第4章 熱力学の基礎とその応用

第4章 熱力学の基礎とその応用
4.1 熱と仕事の関係 90
4.2 エネルギと内部エネルギ 91
4.3 熱力学的系と熱力学の第1法則 91
4.4 エンタルピ 95
4.5 熱力学の第2法則 97
4.6 可逆変化と非可逆変化 98
4.7 サイクルにおける状態変化とその計算方法 99
4.7.1 状態変化を考えるための基礎 99
4.7.2 等圧比熱と等積比熱 100
4.7.3 各種状態変化の計算方法 102
4.8 サイクルの熱効率 105
4.9 エントロピ 111
第4章 総合演習問題 112
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熱流体力学第4章
1
4.1 熱と仕事の関係
☆図に示したジュール(J.P.Joule)の実験
から,熱と仕事の関係が実験的に解明さ
れ,つぎのように表現されるようになった。
・「仕事は一定の割合で熱エネルギに変
換できること」
・「機械的仕事と熱は相等しく,機械的
仕事は熱に変換でき,逆に熱はその一
部を機械的仕事に変換することが可能
であること」
・「変換される部分の両者の比は一定で
あること」
・「熱と仕事は相互に変換可能であるこ
と」
そこで,熱量をQ(kcal),仕事をW(J)とす
れば,Q→W,W←Qでありその変換定数
をジュール定数「J」という。
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滑
車
温度計
水
W  JQ
Q  AW
羽
車
お
も
り
1
J   4186  J / kcal 
A
1
kcal / J 
A
4186
J:熱の仕事当量,A:仕事の熱当量
熱流体力学第4章
2
☆4.1 熱と仕事の研究課題
1.1kw=102kgf・m/s,1kWh=860kcal,
1PS=75kgf・m/s=735kw=632.5kcal/hであ
る。では,10kwのモータは何PSであるか。
2.氷塊を120mの高さから地面に落下させた
とき,もし位置エネルギの変化がすべて熱エ
ネルギに変換されるとすれば,何%の氷がと
けるか。ただし,氷の融解熱は80kcal/kgと
する。
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熱流体力学第4章
3
4.2 エネルギと内部エネルギ
1)エネルギとは
外界に対して何らかの効果(effect)もしくは仕事(work)を与えることができ
る能力(ability)であり,熱量を総称した概念と考えることができる。
・エネルギの例
:暖かい物体は熱量を保有し氷を融かすという潜在的な能力を保持してい
る。
:圧縮された空気は熱量を保有し物体を動かすという潜在的な能力を保持
している。
:電気抵抗に流れる電流はジュール熱を発生し外部に何らかの仕事がで
きる。
2)内部エネルギとは
外界に何らかの効果を与えられる熱エネルギ(熱量)が物体内部に潜在
的に蓄えられているとき,このエネルギを内部エネルギという。内部エネ
ルギの大きさは物体を構成する分子運動の激しさ(分子の力学的運動
エネルギ)によって定められる。
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熱流体力学第4章
4
☆4.2 エネルギと内部エネルギの研究課題
1.0℃の氷1kgと0℃の水1kgでは潜在エネルギの差
はいくらか。
融解熱という。融解熱=
2.100℃の水1kgと100℃の蒸気1kgでは潜在エネ
ルギの差はいくらか。ただし,圧力は標準大気圧と
する。
蒸発の潜熱という。蒸発の潜熱=
3.100℃の水1kgと0℃の水1kgが持つ内部エネル
ギの差はいくらか。ただし,水の比熱を1kcal/kgと
する。
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熱流体力学第4章
5
4.3 熱力学的系と熱力学の第1法則
☆熱力学では,図に示
すように,対象とするシ
ステム(熱力学的な系)
に対して,
入る熱Q>0
出る熱Q<0
入る仕事W<0
出る仕事W>0
と取り決めて扱う。
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注)物理学で学んだ符号の取り方との違いは別の図で示
す。
熱流体力学第4章
6
4.3.1 熱力学の第1法則
☆熱力学の第1法則(the first
low of thermodynamics):右
図のような熱的なシステムに
おいて,エネルギの総量(系に
加えられる熱量,内部エネル
ギ,系が外部になす仕事等)
が保存される,つまり,エネル
ギの量的な保存関係を規定し
た法則である。
u:比内部エネルギ(J/kg)
q:入る熱
(J/kg)
w:出る仕事
(J/kg)
入る熱q
状態②
状態①
u1
v1
p1
T1
u2
v2
p2
T2
v:比容積
p:圧力
T:絶対温度
出る仕事w
(m3/kg)
(Pa)
(K)
とすれば,状態①と②の間にエネルギの保存関係を使って
u1  q  u 2  w
q  u2  u1  w
dq  du  dw
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さらに,気体の質量がGkgであれば
Gu  U ,Gq  Q ,Gw  W とおいて dQ  dU  dW
熱流体力学第4章
7
4.3 熱力学第1法則の研究課題
1.朝食で2000kcalのエネルギをとり,マラソンで
42.195kmを走った。内部エネルギの変化はいくら
か。ただし,走者の体重を60kgfとする。
2.熱力学の第1法則にはいろいろな表現の仕方があ
