PDF(1.90MB) - 学研 学校教育ネット

小学
ジャーナル
72
NO.
心の時代は来ている
のか
ように感じていた。その感覚はなかなか抜けな
に感じ、科学技術が高度に発達した夢の時代の
ころは、二十一世紀というとはるか未来のよう
ってから、十年ほどが経過した。私が子どもの
気がつくと、二十一世紀と呼ばれる時代にな
による重大な事件が増えていると思うか、減っ
「実感として、おおむね五年前と比べて、少年
る世論調査」を行っている。その中の質問に
二十歳以上の成人を対象に、
「少年非行に関す
で聞かれる。内閣府は平成二十二年に、全国の
化につながっている」という意見は、あちこち
松尾 直博
東京学芸大学教育学部准教授
い。今でも、二十一世紀というとそうしたSF
ていると思うか」というものがある。あなたな
のような世界を思い浮かべる。しかし、現実に
ら、どう答えるだろうか。
結 果 は、
「増えている」とする者の割合が
は今、私たちが生きている毎日が、二十一世紀
なのである。なんとも不思議な感じがする。二
・ %(
「かなり増えている」 ・8%+「あ
か。そして、その変化はよい方向に向かってい
変わったとしたら、何が変わっているのだろう
とする者の割合が ・ %(
「ある程度減って
と答えた者の割合が ・7%、
「減っている」
る程度増えている」 ・8%)
、
「変わらない」
十一世紀になって、何か変わったのだろうか。
るのだろうか。それとも悪い方向に向かってい
0
4
0
18 37
3
じている人は %に過ぎない。
件が増えていると感じており、減っていると感
%)だった。多くの人が、少年による重大な事
7
「最近の子どもや若者は規範意識が低下して
それでは実際にはどうなのだろうか。次のペ
3
ージの図 に、刑法犯少年(十四歳から十九歳
二十一世紀の子ども
~非行をめぐって
いる」 ・ %+「かなり減っている」 ・
37
るのだろうか。
6
2
おり、それが少年犯罪の増加、凶悪化、低年齢
75
1
●21世紀・心の時代に
心の時代は来ているのか 松尾直博……………1
●道徳授業 私の実践
認識と行動の統一をめざす授業構想 吉原聖人……………4
夢に近づく生き方の授業 村上孔明……………6
●子どもの目が輝く道徳授業(第6回)
金井 肇……………8
81,512
62,637
54,784
知能犯
584
784
1,294
1,144
風俗犯
429
425
346
399
31,609
45,115
37,553
25,353
る。
少してい
下にまで減
年で半数以
は、ここ十
や粗暴犯
る。凶悪犯
ことがわか
少が著しい
じるのであろうか。
ると考えている。このギャップは、どこから生
かわらず、多くの大人は少年非行が増加してい
なく、むしろ少年非行は減少している。にもか
加したり、凶悪化したりしているという事実は
いる。こうした結果を考えると、少年非行が増
いる少年非行が特にないという人が増えてきて
も、実際に自分の周囲で起こって問題となって
いて特に顕著である。また、内閣府の調査で
の回答でも、興味深い結果がある。先に述べた
かを述べているのではないだろうか。
虚像から感じた事実と異なる印象をもとに、何
表1 刑法犯少年の包括罪種別検挙人員の推移
(人)
ように、少年による重大な事件が、
「増えてい
いったいどれだけの大人が、今を生きる子ど
77,903
「少年非
窃盗犯
もたちや若者の実像と向き合って、何かを感
7,653
行に関する
949
9,817
じ、何かを述べているだろうか。インターネッ
1,170
14,356
世論調査」
2,212
19,691
トやマスメディアが作り出した子どもや若者の
2,120
粗暴犯
の他の質問
凶悪犯
その他の刑法犯
112,817
90,282
144,404
132,336
の男女)の検挙人員と人口比の推移(警察庁に
2
人口比
4
2
注:少年人口比とは、
「少年人口1,000人当たりの検挙人員」をいう。
ら十九歳であった若者たちである。学生たちの
およそ五年間で、実際に周囲で起こり問題とな
て言われ続けてきたから」
「私たちは『ゆとり
ていると思った。今の子どもや若者はヤバイっ
