円孔設置による鋼床版垂直スティフナー取付け部の疲労耐久性の改善

円孔設置による鋼床版垂直スティフナー取付け部の疲労耐久性の改善
井上 貴成
R
1.研究の背景・目的
鋼床版のデッキプレートと垂直スティフナーのすみ肉溶接部に数多
E
くの疲労損傷が報告されている.当該箇所に対しての補修・補強方法
L
載荷板
W
の一つとして,垂直スティフナーに半円孔を設け,デッキプレートの
面外曲げ変形に対する拘束を緩和し,疲労き裂の起点となる溶接止端
部の応力を低減させる方法が提案されている.この方法の効果が高い
スティフナー
ことはいくつかの研究によって確かめられているものの,半円孔の施
デッキプレート
工は多少困難とも考えられる.そこで,半円孔ではなく,垂直スティ
図 1 試験体図
デッキプレート
ル試験体の応力測定試験,疲労試験と応力解析を行う.なお,最適化
O30
/
の検討に際しては,有効切欠き応力の概念を用いる.
No.1, No.3
No.2
図 2 円孔位置
図 1 に示す形状・寸法の試験体 3 体を用いて,応力測定試験と疲労
0
試験を行った.なお,試験体 1 体で 2 箇所の着目点があるので L・R
2
応力(N/mm )
で区別した.図 2 に示すように,各試験体の垂直スティフナーに直径
験体については,ホールソーで円孔をあけたままである.
スティフナー
O30
/
15
30
2.応力測定試験と疲労試験
目的で円孔壁面を#120 の砥石を用いて仕上げている.No.1 と No.2 試
デッキプレート
スティフナー
30
本研究では,円孔の寸法と位置を最適化することを目的とし,モデ
30
ることを考えた.
30mm の円孔を設けた.なお No.3 試験体は,表面粗さの影響を調べる
(単位:mm)
橋軸方向
フナーに円孔をあけて,デッキプレート側溶接止端部の応力を緩和す
円孔なし
No.1
No.2
No.3
−50
−100
応力測定試験は 20kN の静的荷重載荷時に行った.応力測定試験結
果を図 3 に示す.円孔なしの値は No.1 試験体で円孔を設置する前に測
−150
定したものである.円孔を設置することで溶接止端部の応力は低減し
ている.No.2 試験体に比べ No.1,No.3 試験体での応力の低減が大き
い.これは No.1,No.3 試験体の円孔がこば面から深い位置にあったた
0
5
溶接止端からの距離(mm)
10
図 3 応力測定試験結果(L・R 平均)
めと考えられる.
AW−L
AW−R
疲労試験は荷重範囲 30kN(下限荷重 1.0kN)
,繰返し速度 5.0Hz とし
行い,試験体表面の疲労き裂を観察した.No.1,No.3 試験体では円孔
壁面からき裂が発生し,デッキプレートまで進展したが,溶接止端部
からのき裂は生じなかった.No.2 試験体では溶接止端部と円孔壁面の
両方からき裂が発生し,進展した.その様子を写真 1 に示す.円孔壁
100
き裂長さ(mm)
て行った.疲労試験中は所定の荷重繰り返し数ごとに磁粉探傷試験を
No.1−L
No.1−R
No.2−L
No.2−R
No.3−L
No.3−R
AW:円孔なし
50
面を砥石で仕上げた No.3 のき裂発生寿命は,穴をあけたままの No.1
試験体の 1.5 倍程度(30 万回と 50 万回)であり,仕上げの効果が認め
られた.デッキ側溶接止端部で観察した疲労き裂の長さと荷重繰り返
し数の関係を図 4 に示す.円孔なし(AW)のデータは数年前に当研究
0
0
100
200
300
荷重繰り返し回数(万回)
図 4 き裂進展曲線
400
室で得られたものである.円孔を設置することで疲労き裂の進展が遅
くなっている.
10
デッキプレート
スティフナー
円孔壁
スティフナー
D
デッキプレート
スティフナー
溶接止端
写真 1 疲労き裂観察例(No.2)
図 6 有効切欠き応力と円孔径 D の関係
3.疲労耐久性に対する円孔の位置・寸法の影響
図 5 に示すように円孔の位置を H・V,寸法を D で定義し,それら
0
をパラメータとして,疲労き裂の発生が予想される溶接止端部と円孔
V=30mm
とした.有効切欠き応力を求める位置近傍の要素寸法は 0.15mm であ
る.
図 6 に有効切欠き応力と円孔径 D の関係を示す.その際,円孔は半
円形とし,デッキプレート下面から半円孔端部までの距離は 10mm で
2
D は 30, 40, 60, 80, 100mm,H は 0, 10, 15, 20, 30mm,V は 30, 40, 50mm
有効切欠き応力(N/mm )
壁面の有効切欠き応力を 3 次元弾性有限要素応力解析により求めた.
D20
D30
D40
−200
−400
−600
一定としている.
図 7 は有効切欠き応力とこば面からの距離 H の関係,
図 8 は有効切欠き応力とデッキプレート下面からの距離 V の関係を示
−800
したものである.No.2 試験体において溶接止端部と円孔壁面から同程
度の大きさのき裂が生じたことから,この場合の溶接止端部と円孔壁
0
10
20
こば面からの円孔中心位置(mm)
30
図 7 有効切欠き応力と
面の疲労強度は同程度になると考え,溶接止端部の有効切欠き応力を
こば面からの距離 H の関係
円孔壁面の有効切欠き応力に換算したものも各図に示している.溶接
止端部の有効切欠き応力は D が大きく,H が大きく,V が小さいほど
0
低くなっている.一方,円孔壁面で
2
有効切欠き応力(N/mm )
の有効切欠き応力は,D が小さく,
D=40mm,H=20mm
デッキプレート
H が大きく,V が小さいほど高くな
V
っている.換算した溶接止端部の有
スティフナー
効切欠き応力と円孔壁面の有効切欠
き応力が交差する場合に,両者の疲
D
H
労強度が同値となるため,最も効果
的な補修と考えられる.
図 5 パラメータ
4.結論
直径 40mm の円孔をデッキプレート下面から 30mm,こば面から 6mm
の位置に設置するとよい.これにより疲労強度は 1.2 倍に改善される.
−200
−400
−600
−800
30
40
デッキ下面からの円孔中心位置(mm)
50
図 8 有効切欠き応力と
デッキプレート下面からの距離 V
の関係