る。代表的なものを調べよ。
解答例:「熱はエネルギの一形態であり,エネルギの総量は不変である」
3.外部からなんら熱量等のエネルギの補充を受ける
ことなしに,永久に運動を続ける機関は成り立たな
い。第1種永久機関の否定。このことを証明するた
め独自に永久機関を考えてみよう 。
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熱流体力学第4章
8
第1種永久機関の創作例
一例を以下に示す。他にもたくさん例題があります。
強力磁石
落下孔
浮力
木製円盤
鉄球
重力
水
湾曲レール
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熱流体力学第4章
9
4.3.2 気体が外部にする仕事
すでに学んだように,熱力学の第1法則は次式で表さ
れた。
dq  du  dw
ここで,外部になす仕事dwについて,図に示したよう
に,シリンダ内の気体1kgが膨張する場合を例として
考えてみよう。気体が外部になす微小仕事dwは
微小仕事=力×微小変位
=圧力×断面積×微小変位
したがって微小仕事dwは,シリンダの断面積Aをとす
ればつぎのようになる。
dw  p  A  dx
ここでAdxはピストンが移動した時の微小体積dvに相当するから
A  dx  dv
と書け,結局,微小仕事dwは
dw  pdv
となり,これを用いると第1法則は
dq  du  dw  du  pdv( J / kg),さらに,気体Gkgについては
,Gdu  dU ,Gdw  dW ,Gdv  dV
,  pdV(J )
dQ  dU
Gdq  dQ
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と書けるので,
熱流体力学第4章
縦軸に圧力p,横軸に比
容積v(または容積V)を
とったグラフをP-V線図
10
(diagram)という。
4.4 エンタルピの導入
②
図に示されるように,熱流体1kg
が管路内を流動するような場合,
境界①を横切る流体に乗って内
部エネルギu1が入ると共に,この
流体を境界に押し込むために力
学的仕事を必要とする。その押
込み仕事は圧力pと比容積vの積
であるからp1v1となる。
入る熱q
①
比容積v2、 圧力p2
内部エネルギu2
比容積v1、 圧力p1
内部エネルギu1
同様に境界②から出る内部エネルギはu2,外部へ押し出す力学的仕事はp2v2
であるので,①-②間で加えられた熱量をqとすれば熱力学の第1法則から
q  u 2  p2 v2   u1  p1v1 
ただし,管路途中経路での仕事の出入りは無く,運動エネルギ,位置エネルギ
は一定(あるいは微小)で変化しない状態を想定する。
状態量,比エンタルピhの導入: h  u  pv すると, q  h2  h1 (J/kg)
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熱流体力学第4章
11
4.4 エンタルピの導入 (その2)
☆比エンタルピの定義
h  u  pv ( J / kg)
☆Gkgの流体が保有する全エンタルピH
H  Gh  Gu  pv
 U  pV (J )
ただし,
U  Gu, pV  Gpv
4.4.1 エンタルピによる熱力学第1法則の表示
dq  dh  vdp
(熱力学の第2基礎式)
課題:上に記述された熱力学の第2基礎式を導け。
ヒント: h  u  pv を全微分することと,第1法則 dq  du  pdv を利用せよ。
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熱流体力学第4章
12
☆第4章 ここまでの演習問題(その1)
熱力学第1法則関係
1.1kWhおよび1PShの仕事量はどれだけの熱量(kcal)に相当するか。
2.60Wの電灯を毎日7時間使用すると,1ヶ月ではどれだけのエネルギを
消費することになるか。ただし,1ヶ月を30日とせよ。
3.重量30kgfの物体を15m引き上げるために必要な仕事量を熱量(kcal)
に換算せよ。
4.1時間に2.1×108kcalに相当する重油を消費し,5万kWの電力を発生
する火力発電所がある。この場合の熱効率は何%か。
5.鉛球を20mの高さから床に落下させる。このとき発生する全エネルギの
30%が熱エネルギとして鉛球に与えられるものとすれば,鉛球の温度上
昇はいくらになるか。ただし,鉛球の比熱は0.031kcal/(kg・K)とする。
6.乗用車のガソリン1リットルあたりの走行距離は(a)高速道路では
12km,
(b)市街地では8kmであった。また(a),(b)での停車時以外の平均速度
はそれぞれ72km/h,36km/hであった。いま,ガソリンの比重を0.9,発熱
量を10500kcal/kg,エンジンの熱効率を0.2としたとき(a)および(b)の走
行時の平均出力は何馬力(PS)か。
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熱流体力学第4章
13
☆第4章 ここまでの演習問題(その2)
内部エネルギ関係
1.The first law of thermodynamics is occasionally stated in the
following way:“It is Impossible to invent any process which will
operate in a cycle (i.e.,the system return to its initial state)without
any other effect left in the surroundings than the production of work.”
