漁業と生態系 サービス - 横浜国立大学 益永

漁業と生態系サービス
持続可能性指標ワークショップ
国立環境研究所, 2008年11月14日
1
Outline
海の恵み(生態系サービス)
 世界の漁業の現状
 日本の漁業の現状
 マサバ資源管理の失敗
 日本の海域の生物多様性総合評価案
 環境に優しい漁業を目指せ

2
生態系サービスと人間の福利
(MA 2005より)
生態系サービス
•
矢印の色
社会経済的認知度
低い
中間
高い
供給サービス
安全保障
•食料
•淡水
•木材と繊維
•燃料 その他
•個人の安全
•資源利用の保障
•災害からの保障
調整サービス
•気候調節
•洪水制御
•疾病制御
•水質浄化 その他
文化的サービス
•審美的
•精神的
•教育的
•娯楽的 その他
生存権の基盤
•適切な生活条件
•十分な栄養ある食料
•住居
•生活用品の提供
をと 一 選
達、 人 択
成大 一 と
す切 人
るに が 行
能し や 動
力た り の
いた 自
こい 由
とこ
•
一基
次盤
生サ
産ー
、ビ
そス
の
他栄
養
素
の
循
環
、
土
壌
形
成
、
人間の福利
健康
•活力
•快適さ
•きれいな空気と水の提供
よい社会関係
•社会の連帯感
•互恵
•扶助の能力
矢印の太さ
繋がりの強さ
弱い
中間
強い
「大きさ」と「確かさ」3
漁場の価値
資源価値<<生態系サービス
農林水産資源(139兆円)
生態系サービス(1708兆円)
干潟・サンゴ礁・藻場
快適さ(?)
4
自然の恵みの1haあたりの経済価値(斜体部分
の単位は米ドル/ha/年,Costanzaら1997より)
2
総計(兆ドル)
面積(万km )
物質循環
食糧生産
浄化機能
大洋
33200
118
15
不明
・・・
8.38
河口
180
21110
521
不明
・・・
4.11
藻場等
200
19002
不明
不明
・・・
3.80
珊瑚礁
62
220
58
・・・
0.38
大陸棚
2660
68
不明
・・・
4.28
・・・
・・・
1431
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
熱帯林
1900
922
32
87
・・・
3.81
干潟等
165
不明
466
6696
・・・
1.65
湿原等
165
不明
47
1659
・・・
3.23
51625
17.08
1.39
2.28
・・・
33.27
総計(兆ドル)
5
*原論文には,あと8種類の生態系と14の部類を評価している.不明部分が多数あり,過小評価.
生態学的負荷
Ecological Footprint
10
生
態
学 8
的
負 6
荷
(
ヘ 4
ク
タ
ー 2
ル
) 0
WWF 2002
住居建設
エネルギー
漁場
森林
牧草地
農作物
生物的収容力
6
森林が多く、耕地面積が狭いことは悪いことなのか?
Outline
海の恵み(生態系サービス)
 世界の漁業の現状
 日本の漁業の現状
 マサバ資源管理の失敗
 日本の海域の生物多様性総合評価案
 環境に優しい漁業を目指せ

7
回復
衰退
円熟
未利用
発展
り多
すく
ぎの
?魚
種
は
す
で
に
獲
8
とっくに頭打ちの底魚資源
http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/sofia/fig5e.htm
9
まだまだ獲れる浮魚資源
anchoveta
sardine
Atlantic herring
chub
mackerel
http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/sofia/fig4e.asp
10
http://www.fao.org/docrep/009/a0699e/A0699E00.HTM
Capture fisheries production in marine areas
(FAO, SOFIA2006)
日本と南米は浮魚主体の漁業
11
Capture fisheries production in marine areas
(FAO, SOFIA2006)

減る北米東岸、増える東南アジア
12
SI1: Fishing down (MA 2005)
13
Outline
海の恵み(生態系サービス)
 世界の漁業の現状
 日本の漁業の現状
 マサバ資源管理の失敗
 日本の海域の生物多様性総合評価案
 環境に優しい漁業を目指せ

