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シンポジウム「グローバル化する知的財産紛争」
外国知的財産権の我国における侵害
~知的財産法の国際的適用関係の規律構造~
2005.9.16
立教大学教授
早川吉尚
1.はじめに
<本報告の目的>
・「外国知的財産権の我国における侵害」
の問題につき我国の現状を概観
・知的財産法の国際的適用関係の規律
構造に関して我々が直面している問題
を明らかにする
2.知的財産法と国際私法・
国際民事手続法の従来の関係
国際私法=国際的な事案に関して何れの
国の実体法が適用されるかを決する法
国際民事手続法=国際的な紛争の解決手
続を何れの国で行うか、我国で行うとして
外国に被告や証拠が所在するという特殊
性につき、どのように手続的に対処する
かといった事項を規律する法
2.知的財産法と国際私法・
国際民事手続法の従来の関係
ex. 外国企業との間の契約紛争
国際民事訴訟法上の問題
=国際裁判管轄
=明文規定はないが最高裁が「国
内裁判管轄の規定にあてはまる場
合には特段の事情がない限り国際
裁判管轄あり」という基準
2.知的財産法と国際私法・
国際民事手続法の従来の関係
ex. 外国企業との間の契約紛争
国際私法上の問題
=契約準拠法
=法例7条
1 法律行為ノ成立及ヒ効力ニ付テハ当事者ノ意思ニ従ヒ其何レノ国ノ法
律ニ依ルヘキカヲ定ム
2 当事者ノ意思カ分明ナラサルトキハ行為地法ニ依ル
契約関連事項は、当事者が準拠法につき
合意していたらその国の法を適用
2.知的財産法と国際私法・
国際民事手続法の従来の関係
<知的財産法との従来の関係>
国際私法・国際民事手続法上の問
題が現実の紛争としてほとんど発
生してこなかった
2.知的財産法と国際私法・
国際民事手続法の従来の関係
<現実の紛争が発生しなかった理由>
知的財産法の領域の実務慣行
=A国の知的財産権についてはA国を法
廷地としてA国法に従って解決
=B国の知的財産権についてはB国を
法廷地としてB国法に従って解決
2.知的財産法と国際私法・
国際民事手続法の従来の関係
<知的財産法との従来の関係>
両者には関係がない
or
国際私法・国際民事手続法による
規律の必要がない
3.カードリーダー事件の衝撃
<カードリーダー事件>
外国特許権の侵害に基づく訴訟が
我国で初めて本格的に提起
3.カードリーダー事件の衝撃
<カードリーダー事件>
Xは、米国において「FM信号復調装置」
なる名称の米国特許権を有していた。
Yは、当該発明の技術的範囲に属する
カードリーダーなる製品を我国で製造し
て米国に輸出し、100パーセント子会社
である米国法人を使い米国でこれを輸
入し販売していた。
3.カードリーダー事件の衝撃
<カードリーダー事件>
①米国に輸出する目的での我国での製
造や当該製品の米国への輸出等の差
止、及び、我国において占有する当該
製品の廃棄、
②不法行為に基づく損害賠償等を求め
て、
XがYを東京地裁に訴訟を提起
3.カードリーダー事件の衝撃
<カードリーダー事件における
国際裁判管轄に関する判断>
外国特許の侵害訴訟の国際裁判管
轄を、一審から最高裁まで一貫と
して肯定
3.カードリーダー事件の衝撃
<カードリーダー事件における
実体法の適用関係に関する判断>
差止・廃棄請求に関する東京高裁と最
高裁の判断が好対照
3.カードリーダー事件の衝撃
<東京高裁>
国際私法による準拠法選択の必要なし
<最高裁>
国際私法による準拠法選択の必要あり
4.知的財産法の国際的適用関係の
規律に関する二つの理論的可能性
<法の国際的適用関係の規律手法>
独占禁止法、証券取引法、行政法等では、
「国際私法」とは異なる規律手法
=A国はA国法を適用するのが前提
=かつては属地主義、近時は域外適用
4.知的財産法の国際的適用関係の
規律に関する二つの理論的可能性
<私法分野=法律関係からのアプローチ>
国際私法による規律
=当該問題に適用されるのは
どの国の法か?
<公法分野=法規からのアプローチ>
当該法はいかなる地理的範囲まで
適用する意思なのか?
4.知的財産法の国際的適用関係の
規律に関する二つの理論的可能性
<私法分野=法律関係からのアプローチ>
実質法規の地理的適用範囲に関する意思は
無視して、国際私法が適用範囲を再設定
<公法分野=法規からのアプローチ>
実質法規の地理的適用範囲に関する意思こ
そが決定的に重要
4.知的財産法の国際的適用関係の
規律に関する二つの理論的可能性
<東京高裁判決と最高裁判決>
東京高裁
=法規からのアプローチを暗黙の前提
最高裁
=法律関係からのアプローチ?
4.知的財産法の国際的適用関係の
規律に関する二つの理論的可能性
<最高裁判決の内部の論理の混乱>
・準拠法決定の前の段階において既に当該請
求が「米国特許法により付与された権利に基
づく請求」と断じてしまっている
・法律関係からのアプローチからは本来無視さ
れるはずの実質法規の地理的適用範囲に関
する意思を問題視している
4.知的財産法の国際的適用関係の
規律に関する二つの理論的可能性
<最高裁判決の一つの評価>
外形的には法律関係からのアプローチの
ようにみえるが、
実質的な思考方法は法規からのアプロー
チに類似
4.知的財産法の国際的適用関係の
規律に関する二つの理論的可能性
<カードリーダー事件の意味>
知的財産法につき、二つの規律手法のい
ずれがあり得べき手法なのか、むしろ混
乱を露呈
5.おわりに
<知的財産訴訟の国際裁判管轄>
外国特許侵害=サンゴ砂事件
外国著作権=円谷プロ事件
A国の知的財産はA国を法廷地という実
務慣行の崩壊
5.おわりに
<知的財産法の国際的適用関係の規律>
法律関係からのアプローチ?
法規からのアプローチ?
知的財産権といえども様々な権利・法的問題が
ある以上、それぞれに応じた検討
5.おわりに
<知的財産法の国際的適用関係の規律>
法律関係からのアプローチでも
「登録地法」を領域ごとに適用
法規からのアプローチでも
属地主義の絶対的墨守
結論は実質的には変わらない
5.おわりに
<知的財産法の国際的適用関係の規律>
現代における知的財産権保護
=属地主義を絶対視すべきか?
ex. 知的財産侵害物品の流入
水際規制を超えて、海外での製造まで
サンクションを加える必要が生じたら?
5.おわりに
<知的財産法の国際的適用関係の規律>
現代における知的財産権保護
=属地主義を絶対視すべきか?
ex. 職務発明
発明者へのインセンティブは自国領域内での
独占利益のみに限定されるべきか?
5.おわりに
<知的財産法の国際的適用関係の規律>
知的財産法の国際的適用関係の規律構造の
解明がこれからの課題
知的財産権といえども様々な権利・法的問題が
ある以上、それぞれに応じた検討
国際私法研究者と知的財産法の研究者・実務
家との対話の重要性
シンポジウム「グローバル化する知的財産紛争」
外国知的財産権の我国における侵害
~知的財産法の国際的適用関係の規律構造~
2005.9.16
立教大学教授
早川吉尚