Prove that this statement by applying the equation
dU  dQ  dW
2.あるガスが5kcalの熱を受けて,750kgf・m仕事をした。このとき,内部エネルギに
は変化があったか調べよ。変化があればそれは何J,で何kcalか。
3.標準大気圧において1kgの水を全部蒸気に替えると容積は0.001から1673倍に
膨張する。またこのために蒸発の潜熱として538.8kcalの熱を加えなければなら
ない。このとき内部エネルギにはどれだけの変化が生じるか。
4.シリンダ内でガスを圧縮するとき,3000kgf・mの仕事を必要とし,冷却水によっ
て8kcalの熱量を失った。内部エネルギの変化量はいくらか。
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熱流体力学第4章
14
☆第4章 ここまでの演習問題(その3)
エンタルピ関係
1.あるガス1kgの状態が,圧力0.3kgf/cm2,体積3.5m3であった。
これを圧縮して,圧力10kgf/cm2,体積0.4m3の状態にするとエンタル
ピの増加はいくらになるか。ただし,内部エネルギの変化がないもの
とする。
2.重さ10kgfの蒸気が50℃,圧力0.38atm,容積7.5m3のとき,内部エネ
ルギは1600kcalであったとする。このような状態の蒸気が有するエン
タルピと比エンタルピの大きさを求めよ。
3.重さ5.4kgf,圧力2at,容積1.5m3のガスを加熱して,容積を2倍にする
と圧力が1.6倍になった。もし,このとき内部エネルギの増加量が
10kcalであるとすれば,この場合のガスのエンタルピおよび比エンタル
ピはどれだけ増加したことになるか。
2015/9/30
熱流体力学第4章
15
4.5 熱力学の第2法則
☆熱力学の第2法則では状態量が変化する方向につ
いて述べ,現象の進行方向には法則性があること
を明らかにしている。熱力学の第2法則を表す具体
的な表現として,つぎのようなものがある。
1)クラウジウスの表現:「他に何の変化をも残すことな
く,熱を低温の物体から高温の物体へ移すことはで
きない」
2)トムソンの表現:「1個だけの熱源を利用して,その
熱源から熱を吸収し,それを全部仕事に変えること
ができる熱機関は存在しない」
3)1個だけの熱源で運転できる機関,第2種永久機関
は成立しない。
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熱流体力学第4章
16
第2種永久機関の否定
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熱流体力学第4章
17
4.5 熱力学の第2法則のまとめ
☆このような経験法則をまとめて表現したもの
が熱力学の第2法則であり,
• 自然界の現象の進行には方向性がある。方向法則。
• 自然界の現象の進行は非可逆である。
☆非可逆現象の例
•
•
•
•
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高温の物体から低温の物体への熱移動
機械的な摩擦による熱の発生
電気回路における抵抗体のジュール熱の発生
物質の濃度は濃いほうから薄い方へと拡散
熱流体力学第4章
18
4.6 可逆変化と非可逆変化
★図に示すように,状態Aから出発して,状態Bへ変化し,この過程を逆に進んで始めと同じ
状態Aへ戻ったとき,熱や仕事などの影響が全く外界に残らないならば,このような過程
A→Bは可逆的に行われたといい,状態変化A→Bを可逆変化(reversible change)という。こ
れに対して,BからAへ戻ったとき,たとえ僅かでも外界に何らかの影響が残っていれば,
A→Bの変化は非可逆変化(ir-reversible change)であるという。
経路への状態変化が等温変化や断熱変化で構成された可逆変化では,全コースを
A→C→B→D→Aの順に正に回った後, A→D→B→C→A と逆コ-スを回ると物体と
周囲は元の状態に戻るので,これを可逆サイクルという。
p
p
C
B
Q1
C
p=f1(V)
B
正味仕事
W Q2
A
A
D
V
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熱流体力学第4章
p=f2(V)
D
V
19
4.7 サイクルにおける状態変化とその計算方法
4.7.1 状態変化を考えるため重要な基礎式
1)完全ガスの状態方程式
pv  RT
ただし,p:圧力,v:比容積,R:ガス定数,T:絶対温度。 または上式の全微分をとって
pdv  vdp  RdT
2)熱力学の第1法則
dq  du  dw (q:系に加えられる単位質量当たりのエネルギ)
または微小仕事dw=pdvを考慮して,第1法則は次のように書ける。
dq  du  pdv
(u:比内部エネルギ)
3)比エンタルピhの定義
h  u  pv
上式の全微分をとれば
dh  du  pdv  vdp  du  RdT
4)第1法則のエンタルピ表現
dq  dh  vdp
20
4.7.1 状態変化を考えるため重要な基礎式
(その2)
5)等圧比熱Cp・等積比熱Cv
dh  C p dT , du  Cv dT
証明は次のスライド
6)比熱比κの定義
  C p Cv
7)作動流体がGkgである場合の扱い
Q  Gq , H  Gh , U  Gu , W  Gw , V  Gv
2015/9/30
熱流体力学第4章
21
4.7.2 等圧比熱と等積比熱
1.等圧比熱Cp
dh
 dq 
 dh  vdp 
Cp   


