講義レジュメNo.15 会社の計算 I. II. III. IV. 計算規定の目的と原則 計算書類等の作成と承認 剰余金の配当等 資本金・準備金の額の変動 テキスト第9章参照 1 Ⅰ 計算規定の目的と原則 1. 計算の意義:会社の会計(企業会計)のこと ① 株主および会社債権者に対して会社の状況に関す る情報を提供(決算公告) ② 株主と債権者との利害調整の観点から株主に対す る剰余金の配当等を規制する ⇒例:分配可能額(461条) 2. その詳細は、株式会社の計算に関する法務省 令(会社計算規則)に委任される ⇒会計に関する国際的な会計基準や慣行の変 化に機動的に対応できるため 2 会計の原則 • 会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企 業会計の慣行に従うものとされる(431・614) • 会計基準の整備の進んだ現在では、国際的にも 信頼性の高い基準に従った計算書類の作成の必 要性が増している(会計基準の国際化) • 会計処理や表示のあり方については、一般に公 正妥当と認められる会計慣行に従うことが求め られる 3 会計基準 • 一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行と しては、企業会計審議会が定めた企業会計原則 その他の会計基準を挙げることができる • 日本の会計基準の設定主体は、従来は(金融庁 の)企業会計審議会であったが、国際的な潮流 に従い、私的団体である(財)財務会計基準機構 (FASF:会計士協会、経団連、証券取引所など の主導により平成13年7月に設立)の企業会計 基準委員会(ASB)に移行しつつあり、企業会計 基準等が逐次公表されている (http://www.asb.or.jp/) 4 Ⅱ 計算書類等の作成と承認 1. 会計帳簿 (1)総説 • 会社は、法務省令で定めるところにより、適 時に、正確な会計帳簿を作成しなければなら ない(432Ⅰ) • また、会計帳簿の閉鎖の時から10年間、その 会計帳簿およびその事業に関する重要な資料 を保存しなければならない(同Ⅱ、裁判所によ る提出命令について、434) • ここでいう会計帳簿とは、いわゆる日記帳・元帳・ 仕訳帳など、会社の財産および取引に影響を及ぼす べき事項を記録する帳簿をいう 5 (2)株主の会計帳簿閲覧権 ① 総株主の議決権の100分の3(定款で軽減可能)以上 の議決権を有する株主 または ② 発行済株式(自己株式を除く)の100分の3(定款 で軽減可能)以上の数の株式を有する株主 ⇒会社の営業時間内は、いつでも、会計帳簿また はこれに関する資料の閲覧・謄写を請求する ことができる(433Ⅰ前段) その場合、請求の理由が明らかにされなけれ ばならない(433Ⅰ後段) 6 閲覧拒絶事由(433Ⅱ) ① 請求する株主(請求者)がその権利の確保または行使 に関する調査以外の目的で請求を行ったとき、 ② 請求者が会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利 益を害する目的で請求を行ったとき、 ③ 請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業 を営み、またはこれに従事するものであるとき、 ④ 請求者が会計帳簿またはこれに関する資料の閲覧ま たは謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者 に通報するために請求したとき、 ⑤ 請求者が、過去2年以内に、会計帳簿またはこれに 関する資料の閲覧または謄写によって知り得た事実 を利益を得て第三者に通報したことがあるものであ るとき 7 帳簿閲覧請求権における請求の理由 • 株主の会計帳簿閲覧権は、株主による各種の監 督是正権(差止請求権・代表訴訟提起権)の前 提となる権利として位置づけられるものの、営 業秘密を侵害する危険も大きいことから、閲覧 拒絶事由が具体的に定められており、開示の対 象は限定的なものとなっている • 請求の理由については、閲覧拒絶事由の有無を 会社が判断し、また閲覧させる会計帳簿の範囲 を確定するためには、ある程度具体的に示され ていることが必要であり、「財産が適正妥当に 運用されているかどうか確認のため」という記 載では十分でない(会社百選85等参照) 8 2 計算書類等の作成 1. 