スライド 1

エネルギーフロンティアー実験
LHC計画の目指す物理
2009年6月
近藤敬比古 (KEK)
Original file at :
http://atlas.kek.jp/sub/OHP/2009/200906Kondo_LHCPhysics.pptx
1
LHC ( Large Hadron Collider )計画
CERN @ジュネーブ
(Webの誕生地)
加速器トンネル
周長 26.6 km
(山の手線 34km)
計画承認 1994
建設完成 2008
建設コスト~1兆円
(人件費なども含む)
2
CMS
開始後50分後に
ビームスクリーンに
は入射ビームと一
周したビームが同時
に映し出された!
ビームの軌道は各所のビーム位置
モニターで測定され、直ちに次の
ビーム入射で軌道が修正された。
ALICE
ATLAS
LHCb
3
アインシュタインの式
E=
エネルギー
エネルギー
2
MC
質量(重さ)
質量 エネルギー
原子力・核融合
(反物質爆弾)
光速
質量
高エネルギー物理
ビッグバン
1869
メンデレーフの周期律表
基本粒子の数
1
67
(1869年)
12
(1995年)
(2xxx年??)
1995
現在の周期律表: 標準モデル
5
4つの力(相互作用)
全ての力はゲージ粒子の交換に
よって引き起こされる。
相互作用:
ゲージ粒子:
スピン:
強い力
グルーオン
1
電磁磁気力
光子
1
ゲージ粒子
弱い力
W,Zボゾン
1
標準モデル
(ゲージ場の量子理論に基づく)
重力
グラビトン
2
6
根 源 的 な 問 題
Q1: 発散の困難をどう回避するか?
高次の量子効果を足し合わせてせると
計算結果が無限大になる。
Q2:なぜ裸のクォークは見つからないのか?
素粒子は3個のクォークか、クォーク・反クォーク
の対からできている。しかしクォークは単独では
存在しない。
u
u
d
陽子
u u
π中間子
Q3:なぜ W, Z (とクォーク/レプトン)は質量をもつのか?
ゲージ不変→質量があってはならない。しかし mW~81 GeV, mZ~91 GeV。
夫々の問題の解決者にはノーベル物理学賞が授与された!
7
Q1の解決 : 量子電磁力学(QED)の成功
1940年代に朝永らによってくりこみ理論
(renormalization method)が開発された。裸の
質量や電荷を再定義し直すことによって発散を
回避し、高精度の計算が可能になった。
例:電子の異常磁気能率:
g2
ae 
 0.00115965218085 (exp.)
2
 0.00115965218870 (theory)
朝永
QEDがくりこみ可能なのは、QED理論が局所
ゲージ不変であるからである。
1965
Feynmann Schwingers
"for their fundamental work in
quantum electrodynamics, with
deep-ploughing consequences
for the physics of elementary
particles”
キーワードは「局所ゲージ不変」
参考:数理科学2007年11月号特集<電弱統一理論>
Q2の解決: QCD (量子色力学)の成功
• クォークは3種のカラー荷電を持ち、グ
ルーオンを媒介して強い力が作用する。
• 漸近的自由性:力は(ゴム紐のように)
近くて弱く遠くなると強くなる。
4S
V (r )  
 kr
3 r
D. Gross
2004
H.D. Politzer
F. Wilczek
"for the discovery of asymptotic
freedom in the theory of the
strong interaction"
エネルギーを与えて素粒子内の2つのクォークを
引き離そうとすると、途中でクォーク・反クォーク対
が真空から作られて2つの素粒子に分裂する。エ
ネルギー的にその状態の方が低いからである。
9
ヒッグスメカニズム
南部陽一郎
ヒッグス機構は少なくとも3人が提
案した。
自発的対称性の破れ
の提唱
・ 自発的に対称性が破れると質量
ゼロのスカラー粒子が出る(南部
ゴールドストーンボゾン)。
"for the discovery of
the mechanism of
spontaneous broken
symmetry in
subatomic physics"
・ 1964年に何人かの理論屋が、
ゲージ場と自己結合をもつスカ
ラー場の存在の下では、自発的
対称性の破れが起こると、質量
=0だったゲージ粒子が質量を持
ち、南部ゴールドストーンボゾン
が現れないことを指摘した。
2008
・ WeinbergとSalamはこの指摘を弱
い相互作用に適用した。
R. Brout
F. Englert
P. Higgs
10
自発的対称性の破れ(Spontaneous Symmetry Breaking)
例:強磁性体
 運動方程式は回転に対して対称であり、
特別な方向を選ばない。
 キューリー温度TC 以上で分子のスピン
はバラバラで常磁性体である。
 TC 以下では自発的に特定の方向が選ば
れ強磁性を示す。
素粒子の世界
 運動方程式はゲージ変換(内部自由度の位
相回転)に対して不変である。

