地震の揺れを科学する 第五章 強振動を予測する

地震の揺れを科学する
第五章 強振動を予測する
総合科学四年
3041-6004 岩井仁美
目次
1・強振動予測とは
2・リアルタイム地震防災
3・強振動予測への取り組み
4・高精度な強振動予測へ向けて
1・強震動予測とは
地震の揺れ・・・震源から放射された地震波が地表面に
到達することによって生じる
よって
生成及び伝播過程のシミュレーションが必要
強震動の予測
何故強振動予測が必要なのか?
地震の被害を事前に想定しておき、
地震被害を軽減するため
その対策を検討し準備することが大事。
地震被害をもたらす自然現象の予測
地震被害を軽減させるためには、強震動に対して構造
物が崩壊しないように設計する必要がある。
構造物を数値的なモデルで表して、それと地盤が接している部分に入力
した強震動を用意し、構造物の挙動をシミュレーションする。
構造物固有のゆれやすい周期・・・固有周期
その時の揺れ方・・・固有モード
対応する固有モードで構造物が人揺れ
するのに要する時間
構造物の自由度数の分だけ存在する(例・5階建てでは5つ)
もっとも長い固有周期→一次固有周期
一次固有周期より長い周期帯域には、固有周期は存在しない
強震動として考慮すべき周期帯域は一次固有周期より短い範囲のみ
大きな揺れとなる周期を強震動の「卓越周期」と呼ぶ。
卓越周期が固有周期と一致→構造物の揺れが増幅
共振現象
大きくゆすられると構造物内部に亀裂が生じ損傷を受
け、構造物の剛性が低下して固有周期が長くなる。
構造物の損傷や崩壊まで検討する場合は、対象とする構造物の
固有周期の長期化を考慮する必要がある。
強震動の卓越周期とその付近における揺れの大きさは、
・構造物が立地する地点周辺の地盤構造
・震源や地震波の伝播経路の地下構造
に影響される。 対象地震を特定し、震源特性を考慮して、考えられるだけのシナリオ
を用意し地震波の伝播特性の地域性、地盤の地震波の局所性を出来る
限り反映した方法を用いる必要がある。
大型建物と固有周期
一般的には構造物の
一次固有周期は構造物の
高さに比例して高くなる。
建物高さ(m)に0.015から
0.02を乗ずることによって
見積もる。石油やLNGの
タンクは直径と内容液の高さ
でスロッシング周期が決まる。
原子炉構造物は、巨大だが
壁圧1mを越える剛性の高い構造のため、周期は短い。
剛性が低く固有周期が長い構造・・・「柔構造」
剛性が高く固有周期が短い構造・・・「剛構造」
例・超高層ビル
例・原子炉
どちらが安全か?
「柔剛論争」
1923年関東地震の後、数年続いたが結着付かず。
→剛構造理論に基づいた設計体系が確立
1960年代、強震記録、構造物の振動理論、耐震設計が
コンピューターの計算を介して結びつき、柔構造建造物の
周期帯域、地震記録の質、継続時間など固有周期が
建設が可能に。
建造物の検討を行うのに十分であったとは言いがたい
地震時の安全性だけでなく、超高層ビルにおける
エレベーターの停止と閉じ込め問題から避難上の問題、
機能確保に至る重要な設備の問題も検討課題
強地震観測からわかるもの
変化する地面の動きである「時刻暦波形」
加速度波形、速度波形、
変位波形がある。
どの時刻にどのような周期成分の
揺れが大きかったかわかる
地震による複雑な動き(地震動)の波形の特徴を波形の
最大振幅値
加速度波形、速度波形、変位波形の場合、
最大加速度、最大速度、最大変位になる。
の三要素で表すのが一般的
経時特性
揺れ始めた時刻、もっとも揺れた時刻、
揺れが収まった時刻、揺れ続けた時刻など
周期特性
波形にどのような周期成分の波が多く含まれているかが
わかる。「応答スペクトル」を用いて表すことが多い。
応答スペクトルとは
色々な固有周期の一自由
振動系の郡に同じ地震波形
を入力し、それぞれの応答
振幅の最大値を系の固有
周期ごとに並べたもの。
最大応答地値を変位、速度
、加速で表したもの、またそ
れぞれの応答を相対応答と
絶対応答で表した六種類が
定義される。
被害予測や耐震設計などの目的にもっとも多く用いられてきたものは
波形の最大振幅値と応答スペクトル。
・加速度は耐震設計に頻繁に
・構造物の破壊などの被害を考える時は速度を指標に
・固有周期が数秒の超高層ビルや免震構造物での地震
時の安全性の検討では最大速度を
・一般的な被害との相関では震度計や計測震度を
など、強震動予測の結果を使う立場によって、
必要な揺れの情報が違うとされる。
しかし、最大加速度や最大速度、計測震度、応答スペクトルは
すべて時刻暦波形から計算できるので、強振動予測では対象地点
の時刻暦波形を予測することがもっとも望ましい
