http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2012/121125TCC.pdf 海が死ぬというのは本当なのか 松田裕之(横浜国立大学) 水産資源・海域環境保全研究会会長 1 持続可能性の原点は水産学 • 最大持続収獲量(MSY)理論(Russell 1931) • 生態系の特徴は不確実、非定常、複雑 – 資源評価誤差、自然変動、種間相互作用 • MSY理論はこれらを無視した絵に描いた餅 (Hilborn 2002, Matsuda & Abrams 2008) dN/dt = r(1 – N/K)N – C 右辺=0が実数解をもつのは C≦Kr/4のとき(等号がMSY) – 完全情報、定常状態、 単一種モデル 2 http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku2007/0707-4.html NHKクローズアップ現代「魚が消える? 環境にやさしい漁業をめざせ」 2007年7月23日(月)放送 6月、ワシントン条約締約国会議で、欧州ウナ ギに関する規制が採択された。背景には、・・・ このまま乱獲が続けば、2048年までに天然 の漁業資源がなくなるという指摘もされている。 魚消費大国である日本にとっても重要な問題 である。今後、海の生態系を乱さず、水産資源 を保護していくためにはどうすべきか、徹底的 な漁業量の規制によって漁獲量を回復させた ノルウェーの先進的な取り組みなどを取材し、 持続可能な漁業を目指すための課題を考える。 (スタジオゲスト:松田裕之) 3 R. A. Myers & B. Worm(2003)のマグロ激減説 Rapid worldwide depletion of predatory fish communities Boris Worm Nature 423:280-283 (2003) 故Ransom Myers 4 延縄漁業 資源量 CPUE が9割減少 R. A. Myers & B. Worm (2003) Nature “Rapid worldwide depletion of large predatory fish communities” …We conclude that declines of large predators that initially occurred in coastal regions, have extended throughout the global ocean, with potentially large consequences on ecosystems. 5 マグロ激減説の提唱者、故Ransom Myersは Fortune誌の2005年世界十大人物に選ばれた http://as01.ucis.dal.ca/ramweb/ 6 絶滅危惧生物の判定基準 IUCN(2001) 松田「環境生態学序説」 基準 A2,3,4個 体 数 減少率が A1( 管 理 下 ) B1生 息 域 が B2分 布 域 が C (C1減 り 続 け た )個 体 数 が D1 個 体 数 が D2 生 息 域 が E 絶滅の恐れ が CR >80%/10年 3世 代 EN >50%/10年 3世 代 VU >30%/10年 3世 代 >90%/10 年 3 世 代 >70%/10 年 3 世 代 >50%/10 年 3 世 代 <500km2 <5000km2 <2500(20%/5年 2世 代の減少) <250 (規定無し) 20年 か 5世 代 後 (100 年 以 内 ) に 20% <2000km2 <20000km2 <10000(10%/10年 3 世代の減少) <1000 近 縁 種 の <10% 100年 後 に 10% <10km2 <100km2 <250(25%/3年 1世 代の減少) <50 (規定無し) 10年 か 3世 代 後 (100 年 以 内 ) に 50% [1] http://iucn.org/themes/ssc/siteindx.htm どれか一つを満たせばよい(根拠の明示) 7 G. Mace et al. 1992: Species 19:16. • (基準Aの有効性):これは個体数が非常に多く、明ら かに安全な種も掲載できてしまうだろう (The validity of criterion A:) “it can result in the listing of some species with very large, apparently secure populations”. (第1種の過誤Type-I error) • しかし[減少率に加え]個体数を掲載の要件とすれば情報 の少ない多くの種を掲載できなくなる“However, linking [the rates of decline] to population size would exclude the listing of many populations with limited census data.” (第2種の過誤Type-II error) 8 ミナミマグロは絶滅寸前(CR)か? Estimated population size (×1000) Even under mismanagement, SBT will not go extinct within 50 years. G. Mace “I cannot disagree that the tuna is very unlikely to go extinct in the next three generations, however it does qualify under criterion A” (email to me on July 11, 1996) 100,000 推 定 10,000 親 魚 1,000 尾 数 100 ( 千 尾 10 ) 1 1970 1990 2010 2030 2050 2070 西暦年 (Matsuda et al. 1996) ミナミマグロは回復するか? 