環境問題と市場メカニズム

法と経済学による景観問題へ
のアプローチ
山崎福寿(上智大学経済学部)
環境(景観)問題と市場メカニズム



社会的問題のひとつである環境問題につ
いて、法と経済学の立場からアプローチす
る。
環境問題は、私たちの暮らしている経済と
どのような関係にあるかという点について
の理解が重要。
環境を守るために、私たちの生活をどれだ
けコントロールできるかが問題になる。
市場の機能





資源配分の決定--誰が何をどれだけ生
産するのか?
市場とは何か 需要と供給
価格メカニズムの重要性 効率的な資源
配分
社会主義(計画経済)か自由主義(市場経
済)か
ミクロ経済学Ⅰ、Ⅱ.公共経済学.環境経
済学.
外部性の経済学





市場の失敗
なぜ市場経済ではうまくいかないのか?
市場を経有しないことの問題 (組織に固
有の問題)
インセンティヴの問題
広域的な環境汚染については一人一人が
加害者であり、同時に被害者である。
上流の企業排水のために、下流の
企業(住民)が被害を被るケース




川の汚染権は上流企業に既得権として認
められるか?
下流企業には、きれいな川を使う権利があ
るか?
もし下流の企業が後から立地した場合
は?
上流企業の既得権を認めるとすると、下流
の企業は、上流の企業から汚染権を買い
取ることはできるか?
環境制御の手段と効果






ピグー税による解決
コースによる解決―コースの定理
組織や契約の問題に応用可能
所有権制度
不法行為
契約
外部性とピグー税
社会的限界費用
S’
供給曲線(私的限界費
用)
S
価格
P1
T
P0
E1
E0
R
需要曲線
S’
S
Q* Q0
需給量
誰が最終的に負担するのか?



経済活動に対して課徴金をかけ、その生
産物の価格が高くなることは、公害を排出
する工場だけの問題ではない
最終的には、消費者が負担する。
Polluters Pay Principle (PPP)
コース(Coase)による解決



ピグー税に対する批判 政府による解決
賢明な政府? 情報の問題
より分権的な方法で解決する方法はない
か?
汚染権・排出権の取引
交渉による解決(市場的取引)
C
A
限界被
害額
限界利益
F
P0
O
Q*
Q
B
生産量
コース的解決
1.
2.
3.
上流企業が汚染権を買い取る
下流企業が環境権を買い取る
上流(下流)企業が下流(上流)
企業を買収(TOB)
―コースの定理―





権利設定の問題
環境権
排出権
排出権市場
司法の重要性 事前に誰が環境についての権利
を持っているかについて、明らかにしておいて、
それを自由な交渉によって取引することによって
問題は解決する 。(市場的取引の可能性)
国立景観訴訟





国立の高層マンションによる景観被害
旧住民(高所得層)と新住民(低所得層)の
所得分配上の対立なのでは?
一種の参入規制?(田園調布:最低敷地
規模協定)
移転の自由を保障した憲法に違反?
ワンルームマンションをめぐる紛争
中華街の事件




中華街住民によるワンルーム・マンション
建設予定地の買い取り(コースの定理)
ワンルーム・マンションが環境の悪化を促
進すると、予想された。
地価の低下が予想され、財産権の価値が
低下する。
中華街のレストラン組合が、交渉により用
地を買収
本当に景観被害は発生している
のか?
理想的な景観とは?
 誰が決めるのか?
 イタリア文化会館(靖国神社の鳥居と同じ
朱色)
 美の基準は? 主観の問題?
 多数決の問題?投票のコスト?
 経済学によれば、地価や家賃を使う基準
がある。
環境の変化が地価を低下させたか?

ヘドニック・アプローチの有用性



地価や家賃を基準に、景観や環境の価値を計測
する.
他の変数(都心から電車で何分、徒歩で何分、
道路・公園・上下水道や周辺環境などの整備水
準)も十分に考慮する.
メカニズム:多くの人がそこに住みたい町ならば、
地価は上昇し、逆に環境が悪化した町は、多くの
人が転出する結果、土地に対する需要は減少、
地価は低下する。
環境悪化と地価(家賃)の低下メ
カニズム (土地需要と地価の決
定)
結論






景観(環境)問題を解決するためには、消費者が
これまでよりも高いコストを負担する必要がある。
景観(環境)という資源に価格をつけることを意
味する。
開発抑制による家賃上昇
新住民に対する参入規制
景観規制のコストと便益を考慮すべき
景観対策のために、経済学の手法を取り入れる
べきである。
補足:所得分配の重要性



環境税を付加するだけでは、かえって分配
の不公平が生じてしまう。
環境保護のための価格上昇は逆進的で、
貧しい人々が相対的に重い負担を受ける
ことになる。
裕福な人々から所得税や相続税をとって、
貧しい人々に再分配すべき
応用問題 日照被害の経済分析







都市の高度利用のコストとベネフィットとは?
コース的に日照被害の問題は解決できるか?
日照権は売買できるのか?
日照権は公法上の権利だから、不可能?
公法上の権利としてふさわしいか?(参政権と比較
せよ)
そのほか、環境問題をコース的に解決した例があれ
ば、それを説明せよ。
景観規制はとにかく導入すべきだろうか?それを強
制できる論理があるか?