非行の統計によると、近年、少年非行は急激に
整理してみよう。警察庁が発表している少年
かった」と感想を述べていた。
私たちの世代をほめてくれる大人は、誰もいな
も、いいところもあると知って、うれしかった。
世代』と言われ続けて、劣等感が強かった。で
減少してきており、それは凶悪犯や粗暴犯にお
%程度増加しているのである。
っている少年非行が特にないと回答した人が、
9
二十一年では十万人を下回っている。少子化の
行われた調査では、同じ質問に対して「特にな
ほとんどは、この事実に驚く。
「てっきり増え
44
い」という回答は ・ %であった。つまり、
3
34
影響の可能性もあるので、少年人口千人あたり
の検挙人員を示す人口比を表した折れ線グラフ
を見てみよう。こちらも、急激に下がってきて
おり、少年非行は減少していると言える。
今度は、罪種別に少年非行の推移を見てみよ
う。表 は、罪種別の検挙人員の推移(警察庁
少の傾向にあり、特に凶悪犯や粗暴犯でその減
による)である。知能犯以外は、検挙人員は減
1
10
検挙人員
私は大学の授業で、本稿で示したような統計
6
4
ると思う」と回答した人が多いのだが、別の質
8
6
などを示しながら、少年非行が急激に減ってき
10
問で「実際にあなたの周囲で起こり問題となっ
12
10
まず、検挙人員(棒グラフ)を見てみよう。
14
12
ていることを大学生たちに話す。今の大学生
16
14
ている少年非行」を聞いており、
「特にない」
18
16
ここ数年、急激に減少しており、平成二十年、
18
は、少年犯罪が急激に減少した時期に十四歳か
8
よる)を表したグラフを示した。
20
(万人)
20
21
18
15
12
年次(平成)
区分
総 数
0
21(年)
19
17
15
13
11
9
7
5
3
元
0
少年人口比
少年検挙人員
という回答が ・ %であった。平成十七年に
図1 刑法犯少年の検挙人員・人口比の推移
(平成元~21年) ている。そして、研究者として、あるいはカウ
私は、大学教員として大学生と日常的に接し
し、平成二十年に初めて %を超えている。国
すべきだ」と回答した人の割合はしだいに増加
した毎日から、少なくともマスメディアが言う
等学校に通う子どもたちと関わっている。そう
ンセラーとして、幼稚園、小学校、中学校、高
会のために役立ちたいと思っているか、それと
調査では、
「日頃、社会の一員として、何か社
のように変化しているのだろうか。前述の世論
二十一世紀の大人の社会貢献への意識は、ど
世紀になって増加してきていることがわかる。
た人の割合は、平成十二年に最も低く、二十一
民全体の利益を大切にすべきだという回答をし
ているのだろうか。個人的には、心を大切にし
あると思われる。はたして、心の時代は到来し
タは、それぞれの人の直感や印象よりも有用で
しかし、たたき台としては、本稿で示したデー
査で、人の心のすべてがわかるわけではない。
的である。したがって、犯罪数の統計や世論調
人の心は多様であるし、一人の心の中も多面
心の時代は到来しているのか
ほど、今の子どもや若者は悪くないし、むし
も、あまりそのようなことは考えていないか」
ようという意識と願いは感じられ、心の時代の
側面があるが、ここでは他者や社会を大切にす わってきているであろうか。心にもいろいろな
前は拮抗していた。近年は、
「思っている」の
と「あまり考えていない」の回答の割合は、以
いは高まっても、実際に心を大切にできる人が
到来を実感することもある。しかし、意識や願
平成
(まつお なおひろ)
来の足音にしっかりと耳を傾けたい。
い流れを止めてしまうこともある。心の時代到
点もある。良い変化にも目を向けなければ、良
が悪くなっているのではなく、良くなっている
暗い話題が多い昨今だが、実際には何もかも
努力を続けていきたいと思う。
れない。そのことを期待しているし、私自身も
多くの人が胸を張って言える時代が来るかもし
「二十一世紀になって心の時代が到来した」と
間」
「空間」
「人間」を増やすことができれば、
増えてきているかというと、道半ばという感じ
10
