、新たに払込をさせないで当該株式 会社の株式を割当てる制度(185) 2. 定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会(普通) 決議(取締役会設置会社では取締役会決議)により、以 下の事項を定める(186Ⅰ・Ⅲ) 1. 割当てる株式数(種類株式の場合は種類および種類ごとの 数)またはその算定方法 2. 効力発生日 3. 種類株式発行会社の場合、無償割当を受ける株主の有する 株式の種類 3. 自己株式には割当てられず、割当ては持株数に応じて 行う(有する株式と同一の種類の株式に限らない) 14 (186Ⅱ) 株式分割と株式無償割当ての相違点 株式分割 株式無償割当て • 自己株式にも効力が及ぶ • 自己株式には割り当ては されない • 株式分割以外の形で新た な払込みなしに株式数を 増加させる場合(異なる種 類の株式を交付することも できる) • 株主、登録株式質権者へ の通知が必要 • 自己株式が割当てられる 15 こともありうる • 同じ特定の種類の株式を 一定割合で増加させる場 合のみを株式分割とよぶ • 基準日に関する公告があ れば、株主等への通知は 必要ない • 自己株式が交付されるこ とはない Ⅲ 単元株制度 • 平成13年改正商法は、額面株式を廃止し、一株 当たりの純資産額が5万円以上とする昭和56年 改正の目指した株式単位の引き上げの手当を廃 止し、株主の管理コスト削減手段としては、単 位株制度に代えて、恒久的制度としての単元株 制度を導入した。 • 単位株制度を採用していた会社は1単元の株式 数を別途定めない場合、1000株を1単元と定め たものとみなされる。 • また端株の規定、株式の併合制度の大幅な見直 しを行った。 16 単元株 • 単元株制度の創設:平成13年商法改正によって 単位株制度は廃止され、代わりに単元株制度が 導入された→単位株制度が過渡的な目的を持っ た制度であったのに対して、単元株制度は恒常 的な制度として規定されている • 単元株式数:会社は、その発行する株式の一定 数をまとめたものを一単元とし、株主総会(種 類株主総会)において議決権を行使することが できる一単元の株式とする旨を定款で定めるこ とができる(188Ⅰ) 17 ⇒一単元一議決権 単元株制度の採用 • 会社は、定款で一単元の株式数を定めること ができる。ただし、あまり大きな単位を認め ると株主の利益を害するので、一単元の株式 の数は、法務省令で定める数を超えることは できない(会施規34:1000及び発行済株式総 数の200分の1) • 種類株式発行会社では、株式の種類ごとに単 元株式数を定めなければならない(188Ⅲ) • 単元株式数は、登記事項(911Ⅲ⑧) 18 一単元の株式数の変更等 • 新たに単元株制度を採用する旨の定款変更や単 元株式数を増加するためには、原則として、株 主総会の特別決議(+理由の開示:190)が必 要(466、309Ⅱ⑪) • 株主に不利益を与えない一定の場合には、株主 総会決議によらずに単元株式数の増加・新設の ための定款変更をすることができる(後述) • その他、単元株式数の減少や単元株制度の廃止 は、株主に利益をもたらすものなので、定款変 更ではあるが、取締役の決定・取締役会決議だ 19 けで可能(195) 定款変更手続の特則(191) • 株主総会決議によらずに単元株式数の定めを設 け、あるいは増加する定款変更ができる場合 1. 株式分割と同時に単元株式数を増加し、または 単元株式数についての定めを設ける場合 であり、かつ 2. 当該定款変更後に各株主がそれぞれ有する株 式数を単元株式数で除して得た数(各株主の有 する議決権の数)が、当該定款変更前に各株主 がそれぞれ有していた株式数(単元株式数の定 めがあった場合は、変更前の単元株式数で除し て得た数)(変更前の議決権の数)を下回ることに ならない場合 20 株式分割前 株式分割後 株式分割 1000株 保有株主 10000株 保有株主 1株を10株に分割 ① 単元株式数5株 ② 単元株式数 の定めのな い株式会社 単元株式数10株 ③ 議決権数2000で、分割前の 1000より大きい=実質的に 単元株式数の減少⇒取締役(会) 議決権数1000で、分割前と 