平成17年度 商法Ⅰ 講義レジュメNo.06 スーパー・テナント関係に対する商法23 条の類推適用 最判平成7・11・30 民集49巻9号 2972頁、判時1557号136頁等 判例百選44~45p テキスト参照ページ:新商法講義 70~77p プライマリー 61~63p 1 事実の概要 • スーパーマーケットYのテナント「Aペットショップ」 からインコを購入したXは、インコがオウム病に感 染していたため、オウム病性肺炎に感染し、Xの 家族の中には死者も出た。 • AはYとの契約場所をはみ出し、階段にも商品を 陳列し、階段の壁には宣伝ビラを貼りだすなどし ていた。 • スーパーの屋上案内板には「ペットショップ」とだ け表示されAがテナントとして営業していた。 • XはYに対して名板貸人としての責任を追及する 2 損害賠償を請求した。 Yスーパーマーケット 内フ 容ロ ア の 賃 貸 借 契 約 が 主 た る テ ナ ン ト 契 約 購入したインコがオウム病 に感染していたために、家 族がオウム病性肺炎に罹っ た。自分はYから買ったと認 識していた。Aには債務不 履行(不完全履行)の責任 があるが、Yにも名板貸人 として連帯して損害賠償の 責任があるはずだ! ②商法23条:名板貸人の 責任(損害賠償請求) ①民法415条:損害賠償請求 インコを購入(売買契約) (XはYから買ったと認識していた) Aペットショップ X 3 原告Xの主張① Yは、店舗において、各階及び階上において販売 する各種商品を明示した案内板を掲示し、とくに 屋上にはプレイランド及びペット販売をしている旨 を、さらに全店の営業時間は午前10時から午後 7時までであることを表示して、被告店で販売する 商品は全て被告が販売するものとの印象を顧客 に与えている。 仮に、Yが、本件インコの売主ではなく、Aに店舗 の場所を賃貸しているだけであるとしても、本件イ ンコの売主であるAに、債務不履行の責任が生じ ることは明らかである。 4 原告Xの主張② そして、被告は、同一外観の営業店舗を各地に設 け、その商号である「Y」について営業上の信用や 名声を博しているものであるところ、Yのテナント であるAにその信用・名声を利用させ、その対価 を賃料名目で収受しているのであるから、Aに対 し、自己の商号利用行為について明示の許諾を 与えているものといえる。 また、商法23条に規定する「取引」には、商取引 はもちろんのこと、適法行為の外観をもつ不法行 為を包含する。XがAの販売行為をYの販売行為 と誤認し、本件インコを購入した結果、X及び家族 が侵害を受けたのであるから、Yは、表見的営業 主として、Xの蒙った損害を賠償する責任がある。 5 被告Yの主張 Yは、Y店の屋上の一角をAに賃貸していた が、Yの商号を使用して営業することを許諾 したことは一切ない。それどころか、Yは、A に対し、Y名義を掲げて営業することを厳禁 しており、実際の営業にあたっても、Yの営 業とAの営業が混同されないような配慮を 尽くしている。 商号使用の許諾、営業主体を混同させる外 観の存在のいずれも否認。 6 本件の争点 • 明示にも黙示にも商号使用の許諾という関 係がないにもかかわらず、スーパーマーケッ トのテナントと取引した相手方が自己の取引 相手をテナントではなく、スーパーマーケット であると誤認した場合に、商法23条が類推 適用されうるか? 商法23条の基礎にある外観(表見)法理と 消費者保護の重視 7 Xの誤認について 1 《証拠略》によれば、Xは、昭和58年2月7日の本 件インコ購入当時、単にYから本件インコを買った ものと考えており、AがYとは別の営業主体である という認識を欠いていたこと、Xらは、本件訴訟前、 もっぱらYに対して、Xらが同店から購入した本件イ ンコによりオウム病性肺炎に罹患したとして対応を 求めており、Yに対して本件損害賠償請求訴訟を 提起したのち、Yが本件インコを販売していないと 答弁して初めてYの表見的営業主としての責任原 因の主張を追加したことが認められ、以上の事実 によれば、Xが本件インコを購入した際、Yを営業 主と誤認していたことが認められる。 8 YとAとの関係について • YはAとの間で、同人が同店に出店してペット業を 営むため、出店及び店舗使用に関する契約(以下 「本件テナント契約」という)を締結した。 • テナント契約には次のような条項が含まれる – Aは、Y及び他の出店者と協調し、店舗の統一的営業 方針に基づきYの繁栄と信用保持に最善の努力をする ものとする – Aは、Y店内で営業を行うについて、その店名または屋 号を「山宮ペットコーナー」と称する – Aは、Yの名義またはAの名義以外の第三者の名称、 商号を使用・表示する行為をしてはならない 9 商法23条の法意 • 商法23条の法意は、第三者が名義貸与 者を真実の営業主であると誤認して、名義 貸与を受けた者との間で取引をなした場合 に、「自己の名称を使用して営業をなすこ とを許諾したこと」を帰責事由として、名義 貸与者(表見的営業主)に真実の営業主と 同様の責任を負わせ、もって、名義貸与者 が営業主であるとの外観を信頼した第三 者を保護し、取引の安全をはかることにあ る。 