 dT  p const  dT  p const dT
∴
等積比熱測定
錘(可動)
dh  C p dT
2.等積比熱Cv
du
 dq 
 du  pdv 
Cv   


 dT  v const  dT  v const dT
∴
等圧比熱測定
ガス1kg
ガス1kg
温度
上昇
1℃
温度
上昇
1℃
供給熱量dq
供給熱量dq
du  Cv dT
3.CpとCvの関係
C p  Cv  R
dh  du  RdT
dh  C p dT
この関係を
証明せよ
du  Cv dT
C p dT  Cv dT  RdT
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熱流体力学第4章
22
比熱比κの定義と諸関係式
1.比熱比κの定義
  C p Cv
2.CpおよびCvとガス定数Rの関係
C p  Cv  R ; より比熱比   C p Cv を考慮すれば
Cv  Cv  R となり,整理すると
Cv  1  R
 Cv 
R
 1
同様にして,Cpは
R
 C P  C v 
 1
2015/9/30
R
Cp 
 1
熱流体力学第4章
23
4.7.3 各種状態変化の計算方法
1)等圧変化
2)等温変化
3)等積変化
4)断熱変化
5)ポリトロープ変化
圧力P
Pa
p
a
, va , Ta , u a , ha  
点aの状態
等圧変化(圧力p=一定)
等温変化(温度T=一定)
等
積
変
化
ポリトロープ変化(PV n=一定)
断熱変化(PV κ=一定)
このような各種状態変化にお
ける変化前後の状態量(圧
力・温度・比容積・内部エネル
ギ・エンタルピ,仕事・熱量な
ど)が計算できるようにする。
2015/9/30
Va
熱流体力学第4章
比容積V
24
(1)等圧変化
圧力がp=一定(dp=0)な状態変化である。
b
b
b
a
a
a
wab   dw   pdv  p  dv  p(vb  va )
 R(Tb  Ta ) 
  1 C

p
p (Tb  Ta )
p
, va , Ta , u a , ha 
q ab
点a
点b
a
Pa  Pb  P
 p , v ,T , u
一方,この変化を実現するために系に加え
るべき熱量qabはdp=0を考慮して
b
b
b
b
a
a
a
a
qab   dq   (dh  vdp)   dh   C p dT
 hb  ha  C p (Tb  Ta ) 
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R
(Tb  Ta )
 1
熱流体力学第4章
b
b
b
b
, hb 
仕事wab
v
va
vb
25
(2)等温変化
温度Tが一定に保たれる(dT=0)変化である 。
b1
RT
dv  RT a dv なぜならp=RT/v
v
v
vb
p
 pa , va , Ta , u a , ha 
 RT ln vb  ln va   RT ln
va
点a
b
b
b
wab  a dw  a pdv  a
系に加えるべき熱量qabはdT=0を考慮して
b
b
pa
Ta  Tb  T
qab
 pb , vb , Tb , ub , hb 
b
q ab  a dq  a (du  pdv)  a (Cv dT  pdv)
v
 a pdv  wab  RT ln b
va
仕事
wab
pb
b
va
点b
v
vb
このように,等温変化ではqab=wabとなり,系に加えたエネルギがすべて
外部仕事に変換できることがわかる。(だからカルノーサイクルは優秀な
のだ。)
2015/9/30
熱流体力学第4章
26
(3)等積変化
比容積vがv=一定(dv=0)な状態変化である。
b
b
a
a
p
wab   dw   pdv  0
pb
点b
系に加えるべき熱量qabはdv=0を考慮して
b
b
b
b
a
a
a
a
qab   dq   (du  pdv)   du   Cv dT
 u b  u a  C v (Tb  Ta ) 
R
(Tb  Ta )
 1
p
b
, vb , Tb , u b , hb 
qab 仕事wab=0
pa
点a
p
a
, va , Ta , u a , ha 
v
v a  vb  v
このように等積変化では外部にはなんら仕事が取り出され
ず,加えたエネルギはすべて内部エネルギとして蓄えられる。
2015/9/30
熱流体力学第4章
27
(4)断熱変化
☆断熱変化とは圧力をP,比容積をVとするとき,q=一定またはdq=0とするよう
な状態変化である。具体的には次の式に従う状態変化である。 すなわち,
pv  C
断熱変化;第1の重要な関係式
p
点a,点bにこの関係を代入して