14
浮魚類の魚種交替
15
日本の漁獲量と輸入量
16
http://www.tdb.maff.go.jp/toukei/toukei
日本の漁業・養殖業部門別累年統計
(農林水産省データベースより)
17
日本の黄ウナギの漁獲量
基準A:10年ま
たは3世代で半
分以下に減少
=EN
世代時間>7年
100年後に資源
崩壊(漁獲0)の
恐れ=VU
18
SI1: Catch and mean trophic levels in Japan
19
まだまだ獲れる浮魚類
1970年代ペルーのカタクチイワシ漁獲量は
1200万トン
 1980年代、日本のマイワシ450万トンは乱獲
でなく、その後の急減は自然現象(減った後
は乱獲)
 現在、サンマは資源保全でなく、生産調整
 クラゲも食べられる
 オキアミの資源量も10億トンと言われる。
 中層のハダカイワシ等の資源量も膨大

20
マイワシの世紀末の真相
 乱獲なら高齢魚からいなくなり、漁獲物
が小型化する
 加入の失敗による高齢化社会
 加入失敗は環境汚染・生息地破壊では
ない(貝類)
 有史以前からの自然変動
21
生態系は諸行無常
 1980年代までの生態学
– 放置すれば自然はバランス
 1990年代以降の生態学
– 熱帯林でも変動する
– 栄枯盛衰=阪神タイガース問題
– 生は有限=サザエさん症候群
22
問題点
魚種ごとの漁獲量は大きく変動

増えた魚を獲って食べること
– 魚種交替に備える

子供を獲らず、大人を獲ること
– 泳がせ捜査(成長乱獲)

減った魚を保護すること
– 種もみを残す(加入乱獲)


選択性の高い漁業技術を開発すること
減ったマサバとマイワシを乱獲で激減させた
23
http://www.uogashiyarou.co.jp/
消費者だけが魚食文化救う
(朝日新聞2008.8.10)


7月の一斉休漁は、チャンスだと思った。・・・魚はスーパーに
並んでいて当たり前だと思っている消費者に目をさましてもら
うきっかけになるからだ。だが、漁業者が直接補填を求めた
のは短絡的だった.・・・だから実現しないと思っていた。
サンマやアジ・・・など、日本の近海でとれる魚はまだいっぱ
いある。その時々にとれる魚を、工夫して食ペていけばいい。
(魚屋に行く前から)アジフライ(と決める)のではなく、魚屋に
(並ぶ魚を見てから素材と調理法を考える)というように。
築地マグロ中卸業 生田與克さん
24
Outline
海の恵み(生態系サービス)
 世界の漁業の現状
 日本の漁業の現状
 マサバ資源管理の失敗
 日本の海域の生物多様性総合評価案
 環境に優しい漁業を目指せ

25
MSY:最大持続生産量=これ以上とると資源が
枯渇するぎりぎりの漁獲量
ABC:生物学的許容漁獲量
EEZ:排他的経済水域≒200海里
漁獲可能量(TAC)制度
• 国連海洋法条約により、1997年から
• EEZ資源を排他的に利用できる一方、
• 資源の状態に基づき,MSYを達成でき
る水準以上に資源を維持・回復させる
責務を負う。そのため
• 沿岸国は各魚種のTACを毎年定める
• 生物学的許容漁獲量(ABC)を定め、
• 社会経済要因を考慮してTACを決定
26
減ったマイワシとマサバを
激減させた日本の水産行政

サンマとマイワシのABC, TAC, 漁獲量
80
サンマ
80
70
TAC,ABC,漁獲量(万トン)
TAC,ABC,漁獲量(万トン)
70
マイワシ
60
50
40
30
20
60
50
40
30
20
10
10
0
0
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
27
毎年進んだマイワシの高齢化
28
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests15/details/1503.pdf
加入量
加入量/親魚量
2度の卓越年級群
加入量(10億尾)
加入量/親魚量kg
マサバ加入量は大きく変動
29
マサバの乱獲,未成魚捕獲
Catch in numbers (billion)
漁獲尾数(10億尾)
尾数
70年代
80年代
90年代
93年以降
65.0%
60.0%
87.0%
90.6%
4
0
1
2
3
4
5
6+
3
2
d
1
0
1970
1975
1980
1985
1990
1995
30
未成魚乱獲の日本のマサバと成魚中心
の大西洋マサバの漁獲物年齢組成
大西洋マサバ漁業
=個別漁獲割当IQ
日本=オリンピック方式
ドーナツの内側から
北大西洋2000-2004
日本1970
日本1995
31
http://www.ices.dk/marineworld/fishmap/ices/pdf/mackerel.pdf
マサバの過去と未来を読む
河合裕朗修士論文(KawaiらFish.Sci. 2003)
もしも、1990年代に、1970、80年代並みに未
成魚を守っていたら?
 もしも、これからも1990年代並みに未成魚を
取り続けたら?