計算書類等の意義 • • • 会社は、法務省令で定めるところにより、各事業 年度にかかる計算書類および事業報告ならびにこ れらの附属明細書を作成しなければならない (435Ⅱ、裁判所による提出命令について:443) 電磁的記録をもって作成することもできる (435Ⅲ) また、計算書類を作成した時から10年間、当該計 算書類およびその附属明細書を保存しなければな らない(同Ⅳ) 9 (1)計算書類・事業報告・附属明細書 • 計算書類:貸借対照表、損益計算書、株主資 本等変動計算書および個別注記表 (同Ⅱ、計 算規則2Ⅲ②、91Ⅰ) • 事業報告(旧商法における営業報告書)は計 算書類に含まれない(計算書類等には含まれ る) • 上記の附属明細書 10 貸借対照表 • 一定の時点(事業年度の末日等)における 会社の財産状態を表す一覧表(会社の健 康診断書) • 資産の部、負債の部、純資産の部からな る(計算規則104以下参照) • 資産等の区分およびその評価方法は、計 算規則において原則が定められ、具体的 には、一般に公正妥当と認められる企業 会計の慣行たる各種の会計基準に従う (431) 11 損益計算書 • 特定の営業年度におけるすべての収益 と、これに対応する費用・損失を明らか にして、一定期間の経営成績を明らかに するもの (計算規則118以下参照):会社 成績表 12 株主資本等変動計算書・個別注記表 • 株主資本等変動計算書:事業年度におけ る資本金や準備金などの変動の明細を表 す表 (計算規則127参照) • 個別注記表:継続企業の前提に関する注 記や、重要な会計方針に係る注記など、 計算書類の作成にあたって注記されるも のを一覧表としてまとめたもの (同128 以下参照) 13 事業報告 • 会社の状況に関する重要な事項(計算書類 およびその附属明細書ならびに連結計算 書類の内容を除く)をその内容とするもの (会施規118) • 内部統制システムとして構築した体制の 内容なども事業報告により開示される • 公開会社では、法務省令により、詳細に その内容が定められる(会社施規119~ 123参照) 14 附属明細書 • 計算書類および事業報告の記載を補足 する重要な事項の詳細を表示したもの (計算規則145・会施規128) 15 時価会計・減損会計 • 時価会計:資産と負債を毎期末の時価で評価 し、貸借対照表に反映させる会計制度 – 投資家にとっては、会社の現実の経営状態を比較で きるので望ましい。国際的な潮流に従い、日本で も、会計基準の改訂により、段階的に導入されてい る • 減損会計:平成17年4月以降、主として土地・ 建物等の事業用不動産について、収益性の低下 により投資額を回収する見込みが立たなくなっ た場合に、一定の条件のもとで当初の価額を減 額(損失処理)することを義務づける会計処理16 (2)臨時計算書類 • 会社は、最終事業年度の直後の事業年度に属 する一定の日(臨時決算日)における当該会社 の財産の状況を把握するため、法務省令で定 めるところにより、臨時計算書類を作成する ことができる(441Ⅰ) • 臨時計算書類: ① 臨時決算日における貸借対照表 ② 臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算 日までの期間にかかる損益計算書 17 (3)連結計算書類 • 会計監査人設置会社は、法務省令で定めると ころにより、各事業年度にかかる連結計算書 類を作成することができる(444Ⅰ、電磁的記 録も可能、同Ⅱ) • 連結計算書類:連結貸借対照表、連結損益計 算書、連結株主資本等変動計算書、および連 結注記表をいう(計算規則93参照) • 事業年度の末日において大会社であって金商 法上の有価証券報告書提出会社(金商24Ⅰ) は、当該事業年度にかかる連結計算書類を作 18 成しなければならない(444Ⅲ) 3 計算書類等の監査・取締役会での承認 (1)監査:計算規則149 • 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に 関するものに限定する定款の定めがある会社を 含み、会計監査人設置会社を除く):計算書類 等は、法務省令で定めるところにより、監査役 の監査を受ける(436Ⅰ・計算規則150~152) • 会計監査人設置会社:①計算書類およびその附 