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平成22年(ワ)第591号 MOX燃料使用差止請求事件
原
告
石
丸 ハ ツ ミ、外129名
被
告
九州電力株式会社
第八準備書面
2014(平成26)年3月10日
佐賀地方裁判所 民事部 合議2係 御中
原告ら訴訟代理人
弁護士 冠
木
克
彦
弁護士 武
村
二 三 夫
弁護士 大
橋
さ ゆ り
復代理人
弁護士
1
谷
次
郎
第1 平成26年1月22日付被告準備書面13に対する認否
1 第1、1(3頁から4頁)について
(1)第1段落は認否を要さない。
(2)第2段落、第3段落は認める。
(3)第4段落は不知(ただし、積極的に争う趣旨ではない)
。
(4)第5段落中、「FINEコードはウラン燃料の設計において十分な使用実
績がある。
」との点は不知。
「このFINEコードにMOX燃料の特性を適切
に取り込むことにより、MOX燃料についてもウラン燃料と同等に挙動を評
価することが可能であり、このことは原子力安全委員会によって妥当性が確
認されている【乙A2号証「原子力安全委員会指針集」955頁/軽水炉M
OX報告書「3.3熱・機械設計について」
】
。
」との点は、乙A2号証の95
5頁に同旨の記載があることは認めるが、FINEコードにMOX燃料の特
性を適切に取り込むことができているという点については争う。
2 第1、2について
(1)、(1)ないし(4)(4頁ないし47頁)は不知(ただし、積極的に争う
趣旨ではない)
。
(2)
、
(5)ないし(6)
(47頁ないし49頁)は不知。
(3)
、
(7)
(49頁)は争う。
3 第2について
(1)1については争う。詳細な反論を後記第2.1で行う。
(2)2について、第1段落は認否を要せず、第2段落は争う。詳細な反論を後
記第2.1で行う。
2
4 第3について
争う。詳細な反論を後記第2.2で行う。
第2 平成26年1月22日付被告準備書面13に対する反論
1 第2、1について
(1)被告の主張とその誤り
被告の主張は、同一ペレットないし同一仕様のペレットの場合密度変化率を求
めることはできるが、同一仕様とは限らないペレットの場合その密度変化率を求
めることはできない、とするものである。
被告のこの主張は極めて非論理的である。被告の表現を借りれば、要するに
①同一ペレットでみた場合の密度変化率、
②同一仕様のペレットでみた場合の密度変化率、
③同一仕様とは限らないペレットでみた場合の密度変化率、
がそれぞれ存在しうるだけのことである。同一ペレットや同一仕様のペレットな
らば密度変化率を求めることができるのに、同一仕様とは限らないペレットの場
合密度変化率は求められない、とする論理的根拠を被告は示していない。またそ
のような論理的根拠などありえない。
被告は、従前は、密度変化率を算定(出)するには同一ペレットの燃焼の前後
の密度の値が必要だとしていた(被告準備書面7p15(3) 被告準備書面9
p8、3(1)
)
。すなわち上記①とは、同一ペレットについて2度密度の値を測
定するものであり、この場合のみ密度変化率が算定(出)できるとしていたので
ある。
そののち被告は考え方を変えたようである。すなわち被告は、
「図3-3(2)
における各プロットが全て同一のペレット(ないし同一仕様のペレット)につい
てのデータであれば、
・・・
「密度変化率」を求めることができる」とした(被告
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準備書面13p51)
。図3-3(2)は同一のペレットについて 2 度密度の測
定をするものではない。被告は、上記②により、同一のペレットについて2度密
度の値を測定しなくても、それぞれの燃焼度の同一仕様の複数のペレットの密度
の値を統計的に処理して密度変化率を算出することを認めたことになる。
同一仕様のペレットの密度変化率をみた場合、その仕様の特性が密度変化率に
影響を与える可能性がある。被告も「ペレットの密度(体積)の変化の仕方は、
燃焼前(初期)の燃料ペレットの仕様・・・・によっても異なる」としている(被
告準備書面13p51)
。密度変化について二酸化ウランペレットと MOX との
相違を検討する場合、特定の仕様に限定しないほうが、その仕様の特性に影響さ
れずに、上記の相違を把握しやすいということも考えられる。また特定の仕様に
限定した場合サンプルが少なければ、統計処理にはなじまないことになる。
(2)被告の作成した輸入燃料体検査申請書の記述とその誤り
被告は輸入燃料体検査申請書において、MOX及び二酸化ウランペレットの照
射による密度変化を検討し、「焼きしまり挙動が飽和していると考えられる燃焼
後半では、両者のスエリング挙動(密度変化の右下がりの傾き)は同等であ」る
とし、「図3-3(2)に示すMIMAS法MOXペレットの照射データでも同