2020年までに1980年水準に回復するのは困難 100,000 推 10,000 定 親 魚 1,000 尾 数 100 ( 千 尾 10 ) 1 1970 1990 2010 2030 2050 2070 西暦年 Mori et al. (2001) Res. Pop. Ecol. 10 Natureに掲載されたIUCNの絶滅危 惧種判定への批判 (Mrosovsky 1997 Nature 389:436. ) • 1996年にIUCNが海産動物の絶滅危惧種を定めた後,1996年の IUCN総会で海産動物の絶滅危惧種を承認した際には,差止請 求(caveat)があったことが明記され,判定基準の見直し作 業を進めることが決議された.翌年上記の意見がNatureに掲 載され、「IUCNは種の保全状態(の判定)に関する世界的権 威である.したがって,その勧告は妥当で開かれた科学に基 づくことがたいせつである.最近起きていることは,必ずし もそれを満たしていないことを示唆している」という小見出 しが載ったことは,IUCNのその後の改訂作業にとっても無視 できない事態であった. Stock decline of ABT 大西洋クロマグロの資源量の減少 ICCAT 2010 Bluefin tuna stock assessment session 産卵親魚量SSB (thousand ton) 2010年CITES後 1,000 60 800 50 資 源 40600 量 ( 30 万 400 ト 20 ン ) 10200 0 Western ABT 西大西洋系群 350 300 250 200 150 100 50 2010年CITES前 0 FAO (2009) Fisheries & Aquaculture Report 925 1996年IUCN総会で 絶滅危惧種指定(IUCN/CR) Eastern ABT 東大西洋系群 0 Fig. 50 Retrospective trends of spawning biomass from the West BFT base case. The legend indicates the39number of years removed the 2010 base run. Figure ASAP spawning stock biomassfrom estimates. 12 同じ著者が前提を変えて両極端の真逆の論文を・・・ Rebuilding Global Fisheries (Worm et al. 2009) Boris Worm 13 (2008.10 世界水産学会議 横浜) MARINE ECOSYSTEM SERVICES AND FISHING: AGREEMENTS AND DISAGREEMENTS BETWEEN FISHERIES SCIENTISTS AND ECOLOGISTS by Meryl J Williams BorisWorm RansomMyers (CoML-Steering Committee) 5th World Fisheries Congress, Yokohama, 2008 Meryl Williams CoML F-MAP Meeting, June 2006, Reykjavik Photo by H. Matsuda Conclusion • Studies do not support key conclusions (Myers 2003, Worms 2006) • Myers, Worm and colleagues produced clear and compelling narratives. • Narratives .. are a way of dealing with .. uncertainty and ambiguity .. • Narratives .. transform a chaotic reality into an ordered and comprehensible sequence of events. 14 環境問題≠実証科学 • リスク評価に用いる前提の多くは未実証 – 実証を待っていては遅すぎる(予防原則) – 前提を変えれば結論が変わる! • レギュラトリ科学=社会の約束事を決める科学 • 科学者はNarrativeになれ?! – ◎専門家以外にもわかる言葉で語れ – ×不確実な極論を扇動する – 不都合な真実は双方にある – 結論を決め付けないこと – 政治的「正義」が科学的に妥当とは限らない 15 鯨類乱獲の歴史 南氷洋における鯨類の捕獲量の推移 捕獲頭数 50000 40000 30000 20000 マッコウ ナガス 10000 ニタリ シロナガス ザトウ 0 1931/32 Ref: 41/42 51/52 61/62 71/72 年 ミンク 81/82 91/92 森光代作図 16 鯨類の摂食量と漁獲量 17 謬説:クジラ害獣論 Fallacy of whale-fishery competition as reason for culling whales • 鯨はカタクチイワシ、中深層性ハダカイワシな どを大量に摂食 • 必ずしも漁業とは競合しない • 大昔より鯨類全体としては減っている • たくさんいるミンク鯨 を食べよう! 資料:日本鯨類研究所 file: Institute for Cetacean Research 18 WWFジャパンの対話宣言 新たな一歩を踏み出すとき(2002.4会報) クジラをめぐる問題は、今も混迷を極めています。 対立する利害関係や、心情的なもつれなども加わっ て、事はいっそう複雑です。しかし、もうそろそろ、 解決に向かう新たな一歩が踏み出されるべきです。 WWFは、50カ国に及ぶ国際団体であり、クジラ に関しても、国によってさまざまな意見があります。 これまで、商業捕鯨をなくしていこうとする意見が より強く反映されてきました。それは、乱獲による クジラ類の激減をくい止める大きな力になりました。 しかし、乱獲の最大の理由であった鯨油の需要がな くなった今、WWFもまた、次の一歩を踏み出すと きに来ているといえます。