属明細書は、監査役(委員会設置会社では監査 委員会)および会計監査人の両方の監査を受 け、②事業報告およびその附属明細書について は、監査役(委員会設置会社では監査委員会)の 監査を受ける(436Ⅱ・計算規則153~160) 19 (2)取締役会の承認 • 取締役会設置会社:計算書類および事業報告な らびにこれらの附属明細書は、取締役会の承認 を受けなければならない(436Ⅲ):決算承認取締 役会などと呼ばれる • (1)により、監査役などによって監査がなされ る場合は、監査を受けたものでなければ、承認 することができない • 臨時計算書類および連結計算書類についても、 同様の規制に服する(441Ⅲ・444Ⅴ) 20 4:計算書類等の開示・株主総会 への提出・承認 • (1)事前開示 – i) 招集通知に際する提供 – ii)計算書類等の備置きと閲覧への提供 21 i) 招集通知に際する提供 • 取締役会設置会社:取締役は、定時株主総会の 招集の通知に際して、法務省令で定めるところ により、株主に対し、取締役会の承認を受けた 計算書類および事業報告(監査報告・会計監査 報告を含む)を提供しなければならない(437、 計算規則161参照) • 連結計算書類は同様に提供される(444Ⅵ、計算 規則162):監査報告、会計監査報告は原則とし て提供しなくてよい(会社が自主的に提供するこ とはできる:同Ⅱ参照) 22 ii) 計算書類等の備置き • 原則として、会社は、定時株主総会の1週間 前(取締役会設置会社では2週間前)の日から、 5年間、各事業年度にかかる計算書類および 事業報告ならびにこれらの附属明細書(監査報 告および会計監査報告を含む)を本店に備え置 かなければならない(442Ⅰ①、支店において も原則3年、442Ⅱ①) • 臨時計算書類も同様 (442Ⅰ②・Ⅱ②・Ⅲ) 23 計算書類の閲覧請求権 • 株主および債権者は、会社の営業時間内は、 いつでも、上記の計算書類等の閲覧、謄本・ 抄本の交付等を求めることができる(閲覧以外 の場合は、会社が定めた費用を支払わなけれ ばならない:442Ⅲ) • 親会社社員も裁判所の許可を得れば、権利行 使に必要な範囲で閲覧請求等を行うことがで きる(同Ⅳ参照) 24 (2)計算書類等の定時株主総会 への提出および承認 • 取締役は、計算書類および事業報告を定時株主 総会に提出し、または提供しなければならない (438Ⅰ):監査役や会計監査人の監査を受ける 会社の場合は当該監査による承認を受けたもの を提出または提供しなければならない • 計算書類は定時株主総会の承認を受けなければ ならず(同Ⅱ)、事業報告の内容を取締役は定時 株主総会に報告しなければならない(同Ⅲ) 25 例外 • 会計監査人設置会社:取締役会の承認(436Ⅲ) を受けた計算書類が、法令および定款に従い 株式会社の財産および損益の状況を正しく表 示しているものとして法務省令で定める要件 に該当する場合(①会計監査人の会計監査報告 の内容が無限定適正意見であり、②監査役(監 査役会、監査委員会)の監査報告・付記意見に おいて会計監査人の監査の方法または結果を 相当でないと認める意見がなく、かつ③取締 役会を設置している場合)には、定時株主総会 の承認を受けることを要せず、取締役は、そ の計算書類の内容を報告すれば足りる(439・ 26 計算規則163) (3)計算書類の公告(事後開示) • すべての株式会社は、法務省令で定めるところ により、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借 対照表(大会社では貸借対照表および損益計算 書)を公告しなければならない(440Ⅰ) ⇒いわゆる「決算公告」 • もっとも、金商法上の有価証券報告書提出会社 (金商24Ⅰ)は、この義務を免除される(440Ⅳ) 27 決算公告の方法 • 官報または日刊新聞紙を公告の方法とする会 社:その要旨を公告 (440Ⅱ)、電磁的公開(定 時株主総会の終結の日後5年を経過する日まで の間、継続して電磁的方法により不特定多数の 者が提供を受けることができる状態に置く措 置)によって公告することもできる(同Ⅲ) • 電子公告の方法を定めている会社(電子公告会 社、939Ⅰ③):要旨では足りず、全文を公告し なければならない – もっとも、決算公告については、一般の公告と異な り、調査機関の調査を受ける必要がない(941) 28 Ⅲ 剰余金の配当等(払戻規制) 1. 