公共経済学(第7講 課税政策) 今日の講義の目的 (1)税の効果を理解することを通じて前回まで の議論を復習する (2)税の超過負担という考え方を理解する (3)税の転嫁のメカニズムを理解する (4)ラムゼイ・ルールの背後にあるメカニズム を理解する 公共経済学 第7講 1 課税三原則 (1)簡素 ~徴税コスト・納税コストを小さく。節税・脱税しにくい、わ かりやすくsimpleな税制。 (2)公正・公平 (3)中立 ~効率性←市場均衡が効率的。税でその効率性を乱さ ないように。 公共経済学 第7講 2 水平的公平性・垂直的公平性 水平的公平性~同じ所得、同じ担税力の人は同じ税。 水平的公平性に反する例 ・給与所得の補足率が他所得よりも高く実効税率が高い ・金融資産に対する税が不動産に対する税より軽い 垂直的公平性~より高所得の人はそれに応じた税負担 (例)相続税、累進所得税 高所得者がどの程度負担すべきかコンセンサスはない 比例税?累進課税?累進度はどの程度が公平か? 問題としては垂直的公平性しかないと考える人もいる 公共経済学 第7講 3 職業選択の自由と水平的公平性 (例)農業所得よりも給与所得の方が実効税率が高い →農家の方が同じ所得でも高い可処分所得(税引後所 得)⇒不公平 農家の税率が低い→農業への参入を促進(退出を抑制) →競争により農家の収入が下がる→可処分所得が給 与所得者並みに下がるまで参入が進む(そこまでしか 退出が進まない)⇒所得の均等化 実際には農業への参入は農地を相続しない限り難しい ~相続する農地のあるものが有利で不公正 ⇒これはまさに垂直的公平性の問題 公共経済学 第7講 4 一括固定税(lamp-sum tax) 経済主体の行動と無関係にかかる税。 生産者~生産量と無関係にかかる税。生産しなくてもか かる税。 課税前の費用関数 C(Y) 課税後の費用関数 CT(Y)=C(Y)+T Tは正の定数。 公共経済学 第7講 5 課税前の費用曲線 P MC AC MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 6 課税前の個別供給曲線 MC AC P MC P**=P* AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 7 問題:課税後の限界費用曲線は? MC AC P MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 8 一括固定税の限界費用への影響 問題:一括固定税によって限界費用は増加するか?減少 するか?変わらないか? 公共経済学 第7講 9 問題:課税後の平均費用曲線は? MC AC P MCT=MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 10 一括固定税の平均費用への影響 問題:一括固定税によって平均費用は増加するか?減少 するか?変わらないか? 公共経済学 第7講 11 問題:課税後のAVC曲線は? MC AC P MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 12 一括固定税の平均可変費用への影響 問題:一括固定税によって平均可変費用は増加するか? 減少するか?変わらないか? 公共経済学 第7講 13 問題:課税後の損益分岐価格は? MC AC P MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 14 問題:課税後の生産停止価格は? MC AC P MC AC=AVC 0 Y 公共経済学 第7講 15 問題:課税後の個別供給曲線は? MC AC P MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 16 一括固定税の特徴 経済主体の行動に影響を与えない →市場均衡に影響を与えない →総余剰を減少させない ~中立的な税 現実にはこのような税は難しい (例)人頭税→人口に影響を与えるので厳密な中立的な 税ではない 公共経済学 第7講 17 参入税・免許税 参入する(正の生産量を選ぶ)時のみかかる税。 生産量が正である限り税額は一定。 課税前の費用関数 C(Y) 課税後の費用関数 CT(Y)=C(0) if Y=0 =C(Y)+T if Y>0 公共経済学 第7講 18 課税前の費用曲線 MC AC P MC AC=AVC Y 0 公共経済学 第7講 19 問題:生産量正の範囲で課税後の限界 費用曲線は? MC AC P MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 20 参入税の限界費用への影響 問題:参入税によって生産量正の範囲で限界費用は増加 するか?減少するか?変わらないか? 公共経済学 第7講 21 問題:課税後の平均費用曲線は? MC AC P MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 22 参入税の平均費用への影響 問題:参入税によって平均費用は増加するか?減少する か?変わらないか? 公共経済学 第7講 23 問題:課税後の平均可変費用曲線は? MC AC P MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 24 参入税の平均費用への影響 問題:参入税によって平均可変費用は増加するか?