スライド 1

鹿児島県農業教育研究会畜産専門部会
口蹄疫を含む病原微生物についての基礎知識
鹿児島大学 岡本嘉六
間違った報道を追い駆けたために大腸菌
O157やBSEなどの大騒動を繰返してきた。
科学に基いて自分の頭で考えることができる
自立した市民を育成することが何よりも大切
であり、病気についての基礎的知識と対処の
仕方を教育課程で教えておくことが重要であ
る。
今回の口蹄疫をどのように高校生に伝え
たら良いのか? 加熱した報道も下火となっ
た時点だからこそ、自らの頭で考えるだけの
基礎的知識を与えることが重要であろう。
Iowa State University: CFSPH
写真はアイオワ州立大学HPから借用しました。
謹んで感謝いたします。
医学の祖
ヒポクラテス
紀元前460年~紀元前377年
ミアズマ(瘴気)説: 病気は「悪い土地」「悪い水」「悪
い空気」などにより発生する。「悪い空気」、つまり瘴気は、
「悪い水」、つまり沼地や湿地から発生し、人間がこれを
吸うと体液のバランスを崩し病気になる。また、こうして
病気になった人間も瘴気を発し、周囲の人間を感染させ
る。病気の原因を呪いや祟りだとするような考え方から、
物理的な外因を想定した科学的思考の始まりでる。
「ヒポクラテスの誓い」は医師の倫理として卒業式で
宣誓されてきた。
● 著作や講義その他あらゆる方法で、医術の知識を師や自
らの息子、また、医の規則に則って誓約で結ばれている弟子達
に分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
● 自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を
選択し、害と知る治療法を決して選択しない。
● どんな家を訪れる時もそこの自由人と奴隷の相違を問わ
ず、不正を犯すことなく、医術を行う。
● 医に関するか否かに関わらず、他人の生活についての秘
密を遵守する。
写真等「ウィキペディア」から借用しました。
微生物学の父
1632年 ネーデルラント連邦共和国で誕生
1648(16歳) 織物商に奉公
1660(28歳) 羊毛店を開く: 織物の品質を調べるために
拡大鏡を使用 ⇒ 顕微鏡を自作 ⇒ 植物や昆虫等を観察
1673(41歳) 解剖学者 Reinier de Graaf がレーウェンフック
の観察をロンドン王立協会に紹介
1674(42歳) 微生物を発見
繁殖生理学のスタート
1677(45歳) 精子を発見
1680(48歳) ロンドン王立協会会員
1723(90歳) 逝去
Anton van Leeuwenhoek
レーウェンフック
彼の顕微鏡は200倍に達したとされており、 1632 - 1723
プランクトンはもとより、スピロヘータ等の大
型の細菌も観察した。個体が増えていく様子
も観察し、それは、ついに・・・・
“That what I am observing is just what nature,
not by sinfully defiling myself, but as a
natural consequence of conjugal coitus...“
「私が観察しているものは、まさに自然そのもの
であり、罪深く自分自身を汚すことによってでは
なく、夫婦の性交の自然な結果として・・・」
近代細菌学の開祖
1822年 皮なめし職人の息子として生まれた
1846(24歳) 高等師範学校で博士号を取得
1849(27歳) 酒石酸の性質の解明
1861(39歳) 『自然発生説の検討』を著し、従来の「生命の自然発生
説」を否定
1862(40歳) 発酵の研究: 低温殺菌法(パストリゼーション)の実験
1865(43歳) 蚕の「微粒子病(ノゼマ病)」 の原因として原生生物を特定
1885(63歳) 狂犬病ワクチン開発: 狂犬病を発病したウサギの脊髄を
摘出し、石炭酸に浸してウイルスを不活化する
1895(73歳) レーウェンフック・メダルを受賞
生命は生命から生まれる
パスツール
Louis Pasteur
1822 - 1895
自然発生説: アリストテレスの『動物誌』や『動物発生論』
1665年 フランチェスコ・レディの実験: 密閉容器ではウ
ジが湧かない。
レーウェンフックによる微生物の発見は、自然発生説を蘇
らせた。レディの実験は、空気を遮断したことによるので
はないか・・・
白鳥の首フラスコ
空気が通じている状態で、腐敗しないことを証明!