32
マサバ資源復活の逸機
(Kawaiら2003)
33
マサバ「再生」確率
(Kawaiら2003)
百
百
万
万
ト
ト
ン
ン
資
資
源
源
回
回
復
復
確
確
率
率
70-80年代の漁獲圧なら
90年代の未成魚乱獲を続けると
取り戻すには20年以上かかる?
34
Outline
海の恵み(生態系サービス)
 世界の漁業の現状
 日本の漁業の現状
 マサバ資源管理の失敗
 日本の海域の生物多様性総合評価案
 環境に優しい漁業を目指せ

35
Draft framework of marine biodiversity by Matsuda
Driving forces/Pressures
DP1:Fisheries & exploitation
• Overfishing
• By-catach
• Aquaculture
• Bottom trawling
• Catch of marine mammals
DP2 Civil engineering
• Fluvial sediment
• Reclamation, artificial
shore and breakwater
• Gravel dipping
DP3 Pollution and debris
• Eutrophication
• Oil spilling
• Exotic species
• Chemicals (TBT)
DP4 Climate change
• Global warming
• pH decrease
State/Impacts
Response
SI1 Loss of species richness
R1 Sustainable use
• Mean trophic levels
• Fish stock biomass
• Mammals, birds & turtles
• Catch regulation
• Ecolabels
• Stock rehabilitation
program
SI2 Habitat loss/degradation
R2 MPAs by
•
•
•
•
Sand beach
Sea grass/weed beds
Tidal flat
Coral reefs
•
•
•
•
International MPAs
National parks
Voluntary MPAs
Nature restoration
projects
SI3 Material cycling
• Red tide, blue tide
• Imposex of snails
SI4 Genetic pollution
• Salmonids
R3 Env. regulations
• Env. Impact Assess.
• BOD emissions
• TBT regulation
36
日本の海岸線
35,000
海岸延長(km)
30,000
25,000
20,000
15,000
人工海岸
半自然海岸
自然海岸
10,000
5,000
0
1978
1984
年
1998
37
滋賀県西の湖の外来種優占
ブルーギル
オオクチバス
アメリカザリガニ
カムルチー
オイカワ
テナガエビ
ウナギ
スジエビ
Carassius cuvieri
ゲンゴウロウブナ
ニゴロブナ
Carassius auratus grandoculis
Catch in weight by set net.
Source: Shiga Prefectural Fisheries Station Report, 199638
石西礁湖のサンゴ被度
39
Catch statistics
in Tokyo Bay

Main target species
have been replaced
from decade to
decade.
40
SI2: Reduction of natural coast
estuary
artificial
Draft by 堀正和氏、JWRC/MoE
Natural
Seminatural
41
SI2: Reduction of sea grass/weed bed
in Seto Inland Sea
42
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests20/index.html
SI1: trend in catch and stock of Red Sea
Bream and Japanese sardine
Harvest rate
Harvest rate
Harvest rate
Stock (1000 tons)
Stock (1000 tons)
Harvest rate
Stock (1000 tons)
Stock (1000 tons)
Caatch (1000 tons)
Catch of wild larvae
Seed release
No. indivuduals (10,000)
Catch
TAC,ABC,Catch(10000tons)
Red Sea Bream (West Sea of
Japan/Southeast China Sea)
80
Japanese sardine (Pacific stock)
マイワシ
Japanese sardine
(total)
ABC
TAC
Catch
70
60
50
40
30
20
10
0
43
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
Outline
海の恵み(生態系サービス)
 世界の漁業の現状
 日本の漁業の現状
 マサバ資源管理の失敗
 日本の海域の生物多様性総合評価案
 環境に優しい漁業を目指せ

