入門B・ミクロ基礎 (第2回) 第1章その1 2014年9月29日 担当 古川徹也 2014/09/29 1 第1章 経済学の十大原理 • ミクロ経済学においてもっとも根本的と も言える考え方について学ぶ。 • 10個の「原理」があるが,それらを意 識して暗記するのではなく,自然と考え 方が身に付くことが望ましい。 • 「てにをは」にこだわる必要はないが, 意味(趣旨)を正確に理解することを目 指すこと。 2014/09/29 2 第1章のKeywords 希少性 経済学 機会費用 合理的な 人々 限界的な 変化 インセン ティブ 市場経済 所有権 市場の失敗 外部性 市場支配力 生産性 インフレ 景気循環 2014/09/29 効率(性) 公平(性) 3 希少性と経済学 • 希少性:社会には限られた資源しかなく, そのため人々が手に入れたいと思う財・ サービスのすべてを生産できるわけでは ない。 • 経済学:社会が希少な資源をいかに管理 するかを研究する学問。 2014/09/29 4 人々はどのように意思決定するか • 第1原理 人々はトレードオフ(相反する 関係)に直面している • 第2原理 あるものの費用は,それを得る ために放棄したものの価値である • 第3原理 合理的な人々は限界原理に基づ いて考える • 第4原理 人々はさまざまなインセンティ ブ(誘因)に反応する 2014/09/29 5 人々はどのように影響しあうのか • 第5原理 交易(取引)はすべての人々を より豊かにする • 第6原理 通常,市場は経済活動を組織す る良策である • 第7原理 政府が市場のもたらす成果を改 善できることもある 2014/09/29 6 経済は全体として どのように動いているのか • 第8原理 一国の生活水準は,財・サービ スの生産能力に依存している • 第9原理 政府が紙幣を印刷しすぎると, 物価が上昇する • 第10原理 社会は,インフレと失業の短 期的トレードオフに直面している 2014/09/29 7 第1原理 人々はトレードオフ(相反する関係)に 直面している • 使える資源(物理的,時間的等)に限り がある場合,人々はトレードオフに直面 する。 • トレードオフ:二律背反 2014/09/29 8 第1原理の続き トレードオフについて • 効率と公平のトレードオフ①公平性の追 求が効率性を阻害する。 例:福祉制度,高い個人所得税 • 効率と公平のトレードオフ②効率性の追 求が公平性を阻害する。 例:人々のインセンティブに過度に働きか けようとすると,効率性は保たれるかもし れないが,公平性は損なわれる。 2014/09/29 9 第2原理 あるものの費用は,それを得る ために放棄したものの価値である • 費用=機会費用で考える • 大学進学の機会費用:実際の費用(学費 等)+進学しなければ得られたはずの収 入。 • 実際の費用も「学費として使わなければ 得られたもの」と考えれば機会費用の考 え方にうまくあてはまる。 2014/09/29 10 第2原理の続き 機会費用の意味 • 機会費用は,失うものの価値が大きけれ ば大きいし,逆の場合には小さくなる。 • 時間に関して言えば,時間が無限にあれ ば何かに時間を費やすことの価値はゼロ に近くなる。人々に寿命があるからこそ, 時間の価値は発生する。 2014/09/29 11 第3原理 合理的な人々は 限界原理に基づいて考える • 限界原理:限界的(追加的)な変化に着 目して意思決定をすること。経済学の核 となる考え方。 • 合理的な人々:自分たちの目的を達成す るために,与えられた条件・情報の下で, 手立てを整えてベストを尽くす人々。 2014/09/29 12 第3原理 合理的な人々とは • 合理的な人々:自分たちの目的を達成す るために,与えられた条件・情報の下で, 手立てを整えてベストを尽くす人々。 • 数学を使って「制約条件付き最大化問題 を解くこと」として特徴づけるとわかり やすい。経済学で数学が使われる1つの 大きな理由である。 