総説:一般に株式会社は永続的な活動を行っている ため、定期的に出資者である株主に剰余金の配当を 行うことが認められている(清算時の残余財産の分配に ついて、504~506参照)。 • 「剰余金の配当」とは、453条以下の一連の手続によって 株主に対して会社財産の一部を払い戻す行為を指す用語で あって、一般用語としての配当と必ずしも一致しない • 他方で、株主に対し、会社財産が何ら制約なく払い戻され ることを認めてしまうと、会社債権者の利益を害するた め、債権者と株主との間の利害を調整するという観点か ら、会社財産が一定の額未満となるような株主に対する払 戻しを禁止するという規制(払戻規制)が設けられている 29 剰余金の配当等 • 会社法では、株主に対する財産の払戻しとい う点に着目し、旧商法下での、利益配当、金 銭の分配(中間配当)、および自己株式の有償 取得などを、「剰余金の配当等」として、横 断的に規制 • 実質上の資本減少(旧商)⇒資本金の額の減 少+剰余金の配当 • 株式消却を伴う資本減少(旧商)⇒資本金の 額の減少+自己株式取得+株式の消却 30 2 剰余金の配当 (1)総説 • 会社は、株主に対し、剰余金の配当をすることがで きる:但し、自己株式を除く(453) • 剰余金の額は、446条に定める方法によって算出され る • 分配可能額(461条2項により算出される) – 資産の額から、負債を除いた上、資本金・準備金の額を差 し引いた額(剰余金)が基準となる – 期中に生じた剰余金の額の変動をできる限り分配可能額に 反映させるため(462Ⅱ参照)、一定の調整がなされる – なお、会社法では、従来、年2回に限られていた回数の制 限はなくなり、年に何回でも配当を行うことが可能となっ 31 た (2)決定手続(ⅰ):原則 a. 原則:会社は、剰余金の配当をしようとする ときは、原則として、そのつど、株主総会の 普通決議によって、 ① 配当財産(2ー25)の種類(当該会社の株式等〔株 式・社債・新株予約権〕を除く)および帳簿価格 の総額 ② 株主に対する配当財産の割当てに関する事項 ③ 剰余金の配当の効力発生日 を定めなければならない(454Ⅰ) ※剰余金の配当については、株主の判断に委ねる 32 趣旨 b) 現物配当 • 金銭以外の財産を配当財産とすること • その場合 – – ①当該配当財産の代わりに金銭を請求する権利 (金銭分配請求権)を与えるときはその旨および 請求期間 ②一定数(基準株式数)未満の場合に配当財産の 割当てをしないときはその旨およびその数 を、株主総会の普通決議により定めることができ る(現物配当で、かつ、株主に金銭分配権を与え ない場合は、株主総会の特別決議によらなければ ならない:454Ⅳ・309Ⅱ⑩) • 金銭分配請求権の行使・価額(455)、基準株 式数を定めた場合の処理(456) 33 c) 中間配当 • 取締役会設置会社は、一事業年度の途中にお いて一回に限り取締役会の決議によって剰余 金の配当(金銭に限る)をすることができる旨 を定款で定めることができる(454Ⅴ) • 平成17年改正前商法において、いわゆる中間 配当として認められていた制度(旧商293ノ5)を 引き継いだ制度 34 (2)決定手続(ⅱ):特則 • 以下の要件を満たす場合は、取締役会が、剰余金の配 当を定めることができる(459Ⅰ④・Ⅱ) • ①会計監査人設置会社であり、かつ監査役会設置会社 でもある会社において、取締役の任期が選任後最初の 定時株主総会の終結の日より前(1年以内)とされて いる場合、または委員会設置会社であること • ②定款でその旨を定めること • ③最終事業年度にかかる計算書類が法令および定款に 従い会社の財産および損益の状況を正しく表示してい るものとして法務省令で定める要件に該当する場合 (①会計監査人の会計監査報告の内容が無限定適正意 見であり、②監査役会または監査委員会の監査報告に おいて会計監査人の監査の方法または結果を相当でな 35 いと認める意見がない場合) 剰余金の配当等を決定する機関につい ての特則が認められるその他の場合 1. 特定の株主からの取得の場合を除く自 己株式の有償取得(459Ⅰ①) 2. 欠損の額を超えない範囲での準備金の 額の減少(但し、436Ⅲの取締役会〔計算 書類の承認を行う取締役会〕に限る)(同②) 3. 