学びのプロセスを重視した防災教育の重要性 ~阪神淡

船木伸江 矢守克也 住田功一
紹介者 北村直樹

阪神・淡路大震災から16 年が経過し、震災を語り継ぐこ
との重要性が指摘されている
震災の経験を継承していく努力、取り組みが大切
阪神・淡路大震災の「直接体験がない」学生たちが、震災時
や復興過程で撮影された震災写真の撮影者、被写体と
なった人、当時の関係者への「取材」を通して、「あの時」
何が起こったのかを調べる防災教育について考察
1、多面性を学ぶ
災害時に発生した多くの問題に関するエピソードは確固た
る「事実」であり、全体として何が起きていたのかを理解す
るためには、各エピソードをつなぐ背後の事情にまで踏み
込んで学ぶ「プロセス」を経てこそ全体像に近づいていく
防災教育において、災害現場を様々な角度から眺め、災害
時の「多面性」に気づくことができるような教育プログラム
をデザインすることが、本当の意味で災害経験(教訓)を
学ぶことにつながる
2、学びの「プロセス」
学習者が自分たちで能動的に考え、悩む、学びの「プロ
セス」を準備することが、「震災経験」「防災教育」を深
める上で重要
防災マップを作成するプログラムでは・・・
発見して、考えて、悩んで結論を出すという一連の能動
的な流れの「プロセス」で学習は深まっていく
3、学びのためのネットワーク
学習者が、学びの「プロセス」を通じて災害時の「多面
性」に気づいていくプログラムを準備することは大変
実現させるためには、教える者の「ネットワーク」が大切
・兵庫県立舞子高校の外部教師による授業
・神戸学院大学の、地域の行政・研究機関などとの提携講座
・防災教育のサポートを目的とした全国的な取り組み(防災教
育チャレンジプラン)
教師自身、あるいは学校そのものが防災に関わる知
識・技能のすべてを、その内部に収蔵している必要は
ない
防災について教えてくれる人、ともに活動すべき組織・
団体とのネットワークの中に、児童・生徒、教師自ら、
そして学校組織を引き込んでおけばよい
4、学びあい「Co-learning」
災害は、思いもよらなかった困難に直面する可能性を常に秘
めている
教育する人、学ぶ人が、その垣根を越えて互いに刺激しあい、
影響を与えていくプロセス(「学びあい」)を通して、想定外
の事象に備えることは、防災教育にとって不可欠
災害時の「多面性」を学ぶ「学びのプロセス」を準備するため
には、「ネットワーク」が必要であり、また、その学びのプロ
セスの中で様々な人と関わり、「学びあう」ことで、防災教育
の学習が深まっていく
阪神淡路大震災の「震災写真」に注目し、「写真からは見え
ない“あの日”のできごと」を震災の直接体験がない中学
生、高校生、大学生が調べることを中核とするプロジェクト。
この調べ学習では、阪神淡路大震災時、また、震災後に撮
られた写真である「報道写真」「記録写真」がテーマとなる
写真を見て、震災の直接体験のない学生たちは、「なぜこう
いう状況になったのか?」「被写体となった人はその後どう
なったのか」と疑問(=動機)を持つ。そして、文献に残さ
れた記録を調べ、関係者への取材を行っていく
調べ学習で使用した写真と担当校
写真
担当
燃える民家と乗用車を押す人たち
つくば開成高校京都校
阪神高速で宙づりになったバス
神戸学院大学
倒れた阪神高速
静岡県森町立森中学校
庭の木に救出を求める張り紙が
つくば開成高校京都校
避難所の壁に無数の張り紙
神奈川県立横浜緑が丘高校
曲がった路線
神戸大学
遺体を前に泣き崩れ手を合わせる
UNN関西学生報道連盟
避難所のたき火で勉強する受験生
つくば開成高校京都校
救出作業の中、立ち尽くす被災者
神奈川県立横浜緑が丘高校
西尾荘の焼け跡
UNN関西学生報道連盟
淡路島、ガレキの中の救出作業
兵庫県立淡路高等学校
午前7時24 分神戸の中継映像
つくば開成高校京都校
崩れた西市民病院、必死の救出
神戸学院大学
屋上部分が壊れた阪急三宮駅
静岡県森町立森中学校
地震後初登校する女子高生
神戸大学
めい福を祈る友人たち
つくば開成高校京都校
庭の木には救出を訴える張り紙が…
Q:現場には何時頃,どのような手段で到
着しましたか?
A:道路は渋滞がひどかったため、オート
バイの後ろに乗って、中央区にある神戸
支局から長田区まで行った。朝早くから歩
きながら取材をしていて,この写真を撮影
したのは11 時10 分。
Q:この状況,このアングルをどのように撮
影しましたか?
A:自衛隊は、下敷きになって助からない
まま亡くなった方々の遺骨を探している。
少女は自宅の焼け跡から思い出の物を
探していた。普通のレンズでは後ろの自
衛隊が小さく写るので望遠レンズで自衛
隊を大きく写した。
救出作業が続く中、立ち尽くす被災者
学生はさらに調べを進めていく上で、写真
の女性に会い、当時の様子、避難所の様子
を聞いている
・家の中の状況は怖くてわからなかった。すぐ蓮池小学校
に避難した。
・蓮池小学校は、とにかく人がすごかった。玄関も教室も
体育館も全部いっぱいで、座ることもできずみんな立っ
ていた。寝るときは、交互にパズルのようになってぴっ
たりくっついて寝た。
・家のあたりに火が迫っていく。でも、もしなんかあっても
自分だけじゃない。みんな一緒という安心感があった。
色んな人と話もできたし、怖くはなかった。
・思い出のものが残っていないか、4日目か5日目に途中
まで行ったが余震で行けなかった。
災害が起こったときに大切な役割を果たす病院が崩
壊してしまったら、災害による負傷者、病人はどうなる
のか・・・
写真撮影された場所の病院に連
絡をとり、事務担当者2 名、医師、
看護師の計4 名に取材
・停電、ガスもダメ、水もない。あるだけの懐中電灯
を壁にガムテープで貼り付けて、照明がわりにした
・収容する場所、診察する場所がない。電気がこな
いので、レントゲンもとれず、検査もできない
・泥だらけでの中で戸板で亡くなられた患者や、
呼吸の苦しい患者も多く入ってきて、会計の前
にも横たわっていた
崩れた西市民病院必死の救出活動
写真に写っているレスキューの方への取材にも成功