様であることが確認できる」とした上で、
「設計ではMOXペレットの焼きしま
り/スエリングについては二酸化ウランペレットと同じとする」とした(甲12
p1-12)。被告が考察した図3-3(2)は、密度測定の回数やペレットの
仕様の観点からすれば、上記の➂と同じということになる。
しかし、図3-3(2)から、上記の「MOXペレットの焼きしまり/スエリ
ングについては二酸化ウランペレットと同じ」、すなわち「燃焼後半の両者のス
エリング挙動(密度変化の右下がりの傾き)は同等」とは必ずしもいえないので
はないか。同図の白丸(UO2)と黒丸(MOX)の「傾き」には相違があるよう
にもみえるところである。原告は上記「「燃焼後半のスエリング挙動(密度変化
の右下がりの傾き)
」を「密度変化率」と定義して、統計的手法によりこれが同
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等ではないことを示したものである。その結果、上記輸入燃料体検査申請書の「M
OXペレットの焼きしまり/スエリングについては二酸化ウランペレットと同
じとする」設計は正しいとはいえないことが判明した。
被告は、本件原子炉についてギャップ再開はおきないこと、すなわち「燃料棒
の内圧は、通常運転時において被覆管の外向きのクリープ変形によりペレットと
被覆管のギャップが増加する圧力を超えないこと。」
(昭和 63 年5月 12 目 原子
力安全委員会了承)
(甲 11)を十分な証拠をもって証明しなければならない。被
告は、「MOXペレットの焼きしまり/スエリングについては二酸化ウランペレ
ットと同じとする」設計のもとにこの証明ができた、とするのであろう。しかし
すでに述べてきたようにこの前提となる設計は誤りである。従って被告は上記の
証明ができていないことになる。
(3)被告の主張の持つ意味
被告は、図3-3(2)をもとに MOX 及び二酸化ウランペレットのスエリン
グ挙動(密度変化の右下がりの傾き)は同等であるとした。しかしこれは視覚的、
直感的あるいは主観的な判断である。そこで原告は、これを密度変化率と定義し、
上記のスエリング挙動ないし傾きなるものを、統計的に、すなわち科学的客観的
に導き出したところ、これが同等ではなく、しかもこれは、運転末期の12.5
日前にギャップ再開が起こる可能性がある、という結論につながることを示した
(原告第6準備書面p13)
。
被告は、この原告の統計的、科学的処理について誤りを指摘できず、資料の問
題、すなわち、図3-3(2)のデータは、同一仕様ではないペレットを含んで
いることにクレームの口実を見つけた。しかしこのクレームの恣意性や誤りは明
らかである。被告が自らの主観的な主張を示すために用いた資料について、原告
が科学的に検証作業をしたところ、被告は原告がその資料を用いたこと自体をも
って非難しているのである。
被告は「統計データには当然「ばらつき」が伴うのであり、
(原告は)この「ば
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らつき」を何ら考慮していない」と非難する(被告準備書面13p51)。しか
し原告は上記の通り「運転末期の12.5日前にギャップ再開が起こる可能性が
ある」としているものであり何ら誤りではない。ことさらにばらつきを意識した
表現をすれば、この「12.5日前」は、もっと早くなる可能性もあり、もっと
遅くなる可能性もある、ということだが、これは上記の「運転末期の・・・・・
可能性がある」という表現に包含されている。
また被告は、
「原告らの主張は、図3-3(2)から読み取った「密度変化率」
について仕様も照射条件も同一とは限らない本件 MOX 燃料に適用するものであ
り、極めて不合理な立論である」と非難する(被告準備書面13p51)。原告
は、MOX ペレットの径変化について、設置変更許可申請書に示された玄海3号
機のデータを用いており、被告のいう仕様や照射条件などはこのデータに全て包
含されている(原告第6準備書面)
。被告の非難はあたらない。
2 第3について
被告は、
「原子力発電所の運転期間と、燃料棒内圧評価における燃料棒の運転期
間(サイクル)は、全く別の概念である」とする。なるほど概念としてはそのよ
うにもいえるかもしれない。
しかし現実の運転期間とはかけはなれた運転期間
(サ
イクル)をもって燃料棒内圧評価をしても何ら意味はない。実際には両者は極め
て近似したものになっている。「燃焼度」は「EFPH:Effective Full Power
Hour」と関係づけられている。EFPHは全出力で運転した時間なので、もし8
0%出力で運転すれば0.8を掛けた時間となり、とにかく運転時間としての意
味をもつ。玄海3号はたいてい全出力で運転しているので、EFPHはほぼ運転
時間に等しいと考えてよい。
被告は、
