保険数理学特論ⅢA リスク理論1(第1回) オリエンテーション 保険数学と金融工学の関係 大阪大学大学院 金融保険教育研究センター 2015年4月13日 大塚忠義 1 Agenda オリエンテーション 本講義の目的と概要 講義計画 教科書と参考文献 第1回 保険数学と金融工学の関係 2 本講義の目的(1) 前期:Pricing:価格付け 後期:Valuation:(負債)評価 ・保険モデルの価値測定において不確 実性の評価が最大の要素 - 不確実性 価格の事後確定=製販逆転 長期性 3 本講義の目的(2) プライシングの実務を理解する ・保険モデルにおける収益性とリスクと資 本の関係を理解する ・伝統的な保険数学を役割と限界を知る ・保険数学と金融工学の関係を整理する リスクマネジメント論の数理編 4 本講義の目的(3) ・保険料計算基礎率の設定要件を学ぶ ・保険モデル上に内在する利益とリスクの 計測手法を学ぶ ・必要資本の概念を理解する ・保険に適用される経済価値の概念を学 ぶ ・プライシングアクチュアリーが身に付けるべき 知識の概要を知る ・アクチュアリー試験 生命保険1の範囲をある 程度意識 5 履修条件・受講条件 前提 保険に関する基本的な知識 確率論についての理解 保険数学に関する知識は前提としない 6 講義のゴール 保険におけるプライシングの本質を知る 本講義は実学である保険数理のうち「プラ イシング」の基礎 ・プライシング業務を行うための要件を理 解する 生命保険におけるプライシング ≠ファイナンスにおけるプライシング ・ファイナンスにおけるプライシングとの類 似と差異を理解する 7 評価方法 最終講義時に試験を実施します 講義時における議論への参加も評 価の対象とします 出席率も対象とします i.e. 本日と試験の出席だけはNG 8 講義資料 http://tyotsuka.cocolog-nifty.com/blog/ から各自事前にダウンロードしてください 9 教科書 なし 講義資料をもとにナビゲートします 資料はブログに掲示します 10 講義計画(1) 1. オリエンテーション(本講義の目的と概要)、 保険数学と金融工学の関係 2. リスクの概念、死亡率・事故発生率、保険 料原理 3. 生命表と死亡法則、金利と利息 4. 保険制度の基礎、公正保険料と純保険料 5. リスクと収益、利率の設定 6. リスクマージンと必要資本、経済価値に基 づくプライシング 7. 保険数理と会計 8. サブプライム危機、理解度の確認 11 第1回 保険数学と金融工学の関係 金融工学⊃保険数学 本章において金融工学:オプションプライス 類似点: ・リスクの移転のツール ・確率論の活用 保険とは? リスクとは? 12 保険数学と金融工学の相違点 ・理論創設からの期間 ・対象とする期間 ・対象とするリスク ・市場の存在 13 理論創設からの期間 ・1762年:近代生命保険会社、エクイタブル 生命(UK)設立から250年 年齢別の死亡率と利率を考慮した年齢別平 準保険料の算出 終身保険の提供 ・ブラック-ショールズ方程式発表(1973)から 40年 (発展の経緯は問わない) 14 アクチュアリーの職務(1) ・信頼できる生命表の作成 ・金利は数百年の単位で不変:金本位制 ⇒金を教会に預けると保管料は年5%(金 庫) ・計算はすべて手計算:コンピューター、電 卓のない時代 ⇒簡略計算手法の開発、金利表、基数表 15 アクチュアリーの職務(2) ・枯れた学問:職人技の世界、技術≠学問 競争力、収益性、リスク負担のバランスの判 断:アクチュアリーによる判断 ・経験がものをいう世界 ・理論により妥当性を証明できない ・数字には匂いがある ⇔ファイナンス理論をもとに理論化、体系化 の挑戦 16 アクチュアリーの職務(3) ・アクチュアリー誕生から250年 金利の自由化(1994年)から20年 ソルベンシーマージン比率導入(1996年)か ら18年 経済価値に基づく負債評価(IFRS-insurance contract (2004))から10年 金利の変動を所与のものとする保険数理論 は確立されていない 17 対象とする期間の相違 ・オプションは1か月~1年 ファイナンス理論は連続空間である時間t上 に展開:微積分可能な世界 ・生命保険は30年、終身 死亡率、事故発生率は年単位での調査 年単位の離散空間上で展開される理論 ルベーグ空間で定義しても離散への近似が ないと実務に活用できない 18 対象とするリスクの種類の相違(1) ・リスクの種類 純粋リスク 市場(価格)リスク 信用リスク ・純粋リスク:保険が伝統的に扱うリスク 経済的不利益・損失のみを発生させる。社 会全体でみても損失のみが発生する 19 対象とするリスクの種類の相違(2) 事故の発生確率(結果の期待値)をリスクと 称する • 死亡率 • 交通事故率 • 大地震の発生確率 二項分布、正規分布に相当程度従う 20 対象とするリスクの種類の相違(3) ・市場(価格)リスク、信用リスク :ファイナンスで扱うリスク 社会全体で見たら利益も損失も発生していない。個 人で見ると利益を生むが損もする(期待通りの利益 が得られない)ことや、損だけすることが含まれる ボラティリティ(統計上の分散・標準偏差)をリスクと 称する • 株式投資 • 新規事業・海外進出 • 公社債、融資引受 • 競馬・宝くじ 21 対象とするリスクの種類の相違(4) 無反省に正規分布(対数正規分布)を適用 してきたことの反省 極地に対する理論はまだ十分に確立できて いない 一度経験したらブラックスワンはブラックス ワンではなくなる 22 市場の存在 保険商品: 典型的な情報非対称商品 プライシングは供給者の論理のみによって 確立 需要サイドからの理論は存在するが実務に 対応できない:価格を導くことができない 価格に監督の強い規制が働く:価格弾力性 の欠如 ⇔企業は厳しい価格競争に晒されている 23 Question? 我々は、この世界で今後 どのような貢献ができる /貢献をするべきであろうか 24
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