変わらない⇒取締役(会) 議決権数500で、分割前の1000 より小さい=実質的に単元株式 単元株式数20株 21 数の増加(株主総会特別決議) 単元株制度への一元化 • 会社法は、端株制度(100分の1株の整数倍に 当たる端数を端株として、一定の株主権を認める 制度)を廃止し、単元株制度に一元化した • 単元未満株主の有する権利内容 – 議決権を行使することはできない(189Ⅰ) – 議決権以外の一定の権利(189Ⅱ列挙の権利以外) の全部または一部の行使を定款で制限することがで きる(189Ⅱ) – 株券発行会社は単元未満株式にかかる株券を発行し ない旨を定款で定めることができる(189Ⅲ) • 旧商法と異なり、一定の自益権以外の権利について制限が可能と 22 なった(従来の端株主と同様の扱いにできる)。 単元未満株式の譲渡 • 株券発行会社は、一単元に満たない株式につき 株券を発行しないことを定款で定めることがで きる • この場合は、株券がないため単元未満株式は譲 渡できなくなる(128Ⅰ) →単元未満株主の投下資本回収手段として、会 社に対する単元未満株式の買取請求権を認める (192Ⅰ):定款をもってしても制限できない ←株券がある場合でも買取請求はできる(手続につ いては、後述) 23 単元未満株式買取請求 • • 単元未満株主は、会社に対し、その有する単元 未満株式を買取ることを請求できる(192Ⅰ):請 求に際しては、買取請求する単元未満株式数 (種類・種類ごとの数)を明らかにしなければなら ず(同Ⅱ)、請求の撤回は、会社の承諾がある場 合に限り可能(同Ⅲ) 価格決定(193Ⅰ) 1. 市場価格がある場合:当該単元未満株式の市場価格 として法務省令で定める方法により算定される額 2. それ以外の場合:会社と請求者との協議によって定 める額 24 価格決定の申立て • 市場価格のない株式にかかる単元未満株式買取請求に おいて、協議が調わない場合は、請求をした日から20日 以内に、請求者または会社の側から裁判所に対して価格 決定の申立てができる(193Ⅱ) • 裁判所は、請求当時の会社の資産状態その他一切の事 情を考慮して価格を決定し、裁判所の定めた額を当該単 元未満株式の価格とする(同Ⅲ・Ⅳ) • 協議が調わないにもかかわらず、期間内に裁判所への申 立てがない場合、一株あたり純資産額に買取請求する単 元未満株式数を乗じて得た額を単元未満株式の価格とす る(同Ⅴ) • 買取請求の効力は、代金支払時に生じる(同Ⅵ) • 株券が発行されている場合は、株券と引換えに代金を支 払わなければならない 25 単元未満株主の売渡請求 • 会社は、単元未満株主が会社に対して単元未満 株式売渡請求できる旨を定款で定めることができ る(当然にできるわけではない)(194Ⅰ) • 例)単元株式数100株の会社における90株保有株 主が、10株の単元未満株式を自分に売ることを会 社に請求する(単元未満株主が買い増しする) • 請求を受けた会社は、原則として保有する自己株 式を売り渡さなければならない(請求された数に相 当する株式を有しない場合を除く)(194Ⅲ) • 192Ⅲ、193Ⅰ~Ⅵが準用される 26 Ⅳ 株券「1:株券の意義と性質」 • 株券とは 「株式すなわち株主としての地位を表章する 有価証券」である →株券には株主としての地位(社員権=自益権・ 共益権)が表章され、株式の譲渡には株券の交付 を必要とし(128Ⅰ)、株主の権利行使の前提として 会社に対し株券を呈示して株主名簿の名義書換を しなければならない(130Ⅱ、133Ⅱ)ことから、有価 証券の定義に当てはまる • 資格授与的効力・善意取得の規定(131) 27 有価証券とは? • 財産的価値のある私権を表章す る証券であって、権利の移転お よび行使に証券を要するものを いう • 手形、小切手は権利の発生にも 証券が必要=完全有価証券 28 2 株券の発行(214以下) • 従来の有限会社型の機関構成(譲渡制限、取締役 会非設置)が株式会社の基本形とされたため、株 券の不発行が原則となった • 定款で株券を発行する旨を定めた場合は、株券を 発行することができる(株券発行会社:117Ⅵ) (214)⇒種類株式発行会社は全種類の株式につ き定めなければならない • 株券発行会社は、株式を発行した日以後遅滞なく、 当該株式にかかる株券を発行しなければならない (215Ⅰ)⇒株式を発行した日:株券発行会社成立の日、株券を 発行する旨の定款変更の効力発生日、募集新株の効力発生日 29 2 株券の発行(214以下) • 株式併合をした場合:株式併合の効力発生日以後 遅滞なく併合した株式についての株券を発行しな ければならない(215Ⅱ) • 株式分割をした場合:株式分割の効力発生日以後 遅滞なく分割した株式についての株券を発行しな ければならない:株券の追加発行でよい(215Ⅲ) • 非公開会社は株券発行会社でも、株主から請求 があるまで株券を発行しなくてもよい(215Ⅳ) • 株券発行前に株式を譲渡しても会社に対しては効 力は生じない(128Ⅱ) 30 3 株券不所持制度(217) • 株券発行会社の株主の株式譲渡には株券が必要である が、当分の間譲渡する意思のない株主(安定株主)もいる し、盗難・紛失の危険もある。会社も株券の発行事務には コストがかかる:権利の行使は株主名簿をもとに行えばよ い ⇒株主は、会社に対して株券の所持を希望しない旨の申 出(株券不所持の申出)をすることができる(217):株券が 発行されている場合は会社に提出(同Ⅱ) • 会社は、株主から不所持の申出を受けると、株主名簿に 記載する(同Ⅲ) • 会社に提出された株券は無効となり、株主は再度株券を 必要とするときは、費用を負担して発行請求することがで 31 きる(同Ⅴ・Ⅵ) 4 株券発行の定款の定めの廃止 • 株券発行会社が株券を発行する旨の定款の定め を廃止する場合、効力が生じる日の2週間前まで に、所定の事項を公告し、かつ株主および登録株 式質権者に個別に通知しなければならない(218) • 略式質権者は、対抗要件を失うことになるので、上 記公告を知った場合(通知は受けられない)、定款 変更の効力発生日の前日までに会社に対し、株主 名簿への記載を請求できる(同Ⅴ) 32 5 株券の喪失と株券失効制度 • 株券の公示催告・除権判決制度の廃止と株券 失効制度 株主が株券を盗難や紛失などにより喪失した 場合、従来は裁判所に申し立て、公示催告手 続による除権判決を得て喪失した旧株券を無 効とし、株券の再発行を求める手続をとらねば ならなかった ⇒時間がかかるし、有効性(催告期間中に善意 取得者が現れる可能性)に疑問 →平成14年の改正により株券失効制度が導 入(株券のみ) 33 株券喪失登録・失効制度の概要 • 株券喪失者:会社に対して株券喪失の登録申請 (223) • 株券発行会社:株券喪失登録簿に記載・記録し、 利害関係者が閲覧できるようにする(221、231): 株主名簿管理人(123)を置く場合は、株主名簿管 理人が株券喪失登録簿も管理する(222) • 名義人等に対する通知(224):株券喪失登録簿に 登録された株券喪失登録者と株主名簿上の名義 人が異なる場合、遅滞なく名義人(名簿上の株主) に所定の通知をしなければならない。株券提出者 に対しても同様。 34 株券喪失登録の抹消 • 喪失登録株券の所持人が現れた場合 (225):株券の所持人が会社に対して登録抹 消の申請を行う。会社は喪失登録者に通知 しなければならない。会社は通知後2週間経 過した日に喪失登録を抹消し、喪失者と所持 人が裁判で決着をつけることになる。 • 株券喪失者自身が株券を発見した場合 (226) :会社に対して登録抹消申請をするこ とができる。会社は、申請を受けた日に登録 を抹消しなければならない。 35 株券の無効(228) • 喪失登録株券の所持人が現れなかった場合:喪 失登録の日の翌日から起算して1年経過した日に 喪失株券は無効になり、株券発行会社は、株券 喪失登録者に株券を再発行しなければならない (228Ⅱ) • 株券発行会社は、喪失登録が抹消されるか、株 券が無効となるまでは、当該株式について名義書 換に応じることができない(230Ⅰ)、喪失登録者 が名義人でない場合、登録抹消まで議決権を行 使できない(230Ⅲ)等、株券喪失登録の効力に 36 つき230条を確認すること
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