回答が「あまり考えていない」よりも多くなり、
20
る心を中心に、いくつかのデータを見てみよう。
30
もする。心は、
「時間」
「空間」
「人間(関係)
」
では、二十一世紀になって大人の心はどう変
二十一世紀の大人の心
ろ、魅力にあふれていると感じている。
についても聞いている(図 )
。
「思っている」
50
2
40
特に平成二十年には社会に役立ちたいと考えて
50
全体の刑法犯(十四歳から十九歳の少年を含
60
という三つの「間」の中で育つ。豊かな「時
70
いる大人の割合が一段と高くなっている。
(%)
80
む)の認知件数は、平成八年から十四年まで毎
年戦後最高を更新し続けて、平成十四年に過去
最高の285万件を突破した。しかし、平成十
五年から減少に転じ、平成二十一年には170
万件程度になっている。成人の犯罪も、全体と
しては減少傾向になっていると言えよう。
最近の大人は、個人の利益と国民全体の利益
のどちらを大切にすべきと考えているのだろう
か。内閣府が、
「社会意識に関する世論調査」
として、二十歳以上の成人を対象に昭和四十四
2
49
あまり考えていない
思っている
8 10 12 14 16 18 20
(年)
4
51 53 55 57 59 61 63
0
昭和
年からほぼ毎年調査している結果がある。
「個人の利益よりも国民全体の利益を大切に
図2 何か社会のために役立ちたいと
思っているか
道・徳・授・業
私の実践
認識と行動の統一をめざす
授業構想
吉原 聖人
振り返り、何もできなかった自分
香川大学教育学部附属高松小学校 ─ 一 年生「生命尊重」の授業実践 ─ 香川県小学校道徳教育研究会作
み物資料から学んだり、生活経験
から見聞きしたりして感じたこと
から想像を広げ、それを自分の生
き方と結び付け、生かしていこう
と す る 姿 を 期 待 し て、
「想像力」
に着目して支援を考えました。
授業実践から
体験活動をとおして
生命観を育む
キュラムの中で位置付けています。
とをめざすふれあい学習を、カリ により道徳性や社会性を育てるこ
合し、認識と行動を統一すること
本校では、道徳と特別活動を統
ることが有効であり大切であると
験の中で生きていることを感じ取
命の尊さを理解するには、生活経
ほとんどです。この段階において
ての理解に留まっている子どもが
と戻らない」といった、知識とし
くてはならない」
「一度なくなる
「一つしかないもの」
「大切にしな
一年生の発達段階では、生命は
ふれあい学習では、認識と行動
⑷
「 認 識 と 行 動 を 統 一 す る 力 」
を明確にする
と思いました。
て考えを深められるようにしたい
生きた証にふれ、命の尊厳につい
ました。授業の中で、そのような
いることを実感させられると考え
積み重ねられ、成長につながって
付かせることで、生きている証が
付くことができました。
れを教師が図に表していく中で、
かわった経験をも
れまで動植物にか
ているのかを、こ
どのようにとらえ
階において、命を
一年生の発達段
からできることが増えた自分に気
今回の実践では、中心価値とし
考えられます。そこで、植物を栽
を統一する力は、
「想像力」
「判断
⑶ 指導観
て、学習指導要領3─⑴「生きる
培し、動物を飼育する体験活動を
力」
「自己評価力」
「思考力」
「実
⑵
主
体的に生命にかかわる体験
活動
⑴
一
年生にとっての命について
考えさせる
ことを喜び、生命を大切にする心
とおして、人の命も同じように成
践力」の五つの力から形成される
実践をとおして中心となるの
⑵ 資料名
「ピーターのいのち」
生活の中にあふれる命について気
とに子どもたちが語りました。そ
をもつ。
」を取り上げました。
長していくことに気付かせたいと
と考えています。本主題では、読
⑴
主
題名
「いのちを みつけよう」
思いました。また、自分の成長を
認識と行動の統一
1
をめざす授業
2
道・徳・授・業 私の実践
が、命を育てる体験活動です。ど んな動植物をどのように育てたい
のかを、子どもたちと話し合いま
した。そして、子どもの主体性を
重視して、一人ひとりが活動に携
わることができるように、栽培・