(後略) http://www.wwf.or.jp/marine/kujira/index.htm 19 多くの魚種はすでに獲りすぎ? Percentage of major marine fish resources in various phases of fishery development 海洋生物多様性保全戦略 環境省favor/favor03.html http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/circular/c920/c920-1.htm 20 Catch of pelagic fish has still been increasing anchoveta sardine chub mackerel Atlantic herring http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/sofia/fig4e.asp 21 We can use >2 million tons of pelagic fishes sustainably in Japanese EEZ. • 魚が消えるって?サンマは余っている! 22 Source: Fisheries Research Agency, Japan 浮魚類の魚種交替 23 水産業は持続可能に増産可能 • 低栄養段階の資源を利用する – サンマは毎週食べてよい(生産調整) • できるだけ人間が直接食べる • 減った資源は保護する – 選択的漁獲技術の開発改良 • その時に豊富な資源を利用する(魚種交替) • 漁獲量変動に耐える – 市場、消費者、加工利用のInnovationが必要 24 毎年進んだマイワシの高齢化 http://abchan.job.affrc.go.jp/digests15/details/1503.pdf 25 マイワシの世紀末の真相 • 乱獲なら高齢魚からいなくなり、漁獲物が小 型化する • 加入の失敗による高齢化社会 • 加入失敗は環境汚染・生息地破壊ではない (貝類) • 有史以前からの自然変動 • 1990年代後半からさらに減り続けたのは乱 獲だろう 26 減ったマイワシとマサバを 激減させた日本の水産行政 80 サンマ ABC,TAC,漁獲量(万トン) TAC,ABC,漁獲量(万トン) 70 60 50 40 30 20 10 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 サバ 100 70 90 60 80 70 50 60 40 50 40 30 30 20 20 10 10 0 0 0 マイワシ 80 ABC,TAC,漁獲量(万トン) TAC,ABC,漁獲量(万トン) T A C ,A B C ,漁獲量(万トン) • サンマとマイワシ のABC, TAC, 漁獲 量 1997 1999 2001 2003 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 27 問題 死因日米比較 • 日本人の死因第1位はガン(悪性新生物)。 では米国人は? – ①悪性新生物 – ②心疾患 – ③脳血管疾患 • 米国1997年の統計(厚労省人口動態統計。平成14年版による) 28 益永研張瑛 Per Capita Fish Consumption and Average lifetime in the World Average Life Span (Year) 85 Austria Germany 80 75 Sweden USA Argentina France Japan Spain Norway Malaysia China 70 65 Iran Pakistan Austria Philippines Russia 60 0 10 20 30 40 50 60 Daily Fish Consumption by an Individual (g/d) 29 Data Source: FAOSTAT (2003), WHO (2006) 70 益永研張瑛 PUFA/MeHg Concentration Zhang, Nakai, Masunaga(2009)J Food Composition Analysis EPA&DHA, mg/g 60 Bluefin Tuna Mackerel Southern Bluefin 50 40 Salmon Saury Yellowtail Whales? Pilchard Trout 30 20 Other Tuna 10 Shark SeaBream Swordfish Bigeye Tuna Blue Marlin 0 0 0.1 0.2 30 PUFA=n-3 polyunsaturated fatty acids 0.3 0.4 MeHg, μg/g 0.5 0.6 0.7 乱獲された魚を食べぬよう 薦める運動と寿司の流行 • Clover (2004)”The end of the line: How overfishing is changing the world and what we eat” (邦訳:岩波書店) • Seafood choices • 米国生態学大学院生の半数?は菜食主 義 • 肉食→鯨食批判→ 家畜食・魚食批判= 菜食 • 他方で寿司屋の爆発的流行 12/6/06 31 http://www.seafoodchoices.org/ 31 結論 • • • • • 科学の基本は実証科学! 門外漢にもわかりやすく語る努力を 環境政策提言は概ねレギュラトリ科学 実証されたこととそうでない懸念を区別する 「不都合な真実」は双方にある。結論やPolicy だけで科学(者)を評価しない • 学説の寿命を考える(廃れる学説もある) • 論理的一貫性、実現可能性を重視する • 自分の専門分野を「押し売り」しないこと Thank you for invitation and attention 32 http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2012/121125TCC.pdf 著書・訳書紹介 33
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