編集・発行/信楽園病院検査科 第 10 号 2006年8月発行 正常値ってなに? 臨床検査技師 矢貫 恒一 2004 年の4月に第 1 号を発行してから今回の 10 号が新病院での再スタートになります。 当院を受診される皆さまに少しでも臨床検査について理解して頂き、安心して治療を受けることができるよう に、との思いから『検査室だより』を年4回発行してまいりました。第1号の花粉症から、細菌性食中毒、心臓 の検査1・2、輸血、肝炎ウイルス、便潜血検査、インフルエンザ、酵素ときましたが、今回は正常値(当院で は基準値とも呼んでいます)です。 健診や、医療機関を受診され、検査報告書を頂かれた方はご存知のとおり、検査結果と一緒に一定の検 査値幅が項目ごとに表示されています。得られた検査結果が 異常 か 正常 かの判定基準(物差し) としての正常値・基準値や、臨床判断値と呼ばれるものです。 ◆正常値・基準値◆ この数値幅(以下、基準値)は、通常、20∼60 歳辺りの健常者の測定値を多数集め、その内の約 95% の人が入る枠内で設定された統計学的数値です。健常者を 異常値 と判定する危険度と、病気の人を 異 常なし と判定する互いの危険度が最も低い点が 95%範囲と言われています。しかし、5%の人は健康で ありながら、基準値から外れることがありますし、また、高齢者や未成年者(特に小児)では年齢別の基 準値が必要な検査項目もあります。さらに、基準値設定時の健常者集団が異なったり、検査方法や測定機 器が違うことで異なる検査値が得られることもあります。一部の検査項目では標準化(どこの施設で測定 しても同じ結果が得られる)されてきてはいますが、まだ不十分です。現状では、経過を追って観察する 場合、可能であれば同じ医療機関や検査施設で検査を受けることが得策と考えられます。 ◆臨床判断値◆ 検査の使用目的によって同じ項目でも判断基準が異なり、病態識別値、治療目標値、カットオフ値、パ ニック値など種々の判断値があります。病態識別値は、個々の疾患の診断のために定められた診断基準で、 75g ブドウ糖負荷試験の糖尿病判定基準値や、 高尿酸血症診断のための血清尿酸値などがあります。また、 治療目標値は、治療を開始する判断のための基準や治療の目標値で、高脂血症治療のための総コレステロ ール濃度などがあります。カットオフ値は、日本語で振り分け値とよぶべき性格のもので、ある臨床目的 に対して陽性か陰性かを判断するために設定される測定値です。悪性腫瘍の補助診断に利用される腫瘍マ ーカー検査でよく使われますが、良性疾患と悪性腫瘍を鑑別するのに診断効率の高い測定値です。そして、 緊急時の病態を反映する基準がパニック値(緊急異常値)です。 正常の基準や定義があいまいであることや、人種、年齢、性別、地域差、食習慣、職業、季節、食事、 体位、運動、性周期、妊娠など多くの基準値変動要因があります。このように基準値による検査結果の評 価はあくまで診療情報の一つとして理解し、最終的には医師による総合的判断が必要となります。 ◆紙面裏に、当院の『臨床検査 基準値一覧』を掲載いたしました。ご参考にしてください。
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