p
v
a
b


pa va  pb vb  C ∴ p   v 
b
 a
また,完全ガスの状態方程式p=RT/vであ
り,これを上式へ代入すれば,断熱変化の
別な表現として次式がえられる。
Tv k 1  C 
Ta va
k 1
 Tb vb
p
a
, va , Ta , u a , ha 
点a
pa
pvk=C
qab=0
 pb , vb , Tb , ub , hb 
点b
仕事Wab
pb
va
v
vb
(断熱変化,第2の重要な関係式)
 1
∴
Tb  v a 
  
Ta  vb 
 1
課題:断熱変化をPとTで表し,第3の関
係式を作れ。
解答:
P1 T   C 
28
(4)断熱変化(続き)
☆系に加えられる熱量は当然のことながらqab=0である。
☆つぎに,点aから点bへの断熱変化において,系がなす仕事wabは,圧力pが
p  C v
で与えられることを考慮すれば,
b
b
b C
b
wab   dw   pdv   k dv  C  v - dv
a
a
a v
a

 
C 1
v
1 
b
a


1
1
1
Cvb  Cva
1 

p
p
a
, va , Ta , u a , ha 
点a
pa
pvk=C
qab=0
 pb , vb , Tb , ub , hb 
ここで定数Cは,a,b点の状態量が


点b
paVa  pb vb  C
で与えられることを考慮すれば,
wab 

仕事Wab
pb
va
v
vb

1
1
 1
 1
 pa va  pb vb   R Ta  Tb 
pb vb vb  pa va va

1 
k 1
 1
 Cv (Ta  Tb )
2015/9/30
なんと、断熱変化における仕事は等積比熱に2点間の温
度差をかければよいのだ。
29
(5)ポリトロープ変化
★最後に,ポリトロープ変化とは圧力と比容積がつぎの指数関係で結ばれる変化で
ある。すなわち,
(4.34)
n
pv  C
ここで,式(4.34)の指数nをポリトロープ指数という。このポリトロープ指数を用い
れば,今までに解説した1)から4)の各種状態変化は,つぎのように指数の値に
よって一般化できる。すなわち,ポリトロープ指数nに対して,
n=0:(等圧変化),n=1:(等温変化)
n=κ:(断熱変化),n=∞:(等積変化)
★4.7.3 各種状態変化の研究課題
1.断熱変化の状態方程式が Pv  const で与えられることを,熱力学の第1法則,
比熱比κならびに比エンタルピhなどを用いて証明せよ。
2015/9/30
熱流体力学第4章
30
(6)各種状態変化に伴う2点間の関係式
1.等圧変化(dP=0)の場合: VV  TT
2.等積変化(dV=0)の場合: PP  TT
3.等温変化(dT=0)の場合: PP  VV
4.断熱変化(dq=0またはds=0)の場合
P V 
 
1) P V  P V  C から
P  V 
2) T V  T V  C から TT   VV 
 
3) P T  P T  C から T   P 
b
b
a
a
b
b
a
a
b
a
a
b


a

a
b b
 1
a
1 
a
a
2015/9/30
a
a
b
b
a
a
b
1
 1
 1
a
b
b b
1 
b
b
2
1  / 
3
b
Ta
a
 Pb 
熱流体力学第4章
31
4.8 サイクルの熱効率
4.8.1 サイクルの熱効率の定義
入熱-出熱 作動流体がした正味仕 事