強振動のシミュレーション手法
理論的方法
断層運動や地震波が伝播する地下構造に関する
物理モデルを作成し、地震波発生及び伝播の理論
に基づいて、決定論的に地震動の時刻暦波形を
計算するもの。
やや長周期帯域の
強振動ミュレーションによく
用いられる
多大な計算労力を必要とし、一般的な計算機で計算に
数日から一週間かかることも・・・
半経験的方法
理論の一部を小さな地震の実際の記録で補うもの。短周
期帯域を含む強振動シミュレーションによく用いられる。
「経験的グリーン関数法」 「統計的グリーン関数法」
強振動予測地点で、想定した大地
震と同一の大地震が起こった小地
震による強震記録が得られている場
合、想定地震の断層破壊過程を考
慮して小地震の観測波形をグリーン
関数とみなして、多数重ね合わせて
想定地震の地震動の時刻暦波形を
求める方法。
大地震の断層面における断層運動が小規
模の断層運動を多数重ね合わせることで
表現できること。地震波の伝播性状は、大
地震でも小地震でも観測位置が変わらな
ければ同じであること。
適切な小地震記録がない場合
に、その代わりにほかの地点で
得られた多数の強震記録を統計
処理して作成した模擬地震波を
統計的に評価されたグリーン関
数として用いる方法。模擬地震波
は、経験的方法で評価された地
震動の振幅スペクトルと経時特
性に適合するように作成されるこ
とが多い。
経験的方法
多数の強震記録の統計解析に基づいて、数少な
いパラメータで簡便に強振動を評価するもの。
短周期帯域の
強振動予測に用い
られることが多い
1995年兵庫県南部地震の数年
前に提案された、最大化速度の
距離減衰による強振動の予測
例。
同地震の観測値は予測値と
よい対応を示し、断層の近くで
おおむね誤差の範囲内だった。
広帯域ハイブリット法
ある特定の周期を境として、長周期帯域と短周期帯域
にわけ、それぞれの帯域に適した二つの異なる手法で
強振動の予測波形を計算した後、その両者を相補的に
足しあわせて広帯域強震動を求めるもの。
手に入る断層運動や地下構造の情報には限界がある。
今後さらに細かな事まで知るには、震源や地下構造の
モデル化の精度を高め、理論的方法の適用範囲をより
短周期へ広げることが大切
2.リアルタイム地震防災
目的
地震観測情報を用いて地震動の面的な部分を把握し、その情報に基づいて
被害分布を迅速に推定することにより大地震発生直後の救助と二次災害の
防止のための初動体制の確立を速やかにすること。
短期的な地震予知は不可能
大地震の発生は不意打ち
地震発生直後の混乱で初動対応まで空白時間が出来る。
この空白時間を出来るだけ短くする!
ユレダス(UrEDAS)
震源近傍域で捉えた地震動から大地震の発生を検地
し、人口密集地に主要動が到来する前に電信によって
それを知らせ、災害を軽減しようとする。
1868年にアメリカの医師クーパー氏が提案
初の実用化は1990年から1992年にかけて東海道新幹
線に採用された「ユレダス(UrEDAS)」システム。
P波初動から震源の位置と規模を推定、路線に被害
を生じるようなら自動的に周辺の列車を止める。
緊急地震速報
震源近傍域で観測されるP波から震源情報を推定し、S波が
到達する前に地震情報を一般に提供する取り組み。
3・強震動予測への取り組み
地震調査研究推進本部
阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、文部科学省に設置。
活断層調査、地震の発生可能性の長期評価、強震動
予測などを統合した地震動予測地図の作成を掲げている。
地震発生の前兆を捉えて、地震の発生場所と規模、発生
日時を予測する「地震の短期予知」は現在では不可能。
活断層調査や歴史地震の調査に基づいて、数十年から数百年
オーダーで地震の発生場所と規模を予測することは可能。
地震の長期予測
4・高精度な強震動予測に向けて
建物の耐震設計では、崩壊を防ぐだけでなく建物に要求される性能を
明確にし、その性能が維持できるように建物の地震時挙動をコンロー
ルする設計法の考え方を導入
より高精度な強震動予測が必要
震源を深く知ろうとするには、地下構造をより詳細に知る必要がある。
地下構造を介して震源の物理と地下物性論を結び
つければ強震動予測の信頼性を高められるだろう
稀にしか起こらない大地震のデータから、出来る限り多くのことを
学ばなければならない。
地震学の進歩に応じて、その時々の最新の地震学的手法によって、
過去の大地震のデータから新たな知見を得るための検証を繰り返し
行うことが重要。
今後起こる大地震のデータをより多く確実に記録し、
後世に残すための地道な努力を続けなければならない!