剰余金についてのその他の処分 (同 ③) 36 (3)財源規制 • i) 会社の純資産額が300万円を下回る場 合には、剰余金の配当をすることができ ない(458、なお、792・812参照) • 会社法においては、設立時における最低 資本金制度は撤廃されたが、配当を拘束 する計数として、300万円という金額が定 められている(旧有現会社法9参照) 37 (3)財源規制 • ii) 剰余金の配当により、株主に対して交付する金銭 その他の財産(自己株式を除く)の帳簿価額の総額は、 配当の効力発生日における分配可能額を超えてはなら ない(461Ⅰ⑧) • 分配可能額:原則として、剰余金の額(446)から、自 己株式の帳簿価格、最終事業年度の末日後に自己株式 を処分した場合における対価の額、その他法務省令で 定める各勘定科目に計上した額の合計額を減じた額 (461Ⅱ①③④⑥) • 臨時計算書類について株主総会または取締役会の承認 を受けた場合(441Ⅳ・Ⅲ)には、当該期間までの期間 損益等を加算または減算する(461Ⅱ②⑤) 38 (3)財源規制 • iii)準備金の積み立て: 剰余金の配当をする 場合、会社は、法務省令で定めるところによ り(資本金の額に4分の1を乗じた額まで)、配 当により減少する剰余金の額の10分の1を資本 準備金または利益準備金として積み立てなけ ればならない(445Ⅴ、計算規則45) 39 3 剰余金の配当等に関する責任 • (1)分配可能額規制 – 次に掲げる行為により、株主に対して交付する金銭その他 の財産(自己株式を除く)の帳簿価額の総額は、配当の効力 発生日における、分配可能額を超えてはならない(461Ⅰ) – ①譲渡制限株式の買取り(138①ハ・②ハ)、②子会社からの 自己株式の取得および市場取引等による自己株式の取得 (163・165Ⅰ)、③いわゆるミニ公開買付による自己株式の 取得(157)、④全部取得条項付種類株式の全部取得 (173Ⅰ)、⑤相続人等に対する売渡請求に基づく自己株式の 買取り(176Ⅰ)、⑥所在不明株主の自己株式の買取り (197Ⅲ)、⑦一に満たない端数処理による自己株式の買取り (234Ⅳ)、⑧剰余金の配当 40 (2)違法な剰余金配当等に関する責任 • 違法な剰余金の配当等がなされた場合、会社法 では、462条1項に規定される者が、責任を負う • ①当該行為により金銭等の交付を受けた者 • ②当該行為に関する職務を行った業務執行者 (業務執行取締役(委員会設置会社では執行役)その他 当該業務執行取締役の行う業務の執行に職務執行上関 与したと法務省令で定める者) • ③当該行為が株主総会または取締役会の決議に 基づいて行われた場合に、株主総会または取締 役会に議案を提出した者として法務省令で定め 41 る者:会施規116、計算規則187⑧ (2)違法な剰余金配当等に関する責任 • a) 上述の①の者は、分配可能額を超えて剰余 金の配当等がなされた場合(461Ⅰ)、②および ③の者と連帯して、会社に対して金銭その他の 財産の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を 負う(462Ⅰ) • この場合、会社の債権者は、支払いの義務を負 う株主(善意・悪意は問わない)に対して、その 交付を受けた金銭その他の財産の帳簿価格(債 権額を超える場合には当該債権額)に相当する 金額を支払わせることができる(民法の債権者 代位権の特則、463Ⅱ) 42 (2)違法な剰余金配当等に関する責任 • b) 上述の②および③の者は、分配可能額を超 えて剰余金の配当等がなされた場合(461Ⅰ) 、 ①の者と連帯して、会社に対して金銭その他の 財産の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を 負う(462Ⅰ) • 剰余金の配当の場合:金銭等の交付に関する職 務を行った取締役(執行役)、株主総会において 説明をした取締役(執行役)、取締役会において 剰余金配当の決定に賛成した取締役、株主総 会・取締役会に議案を提出した取締役(454Ⅰ・ 459Ⅰ④参照)などが義務を負う 43 (2)違法な剰余金配当等に関する責任 • ②および③の者は、①の者と異なり、職務を行 うについて注意を怠らなかったことを証明した ときは義務を負わない(462Ⅱ) • 