近代細菌学の開祖
感染症研究の開祖
パスツール
1876(33歳) 炭疽菌の純粋培養に成功し、炭疽の病原体で
あることを証明=伝染病の原因となる細菌を最初に証明
病原体であることの証明となる「コッホの原則」を提唱。
1882年3月24日(39歳) 結核菌を発見し、『結核の病因論』を
刊行。(これを記念して、3月24日は世界結核デー)。
1883(40歳) インドにおいて、コレラ菌を発見。
1890(47歳) 結核菌の培養上清からツベルクリンを作成。当
初は治療を目的としたが、診断に現在でも用いられている。
コッホ
Robert Koch
1843 - 1910
1905(62歳) ノーベル生理学・医学賞を受賞。
コッホの原則
1. ある一定の病気には一定の微生物が見出されること (=染色)
2. その微生物を分離できること(=純培養)
3. 分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること
4. そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること
哺乳動物ウイルスの発見:ワクチンと病原体
1898 コッホ研究所のレフラーとPaul
Froschは、口蹄疫に罹った牛の口と乳房の
水疱を子牛へ接種する実験を行い、シャンベ
ラン濾過器を通した後も感染性があり、濾過
性病原体によることを実証した。
現在でも、口蹄疫に関しては罹患動物の
殺処分が原則であり、ワクチンによる予防は 口蹄疫ウイルス
レフラー
行わない。不顕性感染等により、疾病排除が不可能となるか
Friedrich A. J. Loeffler
らである。 ヒト ⇔ 家畜、 個体 ⇔ 集団
1852 – 1915
最初のワクチンである種痘は1796年ジェンナーにより初めて行われ、それに続
いて1885年パスツールは狂犬病ワクチンを開発した。 種痘や狂犬病のワクチンが
始めて作成されたのは、いずれもウイルスの発見以前のことであり、それらのウイ
ルが発見されたのはずっとあとのことである。
原因が明確化されなくとも、対処方法を考えることは可能であり、「全てが判ら
ないと安心できない」という非科学的言動は間違っている。
ヒトを含めた動物が感染するウイルスの発見は口蹄疫が最初である。
ヒトに感染するウイルスの発見: 黄熱
1898 スペイン領だったキューバでアメリカとスペインの間で戦争勃発。部隊の将兵3分の1が
黄熱で斃死(戦死者を上回る) ⇒ 病原体の発見を目的とする「黄熱研究委員会」が Reed
陸軍軍医大佐の下に発足 ⇒ Carroll 博士と志願兵に、患者の血を吸った蚊を吸血させる
(幸い回復したが、ボランティアとはいえ人体実験) ⇒ 熱帯シマカによる媒介が判明
1927 Adrian Stokes サルに実験感染させることに成功 ⇒ 自らも感染して死亡(40歳)
1928年5月21日 野口英世(レプトスピラ説を訂正してStokes を支持)、 黄熱にて永眠
5月29日 野口と共同研究していた英国の病理学者Dr.Youngが黄熱で死亡
1927(28歳)
サルに黄熱を実験感染させ、濾過性病原体であることを証明
マックス・タイラー
1930(31歳) ハツカネズミに黄熱を実験感染させた
Max Theiler
感染実験を容易にした
1899 - 1972
ハツカネズミから自らも黄熱に罹り、それにより免疫を得た
1931(32歳) ロックフェラー財団に移ってから、回復患者や実験感染サルの
血清をハツカネズミに前投与すると、黄熱に抵抗性を示すことを発見。不活化
ワクチンよりも生ワクチンの有効性を信じ、強毒なAsibi株(西アフリカ由来)を
鶏胚で継代し始めた。 100代以上継代した時点で、弱毒化に成功
1937 ヒュー・スミスと共同で17-Dワクチンを発表
1951 ノーベル生理学・医学賞受賞
科学の発展の対価・・・
セントラルドグマ(Central dogma)
遺伝情報の伝達と発現
DNA→(複製)→子孫のDNA
(転写)→RNA
フランシス・クリック
Francis H. C. Crick
(翻訳)→タンパク質
ジェームズ・ワトソン
James D. Watson
1916 - 2004
1928 -
1947(31歳) 物理学から生物学に転向
1953(37歳) 「Nature」 に「核酸の分子構造」を投稿
Molecular structure of nucleic acids.
