第 3 章 協働創造(Co-Creation)プロセス・モデルの運用

第3章
協働創造(Co-Creation)プロセス・モデルの運用
東北福祉大学 知的クラスター推進室 広域化主任
萩野寛雄
平成 21 年度後半には年度計画当初の範囲を超えて、機構図「協働創造(Co-Creation)プロセ
ス・モデル」を検証するために実際に予防健康サービス・クラスターのプロトタイプを構築して、
ニーズ発のサービス開発プロセスをテストランすることとした。この実証実験についての詳細は
本報告書 付録 3『協働創造(Co-Creation)プロセス・モデルの運用』に収集するため、ここでは
その要約版を記載する。
機構図の実証実験では、地域包括支援センターが予防健康福祉に関するニーズ発のサービス開
発のゲートウェーとして機能しうるか、そこには実際に予防健康福祉サービスの有用な情報が蓄
積されているのか、そこから表出されたニーズを研究・開発機関のシーズとマッチングさせるこ
とができるか、その実証実験に各種専門家や事業者、市民、ボランティアを巻き込むことができ
るか、などを検証する必要があった。
図 1 連続ワークショップの展開
以上の目的から、実証実験に協力してくれる地域包括支援センターを広域化コーディネーター
と共に開拓し、仙台市の関連課にもこの試みを伝たうえで仙台市内の類型の異なる 4 つの地域
包括支援センター(国見、国見ヶ丘、桜ケ丘、双葉ヶ丘)の協力を取り付けることができた。計 5
回で構成される連続ワークショップは次の二つの視点から設計されている。第一に、コアバリュ
ーを確たる軸として求心力を働かせた一連のプロセスを共有することで、協働体験や時間の共有
を促進してトラストの醸成などコアメンバー間の関係性を強めること。第二には、螺旋のように
16
遠心力を発揮させ、コアバリューを軸として関連するアクターが随時新たに参加することで地域
に幅広い協働の輪を拡大させていくことであった。この計画に沿って行われた結果は、以下の次
第である。
図 2 連続ワークショップの内容
●参加者の決定及び参加への呼びかけ
連続ワークショップの立ち上げに際しては、付録 1『協働創造(Co-Creation)プロセス・モデ
ル機構図』に詳細を収めたフィンランド調査に基づく知見を反映させて、入念にコアメンバーを
選定した。このプロセスで重要なのは、今後の協働プロセスにおける活動軸となる共有可能なコ
アバリューを、各参加メンバーが無理なく協働でき、なおかつ相互の利益となるように設定して
いく点にある。公益にかなうことはその大きな一助となるが、公益への一方的な献身を求めるも
のでは持続性や効率性に難点が生じる。
今回の連続ワークショップ立ち上げに際しては、22 年 6 月に行った地域包括支援センターや
予防サービス事業者へのヒアリング(付録 1『協働創造(Co-Creation)プロセス・モデル機構図』
に収集)に加え、仙台市の健康福祉関連 10 部署へもヒアリングを行った(同付録 1 収集)
。こ
れらの成果や一連のフィンランド調査の結果、更に東北福祉大学が以前より蓄積している健康福
祉に関する研究及び実践の知見を基に、参加者が無理なく共有可能な「コアバリュー」として「ニ
ーズ起点の包括的予防健康サービス・ネットワーク」を開発・提案した。そして、その実現に向
けた機構図としての「協働創造(Co-Creation)プロセス・モデル」を設計し、これを軸として
17
関連諸機関や人物に調整を行った。
●第 1 回ワークショップの開催(9/29)
上記の参加者(呼びかけ者)の決定及び呼びかけの結果、
「情報ゲートウェー」としての機能
を期待される地域包括支援センターについては、仙台市内の類型の異なる 4 つの「地域包括支
援センター」(国見、国見ヶ丘、桜ケ丘、双葉ヶ丘)からコアメンバーへの参加協力を得た。また
コアメンバー間の連絡調整を行う「コーディネーター」としては、東北福祉大学広域化チームと
ICR 広域化コーディネーターが参加した。これに基本事業から広域仙台地域知的クラスター創
成事業の広域化統括、知的クラスター創成事業申請者の仙台市から所管課の経済局産業プロジェ
クト振興課などのメンバーを加え、第 1 回ワークショップを開催した。ワークショップの狙い
は、今後の協力に向けた関係性構築に加え、地域包括支援センターという予防健康福祉サービス
の最前線にいる専門家の目を通じて、予防健康福祉ニーズを把握することが可能か否かを判断す
る目的もあった。
その結果、地域包括支援センターの抱える予防健康サービスの課題(ニーズ)として、①寂寥感、
孤独感などメンタルヘルスサポートの重要性(特に独居高齢者)、②予防サービスが持続困難性、
③包括的で魅力的な予防サービスが尐ない、の 3 点が表出され、地域包括支援センターが機構
図のニーズ情報ゲートウェー足り得ることが確認された。コアバリューの共有についても確認さ
