平成15年度卒業研究 発展途上国の水環境と健康障害 -飲料水のリスク評価- 四蔵研究室 駒谷瞳 研究目的 本研究では、アジアで最も開発が遅れた国ネパールを事例に 、水系感染症対策の第一歩として飲料水のリスク評価を行う。 水道の普及が遅れたネパールでは、汚染された河川水や地 下水が人々の主要な水源になっている。そのため、人々は下痢 症や赤痢といった感染症に苦しめられる結果となっている。 本研究では、ネパール国の首都カトマンズ市内に点在する4 種類の水源(素掘井戸、ヒティ*、浅井戸、深井戸)を取り上げ、3 つの感染症(サルモネラ症、コレラ、赤痢)についてリスク評価す る。 *ヒティとは中世に建造された石造り暗渠の水道施設のこと。 研究方法 リスク評価の方法はモンテカルロシミュレーションであ る。水を飲料することにより摂取される病原性細菌数[用 量(D)]はD=VCEと表現できる。ここで、Vは摂取される 水量(平均1ℓ、標準偏差0.1の正規分布)、Cは水中の病原 性細菌濃度(負の二項分布)、Eは除去率(一様分布)であ り、それぞれかっこ内の分布形を仮定した。用量反応モデ ルはベータモデルとした。以上の仮定の下、モンテカルロ 法を用いて用量(D)を確率的に発生させ、個人の一日当た り感染確率、さらに年間感染確率を計算した。最後に、得 られた年間感染確率の分布形をベータ分布で近似し、集団 の感染確率を計算した。なお、病原性細菌濃度は大腸菌群 数と罹患率からKehr&Butterfieldの近似式を利用し計算した 。また、対象人口(試行回数)については、結果の定常性 を検討し10,000人とした。 研究結果 計算の結果、いずれ の感染症に関しても素 堀井戸が最も高い感染 リスクを持つことが示 された。 表 1 は 水系感染症の 年間許容感染リスクを 1/10,000とした場合の 必要除去率を計算し 表1 1/10,000感染リスクを満たすために 必要なlog除去率* 水源種類 サルモネラ症 コレラ 素掘井戸 3 2 ヒティ 2 2 浅井戸 2 1 深井戸 2 1 *log除去率; 2log=0.99, 3log=0.999 赤痢 4 4 3 3 た結果である。サルモネラ症は2〜3log、コレラは1〜2log、 赤痢は3〜4logの除去率が必要であることがわかる。今後の 感染症対策においては、素堀井戸やヒティ利用世帯をター ゲットとし、4logの除去率を達成できるような対策が課題に なる。
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