生物学に専念してからわずか6年にして大きな成果を
挙げた。しかも、37歳という若さで!
ケンブリッジ大学
キース校大食堂
を彩るDNAのス
テンドグラス
T(チミン) ー A(アデニン)
C(シトシン) ー G(グアニン)
ゲノム情報からタンパク質ができるまで
レトロウイルスと逆転写酵素(reverse transcriptase)の発見
1911 ラウス(F.Peyton Rous,1879-1970)が、ニワトリに肉腫を生じさせる濾過性病原体
の発見: 伝染性腫瘍に関する最初の実験的証明。後に、『ラウス肉腫ウィルス』。
1913 京都大学の藤波鑑 (1870-1934)も同様の発見。後に、『藤波肉腫ウィルス』。
RNAウィルス(レトロウィルス) セントラルドグマの崩壊???
RNAしか持っていないウィルスが、どのようにしてDNAを持った細胞をがん化
させるのか?
テミン(Howard M. Temin; 1934 - 94)は、 RNAがんウィルスはDNAになってから働
くと主張していたが、実験的証拠がなかった(この段階では単なる奇人、変人)。
1963年(テミン29歳)、DNAからの転写を抑制する薬剤(Actinomycin D)を作用
させると、 RNAウィルスによるがん化が抑制されることを発見し、RNAウィルスが
DNAを生産している証拠であると考えた。
1969年、テミンの研究室に来た水谷哲が、RNAウィルス粒子をつぶした液に
核酸を加え、 RNAを鋳型にしてDNAが合成されることを証明した。同時期にボル
チモアも同様の実験に成功し、テミン・水谷とボルチモアの論文は1970年6月の
『Nature』に同時に掲載され、ついに「逆転写」が認知された。
ビリオン(ウイルス粒子)の基本構造
カプシド(capsid):内部の核酸
をさまざまな障害から守る「殻」
の役割をしている
有機溶剤にも強い
カプソマー(capsomer):同じ構
造を持つ小さなタンパク質が多
数組み合わさって構成
エンベロープ(envelope): 脂質二重膜であり、宿主細胞から出芽
する時に宿主の細胞質膜や核膜の一部をまとったもの
有機溶剤で失活
ウイルス分類の基礎
1. 遺伝物質: DNAとRNA、一本鎖と二本鎖、直鎖と環状、分節数
たとえば、インフルエンザ・ウイルスは、8本のRNA分節からなるA型と
B型、 7本のRNA分節からなるC型がある
2. 粒子構造: ビリオンの形状、エンベロープの有無、大きさ
ヌクレオカプシド
左: 正二十面体様(アデノウイルス)
中: らせん状(タバコモザイクウイルス)
右: 複雑な対称性(バクテリオファージ)
3. 増殖様式: 複製様式、組立てと被覆の部位(核内、細胞質内)
細胞表面への吸着 → 細胞内への侵入 → 脱殻 → 部品の合成
→ 部品の集合 → 感染細胞からの放出
4. 血清型: 粒子表面構造の免疫学的特性(免疫原性)
5. 物理化学的性状: 化学物質(酸、アルカリ、界面活性剤、有機溶
剤)、熱、放射線に対する安定性
古典型ツツガムシ病
河川敷に生息したアカツ
ツガムシは減少し、夏期に
発生ピークはみられない。
河川改修などによる生態
系の変化 が、病気の発生
に大きく影響している。
成虫
ネズミ
ヒト
卵
幼虫
経
卵
感
染
第三若虫
第二若虫
第一若虫
ツツガムシの生活環
新型ツツガムシ病
新型の多くは鹿児島県で発生
山や草原に入った後で、発熱、リ
ンパ節腫脹、関節痛、結膜炎、気
管支炎などがあったら、病院へ。
関東~九州地方: タテツツ
