漁獲可能量(TAC)制度 とリスク管理 松田裕之(横浜国大・環境情報) 2006/3/10 1 松田の主張 世界の漁獲量は持続可能に増産可能 1. • • • 2. 3. 4. 世界の漁業は頭打ちか? 上位捕食者激減説批判 「漁業下落」論批判 持続可能な漁業=健全な生態系の指標 無条件の自由貿易は乱獲を助長する 漁獲可能量(TAC)制度の問題点 2006/3/10 2 世界の漁業を悲観する諸説 総漁獲量は頭打ち 上位捕食者激減説 (地球白書、千年紀生態系評価) Myers, Jennings… 漁業下落Fishing down(Pauly) 2006/3/10 3 世界の総漁獲量は頭打ちか? 80 70 漁 獲 60 量 50 ( 百 40 万 30 ト ン 20 浮魚類 カツオ・マグロ類 イカ・タコ類 貝類 エビ・カニ類 底魚類 サケ・マス類* ) 10 0 1950 1960 1970 1980 年(1950-2002) 1990 2000 過剰漁獲を、削減抑制する対策を取らなければ、海産の漁獲量が減る 可能性がある(FAO, L.Brown, 千年紀生態系評価) 2006/3/10 4 (千年紀生態系評価2005) 世界の漁獲量の停滞と深層化 2006/3/10 5 資源量 延縄漁業CPUEが9割減少 R. A. Myers & B. Worm (2002) Nature in press. “Rapid worldwide deple-tion of large predatory fish communities” …We conclude that declines of large predators that initially occurred in coastal regions, have extended throughout the global ocean, with potentially large consequences on ecosystems. Top predators are good indicator of ecosystems. 2006/3/10 6 Newsweek 2003.7.14 2006/3/10 海 は 死 に つ つ あ る か ? 7 マグロ激減説のRansom MyersはFortune誌の 2005年世界十大人物に選ばれた 2006/3/10 http://as01.ucis.dal.ca/ramweb/ 8 DNA多様性解 析:大西洋の 鯨類は商業捕 鯨以前より ずっと少ない (差>累積捕 獲数) 2006/3/10 Population abundance (thousands) Whales Before Whaling in the North Atlantic Roman J & Palumbi SR (2003) Science 301:508-510 Historical Current 600 + 300 + + Humpback Fin Minke 9 大型魚類の生物体量97-99%減少説 (Jennings & Blanchard 2004 J Anim Ecol 73:632) We suggest that the current biomass of large fishes weighing 4–16 kg and 16–66 kg, respectively, is 97·4% and 99·2% lower than in the absence of fisheries exploitation. The results suggest that depletion of large fishes due to fisheries exploitation exceeds that described in many short-term studies. 2006/3/10 We propose a method, based on macroecological theory, to predict the abundance and sizestructure of an unexploited fish community from a theoretical abundance–body mass relationship (size spectrum). 10 漁業下落Fishing down説 (MA2004) 世界の漁獲物の平均栄 養段階は最近下がって いる。これは上位捕食者 の枯渇を示唆する Pauly et al 1998, 2002 2006/3/10 11 反論1:鯨の摂食量は膨大 2006/3/10 12 生態系の捕食者は、漁業よりもはるかに消費量が多い Estimated annual loss of fish to predation in six marine ecosystems (Yodzis 2001 TREE) ≫ 2006/3/10 13 反論2 浮魚漁業は増加中, ただし種別の盛衰が激しい anchoveta sardine Atlantic herring chub mackerel http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/sofia/fig4e.asp 2006/3/10 14 松田の主張 世界の漁獲量は持続可能に増産可能 持続可能な漁業=健全な生態系の指標 1. 