公衆衛生レクチャーシリーズ 4 疫学概論 (社)地域医療振興協会 柳川洋 主な内容 1.疫学とは 2.疫学指標 (1) 基本的な指標 罹患率、有病率、死亡率、致命率 (2) 比較のための指標 相対危険、寄与危険 [疫学概論] 疫学とは Epidemiology 特定の人口集団における健康障害の頻度と分布に影 響を及ぼす要因を明らかにして、健康障害の予防、健 康増進をはかる科学 1.分布 時間、場所、人の属性(性、年齢、職業) 2.要因 宿主要因(遺伝、人種、体格、身体活動、精神) 環境要因(社会生活、居住、食生活、気象) 病因要因(生物的、物理的、化学的) 疫学指標 疫学研究に用いるものさし 疾病量を客観的なものさしで測定 比較できる共通のものさし(相互比較性) ものさしには長所と短所がある 目的によって異なったものさしを使う 簡単に測定できるものさしが必要 ものさしの種類 基本的なものさし 比較のためのものさし ものさしのことを「疫学指標」という 疫学指標の分類 基本的な指標 罹患率 (Incidence rate) 有病率 (Prevalence rate) 死亡率 (Mortality rate) 致命率 (Fatality rate) 比較のための指標 相対危険 (Relative risk) 寄与危険 (Attributable risk) 罹 患 率 定義 観察集団内の各個人が単位観察期間内に病気にかかる 危険の大きさを示す指標 分子:期間内の新発生患者数(人数) 分母:対象者の延べ観察期間 (人年、人日などの時間単位) 除外:すでに対象疾患に罹っている者は除外 観察期間内の新発生 I= 対象者が病気に罹りうる期間の合計 (単位期間を明示:10万人年対,100人年対・・・) 1年単位で観察する場合は、その集団の年間平均人口を 分母として扱う 人口動態統計、各種疾病統計では、簡略化して「人口10 万対」という表現を用いることが多い 罹患率の特徴 直接発生の危険を示す(最も重要な指標) 相互の比較が困難 新発生をもれなく把握することが困難 診断基準の変化 診断技術の変化 有 病 率 定義 断面(1時点)において、観察集団 内の個人のうち病気にかかっている者の割合 分子:そのときの患者数(人数) 分母:そのときの観察人口(人数) 除外:病気に罹っている者も罹っていない者を 含む(除外しない) そのとき病気に罹っている者 P= 観察対象者全員 (単位人口を明示:10万人対,100人対・・・) 有病率の特徴 病気の発生頻度とは必ずしも併行しない 影響因子:有病期間、致命率、患者の流入・流出など 発病時期の不明確な疾患の頻度測定 (罹患率の代用) 例:糖尿病、精神疾患、高血圧 公衆衛生上の問題の大きさを測定 医療のニーズ測定、保健医療計画の作成 胎児期の先天異常の罹患率の測定 出生者のうち、先天異常ありの割合 罹患と有病の関係を示す模式図 ○○○ ○○○ ○○ ○ ○ 罹患(動態) 有病(静態) ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ○ ○○ ○○ 治癒 ○ ○○ ○○ 死亡 死 亡 率 定義 観察集団内の各個人が単位観察期間内に死亡する危険 の大きさを示す指標 分子:期間内の死亡数(人数) 分母:対象者の延べ観察期間(人年、人日など) 除外:対象疾患に罹っていても除外しない 観察期間内の死亡 M= 対象者の観察期間の合計 (単位期間を明示:10万人年対,100人年対・・) 1年単位で観察する場合は、その集団の年間平均人 口を分母として扱う 人口動態統計、各種疾病統計では、簡略化して「人口 10万対」という表現を用いることが多い 死亡率の特徴 資料は豊富 年次推移、地域間の比較が可能 相互の比較が容易 もれなく把握することは容易 疾病分類の変化(ICD-9 → ICD-10) 診断技術の変化 致 命 率 定義 目的とする疾患に罹ったもののうち、そ の病気で死亡する者の割合 分子:罹患後にその病気で死亡した者の数(人数) 分母:その病気に罹ったもの(人数) 罹患後にその病気で死亡 F= その病気にかかった者の合計 (単位を明示:1000人対,100人対・・・) 例 日本脳炎(致命率30%)、ラッサ熱(40%) 演習問題 2005年1年間に新たに結核患者として登録され た者は28319人、結核で死亡した者は2296人 であった。また、2005年年末現在登録されてい た結核患者数は23969人であった。2005年の 人口を12620万人として、以下の指標を計算せ よ。 罹患率= 死亡率= 有病率= 演習問題 1970年ナイジェリアで28人のラッサ熱患者が 発生し、 そのうち13人がその病気で死亡した。 また、1996年-97年にシエラレオネで599人の 患者が発生し、そのうち166人が死亡した。両 地域の致命率を計算せよ。 致命率(ナイジェリア)= 致命率(シエラレオネ)= 相対危険(率の比) 定義 目的とする因子(危険因子、抑制因子) の曝露を受けた集団と受けない集団の罹患率 (累積罹患率、死亡率)の比 – 分子:曝露を受けた集団の罹患率 – 分母:曝露を受けない集団の罹患率 曝露を受けた集団の罹患率 RR= 曝露を受けない集団の罹患率 相対危険の特徴 特徴 因子の作用する強さを表し、因果関係の追求に用いる 指標 例:喫煙者の非喫煙者に対する肺がん罹患率の危険 は5倍 コホート研究では直接計算可能 症例対照研究ではオッズ比から間接的に推定 相対危険の同義語 罹患(死亡)率の場合:率比、相対効果 累積罹患(死亡)率の場合:リスク比、相対危険 寄与危険(率の差) 定義 目的とする因子(危険因子、抑制因 子)の曝露を受けた集団と受けない集団の 罹患率(累積罹患率、死亡率)の差 単位を明記して記述する 例:喫煙者の罹患率は非喫煙者に比べて、 10万人年対150人多い 寄与危険の特徴 特徴 曝露によりどれだけ増えたか (問題の大きさを測定) 例:喫煙者の心疾患罹患率は10万人年対 500、非喫煙者では300 喫煙により10万人年対200人増加 相対危険と寄与危険の計算例 アスベスト曝露、喫煙の2変数の比較 アスベスト曝露 喫煙 なし あり なし あり なし なし あり あり 死亡率 10万対 11.3 58.4 122.6 601.6 相対危険 寄与危険 倍 10万対 1.0 5.2 10.9 53.2 0 47.1 111.3 590.3 演習問題 肺がん罹患率が、喫煙者の集団で人口10万人あたり 250、非喫煙者の集団では50であった。また、虚血性 心疾患の罹患率が喫煙者で750、非喫煙者で300で あった。喫煙の非喫煙に対する相対危険、寄与危険 を計算せよ。 相対危険 肺がん 虚血性心疾患 寄与危険
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