ガムシとフトゲツツガムシは
秋~初冬に孵化するので、こ
の時期を中心に多くの発生
がみられる。
東北・北陸地方: フトゲツツ
ガムシは寒冷な気候に抵抗
性があり、一部が越冬して融
雪とともに活動するため、春
~初夏に発生が多い。
病原微生物の性状比較
原核細胞
真正細菌
マイコプラズマ
リケッチア
ウイルス
クラミジア
ファイトプラズマ
細胞構造
あり
なし
核酸
DNAとRNAの両方を持つ
どちらか片方
増殖様式
対数増殖(分裂や出芽)
一段階増殖
暗黒期の存在
単独で増殖
エネルギー産生
できる
できない(偏性細胞内寄生性)
できる
できない
マイコプラズマは、ペプチドグリカン細胞壁を欠くことで、真正細菌と区別される。
病原体の種類と宿主の例
動物のみ感染
人畜共通
人間のみ感染
ハンセン病、肺炎
球菌
グラム陽性
細菌
ヨーネ病、気腫疽
炭疽、結核、破傷風、
ボツリヌス、黄色ブドウ
球菌、豚丹毒
グラム陰性
細菌
豚赤痢、豚大腸菌
症(浮腫病)、豚ヘ
モフィルス性肺炎
ペスト、細菌性赤痢、
サルモネラ、腸管出血
性大腸菌、カンピロバ
クター
コレラ、腸炎ビブリ
オ、腸チフス、パラ
チフス、レジオネラ
ツツガムシ病、Q 熱、
日本紅斑熱、ロッキー
山紅斑熱
発疹チフス
リケッチア
DNA
ウイルス
鶏痘、アフリカ豚コ
レラ、オーエスキー、 牛痘、サル痘
豚サーコウイルス
痘瘡(天然痘)、
B型肝炎、伝染性
紅斑
RNA
ウイルス
狂犬病、黄熱 、インフ
口蹄疫、牛疫、水
胞性口炎、豚コレラ、 ルエンザ、重症急性呼
豚水胞病
吸器症候群
手足口病、麻疹、
風疹、流行性耳下
腺炎
伝染病: ヒトと物資の国際移動
様々な病原体が存在し、中世のペスト、痘瘡(天然痘)、コレラ、1918年のス
ペイン風邪のように、多数の人命が失われた世界的大流行を経験してきた。
検疫: 1383年マルセーユで「沖合い停泊40日」を制度化
世界不況
自国の産業保護
関税引き上げ
貿易数量制限
為替制限
1944年 ブレトン・ウッズ会議(米国)
世界戦争の回避策
1947年 第1回関税交渉妥結 → ガット採択
第一次世界大戦
第二次世界大戦
国際復興開発銀行( IBRD ;1945)
国際通貨基金( IMF ;1947)
ガット体制(GATT; 1948 )
「関税及び貿易に関する一般協定」
経済紛争の元となる貿易障壁をなくし、自由貿易を確保する基本原則
(i)貿易制限措置の削減
(ii)貿易の無差別待遇(最恵国待遇、内国民待遇)
GATT 第20条 一般的例外: 動植物防疫に係る検疫等の措置
「衛生植物検疫措置の適用に関する(SPS)協定」
ウルグアイ・ラウンド(1986 ~1994)妥結: 農産物貿易の原則自由化
1995年 世界貿易機関( WTO ) ← ガット体制
「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(通称:WTO設立協定)」
危
害
因
子
に
つ
い
て
の
国
の
衛
生
基
準
B国
A国
非関税障壁
(WTO訴訟)
E国
C国
国
際
基
準
D国
自由貿易の枠組み(WTO)と衛生基準の関係概念図
衛生および食物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)
貿易の技術的障壁に関する協定(TBT協定)
ヒトの伝染病制御の国際的枠組み
国際検疫伝染病: 痘瘡(天然痘)、ペスト、黄熱、コレラ
1979年 WHOの痘瘡根絶計画により、地上から痘瘡ウイルスが消滅