2014/09/29 13 制約条件付き最大化問題 主体 最大化したい 制約 消費者 効用 (満足の度合) 予算 (所得,収入) 生産者 (企業) 利潤 (もうけ) 技術 これらの問題を解くことで,需要曲線や供給曲線を導く ことができる。→ミクロ経済学Ⅰでやる(やった)はず 2014/09/29 14 第3原理 限界原理 • 限界的な便益:考えている消費量よりも 1単位増やす(減らす)ことによって得 られる便益(効用低下) • 限界的な費用:考えている消費量よりも 消費量を1単位増やす(減らす)ことに 伴う費用(収入) • これの大小関係によってもっと増やした ほうがよいか,減らしたほうがよいかを 考えるのが限界原理 2014/09/29 15 第3原理 限界原理(続き) • 限界的な便益>限界的な費用:考えてい る消費量よりも1単位増やすことの便益 の方が多いから,増やすべき • 限界的な便益<限界的な費用:考えてい る消費量よりも1単位減らすことの便益 の方が多いから,減らすべき 2014/09/29 16 第3原理 限界原理:具体例 • 私たちはコンビニチェーンの社長。 • 店を出店した後に維持していくには,毎 月200万円かかるとする。 • 出店費用・撤収費用はとりあえず無視 2014/09/29 17 第3原理 限界原理:具体例続き • A駅前にはすでに1店舗あるが,新たに店を 出店すると,既存店の売り上げは変わらず, 新店舗では毎月300万円の売り上げが期待で きる。→出店すべき • B駅前にはすでに1店舗あるが,既存店の売 り上げが現在毎月150万円。新店舗も毎月100 万円の売り上げが見込まれる。→既存店を閉 鎖すべき 2014/09/29 18 第3原理 サンクコスト • あなたは入場料2000円を払って映画 を観ることにした。 • 映画を観はじめて15分,とんでもない 酷い映画であることに気付いた。 • 皆さんの選択は? (1)入場料がもったいないから最後まで 見続ける。 (2)時間がもったいないから出る。 2014/09/29 19 第3原理 サンクコスト(続き) • 考えるときのポイント:入場料2000 円は,(1)見続ける(2)出る,のど ちらを選んでも回収できない費用。 ⇒ 比較の際に考慮すべきでない費用 • 最後まで見続けたときに得るものは?失 うものは? • 観ないで外に出たときに得るものは?失 うものは? 2014/09/29 20 第3原理 水とダイヤモンド • なぜ日常生活では,(生命維持に不可欠 の)水が,(あってもなくてもよい)ダ イヤモンドよりも安いのか。 • なぜ砂漠では,水が,タイヤモンドより も(おそらく)高いのか? ⇒ 限界便益・限界費用の考え方を使うと説 明できる。 2014/09/29 21 第4原理 人々はさまざまなインセンティブ (誘因)に反応する • インセンティブ:人々に何らかの行動を 促す要因。 • 限界便益と限界費用を考慮に入れて, 人々は意思決定をする。 • ある財を購入するとき,限界便益>限界 費用のとき,人々はそれを購入するイン センティブがある。 2014/09/29 22 第4原理 インセンティブの例 • 安いと買うが,高いと買わない。 • 同じものなら安い方を買う。同じ値段な らよいほうのものを買う。 • 売り手は,高くなるとその財をたくさん 作ろうとする。 • その他,様々なものを考えることができ る。 2014/09/29 23 第5原理 交易(取引)はすべての人々を より豊かにする • 交易のない世界:ひとりであらゆる財を 生み出さなければならない生活=無人島 暮らしと一緒 • これが「豊かな生活」をもたらすと言え るのか? 2014/09/29 24 第5原理 “WIN-WIN”の関係(1) Aさんにとって,この 財の価値は100万円 Bさんにとって,この 財の価値は200万円 財 2014/09/29 25 第5原理 “WIN-WIN”の関係(2) 150万円払う Aさん:100万円 Bさん:200万円 財 財 どちらも差引50万円得してる 2014/09/29 26 第5原理 “WIN-WIN”の関係? 150万円払う Aさん:100万円 財 Bさん:110万円 財 Bさんが「200万円の価値がある」 と騙された場合 2014/09/29 27 第5原理 “WIN-WIN”の関係? 110万円払う Aさん:100万円 財 Bさん:200万円 財 Aさんは10万円,Bさんは90万円の 利益⇒この取引はダメ? 