 1TeV以上では真空は対称である。
V
2
V
 174 GeV
2
 1TeV以下では真空(エネルギー最低状態)
は自発的にゼロでないヒッグス場を持つ。
11
Q3の解決: Glashow-Weinberg-Salam モデルの成功(1)
• それまでの弱い相互作用の理論:
1934: E. Fermi : theory of b decay
1956-7: パリティ非保存→V-A theory
いずれも、高エネルギーで発散し、くりこみ不
可能であった。
S. Glashow
・ 高エネルギーでは電弱対称性 SU(2)L と弱
ハイパー荷電対称性 U(1)Y が存在する。
• 低エネルギーではヒッグス場の存在によりそ
れらの対称性が自発的に破れて、3つの
ゲージ粒子は3つのヒッグス場を食べて質量
を持つ。混合の結果電磁場 U(1)EM が残る。
• 少なくとも一つのヒッグス粒子が存在する。
• クォーク・レプトンも質量を持つことが可能。
1979
S. Weinberg
A. Salam
"for their contributions to the theory of the
unified weak and electromagnetic interaction
between elementary particles, including, inter
alia, the prediction of the weak neutral
current"
Q3の解決: Glashow-Weinberg-Salam モデルの成功(2)
SU(2)L × U(1)Y
U(1)EM
4つのゲージ粒子
1
W
W
2
W
3
B
m=0
m=0 m=0
m=0 m=0m=0
m=0 m=0
自発的
対称性
の破れ
+
_
0
W W Z
m80W 80m W 91 mmg=0
Z
m=0
GeV
GeV
GeV
(Higgs機構)
1
2
3
mmH=??
4
H
4つのヒッグス粒子

V
2
V
2
13
ヒッグス場による質量(重さ)の獲得
・ W/Zやクォーク・レプトンは、ヒッグス場との相互作用のため、
運動にブレーキがかかり、それは質量を得たとみなすことがで
きる。光はヒッグス場と結びつかないので質量=0である。
現実の世界
真空の対称性がある場合
光速
光速
光速よりも遅い
光速よりも遅い
抵抗
抵抗
クオーク
レプトン
クオーク
抵抗
W
光速
光
W
光速よりも遅い
レプトン
光
光速
ヒッグス場の海
自発的対称性の破
れ
14
Glashow-Weinberg-Salam モデル


 

2
2
1 
1
L  L ig  D L  R ig  D R  W   W  B  B  D    2 †    †  Ge R  †L  L R
4
4
 
 
1
where D     ig2W   ig1 BY , B   B    B , L   e  , R  eR
2
2
 e L

SU(2)L :
 
i  ( x )
Le 2
L,




1
R  R, W  W    ( x)   ( x)  W , B  B
g2


1
U(1)Y : L  eib ( x )Y L, R  eib ( x )Y R, W  W , B  B    b ( x)
g1
 Z   cos W  sin  W W3 
 ,
   
 A   sin  W cos W  B 
g2 
e
e
, g1 
sin W
cos W
after Supontaneous Symmetry Breaking : SU (2) L  U (1)Y  U (1)Q , ( x) 

1  0 

 2   h ( x ) 

1
g 22
4h 3 h 4 
2 1 2  
2 1
2 1
2 2 1 2 2
L  h   g 2W W   h  
ZZ   h    2 h     1  3  4   Gee e  Ge he e
2
4
8 cos2 W
2
4
  

