第3章.リスクの配分・管理 (2)資産運用・投資におけるリスク分散 • 投資分散によってリターンを低めることなく、リス ク を削減することができる(リスク分散効果) • 投資分散によって削減できないリスク: – 市場リスク(分散不能リスク、システマテック・リスク) – 経済全体の景気の循環、金利の動き • 投資分散によって削減できるリスク: – 個別リスク(分散可能リスク、非システマテック・リス ク) 1 • 株式投資に伴う市場リスク(分散不能リス ク)を減らすことはできないのか? – 株式投資先をいくら分散させても、市場リスク は減らない – 株式以外(例えば債券)にも投資すれば、リス クを削減できる – 国内株だけでなく、海外株にも投資すれば、リ スクを削減できる(但し、新たに為替リスクを 負う) – どれだけリスクを削減できるかは、相関係数 に依存する 2 分散投資のリスク削減効果:投資対象間の相関係数ρ(-1≦ρ ≦1)に依存 相関係数:2つの株式の収益率がどの程度同じような動きをするかを示す係数 相関係数が小さい(大きい)⇒リスク削減効果が大きい(小さい) 野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』丸善 p.137 3 日本の1980~99年の実績値 井手・高橋『ビジネス・ゼミナ-ル:証券投資入門』日経p.141 4 ・今後の期待リターンを以下のように仮定 ・標準偏差と相関係数は、今後も変化せず、過去と同じと仮定 様々なポートフォリオについて、リスクとリターンを計算する。 5 • 最適ポートフォリオ: – 期待リターンが同じであるポートフォリオの中 で標準偏差が最小のもの。標準偏差が同じで あるポートフォリオの中で期待リターンが最大 のもの。 • 国内株とポートフォリオ4とを比較 – 国内株:リターン7%、リスク19.97% – ポートフォリオ4:リターン6.81%、リスク8.95% – 海外の株式・債券にも分散投資することにより、 リターンをほとんど低めず、リスクを削減する ことができる。 6 (3)市場価格変動リスクとデリバティブ • ○先物取引: – 現物(直物)取引:売買契約の成立後直ちに商品の受 け渡しが行なわれる取引 – 先物取引:売買契約は現時点で行なわれるが、商品の 受け渡しは契約で定められた将来のある時点で行なわ れる取引 • e.g.3ヶ月後に原油輸入代金1億ドルを支払う必要 のある日本の石油会社は、先物取引を使って(3ヶ 月後に1ドル=110円で、1億ドル購入する契約)将 来の価格変動リスクをヘッジできる(リスクヘッジ) – 3ヶ月後の直物ドル相場がいくらであれ、それとは無関 係に1ドル=110円で受渡しを行う 7 • リスクヘッジにより将来を確定させるということは、 相場変動による利益獲得の機会も放棄すること を意味する。 – 結果的にはリスクヘッジ(ドル先物買い)をしなかった 方が得をする(110円以下へのドル安のケース)ことも ありえる(結果論)。 – ヘッジを行わずに、リスク・エクスポージャーをそのま まにしている状態=リスクを負担して、相場変動によ る利益を狙っている状態(投機の状態) • 石油会社の選択肢:リスク・ヘッジ or リスクを負担して利益を狙う 8 ○デリバティブ取引の動機 • ① – 直面している価格変動リスク(リスク・エクスポー ジャー)をデリバティブ取引によって除去する • ② – リスクを負担して価格変動により利益を得よう とすること • ③ – 2つ以上のマーケットで、割安資産を買い、割 高資産を売ってリスクなしで利益を得ること – e.g. 現物を買って、先物を売る 9 ○リスクの仲介業務 ドル先物 ( 自 輸 売り 買い 出 動 車業 1ドル 者 会 =108円 社 ) 銀 行 ドル先物 売り 買い 1ドル =110円 ( 石 油 会 社 ) 輸 入 業 者 • (cf.金融仲介業務) – 他のデリバティブ取引でも同様の仲介を行なう • 先物ドルの買値・売値の価格差(鞘)が銀行の利益 10 ・外国為替市場(直物・先物)の概念図 インターバンク市場 インターバンク・レート :1ドル=109円 銀行A 対顧客レート 銀行B 買値:108円 売値:110円 対顧客 市場 顧客: a 石油 会社 b c d e f 自動車 会社 ・銀行Aの対顧客先物取引で買いが売りを上回れば、Aは インターバンク市場で先物売りを行って、リスクを調整する。 11 ○先物レートの決定メカニズム 先物レート、直物レートは、直接的にはそれぞれ先物市場、 直物市場の需給によって決定される。 しかし、両者には密接な関係がある。 現在の為替レート:直物1ドル=e 円、先物(1年先)1ドル=f 円 日米の金利:日本 rj 、米国ru で表すと (f-e)/e = 直先スプレッド rj - ru : 金利平価式(金利裁定式) 日米金利差 という関係が成立。 ・日本rj =1%、米国ru =5%、直物1ドル=e 円=115円 とすると 先物1ドル=f 円=110.4円 となる。 ・先物レートfは米国の金利が高い(日本の金利が安い) 分だけ、直物レートeに比べてドル安(円高)となる。 参考文献:古川顕『現代の金融』第3章 東洋経済新報社 12 ○オプションを使ったリスクヘッジ ・オプション: 行使価格 満期日 ・満期日のみに権利行使可能: ヨーロピアン・オプション ・満期日までいつでも権利行使 可能:アメリカン・オプション 13 オプションの 売手 権利 買手 • e.g.ドルのコールオプション – 満期日3ヶ月後、行使価格:1ドル=110円 – オプション料:2円/ドル • ○オプション購入による損益:1ドル当り – 契約時点でのオプション料2円の支払い – オプション自体の損益 14 ・オプション自体の損益は、 どうなるか? 損益 ・3ヶ月後の直物ドルレート :1ドル=S円 ・S>110円の時 、110円 支払い、1ドル受取り、 ドルを直物市場で売却。 0 -2 110 オプション料 S ・S<110円の時 15 損益(オプション 料込み) 0 S 16 • e.g. 前の事例の石油会社が、ドルの コールオプションを1億ドル分購入 – 2億円のオプション料支払い ドルの買コスト 3ヶ月後: ・S>110円の時 権利行使、110億円支 払い、1億ドル受取り ・S<110円の時 権利放棄、直物市場から 1億ドル購入、 S億円支払い S c.f.先物ドル買いのケースB 17 • ドル高のリスクをヘッジ • かつ、 – c.f. 先物ドル買いのケースでは、この利得は得られない • 但し、 18 ○第3章(3)の参考文献 • ボディ=マートン『現代ファイナンス論』第14、15 章 ピアソン • ジョン・ハル『フィナンシャルエンジニアリング』第 1章 金融財政事情研究会 • 野口悠紀夫・藤井真理子『金融工学』第9、10章 ダイヤモンド社2000 • 日本証券アナリスト協会編『証券投資論』第7章 日本経済新聞社1999 • 井手正介・高橋文郎『ビジネスゼミナール:証券 投資入門』第11章 日本経済新聞社2001 • 日本証券経済研究所『現代日本の証券市場 2006年版』第7章 日本証券経済研究所 19
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