2. • • 3. 4. 知床世界遺産でトドを獲る IWC/SC元議長・ゼー女史の基調講演 無条件の自由貿易は乱獲を助長する 漁獲可能量(TAC)制度の問題点 2006/3/10 15 トド駆除数の推移1958-2001 北海道資料(磯野岳臣氏・高橋紀夫氏・本間浩昭氏などの集計より) 2006/3/10 16 伝統的な漁業も絶滅危惧 Traditional fisheries are also endangered 捕鯨は鯨と捕鯨者を守るように管理できるか?Can whaling be managed to protect whales and whalers? – Plenary talk by Judy Zeh at International Mammalogical Congress at Sapporo, 2005国際哺乳類学会ゼー女史の基調講演 世界遺産で魚を獲る(知床世界遺産2005年登録) Commercial Fishery is possible in the Shiretoko World Nature Heritage 2006/3/10 17 漁業こそ健全な生態系の「上位捕食者」 ベンゲラ海域生態系の食物網 (Yodzis 1998, 宮下・野田『群集生態学』2003) 人間 鳥 オットセイ 鮫 メルルーサ 鯨類 鮪 鯵 鯖 片口鰯 細菌 2006/3/10 浮植 浮小動 分解者 18 獲る漁業は自然の賜物 自然保護の根拠=世代間持続可能性 環境基本法1条,米生態学会委員会報告1996 漁業理論は自然保護の元祖 持続的漁業は健全な生態系の象徴 漁業こそ絶滅危惧産業 漁業成立=恵み豊かな自然がある証拠 持続的漁業は最高のumbrella種 2006/3/10 19 松田の主張 世界の漁獲量は持続可能に増産可能 持続可能な漁業=健全な生態系の指標 無条件の自由貿易は乱獲を助長する 1. 2. 3. • • 4. 共有地の悲劇 自由貿易の悲劇 水産輸入大国としての責任 2006/3/10 20 http://www.rinya.maff.go.jp/kouhousitu/wto/files/0212ffj.htm 持続可能な開発と林水産物 貿易に関する日本提案 WWF、IUCN等多くのNGOや消費者等は、自由 貿易体制が森林や水産資源の持続的利用に 与え得る悪影響について懸念を表明している。 漁業に関する専門機関であるFAOにおいて、 水産物の環境目的のラベリング実施の客観 的かつ科学的なガイドライン策定に取り組み、 WTOは右ガイドラインを踏まえ、貿易の観点 から本件の扱いを検討すべきである。 2006/3/10 21 最大持続漁獲量(MSY) ある生物資源を単独で利用する。 禁漁と乱獲の 中庸が最適 時間変化dR/dt = (K – E – R) R R:資源量、E:漁獲努力、K:環境収容力 RE 2006/3/10 100 90 2000 80 70 60 50 1000 40 30 500 20 定常資源量R 1500 漁獲量ER 定常資源量R = K – E 漁 漁獲量F =RE = (K – E) E 獲 量 2 最大値 FMSY= K /4 at E = K/2 費用cがあると控えめに(MEY) 2500 資 源 量 R 10 0 0 0 10 20 30 40 K/2 50 60 70 80 90 K 100 漁獲努力量E 22 共有地の悲劇(Hardin 1960) 同じ資源を獲りあうと乱獲になる 時間変化dR/dt = (K – E1 – E2 – R) R R:資源量、 E1, E2 :漁獲努力、 定常資源量R = K – E1 – E2 漁獲量F1=RE1=(K – E1 – E2)E1 F2=(K – E1 – E2)E2 非協力解F1/E1= (K – 2E1 – E2) = 0, F2/E2 = 0 F1=F2=K2/9 at E1 = E2 = K/3, R = K/3 < RMSY 2006/3/10 23 検討中 「自由貿易の悲劇」(松田) 複数の代替資源を同じ市場で競争すると乱獲を招く dR1/dt = (K1 – E1– R1)R1 , dR2/dt = (K2 – E2– R2)R2 価格p(水揚げ量), 漁獲高Y1=E1(R1p – c) , Y2=E2(R2p – c) 最適解Y1/E1=(E1R1)’(R1p)’ – c = 0 もしc=0ならMSYに一致。もしp’=0ならMEYに一致 もしc >0かつp’<0なら、「自由貿易の悲劇」が生じる ①p=2V/(2V+ E1R1+E2R2)および②p =V/(V+ E1R1)のとき 努力量E1 資源量R1 漁獲高Y1 38 62 39 ①自由貿易 13 87 85 ②鎖国 2006/3/10 K=100, c=0.5, V=100 24 松田の主張 世界の漁獲量は持続可能に増産可能 持続可能な漁業=健全な生態系の指標 無条件の自由貿易は乱獲を助長する 漁獲可能量(TAC)制度の問題点 1. 