44
www.nilim.go.jp/lab/dbg/pdf/200806_fac.pdf
要引用許可
SI2: Trend and volume of suspended load
>1m increase
>1m decrease
105 m3
104 m3
103 m3
45
SI3: Imposex of Babylonia japonica by
TBT/TPT (Horiguchi et al 2006 Env Health Pers)
Fecundity (g) of cultured B. japonica
Release of B. japonica juveniles (105 ind.)
Catch (tons)
Babylonia japonica
Horiguchi, T., Kojima, M., Hamada, F., Kajikawa, A., Shiraishi, H., Morita, M., Shimizu,
M.: Impact of tributyltin and triphenyltin on ivory shell (Babylonia japonica) populations.
Environ. Health Perspectives 114: 13-19, 2006.
46
DP3: PCDDs, PCDFs and Co-PCBs in Tokyo Bay:
Sources and Contribution,
47
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/9410.html
排日
他本
的の
経領
済海
水と
域
48
漁場の環境保全は漁業者の使命
漁業は、自然の恵みのごく一部を持続的に利
用しているだけ
 漁業は、漁業利益よりけた違いの漁場の自
然資産の賜物である

49
R1: Voluntary regulation of walleye pollock
 177
boats fished walleye pollock in 1995
 Decreased to 86 boats in 2004 (49% reduction)
– Compensation to retired fishers by Fisheries Organization
 Fishing
ban during Mar 20-end since 1995
 Fishing ban area expanded in 2005
Since 1995
Spawning
ground
Since
2005
50
Bottom trawling is totally prohibited in the coastal area
50
R1: The number of registered MSCs in the World and Japan
World
Japan
51
牧野光琢氏
R2: MPA Construction to protect
spawning/breeding area (by public expenses)
Phase1
Phase2
Phase3
Phase4
120
100
80
60
40
Temporal Fishing Ban(%)
(Sited
Kyoto Institute of Oceanic and Fishery Science HP)
20 from
MPA Construction (km2)
0
67 69 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99
年度
Fiscal Year
図2 京都府沖合海域における各施策の経年変化
52
Arctoscopus japonicus
Mgmt actors:
Local fishermen,
Local research station, etc.
 Mgmt Method:
-Complete ban of fishing for
three years (Sep. ’92 –
Aug. ’97)
-Minimum size limit
-Annual catch limit
-Gear, ground and season limit
-Restoration of breeding
ground
-Fish seeds release
-pooling system of fishery
income
Mapmap Ver.6.0
Catch (tons)
R2:Sandfish fishery managmt at Akita Pref.
www.pref.akita.jp
53
平均寿命、平均カロリー摂取量、穀
物依存度の関係
平均寿命(年) 摂取熱量 穀物依存
(kcal/日人)
度
男
女
米国
72.0
スウェーデン 75.3
76.6
日本
69.1
中国
78.9
80.8
83.0
72.4
3732
2972
2903
2727
21.7%
21.1%
39.7%
69.7%
(Source: Britannica 国際年鑑
1997)
54
http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/68722f52048ec3a33bf6621ff0926f47
×
[朝日社説] 魚と生態系―海を空っぽにするな
(2008年9月14日抜粋)




各国は海洋法条約にもとづき、200カイリ水域で魚種ごとに
漁獲枠を設定。ところが、(日本では)大半の魚種で許容量を
超える漁獲枠が慢性的に設定。政府が乱獲を容認する。
漁船ごとに漁獲枠を:今の制度は総量だけを規制。早い者
勝ちなので小さな魚までとってしまう。 主要漁業国では日本
だけ。ノルウェー政府は漁船ごとにあらかじめ漁獲枠を割り
振る制度を導入。さらに漁獲枠を売買できる制度に注目。
漁業者が自ら禁漁区を設けたり、減船したりする自主管理型
漁業。北海道・知床では、ユネスコの審査にあたって、「生態
系を守るための持続可能な漁業」と評価された。
新たな日本型モデルを:内外の好例を生かす知恵をしぼり、
日本が新たな近海漁業のモデルを築き、同じように多様な魚
種を抱えるアジア太平洋地域で先導役を担うこともできる。55
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2008/081114NIE.ppt
結論 環境に優しい漁業を目指せ






日本の漁業の三重苦 「乱獲」「買い負け」「原油高」
沖合・多国籍漁業では技術革新と新陳代謝を促し、
未利用変動資源を利用できる技術と市場の工夫
沿岸漁業の多面的機能の評価を
箱物重視から資源管理重視の公共政策へ
漁業者、流通加工業者、消費者、環境団体の連携
2007.7.24 NHK
クローズアップ現代
56