フィールド科学への招待 - Graduate School of

嗅覚仮説:サケは嗅覚によって川のニオイを
嗅ぎ分けて母川に回帰する
母川
再放流
鼻栓
実験群
対照群
母川
 米国ワシントン州の
母川に回帰したギン
ザケの嗅覚を遮断
すると40%が異なっ
た支流に回帰した。
 フェロモン説:北極イ
ワナは同種の若い
個体から出るニオイ
に導かれる。
⇅
 サケ科魚類は母川
に若い個体が全くい
ない場合もある。
W.J. Wisby and A.D. Hasler, J. Fish. Res. Bd. Canada. 1954; 11:472-478.
きゅうかくきかん
サケの鼻(嗅覚器官)
前鼻孔
後鼻孔
前鼻孔
後鼻孔
水流
嗅房
嗅房
嗅板
嗅上皮
 鼻孔は左右一対、
前後に二つある。
 泳ぐことで水が効率
よく流れ込み排出さ
れる。
 嗅上皮にある嗅細
胞が水に溶け込ん
だニオイを感じる。
 嗅細胞は嗅上皮
1mm2あたり11万個
分布している(片側
だけで数百万個)。
サケのニオイ受容機構
 水中のニオイ分子が嗅細胞
のニオイ受容体に結合する。
 G蛋白を介してアデニル酸シ
クラーゼが活性化する。
 cAMPやIP3などのセカンドメッ
センジャー濃度を上昇させる。
 イオンチャネルのゲートが開
き、Na+やCa2+が細胞内に流
入し、インパルスを発生させる。
ニオイ受容体
線毛
電気信号
への転換
嗅細胞
信号増幅
出力
ニオイ物質
Na+, Ca2+
イオン
チャンネル
外界
線毛の細胞膜
アデニル
酸シクラ
ーゼ
ニオイ
受容体
Gタンパク
細胞内
ATP
GTP
GDP
cAMP
電気信号
 ニオイ受容体をコードする遺
伝子は、哺乳類では約1000種
類見つかっているが、魚類で
は約100種類しか存在してい
ない。
 魚類の嗅覚器は、アミノ酸とそ
の関連物質、胆汁酸、ステロ
イド、プロスタグランジンに反
応する。
低濃度の銅暴露
(回復可能な嗅覚機能障害)
低濃度の銅は、
イオンチャネル
をブロックして、
ニオイ応答に障
害をもたらす。
高濃度の銅暴露(回復不可能な障害)
高濃度の銅は、細
胞内小器官のタン
パク質に結合し、
特にミトコンドリア
や小胞体に障害を
与える(ATP・タン
パク質合成能を低
下させる)。
地球温暖化に伴う
サケの分布予想図
二酸化炭素濃度が
現在より2倍増加し
たときのシュミレー
ション
緑が現在の分布域
赤が予想される分
布域
Welch and Beamish, 1995
サケのフィールド科学
フィールドバイオサイエンス
フィールドを基盤として、人間が自然と共生していく
ために人間環境共生系を創造する学問
生物多様性・物質循環・生態系保全・持続的生物生産
 サケの生活史は生物多様性に富んでいる
 サケは陸上から海へ流出した栄養塩を陸上に還元して
くれる数少ない物質循環の担い手
 サケの生存には河川・海洋の生態系保全が必須
 わが国のシロザケは栽培漁業が成功した重要な水産資
源(持続的生物生産)
サケが母川に帰ってきた時に
何を感じているのかを知りたい
共生システム創成
 20世紀の科学技術の進歩は、人間の生活を豊かにしたが、一方で
深刻な地球環境問題を引き起こした。
 人間が生活する生物圏での食糧生産活動と地球環境保全という背
反する問題を解決するため、我々は学ばなければならない。
森林圏・耕地圏・水圏の個々の生態系およびそれらが
複合した流域生態系を食物連鎖系と物質循環系とし
てとらえる。
①食物連鎖系と物質循環系の相互作用に対する人間活動の影響
のシグナルを、遺伝子・生物多様性・栄養塩流出・温暖化ポテン
シャルとして解析するためのモニタリング手法の高度化。
②様々な人間活動に伴うシグナルを比較することにより生態系がも
つ環境容量を発現させる負荷浄化機能の抽出。
③それらの結果を高度に利用した生態系の保全と改良および持続
的利用のための技術を開発するとともに、将来の人間活動のシ
ナリオの予測。