国際検疫伝染病: ペスト、黄熱、コレラ
国際保健規則( 2005 ): IHR(2005)
・ 様々な新興感染症が出現した
・ アメリカ同時多発テロ事件(2001年9月11日)により、攻撃手段が無差別化した
痘瘡(天然痘)
野生型ポリオ
新型インフルエンザ
重症呼吸器症候群
無
条
件
で
報
告
コレラ、肺ペスト、黄熱、ウイルス性出
血熱(エボラ出血熱、ラッサ熱、マー
ルブルグ病)、ウエストナイル熱、その
他(デング熱、リフトバレー熱)
・
・
・
・
公衆衛生上の影響
通常と異なるか、予期し得ない事象
国際的拡大の危険性
国際的な旅行や取引の規制を招く
国際保健規則に基づくWHOへの報告
条
件
付
き
報
告
家畜伝染病制御の国際的枠組み
世界獣疫局(OIE): 1924年に国家間協定によって設立された。1945年の国際連
合発足後は、国際連合食糧農業機関(FAO)の技術的専門機関の役割を担ってき
ている。
陸生動物衛生規約
第1巻: 総則
第1部 動物疾病の診断、広域調査および通知
各国の国内法(日本では家畜伝
第2部 リスク解析
染病予防法)は、この国際法に準
第3部 獣医療組織の品質
拠していなければならない。
第4部 総括的勧告: 疾病の予防と制御
4.1章 生きた動物の特定と遡及調査可能性の一般的原則
4.2章 動物の遡及調査可能性を実現するための特定システムの立案と実施
4.3章 地区割と区画化
4.13章 斃死動物の廃棄
4.14章 消毒と昆虫駆除に関する一般的勧告
4.16章 衛生手順、特定、採血およびワクチン接種
第5部 貿易施策、輸入/輸出手順および獣医療証明書
第6部 獣医公衆衛生
第7部 動物福祉
第2巻
OIEリスト疾病および国際貿易において重要なその他の疾病に適用可能な勧告
口蹄疫に関するOIE基準
世界獣疫局(OIE): 1924年に国家間協定によって設立された。1945年の国際連
合発足後は、国際連合食糧農業機関(FAO)の技術的専門機関の役割を担ってき
ている。
第5.5章 口蹄疫
8.5.1条
国際陸生動物衛生規約において、口蹄疫(FMD)の潜伏期間は14日とする。
本章において、反芻動物にはラクダ科の動物(ヒトコブラクダを除く)を含む。
本章において、症例には口蹄疫ウイルス(FMDV)に感染した動物が含まれる。
国際貿易のため、本章はFMDVによる臨床徴候の発現のみならず、臨床徴候が発現して
いないFMDV感染についても取り上げる。
FMDV感染の発生とは以下のように規定される。
1. 当該動物やその動物に由来する製品からFMDVが分離同定された。または、
2. FMDVの血清型の1種以上について特異的なウイルス抗原やウイルス核酸(RNA)が、
口蹄疫と合致する臨床徴候を示していようがいまいが、確定または擬似の口蹄疫発生と疫
学的に関連していようがいまいが、あるいは、FMDVとの過去の関連または接触の疑いが
あろうがなかろうが、一頭以上の動物からのサンプルにおいて特定された。または、
3. ワクチン接種の結果ではないFMDVの構造蛋白または非構造蛋白に対する抗体が、口
蹄疫と合致する臨床徴候を示している、確定または擬似の口蹄疫発生と疫学的に関連して
いる、あるいは、FMDVとの過去の関連または接触の疑いがある一頭以上の動物で特定さ
れた。
8.5.8条
清浄資格の回復
1. ワクチン接種が行われていない口蹄疫清浄国または清浄地帯で口蹄疫または
FMDV感染が起きた時、ワクチン接種が行われていない口蹄疫清浄国または清浄