入熱
入熱
Q2
W Q1-Q2


1-
Q1
Q1
Q1
ただし,熱効率の計算で,上式を使用する
場合は,熱量,入熱Q1>0,出熱Q2>0。
つまり,いずれも正にとるので注意す
ること。
p
Q1
C
p=f1(V)
B
Q2
正味仕事W
A
p=f2(V)
D
V
2015/9/30
熱流体力学第4章
32
4.8.2 サイクルの紹介と熱効率の計算
A
p
QAB
爆
発
Q1
B
断熱圧縮
D
p
等温変化T=T1
正味仕事W
C
正味仕事W
膨張
断熱膨張
D
E
圧縮
排
気
C
等温変化T=T2
吸入
A
QCD
B
v
v
オットーサイクル
カルノーサイクル
p
Q1
Q1DE
p
D
C
D
正味仕事W
爆
発
E
正味仕事W
Q1CD
C
爆
発
膨張
A
吸入
膨張
F
E
圧縮
圧縮
Q2
排
B 気
A
吸入
v
2015/9/30
Q2
ディーゼルサイクル
Q2
排
B 気
v
熱流体力学第4章
サバテサイクル
33
1)カルノーサイクル(Carnot cycle)
A→B:等温膨張変化(温度一定)
B→C:断熱膨張変化
C→D:等温圧縮変化(温度一定)
D→A:断熱圧縮変化
ここで,温度はT1>T2である。また各点の状
態量 ( p, v, u, h,T ) はつぎのようになる。
点A:( p , v , u , h ,T  T  T )
点B:( p , v , u , h ,T  T  T )
点C:( p , v , u , h ,T  T  T )
点D:( p , v , u , h ,T  T  T )
A
A
A
A
A
B
1
B
B
B
B
B
A
1
C
C
C
C
C
D
2
D
D
D
D
C
2
D
p
A
等温変化T=T1
QAB
B
断熱圧縮
正味仕事W
D
等温変化T=T2
断熱膨張
C
QCD
v
☆カルノーサイクルの熱効率
T2
  1
T1
2015/9/30
重要:あとで証明しましょう。
熱流体力学第4章
34
2)オットーサイクル(Otto cycle)
A→B:吸入行程,B→C:圧縮行程
C→D:爆発行程,D→E:膨張行程
E→B:排気行程,B→A:排気行程
このとき,点Aから出発し点Aへと戻るこのサ
イクルの状態変化は,
A→B:等圧膨張変化,B→C:断熱圧縮変化
C→D:等積加圧変化,D→E:断熱膨張変化
E→B:等積減圧変化,B→A:等圧圧縮変化
と呼ばれる。さらに,各点の状態量,すなわ
ち,圧力,比容積,比内部エネルギ,比エンタ
ルピおよび絶対温度など)は1)で示したカル
ノーサイクルと同様に表記される。
★オットーサイクルの熱効率
  1
2015/9/30
1

 1
D
p
Q1
爆
発
正味仕事W
C
膨張
E
圧縮
排
気
A
吸入
Q2
B
v
圧縮比 
ピストン下死点時の体 積 V B V E


ピストン上死点時の体 積 V C V D
重要,各自で証明してください。
熱流体力学第4章
35
3)冷凍機の成績係数
(coefficient of performance)COP
☆冷凍機は図に示すように,低温側の
熱量を汲み上げ,高温側に熱量を捨
てる。そこで,冷凍機では前述の熱効
率に相当する成績係数COPをつぎの
ように定義する。
COP 
p
低温側から汲み上げた 熱量
サイクルに使用された 仕事量

Q2
Q2

W Q1  Q2
Q1
C
p=f1(V)
B
正味仕事
W
A
p=f2(V)
D Q
2
V
☆4.8.2 カルノーサイクルの熱効率の研究課題
☆4.8.2オットーサイクルの熱効率の研究課題
配布資料に沿って各自解答すること。
2015/9/30
熱流体力学第4章
36
☆4.8.3 各種サイクルの研究課題
1.高温側熱源が1000℃,低温側熱源が20℃で作動
するカルノーサイクルの理論熱効率はいくらとなる
か。
2.圧縮比がε=12で設計されたガソリンエンジンを運
転させたとき,熱効率はいくらと推定されるか。ただ
し,比熱比はκ=1.4と仮定する。
3.カルノーサイクルを理論的に実現する方法を調査・
研究せよ。またそのサイクルが実現不可能なことを
工学的観点から考察せよ。
2015/9/30
熱流体力学第4章
37
4.9 エントロピ
比エントロピdsの定義
ds 
dq
T
全エントロピS
dS  Gds  G
J /(kg  K )
p
等温変化 Ta  Tb
Q
Ta  Tb
点b
点a
点b( p b , vb , Tb , s b )
pb
(J / K )
T
点a ( p a , va , Ta , s a )
pa
dq dQ