減少 するか?変わらないか? 公共経済学 第7講 25 参入税の平均費用・平均可変費 用への影響 問題: 平均可変費用<平均費用 or 平均可変費用=平均費用 公共経済学 第7講 26 問題:課税後の損益分岐価格は? MC AC P MC AC=AVC 0 公共経済学 第7講 Y 27 問題:課税後の生産停止価格は? MC AC P MC AC=AVC Y 0 公共経済学 第7講 28 問題:課税後の個別供給曲線は? MC AC P MC AC=AVC Y 0 公共経済学 第7講 29 参入税・免許税の特徴 企業の参入・退出行動に影響を与える →中立的な税ではない 企業が参入したときの生産量には影響を与えない 公共経済学 第7講 30 従量税(unit tax, specific tax) 生産量に比例した税 課税前の費用関数 C(Y) 課税後の費用関数 CT(Y)=C(Y)+tY tは正の定数 公共経済学 第7講 31 従量税の限界費用への影響 問題:従量税によって限界費用は増加するか?減少する か?変わらないか? 公共経済学 第7講 32 従量税の平均費用への影響 問題:従量税によって平均費用は増加するか?減少する か?変わらないか? 公共経済学 第7講 33 従量税の平均可変費用への影響 問題:従量税によって平均可変費用は増加するか?減少 するか?変わらないか? 公共経済学 第7講 34 従量税の供給曲線への影響 従量税→個別供給曲線を上にtだけシフトさせる 供給曲線~個別供給曲線を横に足しあわせたもの ⇒供給曲線が上にtだけシフト 公共経済学 第7講 35 課税前の市場均衡 P 需要曲線(D) 供給曲線(S) PE 0 公共経済学 第7講 YE Y 36 課税後の市場均衡 P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt PE 0 公共経済学 第7講 課税前の 供給曲線 Yt YE Y 37 問題:課税前の消費者余剰は? P 需要曲線(D) 供給曲線(S) PE 0 公共経済学 第7講 YE Y 38 問題:課税前の生産者余剰は? P 需要曲線(D) 供給曲線(S) PE 0 公共経済学 第7講 YE Y 39 問題:課税前の総余剰は? 需要曲線(D) P 供給曲線(S) PE 0 公共経済学 第7講 YE Y 40 問題:課税後の消費者余剰は? P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt 課税前の 供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 41 問題:税収は? P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt 課税前の 供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 42 問題:生産者の税込の収入は? P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt 課税前の 供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 43 問題:生産者の税引後の収入は? P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt 課税前の 供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 44 問題:課税後の生産者余剰は? P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt 課税前の 供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 45 問題:課税後の総余剰は? P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt 課税前の 供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 46 問題:課税後の厚生の死重的損失は? P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt 課税前の 供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 47 税の負担 P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt 課税前の 供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 48 税の転嫁 P 課税後の 供給曲線 需要曲線 Pt 課税前の 供給曲線 PE Ptーt 消費者の負担 生産者の負担 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 49 問題:需要の価格弾力性の小さい方 は? P PE 0 公共経済学 第7講 YE Y 50 需要の価格弾力性と税の転嫁 P 課税後の 供給曲線 Pt Pt 課税前の 供給曲線 PE ポイント:需要の価格弾力性が 小さい方が転嫁が進みやすい 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 51 問題:供給の価格弾力性の大きい方 P は? 