緩衝液-buffer solution- 緩衝液とは 緩衝液(buffer solution)は、少量の酸や塩基を加えたり、多少濃度が変化 したりしてもpHが変化しないようにした溶液のこと。 微生物の培養や化学物質の保存・分離などに用いられる。 生物や化学物質にはpHに敏感なものが多い 何故緩衝液でなくてはならないか 生物や化学物質にはpHに敏感なものが多い 取り扱い時にその制御が必要 例えば純水を使った場合、 ・外的な要因(大気中のCO2など) ・内的な要因(微生物自身の代謝産物など) これらの要因によって、pHが容易に変動してしまうため、 保存や反応の際には 不適となる。 よってpHを(ある程度)一定に保てる緩衝能を必要とする。 緩衝液の作り方 弱酸または弱塩基+その塩 で、緩衝能を持つpHに合わせる。 例:酢酸+酢酸ナトリウム 弱酸+強塩基または弱塩基+強酸 で調整する方法もある。 例:トリス緩衝液(トリス水溶液(弱塩基)を塩酸で調整) ポイントは、弱酸または弱塩基を使うことである。 弱酸・弱塩基を使う理由 弱酸、弱塩基は電離度が低いので一部の分子しか電離していない。 例:酢酸 CH 3COOH CH 3COO H 電離しているものが少ないためほとんどはCH3COOHの形態で溶液中に 存在している。 これらの酸は平衡を保っているので、平衡定数Kが存在する。酸の平衡定 数を酸解離定数と呼び、Kaで表す。 CH COO H Ka この式を変形すると、 3 CH 3COOH この式を、ヘンダーソン‐ハッセルバルヒ式 という。 また、酢酸の電離度は低いため、系中に存在する酢酸イオンの濃度は加えた酢 酸ナトリウムの量にほぼ等しい。したがって、この溶液のpHは次のように近似す ることもできる。 HAという弱酸の場合、 HA H A このように一部分が電離し、H+、A-、HAが共存している状態になっている。 その時の解離定数は、 H A Ka HA となり、 pH pKa A log HA この式を、ヘンダーソン‐ハッセルバルヒ式 という。 H+ CH3COO-と結合して、CH3COOHとなる 加えられたH+はほとんど消費される 液中のバランスは変わらない=pHの変化もない :CH3COOH :CH3COO:H+ H+と中和し、減少したH+は電離して補充される OH- 加えられたOH-はほとんど消費される 液中のバランスは変わらない=pHの変化もない :CH3COOH :CH3COO:H+ 緩衝能が最大になるとき 緩衝能は、濃度がHA=A-のときに最大になる。 H A Ka HA [A-],[HA] が十分に存在するとして、ここで酸を加えれば当たり前です が [A-] が減少し [HA] が増えます。 加えた酸が少量ならこの変化量は同程度である。 つまり,[A-]/[HA] は ([A-]-δ)/([HA]+δ) に変化する。 このとき,[A-] も [HA] も十分にあるのであれば,この比の変化は小さ く,結局 [H+] の変化も小さいということがいえる。 例えばH+が2、HAが2、OH-が1だとすると、結局比としては変わらないので、緩衝能は 変わらなくなる。 もし,[A-] が小さく [HA] は大きい場合には,[HA] の変化は無視できるが, [A-] の変化は無視できず,結局 [A-]/[HA] は変化することになる。[HA] が 少なくても同じことである。 H A Ka HA 例えば、H+が2、A-が1、HAが4だとして、加えた酸 を0.5だとすると、 これらのことから、加える酸(または塩基)の影響が最も小さくなるときは、 HA=A-のときとなる。 よって、緩衝能が最も大きくなるのは、HA=A-のときになる。 つまり、[A-]/[Ha]=1の時に最大になる。 これをヘンダーソン‐ハッセルバルヒ式 に入れてみると、 pH pK a となるので、酸解離定数KaのpH近くにに合わせて調整すると、最も緩衝作用の 強い緩衝液が出来る。 酢酸: トリス:8.3(20℃) HEPES:7.5 CAPS:10.4 主なPka値 右図は0.1mol/l の酢酸水溶液の 中和曲線 図のa点…酢酸水溶液のpH 電離度が小さいから, pHはあまり小さくない 図のb付近…pHの変化が小さい 酢酸と酢酸ナトリウ ムが存在し,緩衝溶 液となっている 図のc点…中和点は塩基性を示 す。 酢酸ナトリウムの加水 分解により塩基性を 示す。 身近にある緩衝液 私たち人間の身体には、様々な緩衝液があります。 例えば、 ・血液 ・体液 ・唾液 など また、河川の水には緩衝作用はないが、海水には緩衝作用がある。 次回緩衝液の種類や、体液の緩衝作用について勉強したいです。
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