T
T
入熱
Q=W
正味仕事W
v
va
2015/9/30
vb
熱流体力学第4章
s
sa
sb
38
4.10 P-V線図,T-V線図,T-S線図(その1)
4.10 各種線図について
ここでは,各種状態変化を,図に表すことを学習する。具体的には,P-V線図,T-V線図,T-S線図を書けるようにすることが学習の目的である。以下,考え方と,
その線図を参考に理解を深めること。
4.10.1 P―V線図
1)等圧変化(P=一定)
圧力がp=一定であるから,等圧変化は横軸vに平行な線で表され,比容積vの変化には依存しない。
2)等温変化(T=一定)
pv=RTより,圧力はp=RT/vとなる。ここで。ガス定数Rと温度Tが一定であるから,定数RT=Cとおけば,p=C/vとなる。したがって,圧力pは比容積vに反
比例した線(双曲線)で表される。
3)等積変化(v=一定)
比容積がv=一定であるから,等積変化は縦軸の圧力pに平行な線で表され,圧力pの変化には依存しない。
4)断熱変化(pvκ=一定)
断熱変化の状態方程式pvκ=一定より,圧力はp=C/vκ)と表され,圧力pはC/vκで減少する。
4.10.2 T―V線図
1)等圧変化(P=一定)
圧力がp=一定であるから, pv=RTより,縦軸の温度Tに対しT=pv/Rとなり,等圧変化では横軸vに対してP/Vの傾きを持った直線となる。
2)等温変化(T=一定)
縦軸の温度Tが一定であるから,横軸の比容積vに平行な直線となる。
3)等積変化(v=一定)
比容積がv=一定であるから,等積変化は縦軸の温度Tに平行な直線となる。
4)断熱変化(pvκ=一定)
断熱変化の別表現による状態方程式,Tvκ-1=一定より,T=C/vκ-1と表され,温度TはC/vκ-1で減少する。
4.10.3 T―S線図
エントロピSの定義式に忠実に考える。すなわち,エントロピの定義はdS=dq/Tである。
1)等圧変化(P=一定)
熱力学の第一法則からエンタルピーをhとすれば,加えた熱量dqはdq=dh-vdpであり,圧力がp=一定であるからvdp=0であり,dq=dh=CpdTとなる。したがっ
て,エンタルピ変化s2-s1は,となり,等圧変化をT―S上にプロットすれば,温度の比(T2/T1)に依存して指数関数的に増加,または減少する。
2)等温変化(T=一定)
温度T=一定であるから,等温変化は縦軸のエントロピに平行な直線で表され,エントロピ変化s2-s1には依存しない。
3)等積変化(v=一定)
比容積がv=一定であるから 熱力学の第一法則から内部エネルギをuとすれば,加えた熱量dqはdq=du+pdvであり,比容積vがv=一定であるからpdv=
0であり,dq=du=CvdTとなる。したがって,エンタルピ変化s2-s1は,となり,等積変化をT―S上にプロットすれば,圧力または温度の比(T2/T1)に依存して
指数関数的に増加,または減少する。
4)断熱変化(pvκ=一定)
断熱変化の状態方程式(dq=0)より,これをエントロピの定義式に代入して,
dq=Tds=0,∴ds=0,エンタルピ変化=0,s=一定,となる。
2015/9/30
熱流体力学第4章
39
4.10 P-V線図,T-V線図,T-S線図(その2)
P
P1  P2
1.P-V線図の書き方
1
2 等圧変化
3 等温変化
P4  P5  P6
T
6 等圧変化
4 断熱変化
5 等積変化
V1  V5
T
演習問題
1)カルノーサイクルをP-V,T-V,T-S線図上に描け。
2)オットーサイクルをP-V,T-V,T-S線図上に描け。
3)ディーゼルサイクルをP-V,T-V,T-S線図上に描
け。
4)サバテサイクルをP-V,T-V,T-S線図上に描け。
V2 V3 V4 V6
V
T
2.T-V線図の書き方
3.T-S線図の書き方
2 等圧変化
2
2 等圧変化
T2  T1e  S 2  S1  / C P  0
T1  T3
1
1
3 等温変化
3 等温変化
5 等積変化
4 断熱変化
T4  T6
4 断熱変化
6 等圧変化
5 等積変化
V1  V5
2015/9/30
6 等圧変化
V2 V3 V4 V6
V
S5
熱流体力学第4章
S1  S 4  S 6
T5
S 2  S3 S
40
4.10 P-V線図,T-V線図,T-S線図(その3)
1)カルノーサイクル
A
p
等温変化T=T1
QAB
B
断熱圧縮
正味仕事W
D
断熱膨張
C
等温変化T=T2
QCD
v
T
A
D
2015/9/30
T
B
C
熱流体力学第4章
v
A
B
D
C
S
41
4.10 P-V線図,T-V線図,T-S線図(その4)
2)オットーサイクル
p
D
q2
C
E
q3
A
T
q 4   q1
q1
B
v