2014/09/29 28 第5原理 交易(取引)はすべての人々を より豊かにする • 交易(取引)は,(1) それが自発的なもの である,(2) 情報の非対称性がない,とい う条件を満たす限り,必ず双方に利益を もたらす(はず) • 「財」には時間など様々なものが含まれ る。アルバイトで働くことも一種の交易。 • 国と国の間にもこの原理はあてはまる 2014/09/29 29 第5原理 利益の分配が不公平だったら? • 「利益の分配が不公平」という理由で交 易が成立しなくなることがある。 • 「この交易は,相手が儲けたいからだろ う」と自分が得る利益を全く無視して議 論することがある。 • これらはミクロ経済学的には極めて不幸 (非効率的)である。 2014/09/29 30 第6原理 通常,市場は経済活動を 組織する良策である • 市場経済:分権的な意思決定に基づいて 取引が行われる点がポイント • 分権的:消費者も企業も,自分の売りた いもの,買いたいものを自由に意思決定 できる。 • 集権的(分権の反対):政府が生産量, 消費量などを管理する。 2014/09/29 31 第6原理 「見えざる手」 • 分権的意思決定が行われる市場経済で行 われる交易(取引)を通じて達成される 状態は,望ましい結果となる。 • アダム・スミスが『国富論』の中で述べ た主張。ミクロ経済学では「厚生経済学 の第1基本定理」と同じ。 2014/09/29 32 第6原理 価格メカニズム • なぜ分権的意思決定が望ましい結果をも たらすのか。 • 「価格」がシグナルとなり,無駄なもの を排除し,必要なものが作られる状態を 作り出すからである。 2014/09/29 33 第6原理 価格メカニズム:大雑把な説明 • 社会にとって必要なもの 皆が欲しがる⇒価格が上がる⇒儲けたい企業が作り たがる⇒資源がそちらに振り向けられる⇒皆が欲し がるものがたくさん作られるようになる。 • 社会にとって不必要なもの 皆が欲しがらない⇒価格が下がる⇒儲けたい企業が 作りたがらない⇒資源がそちらに振り向けられない ⇒皆が欲しがらないものは作られなくなる。 2014/09/29 34 第7原理 政府が市場のもたらす成果を 改善できることもある • 中央集権的計画経済は,分権的市場経済 に比べ,非効率的だと考えられている。 • ソ連崩壊(1991年):計画経済で運営さ れていた国家が崩壊。 • 中国:設立当初は共産主義国家として計 画経済の方針に基づいていたが,近年の 急成長は明らかに市場メカニズムが導入 されたから。 2014/09/29 35 第7原理 政府の介入の意義(1)所有権 • しかし,分権的市場経済も様々な問題に 対処できない。 • 第一に,経済活動にとって不可欠の所有 権を守ることができるのは,政府である。 • 所有権を守る:泥棒を罰する制度。 2014/09/29 36 第7原理 政府の介入の意義(2)市場の失敗 • 市場の失敗:市場では効率的な資源配分 を達成できないことがある。 • 外部性:環境汚染等。所有権の割り当て がうまくできないことから生じる。 • 市場支配力:独占あるいは寡占。 2014/09/29 37 第7原理 政府の介入の意義(3)公平性 • 市場経済システムでは,所得格差の問題 を解決できない。 • 所得再分配を進める制度(累進課税,生 活保護など)は,政府によって運営され なければならない。 2014/09/29 38 第7原理 政府の失敗 • 市場の失敗するが,政府も失敗する。 • 一部の政治的影響力を持つ人の利益に基 づいて政策が決まることがある。 • 「公共選択」と呼ばれる分野の課題(本 学部では大岩先生の授業が対応) 2014/09/29 39
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