「本件MOX燃料の安全性は十分に確認されて」いるとして、運転期間
を短縮する考えがないことを示した。繰り返し指摘してきたように、被告はこの
ような安全性の確認はそもそもできていない。にもかかわらず、被告はギャップ
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再開の危険性に無感覚であることを身をもって示したのである。
第3 平成26年2月28日付裁判所求釈明、2(2)について
【求釈明事項】
2.原告らに対して
(2)
「低組成より代表組成の方が約1%内圧が上がり,その上がった同じ理由を代
表組成を基にして適用すると,より高組成になるとさらに内圧は上昇することにな
る」とする考えについて,図示するなどして,具体的に説明して下さい。
【回答】
回答としては、
低組成より代表組成の方が1%内圧が上がるという被告の説明を、
そのまま代表組成より高組成の方がという関係に置き換えるだけで済む内容なので、
まずは被告の説明内容を確認することから始めたい。
そのための前提として、プルトニウム組成の性質を再確認しておく必要がある。
1 プルトニウム組成について
右図で各棒の上側の数値が
組成(全プルトニウム中の核
分裂性と非核分裂性の各割
合)を表し、下側の数値はウ
ランを含めた全燃料中の各割
合
(富化度等)
を表している。
低組成の場合、核分裂性の
組成が64%と最も低くなる
ので、通常なら出力も低くな
ると考えたいところであるが、実際は別の要請、約4.1%濃縮度・ウラン燃料と同
7
等の出力にする、を置いているので、核分裂性プルトニウムの量を増やさざるを得
ない。そうすると必然的に非核分裂性も増え、結局は全プルトニウム量が最も多く
なる。つまり、低組成でプルトニウム量が増えるのは、出力をウラン燃料に合わせ
ている結果なのである。結局、実際の組成は、どの組成であってもウランと同等の
出力にするという要請をベースにして決まっている。それにもかかわらず、他方で
は、低組成で出力が抜群に高いかのように被告が主張する根拠は明確ではない。
それはともかく、中性子吸収性の高い非核分裂性プルトニウム量が、低組成では
全燃料の10.8-6.9=3.9%であるのに対し、代表組成では9.0-6.1=2.
9%と低い。高組成になると、5.5-4.5=1.0%とさらに格段に低くなること
が確認できる。
2 「低組成より代表組成の方が約1%内圧が上がる」ことについての被告の説明
約1%高くなることは、被告準備書面9の12頁の図2で示されている(次図)
。
ただし、文章での説明は準備書面9では「要因は熱中性子吸収性である」と一言書
かれているだけである(12頁下から8行目)
。詳しい説明は準備書面8の8頁で以
下のように記述されている。
「今回の評価において、低組成のプ
ルトニウムを利用した MOX 燃料の
燃料棒内圧評価値が代表組成のもの
よりも下回った主な要因は、低組成
のプルトニウムを利用した MOX 燃
料の方が「熱中性子吸収性 1」が高
いことにあると考えられる。
すなわち、ペレット内における熱
中性子吸収性はプルトニウム組成によって異なり、低組成のプルトニウムになるほ
ど熱中性子吸収性が高くなる。その結果、同一の出力履歴のもとにおいては、以下
8
のとおり、代表組成のプルトニウムを利用したMOX燃料に比べて、低組成のプル
トニウムを利用した MOX 燃料の燃料棒内圧の上昇が抑制されることとなる」
。
なぜ熱中性子吸収性が高いと内圧が低くなるかの理由は8頁でこの記述に続いて
①、②及び③で説明されている。要するに、非核分裂性プルトニウム量が増えると
ペレット外から飛んでくる熱中性子をペレット表面近くの非核分裂性プルトニウム
が吸収するので、ペレット中心部まで入り込む熱中性子量が減る。そうすると、中
心部での核分裂がそれだけ減少し、それだけ温度が上がらずに核分裂生成ガスの運
動エネルギーが減る(絶対温度は分子の運動エネルギーの統計的平均値だから)の
で、核分裂生成ガスのペレット外に出る量が減るのだという趣旨である。
これらの説明の中で肝心なのは、代表組成の方が低組成より内圧が約1%高まる
理由としては中性子吸収性だけしかなく、他の要因はいっさい顔を出していないこ
とである。この被告の説明を信じて、上記引用文において低組成を代表組成に置き
換え、代表組成を高組成に置き換えれば、前記組成の性質から、その趣旨がそのま
ま生かされることになる。つまり、代表組成より高組成の方が内圧が高まるという
結果が得られる。
もし何らかの理由で高組成の内圧が低くなるとしても、上記の趣旨が成り立つ範
囲では代表組成より高組成に近づく方が内圧は高くなるので、そのどこかに内圧の
ピークが出現することになる。その場合は、3つのパターンですべてが包絡される
ということにはならない。
以上
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