平成17年度 商法Ⅰ 講義レジュメNo.08 利息制限法違反による返還請 求権と消滅時効 最判昭55・1・24民集34巻1号61頁 テキスト参照ページ:新商法講義 189~190p プライマリー 126~127p 百選:106~107p 1 事実の概要1 • X:飲食店や遊技場を営む商人 • S.39.4.30:Xは、店舗購入資金として、Yから 下記のような約定で700万円を借り入れた – 元本:700万円 – 利息:月7分(7%)(毎月末払い) – 弁済期日:S.40.4.30 • Xは、最初の月利息49万円を天引きした 651万円を受領 • 翌月から毎月利息49万円を支払い、弁済期 日に元本分として700万円を支払った 2 事実の概要2 • S50.1.30(弁済期日から9年9ヵ月後):Xは、 支払った利息のうち、利息制限法違反部分 については、元本に充当され、その結果生じ た過払分(573万円あまり)を不当利得(民7 03)としてYに返還請求した。 • 一審は、Xの請求を全面的に認めた。 • Yは控訴審において、「Xの不当利得返還請 求権は、5年の消滅時効にかかる(522)」と 主張したが認められず、上告。 3 ①金銭消費貸借契約 X Y 1.元本700万円、利息月7分(7%) 2.XがYに返済した総額のうち、利息 制限法違反による過払い分:約574万円 ②不当利得返還請求(民703) Yに支払った利息のうち、利息制限法違反部分を元 本に充当した結果過払いとなる部分を返還せよ。 4 本件の争点・1 利息制限法に違反する利息を約定し、これを支 払った場合の法的効果 利息制限法1Ⅱ:債務者が任意に支払った制限超過 部分は、返還を請求することができない 最高裁判例:債務者が利息制限法の制限をこえて任 意に利息の支払いを継続し、その超過部分を元本に 充当すると、元本が完済となったとき、その後に支払 われた金額は、債務が存在しないのにその弁済とし て支払われたものにほかならず、不当利得としてその 返還を請求しうる 5 本件の争点・2 利息制限法違反による過払い分の不当利得返 還請求権の消滅時効期間は何年か? Xは商人であり、店舗購入資金として借入れをしてい るので、消費貸借契約自体はXの付属的商行為(50 3)として商法の規定が適用される(商事契約) 522:商事債権の消滅時効期間は5年(民事債権は 10年:民167Ⅰ) 最高裁判例:商事契約の解除による原状回復義務は 商法522条の商事債務としての性質を有する⇒消滅 時効期間は5年 では、不当利得返還請求権は? 6 本件判旨(争点2) • 522条が適用又は類推適用される債権は、商行 為に属する法律行為から生じたもの又はこれに準 ずるものでなければならない。 • 利息制限法所定の制限をこえて支払われた利息 についての不当利得返還請求権は、法律の規定 によって発生する債権であり、しかも、商事取引関 係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立 法趣旨からみて、商行為によって生じた債権に準 ずるものと解することもできない。 • その消滅時効期間は、民事上の一般債権として民 167Ⅰにより10年と解するのが相当である。 7 二名の裁判官の反対意見 ※問題は、商行為に属する契約の全部又は一部が無効で あるため、右契約上の義務の履行としてされた給付による 利得につき生ずる不当利得返還請求権を、時効期間の関 係で、商行為によって生じた債権に準ずべき債権と解す べきかどうかに帰着する。 • 商事契約の解除による原状回復義務は、522の商事債 務たる性質を有する(判例) • その趣旨は、契約解除による原状回復は、契約によって 生じた法律関係を清算するものとしていわばこれと裏腹を なすものであり、商事契約に基づく法律関係の早期終了 の要請は、その解除に伴う既発生事態の清算関係につい てもひとしく妥当するから。 8 二名の裁判官の反対意見 • 一般に、契約解除による原状回復は、契約上の 義務の履行としてされた財貨の移動につき、そ の後契約の解除によって、それが法律上の原因 を欠くこととなったため、これによる利得を相互に 返還せしめて契約の履行前の状態に復せしめよ うとするものであり、法律上の原因によらない利 得の返還という点においては、右の原状回復義 務は、本質的には不当利得返還義務にほかな らないということができるのである。 9 二名の裁判官の反対意見 • 不当利得返還の場合の中でも、契約上の義務の 履行としてされた給付が、右契約の無効等の理由 により法律上の原因を欠くこととなり、その給付に よる利得につき不当利得返還義務が生ずるような 場合は、契約の履行によって生じた関係を清算す るものである点において契約解除による原状回復 の場合と全く違いがない。 • このような場合の不当利得の返還は、契約解除に よる原状回復と同様、契約によって生じた法律関 係を清算するものであり、契約が商事契約である 場合には、清算関係についても早期終了の要請 10 がひとしく妥当するものということができる 二名の裁判官の反対意見 • 以上の理由から、本件不当利得返還請求権 は、商行為に属する法律行為から生じた債 権(生じ債権)ないしは、これに準ずるもので あり、消滅時効期間との関係では、商法522 条所定の消滅時効期間に服すると解するの が相当である。 • すなわち、弁済期日から5年経過したことに より、消滅時効が完成しており、Yがこれを援 用する以上、Xの請求は認められない。 11 商事債権と民事債権 A AはBに100万円を貸した。 この場合、AはBに100万円の貸金債権を 有する(貸金返還請求権)。 B Aが銀行(商人)で、業務としての融資だった or Bが商人で、営業資金としてAから借りた <商事債権> B(大学生)は親戚のおじさんA(サラリーマン)から 趣味のギターを買うためお金を借りた <民事債権> 12 522条の典型的適用場面 A ①Aは商人Bに営業資金として100万円を 貸した:Bにとっての付属的商行為となり、 Aが商人でなくてもAのBに対する貸金債権 は商事債権となる(3条1項) B ②Aは返済期日後5年間経過してもBに返 還を請求せず、Bから返済はなされていな い。 ③AのBに対する100万円の貸金債権の 消滅時効が完成:522条本文 13 522条の適用拡大場面 A ①Aは商人B(宝石商)から100万円の指輪 を購入した:Bにとっての商行為(BはAに対 B して100万円の債権を取得) ②AはBに100万円を支払ったが、その後、 売買契約を解除した:AはBに支払った100 万円の返還を請求できる(原状回復請求権) ③AのBに対する100万円の返還請求権 にも522条の規定が及ぶ(判例) 14 本判決の評価 • 判例は、不当利得返還請求権について は、民事債権の消滅時効によるという立 場に立つと言える(ただし、反対意見もあ るように即断はできない) • 契約の解除の場合の原状回復請求権と 不当利得返還請求権とで区別すること に合理性はあるか? 15
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