れ、この枠組みは一方的な協力依頼ではなく協働で価値を創造していく相互協力である点につい
ても合意を得られるなど、協働に向けた関係性も構築できた。
●第1回~第2回ワークショップ間の動き
実際のワークショップの議事進行についても、第1回ワークショップでは司会が発言機会を均
等に割り振るなど、各参加者の意見を可能な限り吸い上げるよう可能な限り配慮した。またフラ
ンクな場の構築につとめ、自由な発言を促した。
しかし大学教員や公務員などの参加している場で、その発言内容を即座に理解し、十分に自分
の 考 え を ま と め て 発 表 す る に は 場 馴 れ が 必 要 で あ る 。 産 学 官 共 同 に よ る Research &
Development に慣れているフィンランドと異なり、我が国の場合はその文化的背景などもあっ
て、会議運営手法やその後のフォローアップが必要となった。そこで第1回ワークショップ終了
後、フィンランドから学んだ知見を基に日本流にアレンジしたマネジメントをきめ細かく行った。
第二回のワークショップまでの間にコーディネーターが各地域包括支援センターを訪問し、その
場で発言できなかった内容を丹念にくみ取った。また第 1 回ワークショップでの議論内容につ
いて説明や解説を行い、不明な内容をコーディネーターが互いの専門言語に翻訳するなど、日本
独自のきめ細かなフォローアップを行った。この具体的調整内容については、遠藤忠宣コーディ
ネーターが分析して第 5 回ワークショップで発表を行っている。
(付録 3『協働創造(Co-Creation)
プロセス・モデルの運用』第Ⅱ部 6.第 5 回ワークショップ) またコーディネーターは表出
されたニーズを基に大学・研究機関の研究者を訪問し、第 2 回ワークショップへの参加と、表
出されたニーズに対して現在利用可能で有用な研究シーズをその場で提案してくれることなど
を依頼した。
●第 2 回ワークショップの開催(10/20)
第 2 回ワークショップでは、新たに今回から参加した大学/研究機関の研究員が、第 1 回ワー
18
クショップで表出されたニーズに対して即座に提供可能で、かつ効果を見込めるであろうソリュ
ーションを提示した。
提示されたソリューションは、具体的には運動自主グループへの支援プログラム(参加促進型
運動プログラムや運動プログラムの評価/アドバイス)
、双方向通信メディア(Caring TV)、睡眠
介入プログラム、呼吸介入プログラム、メンタルヘルスへの組織介入プログラムであった。この
中では、Caring TV に対して高い関心が示された。
●第 2 回~第 3 回ワークショップ間の動き
第 2 回ワークショップ終了後も、第 1 回ワークショップ後と同じように議事内容の確認やフ
ォローアップのための訪問を行った。また第 2 回ワークショップで関心の高かった自主グルー
プ支援と Caring TV について、第 3 回ワークショップに向けた調整を行った。
より関心の高かった Caring TV については、連続ワークショップメンバーにーCaring TV
を体験してもらうべく、ラウレア応用科学大学及び VIDERA 社に対して試用許諾を求めるため
にフィンランドを訪問して調整を行った。小笠原、斉藤、岩田をフィンランドに派遣し、趣旨説
明のミニワークショップを開き、そこでの協議を通じて、第 3 回ワークショップでの Caring TV
のデモ、フィンランドの高齢者や学生の参加、日本での Caring TV プレゼンなどの協力の約束
を得た。
(付録 3『協働創造(Co-Creation)プロセス・モデルの運用』第Ⅱ部 3.Caring TV 出
張参照)自主グループ支援については、地域包括支援センターの紹介を受けて 7 か所の自主グ
ループを訪問し関係性の構築を行った。
●第 3 回ワークショップの開催(12/10)
上記出張の成果を基に、第 3 回ワークショップでは連続ワークショップメンバーと実際に
Caring TV を体験してみた。
(詳細は付録 3『協働創造(Co-Creation)プロセス・モデルの運用』
第Ⅱ部 4.第 3 回ワークショップ参照)フィンランドの高齢者や学生、研究者と TV を通じてデ
ィスカッションを行ない Caring TV 利用者の生の感想をリアルタイムで聞くことができた。こ
れに基づき、日本での Caring TV というソリューションの応用可能性、更なる使途、効果など
を話し合った。その結果、これは仙台でも有効であろうと同意され、第 4 回ワークショップま
でにテストフィールドを整備し、仙台で実際に市民を対象に仮想実験を実施する合意を得た。
●第 3 回~第 4 回ワークショップ間の動き
第 3 回ワークショップ終了後、第 3 回ワークショップで体験した Caring TV の仮想実験とし