過失責任化 • 他方で、会社法では、分配可能額までは総株主 の同意で免除できるが、それを超える部分は、 総株主の同意によっても免除することができな い(462Ⅲ) • 会社債権者を保護する趣旨 44 善意の株主に対する求償権の制限 • 金銭等を会社に支払った場合の求償(①の者 と連帯責任なので、本来は求償できるが)に ついて、②および③の者は、分配可能額を超 えることにつき善意の株主に対して求償の請 求をすることができない(463Ⅰ) 45 (3) 株式買取請求権に応じる場合の 特則 • 会社が116条第1項の規定による株式買取請求権に応 じて株式を取得する場合において、当該請求をした 株主に対して支払った金銭の額が支払日における分 配可能額を超えるときは、上述の②に該当する者 は、その職務を行うについて注意を怠らなかったこ とを証明した場合を除き、会社に対し、連帯して、 超過額を支払う義務を負う(464Ⅰ) • 法定の義務に応じるものであることから、全額では なく超過額のみについて支払い義務を負う • この支払義務は、総株主の同意によって免除するこ とができる(464Ⅱ) 46 (4)期末の欠損填補責任 • 会社が剰余金の配当等を行った場合、事後的に期末に 分配可能額がマイナスとなる事態(欠損)が生じたと き⇒465条1項各号に掲げる行為に関する職務を行った 業務執行者は、職務を行うについて注意を怠らなかっ たことを証明した場合を除き、会社に対し、連帯し て、当該マイナスの額と払戻しをした額とのいずれか 小さい額を支払う義務を負う(465Ⅰ) • なお、平成17年改正前商法下において事後の填補責任 が課せられていなかった定時株主総会における配当、 資本金・準備金の減少に伴う払戻しについては、除か れている:Ⅰ⑩イロハ) • この支払義務は、総株主の同意によって免除すること ができる(465Ⅱ) 47 Ⅳ 資本金・準備金の額の変動 1. 総説 • • • • • 資本金および準備金の額=株主が払込みまたは給 付した財産のうち、株主に対する払戻が拘束され る(一定の手続を踏まないと払戻しができない)貸借対照 表上の計数 資本金の額は大会社の基準としても利用される (2⑥イ) 資本金の額を減少させる場合は、必ず債権者保護 手続が必要であるのに対して、準備金について は、損失を補填する場合に、債権者保護手続を経 ずにその額を減少させることができる 準備金=資本準備金および利益準備金 資本金の額は登記事項 (911Ⅲ⑤) 48 資本金の額 • 原則として、設立または株式の発行に際して株 主となる者が当該会社に対して払込みまたは給 付をした財産の額 (445Ⅰ) • もっとも、払込みまたは給付にかかる額の2分 の1を越えない額は、資本金として計上しない ことができる(同Ⅱ):払込剰余金と呼ぶ • 払込剰余金は、資本準備金として計上しなけれ ばならない(同Ⅲ) • 合併、吸収分割、新設分割、株式交換または株 式移転に際して資本金または準備金として計上 すべき額については、法務省令で定められる (445Ⅴ、計算規則58以下) 49 資本金・準備金の額の増減 • 会社は、資本金・準備金の額を増加・減少させ ることができる(ここで増加・減少という場 合、貸借対照表上の数字の増加および減少に過 ぎず、現実に会社財産が増減するわけではな い) • 資本金・準備金の額の減少は、貸借対照表上の 計数を変動させ、株主に対して払戻すことので きる計数を増加させるという行為に過ぎず、実 際に株主に対して払い戻すためには、別途、剰 余金の配当や自己株式の取得手続が必要となる 50 2 資本金の額の減少(1) • 資本金の額を減少させて、準備金または剰余金 とする場合:①減少する資本金の額、②減少す る資本金の額の全部または一部を準備金とする ときは、その旨および準備金とする額、③資本 金の額の減少の効力発生日を定めなければなら ない(447Ⅰ) • ①から②を控除した額が剰余金の額の増加額: この場合、①の額は③の効力発生日における資 本金の額を超えてはならない(447Ⅱ)=マイナ スにならない限り、資本金の額は0でも構わな いという趣旨である(準備金も同様(448Ⅱ) 51 2 資本金の額の減少(1) • 資本金の額の減少は、原則として、株主総会 の特別決議による(447Ⅰ・309Ⅱ⑨) • 資本金の額の減少が株主に与える影響 – 