飼育計画を立て、学習環境を整え
ました。
○植物
読み物資料「ピーターのい
のち」から価値を自覚する
を押して、えさのある方を教えて
ていたラビットがピーターの背中
まいました。すると一緒に生活し
い、えさを食べられなくなってし
て両目とも見えなくなってしま
ことができ
を実感する
からの愛情
いつも大事にしてくれている家族
を比べることで、自分の成長と、
て、現在使っているものと大きさ
ました。
実践をとおして扱っている「
『い
⑶ 生命観を育むポートフォリオ
・金魚
・カメ
○動物
・ヒヤシンス
・チューリップ
腫れ上がって見えなくなったピー
資料では、ある日、片方の目が
を設定し、資料を提示しました。
みつを考えよう。
」と本時の課題
「いのちを守り育てていくことのひ
かを考えられるようにするため、
んな気持ちで世話をすればいいの
栽培・飼育活動を行う中で、ど
読み物資料から学んだ道徳的価
⑵ 生きていることを実感する
できていることがわかりました。
囲の人々からの愛情を受けて成長
も、自分一人の力だけでなく、周
し 合 い ま し た。 子 ど も た ち 自 身
資料から自分の生活に返して話
・自分
でがんばるピーターはす
ごい。
・ラビ
ットのように応援したい。
ことを実感すると、他の人にも
が一人で生きているのではない
と声をかけてくれました。自分
に 思 っ て く れ て い る ん だ ね。
」
「ママ! ありがとう!」
「大切
⑷ 家庭からの反応
ワークシートにこれからどんな気
発問を投げかけました。そして、
情をもって、金魚やヒヤシンスを
本時の後段では、自分自身は愛
⑶ 体験活動へ返す
あげるのです。
このような姿から、命の大切さ
について話し合いました。
・周り
の人の応援やラビットの支
えがあったから、ピーターが助
のち』はっけん カード」には、
ターを、子どもや先生が見つけて
値を道徳的実践につなげるために、
子どもたちは、それぞれに課題
⑴
ピ
ーターやラビットの心情に
迫る
日常生活で気付いた多様な命につ
介抱します。そのときの子どもた
自分の成長を実感する活動を取り
を見つけながら、命を大切にする
・パンジー
いて書き綴るようにさせました。
ちの気持ちについて話し合いまし
入れました。保護者に協力してい
ことについて考えを深めることが
できているのかを見取ったりする
育てることができているかを問う
また、抽象的である「生きている
た。
ただき、子どもたちが幼いころに
できました。
かったんだ。
証」を可視化して見つける手がか
・この
まま、生きられないんじゃ
ないかな。
使っていた服や靴、思い出の品を
ことにも使いました。
(よしはら まさと)
優しくなれるように思いました。
いくのかを記入させました。
持ちで動植物の生命とかかわって
りとしたり、自分の成長とつなげ
・ぼく
たちが、がんばって命を
助けてやる。
用意してもらいました。手に取っ
て扱ったり、価値認識がどの程度
その後ピーターの症状は悪化し
『いのち』はっけん カード
道・徳・授・業
私の実践
した。
つかは死ぬのなら、その日まで少
二つの言葉を授業の中心に据えま
しでも前向きに生きたい」という
夢に近づく生き方の授業
勝、オ リ ン ピ ッ ク で の 史 上 初 の
がんになってもくじけなかった
~資料 そ「の日まで、
少しでも前向きに生きたい を」通して
「スロートリプルアクセル」
、そし
レナさんは、二度の全米選手権優
村上
孔明
行った公開授業です。
究会・道徳教育研究会芳賀大会で
っているかだということを表して
力をしていないか、挫折体験をも
の児童が、夢に向けて具体的な努
耳にしました。この言葉は、多く
りやれてない」という言葉をよく
した。
生の児童に考えてほしいと思いま
の気持ちを、大きな夢をもつ五年
にすべてをかけることにした彼女
何の保証もない時点で、スケート
論。がんが完治するかわからない、
栃木県芳賀郡益子町立七井小学校教諭
てペアを組むジョンさんとの結婚
など、人生において満開の花を咲
主題名 夢に近づく前向きな生き
いました。夢に近づく努力をして
授業の実際
かせました。しかし、それは結果