て、スカイプを用いた実験を仙台の一般高齢者を対象として行った。地域包括支援センター、予
防サービス事業者、一般高齢者の協力者を得て、彼らの間で双方向通信映像メディアを通じたコ
ンタクト実験を行い、その展開可能性、問題点などの新たなニーズを得た。
(その詳細について
は付録 3『協働創造(Co-Creation)プロセス・モデルの運用』第Ⅰ部 3.スカイプを用いた仮想実
験についての記録 参照)
● 第 4 回ワークショップ”Integrated Preventive Health and Social Care Services
- Sendai Service Cluster Model in International Perspective –“(2/25-6)
19
上記仮想実験によって得られた新たなニーズに対するフィードバックを広く求める為、第 4
回ワークショップを国際ワークショップとして開催した。19-20 年度にかけて構築した知的プラ
ットフォームを通じて協力を呼びかけると、8 カ国に及ぶ国籍、居住地から参加者が集まり、知
見を提供してくれた。
(そのプレゼンテーションについては、付録 3『協働創造(Co-Creation)プ
ロセス・モデルの運用』 第Ⅱ部 5.第 4 回ワークショップ 参照)Caring TV の仮想実験に対す
るフィードバックとしては、Caring TV を用いたソリューションを既に展開するフィンランド
の出席者などから、技術や活用方法などのアドバイスを得た。
また地域包括支援センターからは、多忙な業務の合間を割いて準備したプレゼンテーションが
行われた。このプレゼンテーションの作成には、コーディネーターも大いに協力した。内容とし
ては、日頃の日常業務から得られている予防健康福祉サービスに対する課題、ニーズに加えて、
今回の一連の連続ワークショップにおける協働を通じて見えてきた新たな問題が発表された。
●第 4 回~第 5 回ワークショップ間の動き
第 4 回ワークショップ終了後も、コーディネーターは各地域包括支援センターを訪問した。
一連の連続ワークショップにおける協働を振り返り、その中での気付きや今後の協働の可能性を
模索する第 5 回ワークショップのための調整を行った。第 5 回ワークショップのパネル・ディ
スカッション「ニーズ起点の包括的予防健康サービスを拡げよう」は地域包括支援センターを主
メンバーとするため、地域包括支援センターの専門職とコーディネーターが共に今までの過去を
振り返り、その準備を行った。
●第 5 回ワークショップ「ニーズ起点の包括的予防健康サービス・ネットワーク」(3/18)
以上の一連の実証実験の集大成として、協働の過程を振り返り更なる展開を模索する為の総括
ワークショップを開催した。第一部では、広域化プログラムの成果を集約して設計した『協働創
造(Co-Creation)プロセス・モデル』とその実証実験としての「連続ワークショップ」の構成、
及びそれを実践する為に動員した知見などを整理して報告した。第二部では連続ワークショップ
参加メンバーをパネラーに、計 5 回に及ぶ連続ワークショップとその間の調整といった協働の
過程を振り返り、そこから見えてきた今後の課題、地域連携の可能性について語った。第 5 回
ワークショップには新たなメンバーの参加もあり、協働の輪が更に拡大していった。(詳細は付
録 3『協働創造(Co-Creation)プロセス・モデルの運用』第Ⅱ部 6.第 5 回ワークショップ参照)
これらの連続ワークショップの結果として、知的クラスター創成事業広域化プログラム終了後
も東北福祉大学にはコアメンバーであった地域包括支援センターからニーズ発のサービス開発
への依頼が寄せられている。市内の4つ地域包括支援センターとで開始した連続ワークショップ
であるが、その事業終了後の展開型である「せんだい介護予防・健康づくり研究会(仮)
」には
更に 4 つの市内地域包括支援センターや市内老人クラブ連合会、一般診療所などからも参加依頼
を得るに至り、広域仙台地域での予防健康サービスに関するクラスター化は着実に進んでいると
言えよう。
20
このモデルの妥当性は、実証実験の設計段階においては多忙で不可能と目されていた地域包括
支援センターの協力を実際に得られ、そこを情報ゲートウェーとする予防健康福祉サービス・ク
ラスターのプロトタイプが構築され着実に発展してきていることからも証明されたと言えよう。
今回の一連の実験で明らかとなったことの一つに、この枠組みの運用のカギが機構を運営する
コーディネーターにあることがある。次年度以降もコーディネーターに最新の配慮を加えながら
この手法を継承し、地域にニーズ発の予防健康サービスの小規模クラスターを着実に構築してそ
の数を増やしていけば、それらは将来的に臨界を迎えて大規模にクラスター化していくであろう。
21