2. 3. 4. • • サンマ問題 スケトウダラ問題 2006/3/10 25 http://abchan.job.affrc.go.jp/digests17 TACスケトウダラ問題 (根室海峡系群) 国後島側の漁場では漁法の 全く異なる大型トロール漁業 ロシア水域での分布・回遊の 情報欠如 本海域のように狭い海域で、 産卵群を対象に漁獲を行なえ ば、その効率は索餌期に比べ れば高いと考えられる 日露共同研究・管理の重要性 知床世界遺産の問題点 2006/3/10 26 80 TACサンマ問題 ABC>TAC>漁獲量 排他的に利用できな い?(UNCLOS) 本質は領土問題 需要<供給なら豊漁 貧乏 70 60 ABC,TAC, 漁獲量(万トン) サンマ 50 40 30 20 10 0 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2006/3/10 27 月尾嘉男「地球の方程式」TBS番組より 月尾嘉男「地球の方程式」TBS番組より http://www.tbs.co.jp/newsbird/globe/present.html 日本の食糧自給率低下の主因 食生活の変化 1. 伝統的朝食の自給率は85%、パン朝食は15% 戦後の学校給食(脱脂粉乳・パン) 2. 米国の小麦輸出宣伝 米食への誤批判 2006/3/10 28 浮魚を食べよう! 浮魚類、深層生物の資源量は甚大 魚種ごとには資源量は大きく自然変動 栄養段階の低い魚介類を増産する その時代に多い資源を利用する 1kgのハマチより7kgのイワシを食べよう 海上と食卓の投棄を減らそう もったいない! 2006/3/10 29 結論 1. 2. 3. 4. 水産物輸入自由化問題を克服する一つの 方策として、自由貿易の対象を「責任ある漁 業」から得られた水産物に限定する その具体的なルール作りを急ぐべき 自由貿易を国際的な持続可能な漁業への 強力なインセンティヴとできるか? 水産物輸入大国日本の重要性 2006/3/10 30 ご清聴ありがとうございました 2006/3/10 31 月尾嘉男「地球の方程式」TBS番組より http://www.tbs.co.jp/newsbird/globe/present.html 低食糧自給率の問題点 1. 農作物の輸入超過額320億ドル 2. 3. 食料価格高騰のリスク 食糧難のリスク 4. 5. 世界1位:2位は英国145億ドル 世界穀物在庫量2000年5.2億t→2004年2.9億t 中国の食糧輸入国化 輸入相手国の環境破壊という批判 食の安心安全の喪失 2006/3/10 32 各国のフード・マイレージの概要 2006/3/10 出典:農林水産政策研究第5号 33 温暖化による人類生命の危 機 2006/3/10 (Parry et al., 2001) 34 世界最低水準の食糧自給率 食 250 糧 ( 供 200 給 熱 150 量 日本 アメリカ カナダ ドイツ イギリス フランス 豪州 ) 自 100 給 率 50 ( % 0 ) 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 出典:日本国勢図会 長期統計版 2006/3/10 35 食用魚介類の自給率低下 2006/3/10 36 日本の主張にそった2005年の CITES附属書掲載基準改定 事務局改定案 各国、環境団体などの意見 附属書IかIIへ の掲載を改める 提案を考えると き、加盟国は懸 案の種とその保 全上の最良の利 益に基づいて行 動し、その種に 予期されるリス クに応じて釣り 合いのとれた処 置を採用するこ とを決議し、 豪州:リスクもしくは予期されたリスクを決めることは難しいかも しれない。予防原則はそれゆえ適用されるべきなのである。リスク にはかなりの不確実性があるかもしれないし、そのような場合加盟 国は用心深く保全側の取組みを採るような指針とすべきである。 IUCN:我々は、以前の予防に関する文言の解釈に困難があったこと を認める。しかし、不確実性への言及を含めるべきであり、「懸案 の種にとって最良の利益のことを考え、それに基づいて行動する」 という文言を加えてはどうか。「予期されるリスクに対して釣り合 いのとれた」という注釈は問題があり、さまざまな解釈が潜んでい ることを見いだす。次のようにこの段落を締めくくってはどうだろ うか。「そして実際に種の保全を改良する見込みが最も高い処置を 採用する」 日本:「予防原則」に関して曖昧に定義された文言を取り去ったこ とで、この文章がより明確になったことを歓迎する。 2006/3/10 37 http://abchan.job.affrc.go.jp/digests17/index.html 生物学的許容漁獲量(ABC)案 乱獲 要回復 管理順調 F実績 BF=0 1-M 1±b B / B2000 MSY 2006/3/10 38
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