m
1
1 g2
therefore mW  g 2 , mZ 
  W , mH  2  , me  Ge ,  
2
2 cosW
cosW
[1] S. Wenberg, Phys. Rev. Lett. 19 (1967) 1264
15
1
 246 GeV
2GF
GWS モデルの確証
理論的には
• 1971年:ト・フーフトがGWSモデルがくりこみ可能であ
ることを証明した。
D ‘t Hooft
M. Veltman
"for elucidating the
quantum structure of
electroweak interactions
in physics"
1999
GWSモデルの実験による検証
• 1973年:CERNで中性カレントの存在が検証された。
• 1978年:SLACの偏極電子ビームを使ったed散乱実験
でパリティ非保存(γ-Z の干渉効果)を確認した。
C.Y. Prescott et al., Phys. Lett. 77B(1978)347.
C. Rubbia S. van der Meer
• 1983年:CERNでW, Z粒子が発見された。
1984
"for their decisive
contributions to the large
project, which led to the
discovery of the field
particles W and Z,
communicators of weak
interaction"
標準モデルの予言能力
電子陽電子消滅によるハドロン生成の断面積
標準モデル
・標準モデルは1 eVから1千億 eVレベルまでの広いエネルギー範囲を非常
に高い精度で記述する。
・標準モデルに反する事象はまだ発見されていない(暗黒物質を除いて)。
17
現在の周期律表:標準モデル
mgluon  0
mg  0
mW  80 GeV
mZ  91GeV
ヒッグス粒子のみが未発見。
他はすべて20世紀に発見された。
18
標準ヒッグス粒子の性質
• (実に不思議なことに)ヒッグス粒子の質量 mH は
フリーパラメータで標準モデルは予言しない。たぶ
ん100~1000 GeVの間であろう。
• LEP実験での直接探索
 mH > 114.4 GeV
• テバトロンでの直接探索  mH ≠ 170 GeV
• 量子補正による間接測定  mH < 144 GeV
黄=直接測定で除外された領域
青=標準モデルの測定量から量子補
正を通じて推定されたヒッグス粒
子の質量の確率(χ2)分布。
LHC/ATLASでのヒッグスイベント:
pp→H→ZZ→μ+μ-μ+μ-(黄色の線).
19
LHCでのヒッグス粒子探索
• 質量 mH の関数としてヒッグス粒子の生成
断面積や崩壊過程はよく予言できる。
• ヒッグス粒子の発見チャンネルは数種類あ
り mH の領域にかなり依存する。
H
H
H
H
g g
 Z Z         
 W W       ,   j j
 
H→gg チャンネルの模擬解析結果。L=1fb-1
で縦軸の数がイベント数に相当する。
2012(?)
2011(?)
• データ収集は2009年10月に始まる。2-3
年で114~1,000 GeVの全領域で発見が可
能になる。
2010 (?)
100
200
500
1,000 mH (GeV)
赤:5s の信頼度での発見ライン
青:95%の信頼度で排除できる範囲。
20
階 層 性 問 題
• 次の新しい物理がプランクスケール(1019 GeV)
までないとき、ヒッグス粒子の質量 mH は大きな
量子補正を受けて(スカラー粒子なので)
mH =
200 GeV
dmH
= 1,000,000,000,000,000,000 GeV
これは非常に不自然である(階層性問題)。
eR
H
H
eL
dm 
2
H
ye
2
16
2
 2
2
cutoff

 6me2 lncutoff / me   .....
mH に対する量子補正の式
~e , ~e
R
L
問題解決策 その① : 超対称性粒子の導入
ヒッグスの2次発散の項を超対称性(SUSY)
粒子で正確にキャンセルすることができる。
H
dmH2 
H


y e~
22cutoff  4m 2e~ ln  cutoff / m e~   .....
2
16
問題解決策 その② : 大きな余剰次元の導入
新しい物理が1~10 TeVに存在する。
SUSY粒子によるmHに対する量子補正
21
SUSY (超対称性)粒子
フェルミオン(半整数スピン)とボゾン(整数スピン)の交換の対称性
d (spin)  
1
2
SUSY粒子はまだ1個も見つかってない  SUSYはソフトに破れているモデル
22
Running couplings (走る結合変数)
・ 相互作用の強さ(結合変数)は真空偏極により
エネルギースケール(距離)と共に変化する。
・ QED : 遮蔽効果 高エネルギーで強くなる
 EM (q 2 ) 
 EM ( 0 )
 EM ( 0 )  q 2 
1 N
ln 2
 0 
3
 