Q:病院自体も倒壊するかもしれないという状況で、恐
怖心はなかったか?
A:全然なかった。ただただ、人命救助だけがやりたい、
できることがやりたい。
Q:この救出されている男性の方を引っ張り出してきたと
きのことを何か覚えてるか?
A:覚えてない。名前も覚えてない。この方が一番最初
だったかどうかもあまり記憶にないが、何人かこのルー
トで上げた。
1、何を学んだのか‐「多面性」
調べ学習を通して知った被害の様子はどれも本当のこ
とであり、視点や立場が変われば、当然、同じ事象に
対する捉え方も違う。物事を一方向からだけ見ていて
は全体として何が起きていたのか、全体像が理解で
きなくなってしまう。災害事象がもつこの種の「多面
性」を学ぶことこそ、“あの時”何が起こったのかを理
解することである

学生は徐々にこうしたことに気付いていく

2、どのようにして災害時の多面性に気づいたのか‐学
びの「プロセス」
どの調べ学習においても、すぐに学生が写真を見て抱い
た疑問が解決したわけではなく、時間をかけて調べ学
習のステップを一つ一つ積み重ねることで、単一の正
解に至るどころか、むしろ、さまざまな意見、見方が同
じ写真の背後には潜んでいつことを学生は知っていく。
一つ一つの取材の積み重ねや試行錯誤の「プロセス」を
通じて、学生たちは震災についての理解、特に、それ
がもつ「多面性」への理解を深めていった

3、調べ学習が実現できたのは人の力‐「ネットワーク」
今回の調べ学習では、プロジェクトに参画する各校間の
ネットワークを使っての取材も行われた。多くの団体は
関西に拠点を置いているが、幸い、神奈川県立横浜
緑ヶ丘高等学校がプロジェクトに参加していたことから、
いくつかの調べ学習では、担当校からの依頼で同校の
学生が、東京にいるカメラマンに直接取材を行うといっ
たことも実現されている。
学習者が取材を通じて得たネットワークはもちろん、プロ
ジェクトを支援する教育機関が通常から築いてきたネッ
トワークが調べ学習のプロセスをサポートしてきた。

4、取材された人への影響‐「学び合い」
取材された側が逆に学生たちから受けた影響も大きい
学生たちの取材を通じて、取材をされた人が、逆に、写
真について、何らかの形で自省や再認識を迫られる
ケースも生じたのである。
今回の調べ学習は、学生の学びだけを実現したのでは
なく、写真を撮影した人やその現場に関与した人の学
びをも実現したと言える。

調べ学習の成果を第三者に伝える活動が大切
パネル展、報告会など
情報を発信する、つまり「語り継ぐ」活動を通じて、さらに
調べ学習のネットワークが広まり新たな情報が集まっ
ていく
結果として・・・
調べ学習を通した防災教育をさらに深めていく