配当が行われやすくなる(メリット) – 事業規模の縮小(一部解散・清算)の要素もある ∴会社にとって重要な決定である • 定時株主総会において欠損の額を超えない範 囲で資本金の額を減少する場合は、普通決議 で足りる(447Ⅰ・309Ⅱ⑨イロ、計算規則179) 52 2 資本金の額の減少(1) • 株式の発行と同時に資本金の額を減少する場 合:当該株式の発行により増加する資本金の 額の範囲内で資本金の額を減少させる場合に は、取締役の決定(取締役会設置会社では取締 役会の決議)で足りる(447Ⅲ):減資の前後で 資本金の額は減っていないことになるため • ただし、この場合でも以下の債権者保護手続 きは必要(449) 53 (2) 債権者保護手続 • 資本金の額を減少する場合:当該会社の債権者 は、会社に対し、異議を述べることができる (449Ⅰ) • 会社は、官報に一定事項を公告し、かつ、知れ ている債権者には、各別に催告しなければなら ない(同Ⅱ) • 官報のほか日刊新聞紙または電子公告により公 告をするときは、各別の催告は省略できる(同 Ⅲ、ⅣⅤも参照) 54 (3)効力発生時期 • 資本金の額の減少の効力は、株主総会等で決 定した効力発生日に効力を生じる • 但し、債権者保護手続が終了していない場合 は、終了した時点となる(449Ⅵ) • 予想以上に債権者保護手続に時間がかかる場 合には、会社は、効力発生日を変更すること ができる(449Ⅶ) • 資本金の額の変更は、登記事項 (911Ⅲ⑤) 55 (4)資本金額減少無効の訴え • 資本金の額の減少の手続または内容に瑕疵が ある場合:資本金額減少無効の訴え(形成訴 訟)をもってのみ、資本金の額の減少を無効 とすることができる(828Ⅰ⑤) • 提訴期間:効力発生日から6ヶ月以内 • 提訴権者:株主・取締役・監査役設置会社の監査 役・執行役・清算人・破産管財人・資本金額減少を 承認しなかった債権者に限られる(828Ⅱ⑤) • 無効判決には対世効が認められ(838)、資本金の額の 減少は将来に向かってのみ効力を失う (839) 56 3 準備金の額の減少(1) • 会社は、原則として、株主総会の普通決議に より、準備金の額を減少させて、資本金また は剰余金の額を増加させることができる • その場合、①減少する準備金の額、②減少す る準備金の額の全部または一部を資本金とす るときは、その旨および資本金とする額、③ 準備金の額の減少の効力発生日を定めなけれ ばならない(448) • 減少準備金額は原則としてその他剰余金とな る(446④)が、資本金とする(いわゆる資本 57 組入)こともできる (2)債権者保護手続など • 準備金を減少して剰余金を増加させる場合:原則とし て、資本金の減少の場合と同様の債権者保護手続が必 要 • 但し、定時株主総会決議において欠損の額を超えない 範囲で準備金の額のみを減少する場合には、債権者保 護手続を要しない(449Ⅰ但書):資本金減少との最大 の差異 • 減少する準備金の全部を資本金とする場合:株主に対 する払戻が拘束される計数が増加することになり、債 権者にとって有利な変更であるので、債権者保護手続 は不要 (449Ⅰ柱書) • 効力発生日:資本金の場合と同様 (449Ⅵ・Ⅶ、なお 準備金の額は登記事項でなく、無効主張の制限はな 58 い) 4 資本金・準備金の額の増加 (剰余金からの組入れ) • 会社は、株主総会の普通決議により、剰余金 の額を減少して、資本金または準備金の額を 増加することができ、その場合、①減少する 剰余金の額、②資本金または準備金の額の増 加が効力を生ずる日を定めなければならない (450Ⅰ・Ⅱ・451Ⅰ・Ⅱ) 59 5 剰余金についてのその他の処分 • 剰余金の処分のうち、①剰余金を減少させて 資本金または準備金の額を増加させる場合 (450・451)と②会社から財産が流出するもの を除き、会社は、株主総会の普通決議によっ て、損失の処理、任意積立金の積立てその他 の剰余金の処分をすることができる(452) • 結局、ここでは、剰余金を構成する各科目間 の計数を変更することが対象となる • 例外として、剰余金の配当等を取締役会が決 定する旨の定款の定めのある会社では、取締 役会の決議で行うことができる(459Ⅰ③) 60
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