科学者が見つけた「人を惹きつけ る」文章方程式~第11章「旅」~ 小山研究室 30216032 谷田竜一 発表の内容 ・第11章では「旅」にまつわる名文を紹介して、 その中にみられる技巧、技法を説明しています。 紹介されている名文は‥ 司馬遼太郎 『叡山への諸道 街道を行く16』 田山花袋 『東京の三十年』 鎌田浩毅 『火山はすごい』 『科学者が見つけた「人を惹きつける」 名文方程式』 の4つで、順に説明して行きます。 司馬遼太郎 『叡山への諸道 街道を行く16』朝日文庫 9㌻ ほっけだいえ 知人が法華大会をうけるという。 ほっけだいえ 法華大会とは平安のころからつづいている叡山(天台宗・延暦寺) の宗内だけの行事で、四年に一度おこなわれる。 りっしゃ 竪者(受験者)が津々浦々からあつまってきて山上の諸坊にとま もんなん り、延暦寺大講堂のおいて問難(試験官の質問)に応答する ・「知人」という書き出しが後に続く「法華大会」という宗派の 専門用語を身近に感じさせる。 ・あえて文を長くし、よくある短く無味乾燥なかんじの説明文 を避け、文章に艶を与えている。 ・ルビと注を本文を邪魔しない程度におき、読者の視線に立ち 親切に配慮している。 身近 / 艶 / 親切 田山花袋 『東京の三十年』岩波文庫 234~235㌻ 旅はどんなに私に生々としたもの、新しいもの、自由なもの、 まことなものを与えただろうか。旅に出さえすると、私はいつも 本当の私となった。 ・「生々としたもの」 「新しいもの」 「自由なもの」 「まことなもの」 と、連想可能な平易な言葉を使うことで、スムーズに旅に対する プラスのイメージを与えることができる。 ・「本当の私」という誰もが気になる事象をもちい、それが旅にで ることで実現されると結ぶことで、読者をその気にさせ「旅」への 興味を抱かせる。 平易 / その気 鎌田浩毅 『火山はすごい』PHP新書 47~49㌻ 阿蘇山を訪れた人は、外輪山の雄大な景色を見て感激する。 (中略)カルデラの北の外輪山にある大観峰は、その代表だ。 大観峰では、七十万年前に噴火した安山岩の溶岩が、切り立った 峰を作っている。 ここは明治時代の文豪の徳富蘇峰が、はじめて阿蘇山をみて、 感激してつけた地名である。彼は、あまりにも阿蘇山に魅せられた 結果自分の雅号を蘇峰(阿蘇の峰)と名づけたそうだ。 「文豪」 「徳富蘇峰」 「雅号」と、文系のひとにも興味のわく言葉 を使い読みやすくしている。 また徳富蘇峰をしらない人のために「明治時代の」という説明も 付け加えている。 文豪駆使 鎌田浩毅 『火山はすごい』PHP新書 47~49㌻ 阿蘇山を訪れた人は、外輪山の雄大な景色を見て感激する。 (中略)カルデラの北の外輪山にある大観峰は、その代表だ。 大観峰では、七十万年前に噴火した安山岩の溶岩が、切り立った 峰を作っている。 ここは明治時代の文豪の徳富蘇峰が、はじめて阿蘇山をみて、 感激してつけた地名である。彼は、あまりにも阿蘇山に魅せられた 結果自分の雅号を蘇峰(阿蘇の峰)と名づけたそうだ。 「雄大な景色」 「感激する」 「その代表だ」 「魅せられた」 これらの主観的な単語を連発し、その後著者は個人的な体験 を連綿と語ることで、読者の中で感動の枠組みを次第に作って いく。 そして最後に著者は 「この感覚は、ここにたちいった人でなければ 分からないだろう。」 としめくくり読者を旅に誘っている。 主観的単語 鎌田浩毅 『科学者が見つけた「人を惹きつける」名文方程式』 講談社+α新書 211㌻ その前にある文章もそうだ。「カルデラ北の外輪山のある大観峰」 と書いてある。ここで「カルデラ北の」は、まったく余計な文である。 カルデラとは、火山の作った大きな窪みで、阿蘇山は世界的に 有名なカルデラなのだ。何しろ東京都二三区が入ってしまうくらい 巨大な窪地だからである。それでも「カルデラの」が、読者にとって はまったくトリビアな情報であることには、変わりない。 著者、鎌田浩毅さんは、他の名文を説明する上で《「カルデラ北の」 は、まったく余計な文である。》といっている。 しかし、鎌田さんはついでにカルデラの説明までしてしまっている。 そしていつの間にか私たち読者にカルデラの知識を刷り込んでしま う。 そしてその刷り込みが「カルデラを見たい」という催眠を読者にかけ るのである。 催眠 まとめ • 「旅」に関連する名文は、「旅」の雰囲気や情 景を文章中にたくみに表現し、読者を本の中 の旅に引き込んでいる。 • 読者を文章に引き込ませるには、いかにして 読者を「その気」にさせるかが重要で、名文と 呼ばれる文はどれも、読者に催眠をかけ「そ の気」にさせてしまう。
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