+
-
+
2
, N  n  3  qquark
quark
QEDでは真空偏極で
電荷がより隠される。
・ QCD: 反遮蔽効果 高エネルギーで弱くなる
 3 (q ) 
2
 3 ( 02 )
 q2 
 3 ( 02 )
2n f  33ln  2 
1
12
 0 
グルーオンの自己結合のため
gluon
quark
q
gluonとquark
の雲
QCD ではカラー電荷が真空偏極
で増幅される (nq < 33/2)
23
3つの相互作用の大統一の可能性
もし 1 TeV付近に超対称性粒子が存在すれば、3つの相互作用の
強さは2x1016 GeV で1点に交わる!! ー>大統一の可能性が出てきた。
note: based on RGE equations given by U. Amaldi et al., Phys. Lett. B260(1991)447.
data for 1/1 are scaled from 1/EM by 3/5*cos2W
24
暗黒物質 Dark Matter
銀河の回転速度
重力レンズ効果を
用いた暗黒物質観
測の3次元マップ
銀河クラスターの運動
標準モデルは我々の宇
宙の4%のみの範囲しか
記述していない!!
3°K宇宙背景輻射
銀河クラスター同士の衝
突で暗黒物質(青)が分
離された様子
25
膨張する宇宙の熱力学 :冷たい暗黒物質シナリオ
dn
2 
 3Hn   s A v n 2  nEQ


dt
DM h2  0.1
m ~ 0.1 ~ 1 TeV,
sv ~ 1 pb
LHCの到達できる範囲 !!
暗黒物質の
有力候補
ニュートラリー
ノ
未発見
26
~
g
LHCのSUSY粒子探索
• R パリティ保存則:
R   1
3 B L 2 S
標準モデル粒子 R=+1
SUSY粒子
R=-1
LSP (lightest supersymmetric particle) は
中性で安定、物質と相互作用しない→暗黒
物質のよい候補!!
p
p
u
u
q
~
g
g
q
~0

1
(LSP)
LHCでのSUSY 粒子生成過程
• LHC実験ではLSP が測定器から抜け、大き
な横エネルギーEtの消失が起こる。1年の
LHC実験で 1 TeV領域まで探索できる。
• まとめ:SUSY粒子が1 TeVにあると
① 階層性問題が解決する.
② 大統一の可能性が高まる.
③ 暗黒物質が同定できる.
CMS実験でのSUSY粒子生成
シミュレーション
27
階層性問題解決への新しいアプローチ
大きな余剰次元モデル
電弱スケール
1016
Planckスケール
4+2余剰次元の重力
重力は大きな次元のバルクにも広
がるが、標準モデルの粒子は4次
元ブレーンに閉じ込められている。
エネルギースケール
28
LHCでビッグバンから 10-12 秒までにさかのぼる。
29
from E. Kolb and M. Turner p.73
History of Universe
QUANTUM
GRAVITY
● Supergravity?
● Ex Dim?
● Supersymmetry?
● Superstrings?
END OF
GRAND
UNIFICATION
END OF
ELECTROWEAK
UNIFICATION
1025 K
1020 K
1015 K
1018 GeV 1015 GeV 1012 GeV 109 GeV 106 GeV
Rest Energy
of Flea
KE of
Sprinter
of Atoms
● Formation of ● Decoupling of ● End of SUSY? Quark Hadron
Structure begins
Matter and
Transition
Big Bang
Nucleosynthesis
● Origin of MatterAntimatter Symmetry
● Monploles
● Inflation
1030 K
● Formation
MATTER
DOMINATION
Highest energy
Cosmic rays
1TeV
CM Energy
of LHC
1010 K
1GeV
105 K
1MeV
1keV
Nuclear Binding
Energy
1K
1eV
1meV
Atomic
Binding Energy
1
103 106 109 Years
1042 s 10-36 s 10-30 s 10-24 s 10-18 s 10-12 s 10-6 s 1sec 106 s 1012 s 1018 s
 e      
     
Leptons  e     
&  u  c  t 
Quarks    
 d  s  b 
GLUONS
Gauge
W , Z
Bosons
X, Y, .....
Photons
g
LHC陽子衝突実験のカバーする範囲
 
e
n, p


H ,D ,
3
He  ,
4
He  ,
7
Li    , e 
2K  bkgd
H , D,
3
He,
4
He,
7
Li
R(matter/radiation)=5x10-10
3K CMB
ま と め
• 標準モデルは成功した。しかしヒッグス粒子が見つかっていない。
• W, Z粒子の質量があるためには、ヒッグス場が存在し、自発的対称性の
破れが起こらなくてはならない。その結果、ヒッグス粒子が存在する。
• ヒッグス粒子を発見するためのLHCが完成した。
• ヒッグス粒子や超対称性粒子は2~3年で発見が可能になる。
• もし超対称性粒子が見つかれば、階層性問題は解決し、大統一が可能
になり、暗黒物質の有力候補が見つかる。
• LHCでの実験で明らかになるであろう物理は、 ビッグバンから10-11 ~
10-38 秒での物理に相当する。
31