D
D
T
E
C
C
E
B
B
A
2015/9/30
A
v
熱流体力学第4章
s
42
第4章 総合演習問題 (その1)
ガス定数
1.圧力200kPa,温度40℃の状態にある酸素の比容積はいくらか。ただし,酸素は理想気体とみなし,酸素
のガス定数はとする。
(解答:0.407m3/kg)
2.ある気体1kgは,圧力101.325kpa(1標準大気圧),温度30℃の状態で,0.8m3の体積を占める。この気
体のガス定数はいくらか。
(解答:0.267KJ/(kg・K)
等圧比熱・等積比熱
3.ある理想気体1kgを容積一定のもとに,20℃から100℃まで加熱するのに837.2KJを要した。この気体の
分子量を2として,等積比熱,等圧比熱を求めよ。
(解答:Cv=10.5kJ/kg・k),Cp=14.7kJ/kg・K)
4.空気10kgを20℃から800℃まで圧力一定のもとで加熱する場合,
(1)必要な熱量
(解答:1872kcal)
(2)内部エネルギの変化
(解答:1334kcal)
(3)エンタルピの変化
(解答:1872kcal)
を求めよ。ただし,空気を理想気体とみなし,等圧比熱はCp=0.24(kcal/(kg・K)),等積比熱Cv=0.171
(kcal/(kg・K))として計算すること。
5.ある理想気体が2m3のタンクに,圧力200kPa,温度20℃の状態で入れられている。
この気体の圧力を340kPaまで上げるにはどれほど熱量を加えなければならないか。ただし,
この気体のガス定数をR=0.46(kJ/(kg・K)),等積比熱をCv=1.40(kJ/(kg・K))とする。
(解答:852kJ)
2015/9/30
熱流体力学第4章
43
第4章 総合演習問題 (その2)
理想気体の各種状態変化
6.一定容積2000リットルのタンクに圧力2kgf/cm2,温度0℃の空気が入っている。この空気の重量を求めなさい。また,この空気を
60℃に加熱する場合の圧力の増加および加熱に要する熱量は何kcalか。ただし,空気は理想気体とみなし,ガス定数および等積
比熱はそれぞれ,R=29.27kgf・m/(kg・K),Cv=0.171kcal/(kgf・K)とする。
(解答:空気の重量=5kgf,圧力の増加=0.44kgf/cm2,加熱量=51.3kcal)
7.一定容積500リットルのタンクに圧力300kpa,温度120℃の酸素が入っている。この酸素から,40kJの熱量を取り去ったら圧力は
いくらになるか。ただし、酸素のガス定数はR=0.2598(kJ/(kg/K))とする。
(解答:268kPa)
8.空気2kgを,圧力400kPa,温度の状態から,等圧のもとで容積が1/2になるまでの加熱に要する熱量はいくらか。ただし,空気の等
圧比熱はCp=0.837kJ/(kg・K)とする。
(解答:-675.4kJ)
3
3
9.初め容積1m ,温度25℃の状態のある気体を,等圧のもとで4m に膨張させるにはいくらの熱量を加えればよいか。またこの変
化によって,この気体がする仕事量はいくらか。ただし,気体の等圧比熱はCp=0.837kJ/(Kg・K),ガス定数は
R=0.2943kJ/(kg・K)とする。
(解答:263.1kJ)
10.空気5kgを,圧力200kPa,温度27℃の状態から,温度一定のもとに,圧力1MPaまで圧縮するのに必要な仕事量を求めよ。ただ
し,空気のガス定数はR=0.2871kJ/(kg・K)とする。
(解答:-693kJ)
3
11.ある理想気体が,圧力1MPa,容積0.1m の状態から,等温膨張によって,容積が4倍になった。膨張後の圧力,この気体が外部
になした仕事および外部から供給された熱量はそれぞれいくらか。
(解答:膨張後の圧力=250kPa,仕事量=138.6kJ,熱量=138.6kJ)
2
3
12.重さ1kgfの空気を,圧力1kgf/cm ,容積2.0m の状態から,断熱的に圧力20kgf/cm2まで圧縮するのに必要な仕事量を求めよ。
ただし,空気の比熱比はκ=1.4とする。
(解答:-46500kgf・m)
2
3
2
13.圧力2kgf/cm ,容積0.86m ,温度20℃の空気を,圧力20kgf/cm になるまで断熱圧縮させた場合について以下を求めよ。ただ
し,空気の比熱比はκ=1.4、ガス定数はR=29.27kgf・m/(kgf・K)とする。
(1)使用している空気の重量
(解答:2.01kgf)
(2)断熱変化後の容積
(解答:0.166m3)
(3)断熱変化後の温度
(解答:567K,292℃)
(4)断熱変化による仕事量
(解答:-40000kgf・m)
(5)内部エネルギの変化量
(解答:93.7kcal)
2015/9/30
熱流体力学第4章
44