子どもを育む道徳教育─心にひび
方
いない児童にはそのきっかけを、
はじめに
く魅力ある道徳の時間の工夫─」
資料 「その日まで、少しでも前
挫折体験をもつ児童には再度挑戦
課題を「豊かな心で、共に生きる
本校は、平成二十二年度の学校
と設定し、
児童が考えを出し合い、
向きに生きたい」
(
『みんなのどう
年』学研)
実践内容
深めながら、自分の生き方を見つ
とく 主な研究内容として、
「学習指
任していました。スポーツ少年団
当時、素直で明るい五年生を担
きたい」の資料に出会いました。
「その日まで、
少しでも前向きに生
そんな思いを抱えているとき、
るかわからないものだということ
んのお父さんのように、いつ訪れ
とに思える死が、実際にはレナさ
資料範読後、小学生には遠いこ
く」
「とらえる・考える」
「深める」
導過程の工夫」
「多様な学習指導
活動、習い事、学習、趣味などに
授業の視点
に触れました。次ページにあるの
する勇気をもってほしいと思って
本 校 で は、 指 導 過 程 を「 気 付
められる魅力ある道徳の授業づく
の工夫」
「協力的な指導の工夫」
一生懸命に取り組んでいて、多く
「おそかれ早かれ、人間の行き
は、そのあとのやりとりです。
「広げる」の四つに分けています。
を取り上げ、実践を積み重ねまし
の児童がその延長上に将来の夢を
着く先はここなんだ」
「どうせい
いました。
た。今回ご紹介する実践は、平成
描いていました。しかし、
「あま
資料選定に当たって
二十二年度・栃木県小学校教育研
りに取り組みました。
5
道・徳・授・業 私の実践
それから、レナさんの輝かしい
その後を紹介しました。児童から
自然に「スケートをやめないで良
かった」
「本当に良かった」など
の意見が出ました。
そして、
「深める」過程で、自
分の夢に対する思いを、レナさん
へのファンレターという形で表し
ました。
(Tは教師、Sは児童)
T:練習を再開したレナさんを、がんと大けがが襲います。それ
でも彼女はスケートをやめませんでした。なぜでしょう。
S1:お父さんが生きていれば、頑張れと言うはずだからです。
T:きっとそうですね。あらゆる手を尽くしたのに、がんはお父
さんの命を奪いました。そのがんに、自分もかかりました。
がんの怖さを十分知っているレナさんが、それでもスケート
を選んだのは、なぜでしょう。
(※二人指名しましたが、考えがまとまらないようでした。次の指名で、感
レナさんはスケートを続けて良
かったですね。私の夢は保育士に
なることです。あんなに不幸なこ
とがあっても、がんばって続けて
きて、ジョンさんに出会えて本当
に良かったですね。私もレナさん
のようにがんばります。保育士に
なる夢は絶対にあきらめません。
S2:もう死んじゃうんだったら、自分の道を行きたいです。
T:自分のどんな道ですか。
S2:自分の将来。サッカー選手です。
T:たとえ死んでしまうとわかっていてもですか。
S2:はい。
T:まさにレナさんと同じ考えです。この資料の題名になってい
る「その日まで、少しでも前向きに生きたい」ということで
すね。
(※まっすぐに私を見て「はい。
」と答える彼の迫力に圧倒されました。最
後の時まで大好きなサッカーをしていたい、うまくなりたい。心の底から
たいと思います。どんなにつらい
ナさんと同じようにテニスを続け
す。もし私が病気になったら、レ
振りをしたり、走ったりしていま
ることです。そのために、私は素
私の夢はテニスプレーヤーにな
ることができ、授業者として大き
前進しようとする」気持ちを高め
かって努力を続け、困難に負けず
高い価値に触れて「夢や目標に向
などと言っていた児童が、非常に
「ピアノの練習を怠けてしまった」
ていたから素振りができなかった」
き方を全うしてきました。
「疲れ
T:先生なら、命がもうあまりないかもしれないとなったら、お
いしいものを食べるとか外国に旅行するとか、やっておきた
いことをすると思います。そのような考えはいけませんか。
S3:私もそうするかもしれませんが、テニスも続けると思います。
生とは何かということについて、懸命に考える様子に心を打たれました。