地帯の資格を得るために以下の待ち期間の一つが求められる。
a. 第8.5.40条から第8.5.46条に従って殺処分政策および血清学的発生動向
調査が適用されている場合、最後の症例から3ヶ月。または、
b. 第8.5.40条から第8.5.46条に従って殺処分政策、緊急ワクチン接種、およ
び、血清学的発生動向調査が適用されている場合、全てのワクチン接種動物が食
用と殺されてから3ヶ月。または、
8.5.40条
発生動向調査(surveillance): 緒言
加盟国が、その対応を支える関係する地域における口蹄疫の疫学を説明するの
みならず、全てのリスク因子の管理方法を証明する関係書類をOIEに提出すること
は義務である。これには科学に基づく添付資料の提出を含むべきである。
8.5.42条
発生動向調査の戦略
8.5.45条
発生後に、口蹄疫清浄の認知を申請する加盟国: 追加的発生動向調査手順
8.5.46条
血清学的検査の利用と解釈(図1参照)
積極的発生動向調査地帯
Active surveillance zone
臨床検査と血清学
的検査により摘発・
処分を行い、感染拡
大を防ぐ。発生確認
の場合は制限地帯
の見直しが必要。
感染地帯
Infected zone
殺処分
清浄地域
図1. 血清学的な調査を通した、あるいは、その後のFMDV感染
の証拠を判定するための試験所検査の概要図
Disease-free zone
消毒
1日目
3日目
2日目
10日目
発生動向調査の概要
<遡及調査>
<追跡調査>
潜伏期間内の関連施設等の検査
ウイルス排出期間内の関連施設等
発生後2週間に亘る
観察、検査
5km
A
10km
B
B
1km
肉眼病変の経過
日数が判定できれ ・
ば、絞込みが可能 ・
・
・
・
・
C
0.5km
X
発
生
農
場
C
X
・
・
・
・
・
・
感染地区
8km
Y
Z
7km
A
C
発生動向調査地帯
清浄地域
口蹄疫ウイルスに感染していない牛
の赤外線映像。蹄が赤くないことに
注目。
口蹄疫ウイルスに感染している牛の
赤外線映像。蹄が赤いことに注目。
蹄の赤色は発熱を示す。
何
等
か
の
臨
床
徴
候
を
示
し
始
め
る
48
時
間
前
に
特
定
で
き
る
。
6. 児湯郡都農町 4月23日
水牛42頭 (3/31陽性) 、豚2頭
1. 児湯郡都農町 4月20日確認。
繁殖牛農家 16頭(4/9第1報)
10. 児湯郡川南町 4月28日
畜産試験場川南支場 豚 486頭
え
び
の
市
16
発生戸数
14
県
畜
産
試
験
場
・
え
び
の
市
12
10
8
6
4
2
0
水
牛
県
家
畜
改
良
事
業
団
:その他
西都市
山
羊
ワ
ク
チ
ン
接
種
5/19決定
5/22-26
:豚
:牛
都
城
市
宮日
崎向
市市
30
千頭
発生頭数
25
20
:豚
15
:牛
10
5
0
25
20
15
10
5
0
処分頭数
10
万頭
未処分頭数の推移
8
:豚
:牛
6
4
2
0
12
戸数
牛
発生日別にみた処分日数
10
8
6
4
2
0
8
6
4
2
0
豚
:15以上
:8~14
:4~7
:1~3
宮崎県における流行の特徴
県による疫学調査が行われていない(または、発表されていない)
国内初発と思われる6件目の水牛農家が、何時頃から、どのような状況にあったのか?
えびの市への飛び火はどのようにして起きたのか?
県畜産試験場での発生確認までの状況はどうだったのか?