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 52 供給の価格弾力性と税の転嫁 P 課税後の 供給曲線 Pt Pt PE 課税前の 供給曲線 ポイント:供給の価格弾力性が 大きい方が転嫁が進みやすい 0 公共経済学 第7講 Yt YE Y 53 需要の価格弾力性と税の超過負担 需要の価格 弾力性小 P PE 課税前の 供給曲線 0 公共経済学 第7講 YE Y 54 問題:需要の価格弾力性が大きいケースの 税の超過負担は? 需要の価格 弾力性小 P PE+t PE 課税前の 供給曲線 0 公共経済学 第7講 YE Y 55 問題:需要の価格弾力性が小さいケー スの税の超過負担は? 需要の価格 弾力性小 P PE 課税前の 供給曲線 0 公共経済学 第7講 YE Y 56 需要の価格弾力性が小さいケースの 税の超過負担 需要の価格 弾力性小 P PE 0 ポイント:需要 の価格弾力性 が小さい方が 税の超過負担 が小さい 公共経済学 第7講 課税前の 供給曲線 YE Y 57 問題:需要の価格弾力性が大きいケー スの税収は? 需要の価格 弾力性小 P PE 課税前の 供給曲線 課税後の 供給曲線 0 公共経済学 第7講 YE Y 58 問題:需要の価格弾力性が小さいケー スの税収は? 需要の価格 弾力性小 P PE 課税前の 供給曲線 0 公共経済学 第7講 YE Y 59 ラムゼイ・ルール 問題:一定の税収を確保するのにどの財に税をかけると 厚生の死重的損失が小さくなるか。 答え:需要の価格弾力性の低い財に高い税率をかける 必需品には高い税を、奢侈品には低い税を ~不公正ではないか? 公共経済学 第7講 60 ラムゼイ・ルールの適用例 税をかけると逃げ出しやすい(需要が減りやすい)財に高 い税をかけても税収を確保できない (例1)州政府がプレジャー・ボートに高い税 →その州にボートを泊めなくなる →税収がむしろ下がってしまう (例2)金融所得には低税率←逃げ出しやすい所得 (例3)第3のビール増税→より税率の低い酎ハイなどに 需要が食われる⇒場当たり的に増税しないで酒税全体 の体系を変えるべき (例4)たばこ消費税の増税⇒理にかなっている 公共経済学 第7講 61 消費者に税をかけたら? P 課税前の需要曲線 Pt+t 供給曲線 PE Pt 0 公共経済学 第7講 課税後の 需要曲線 Yt YE Y 62 問題:税収は? P 課税前の需要曲線 Pt+t 供給曲線 PE Pt 0 公共経済学 第7講 課税後の 需要曲線 Yt YE Y 63 支払額・収入 P 課税前の需要曲線 Pt+t 供給曲線 PE Pt 0 公共経済学 第7講 課税後の 需要曲線 Yt YE Y 64 問題:消費者余剰は?生産者余剰は? P 課税前の需要曲線 Pt+t 供給曲線 PE Pt 0 公共経済学 第7講 課税後の 需要曲線 Yt YE Y 65 問題:総余剰は? P 課税前の需要曲線 Pt+t 供給曲線 PE Pt 0 公共経済学 第7講 課税後の 需要曲線 Yt YE Y 66 従量補助金政策 生産量1単位あたりsの補助金を出す。 →生産を促進(税と反対の効果) →個別供給曲線を下にsだけシフトさせる ⇒供給曲線が下にsだけシフト 公共経済学 第7講 67 補助金政策前の市場均衡 P 需要曲線 補助金政策前 の供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 YE Y 68 問題:総余剰は? P 需要曲線 補助金政策前 の供給曲線 PE 0 公共経済学 第7講 YE Y 69 補助金政策後の市場均衡 P s 需要曲線 補助金政策後 の供給曲線 PE Ps 0 公共経済学 第7講 YE Ys Y 70 問題:消費者余剰は? P s 需要曲線 補助金政策 PE Ps 後の供給曲線 0 公共経済学 第7講 YE Ys Y 71 問題:補助金額は? 需要曲線 s P Ps+s 補助金政策後 の供給曲線 PE Ps 0 公共経済学 第7講 YE Ys Y 72 問題:補助金+(消費者からの)収入は? P Ps+s s 需要曲線 補助金政策後 の供給曲線 PE Ps 0 公共経済学 第7講 YE Ys Y 73 問題:生産者の可変費用は? P s 需要曲線 補助金政策後 の供給曲線 PE Ps 0 公共経済学 第7講 YE Ys Y 74 問題:生産者余剰は? 需要曲線 s P Ps+s 補助金政策後 の供給曲線 PE Ps 0 公共経済学 第7講 YE Ys Y 75 問題:総余剰は? s 需要曲線 P 補助金政策後 の供給曲線 PE Ps 0 公共経済学 第7講 YE Ys Y 76 問題:厚生の死重的損失は? P s 需要曲線 補助金政策後 の供給曲線 PE Ps 0 公共経済学 第7講 Y* Ys Y 77 ポイント ・一括固定税は中立的な税である ・参入税は生産停止価格に影響を与える ・従量税は供給曲線を上方にシフトさせ、過少生産に伴う 厚生の死重的損失を発生させる ・税の転嫁の結果、税を生産者にかけても消費者にかけ ても、生産量・余剰の分配に関して同じ結果となる。 公共経済学 第7講 78
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