10 本件へのあてはめ • 本件事実関係のもとでは、Aの営業はあたかもYの 営業の中に組み込まれその一部となっているかの 如き外観を呈し、Yの店舗内で買物をするという意 識で来店する一般買物客からすると、特段の事情 のない限り、Aの営業をYの営業と誤認するのは、 むしろ避け難いところであると思料される。 • したがって、取引の安全を保護する見地からして、 本件においても、商号使用の許諾があった場合に 準じて、商法23条を類推適用し、Aの営業をYの 営業と区別するに足りる何らかの標識が備えられ ていない限り、Yについて名義貸人の責任を肯定 するのが相当であるというべきである。 11 YとAの営業を区別する標識の有無① • Y直営の売り場従業員は原則制服着用、Aは独自 のレジを設け、制服も包装紙も異なるものを使用。 レシートにはAの商号が印字されていた。 • 店内数か所の館内表示板には、各フロアー毎にY が販売する商品の種類が黒文字で、その右横にテ ナント名が青文字で表示され、また、各テナント部 分の前の天井からテナント名を書いた看板が吊り 下げられていた。 • Aはレシートの他には自己の商号を積極的に表示 することはしていなかった。 12 YとAの営業を区別する標識の有無② • Yの屋上では、Aがペットショップを営業していた他 は、Y直営の売場は存在しなかった。 • 屋上に上がる階段の登り口に設置された屋上案内 板には、「ペットショップ」と比較的大きな赤文字で 表示がなされていた。 • Aは、契約場所をはみ出し、階段踊り場や階段 ホール、屋上への出入り口外部などに、値札を付 けた商品を置き、また、契約場所以外の壁に「大売 り出し」と大書した紙を何枚も貼りつけるなどしてい たが、被告は、これを黙認していた。 • Y店舗内には直営ではあるが、レジが別で店員が Yの制服を着用しておらず、直営であることが一見 して明らかでない売場も存在した。 13 第1審と原審の評価 • 一般の顧客をして店内におけ • 営業主体の識別のために基本 るAの営業をYの営業と区別さ 的にして重要な事項である、テ ナント店の店名表示、Yの館内 せる標識としては十分ではな い。 表示、YとAの従業員の外観上 の識別、代金支払い方法の独 • のみならず、Yは、顧客に対す 自性、領収書の発行名義の明 る屋上案内板等にペットショッ 記、包装紙等の区別などにつ プがあることを積極的に表示し、 いて、総合勘案すれば、Yの直 さらに、Aが契約場所を大きく 営売場とテナント店の営業主 はみ出して営業するのを黙認 体の識別のための措置は一応 していたのであるから、Yには、 講じられていたということがで 営業主体を誤認させるような きる。 外観作出について、帰責事由 がある 23条類推適用を肯定 23条類推適用を否定14 本件判旨 • 原審が確定した事実は、買物客に対し、Aの営業があた かもYの営業の一部門であるかのような外観を与える事 実ということができる。 • レシート上の名称は、目立ちにくい上、買物客も大きな注 意を払わないのが一般であって、営業主体を区別する外 観としての意味はほとんどない。 • その他の事実も、これを個々的にみても、また総合してみ ても、買物客にとって、Aの売場の営業主体がYでないこと を外観上認識するに足りる事実ということはできない。 Yは、23の類推適用により、買物客とAとの取引に関して名板 貸人と同様の責任を負わなければならない。 15 本件判決の評価 • 本件事案は、典型的な名板貸しの事例では なく、商法23条の基礎にある外観法理に照 らし、AとYの資力(弁済能力)の差異から、 被害者である原告Xを救済するという観点 から23条の類推適用を認めたものと評価で きる。 • もっとも、被害者救済のためならどこまでも 類推の範囲を拡大することはできない。 • 本件では、社会通念に照らし、Yを営業主で あると誤認させる外観があったと言えるか否 かが問題である。 16 本判決の評価2 • 消費者保護を徹底するためには、消費者がテナン トとスーパーの営業主体の区別を認識していたと いう事実だけで、スーパーの責任を問えないという のは正当性に欠ける。 • スーパーはテナントからの賃料収入を確保するた めの手段を講じうる反面、テナントが消費者に損害 を与えないよう監督する社会的な責任を負うべき。 • 23条の類推適用の範囲を拡大しすぎないために も、スーパーがテナント店を含む全商品の安全性 を確保しているという消費者の信頼を保護する法 17 規制が求められているのではないか。
© Copyright 2024 ExpyDoc