科学的根拠がない対処
10km圏内の
発生農家から
把握の遅れ
爆発的発生
の通報待ち
ワクチン接種
水泡病変の特徴から凡その感染日が推定でき、感染源となった施設を特定できれば、そこ
からの広がりを調査することが可能となる。獣医師を殺処分に専念させたツケ。
補償交渉を優先させた結果、殺処分、ワクチン接種が遅れた
法律に基く殺処分には補償規定がある。それが実体に合わないものであっても、流行拡大
を防ぐことを優先し、補償金額等は収まった段階でも十分可能である。「埋却地がない」とい
う問題も、結局は補償問題だったのではないか? これらのことは、伝染病流行時における
前例としてはならない。
ワクチン接種地帯外周についての血清学的調査が終わっていない
農水省「宮崎市の清浄性確認検査の結果について」にあるように、「清浄性確認のための
検査(抗体検査及び臨床検査)」がその他の市部の発生では行われてきたのであり、移動
制限解除の要件を満たしている。ワクチン接種地帯の外周が例外とするのは何故か?
各国における流行
米国: 1914年にミシガン州で始まった流行は3500農場の17万頭が感染し、カリフォルニ
ア州での1924年の発生では約11万頭が殺処分され、同じくカリフォルニア州で1929年にはア
ルゼンチンからの旅客船の残飯を給餌された豚で発生したが、その後の発生はない。
英国: 1967年に雌豚の跛行から始まった流行は、44万頭の殺処分にまで広がったが、
その感染源はアルゼンチンとチリから輸入された子羊の肉と信じられている。2001年には
2000件を超える農場で発生し、700万頭の牛と羊が殺処分される大流行となった。その原因
として不法に持込まれた感染肉を含む残飯の給餌が疑われており、移動禁止の3日の遅れが
拡大につながったとされている。2007年の発生に際しては即日の殺処分が功を奏し、散発的
発生に封じ込めた。
台湾: 1997年に3月中旬に豚の感染が発見され、わずか2ヶ月余でほぼ全土に広がり、
6,147農場で101万頭が発症し、18万頭が死亡した。殺処分は総飼育頭数(10,681,542頭)の
36%に相当する385頭に達し、緊急ワクチン接種によってようやく終息した。2003年5月にワク
チン接種清浄国に認定され2008年8月以降段階的にワクチン接種を中止したが、2009年に
ワクチン接種していない豚からウイルスが検出され、ワクチン接種を再開した。2010年2月に
馬公市、6月に雲林県で発生したが、速やかに清浄化(ワクチン接種国)した。
韓国: 2002年FIFAワールドカップを控えた5月から6月に16件の発生が確認され、約16
万頭の牛が殺処分された。米国の農業テロ対策に準じて事前対策を訓練してきた成果により、
2010年1月の発生以降、A型が5件、O型が12件発生したがいずれも単発的発生に封じ込め、
6月19日に清浄化宣言した。
中国: 日本での2000年の発生は中国から輸入された稲藁とされているように、口蹄疫常
在国みなされてきたが、OIEへの発生報告は行われてこなかった。2005年のOIE報告以降、
現在まで断続的に感染が続いており、2009年末のA型発生から2010年2月以降O型へと変
化し、各地での流行が報告されている。
8.5.2条
ワクチン接種が行われていない口蹄疫清浄国
ワクチン接種が行われていない口蹄疫清浄国における感受性動物は、隣接する
汚染国から、物理的または地理的な障壁を考慮に入れて、ウイルスの侵入を効果
的に防ぐ動物衛生措置の適用によって、防御されなければならない。それらの措
置には防御地帯が含まれる。
ワクチン接種が行われていない口蹄疫清浄国の既存のリストに含まれるための
資格を得るには、加盟国は以下の義務を負う。
1. 定期的および迅速な動物疾病報告の記録を保持する。
2. 次の事項を明言した宣言書をOIEに送付する。
a. 過去12ヶ月間に口蹄疫の発生がなかった。
b. 過去12ヶ月間にFMDV感染の証拠が全く見つからなかった。
c. 過去12ヶ月間に口蹄疫に対するワクチン接種を行っていない。
d. ワクチン接種を中止して以降、ワクチン接種動物を全く入れていない。
3. 以下の事項について文書化された証拠を提出する。
a. 第8.5.40条から8.5.46条に従った口蹄疫およびFMDV感染についての発生
動向調査が実施されている。
b. 口蹄疫の早期の発見、予防および制御のための法的措置が実施されてい
る。