その後、レナさんが毎晩のように母親に電話をしていたこと、アメリカに
行こうかと言う母に、
「お母さんが来たら、私スケートをやめてしまうかも
しれない」と言って、断っていたことを紹介しました。
)
おわりに
児童はレナさんの生き方に共感
し、すばらしい価値に出会いまし
た。レナさんは、夢を実現する生
(むらかみ こうめい)
ことがあっても大好きなテニスを
(※5年生にとって実感のわきにくい死を、彼らなりに感じて、よりよい人
な喜びを感じています。
そう思っていたのでしょう。
)
続け、いつか大舞台に立てたらい
いなと思っています。
動的な答えが返ってきました。
)
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■ ■
第6回
視点四の各項目を楽しく学ぶために
視点四は、
﹁主として集団や社会と
︵心の︶実態をつかんで子どもの心が
ているのです。だからこそ、子どもの
が受け入れるための条件が重要と述べ
子どもたち自身に必要性を見いださせ
利用するのもよい方法です。公徳心も、
気の合う仲間できまりをつくる経験を
視点四の指導のポイント
のかかわりに関すること﹂を低学年五
項目、中学年六項目、高学年八項目か
まで、自分を取り巻く社会とどうかか
の道徳指導における最重要点です。
わるかについて、自分の考えをしっか 視点四では特に、
〝自分がどの集団
になりがちですが、児童自身がよりよ
務はややもすると児童に教え諭す指導
受け入れる角度から指導しなくてはな
る指導が大切です。
らないと述べています。これは、全て 高学年では、低、中学年の指導の上
の中でも居心地よく、安心して生きら
く生きるために必要だとわかるように
ら学びます。身近な集団から国際社会
れるために何が大事か〟と考えさせる
考えさせるとよいでしょう。
に、権利、義務まで考えさせます。義
視点四は、どの項目も、自分を集団
指導が、どの項目でも不可欠です。
りつくるように学ばせます。
の中に位置づけて、それぞれの社会で
もの身に付く指導になりません。
﹁社
ちになります。しかし、それでは子ど
理解させ身に付けるように働きかけが
ですから、ややもすると、価値規範を
の中で生きるために必要な内容ばかり
利、義務﹂が加わります。
になっています。高学年ではさらに
﹁権
いの観点からも公徳へ広げさせるよう
編﹄
︵以下﹃解説﹄
︶では、公共物の扱
説 道徳
が、
﹃小学校学習指導要領解
学年はこれに﹁公徳心﹂が加わります
よくなるためにどうすればよいかを考
値について考えさせます。集団がより
人一人のかかわり方に関する重要な価
体的参加と責任など、集団の中での一
の社会正義、
︵項目3︶の集団への主
ての学びとともに、高学年の
︵項目2︶
生きるのに必要な道徳的価値が身に付
項目⑴の指導
社会正義や集団への主体的参加
けられるように学ばせます。社会集団 低学年は約束やきまりを主とし、中 集団への参加の基本的な姿勢につい
会規範が大事だよ﹂と教えても、児童
物の扱いを材料にして考えさせます。
低学年の指導は、
約束やきまり、
公共
ようにします。資料の読み取りを中心
の身近な問題を取り上げて考えさせる
えさせますが、右の指導は、児童生徒
道徳の時間が発足した昭和三十三年
結論を先に予定して指導するのでな
の身に付くとは限らないのです。
の文部次官通達の文書には、
﹁子ども
が道徳的規範を尊重するのは、その規
く、学級内などでの子ども自身の経験
9300003071
に指導してもうまくいきません。教科
範が行われている集団に対する所属感
い はじめ︶
︵かな
めば、簡単に取り出すことができます。
から考えさせます。その際、自分が集
ではないので、右の指導が大切です。
? という観 団の中で歓迎されるには
指導のポイントは、
﹃解説﹄
をよく読
をもち、集団の成員に対する連帯感が
あるからである。
﹂
とあります。つまり、
点をつねに忘れないようにします。
道徳的規範を教えるには、子どもの心 中学年では、
﹃解説﹄にあるように
●
『道徳ジャーナル』は、左記ホームページでもご覧いただけます。
URL http://gakkokyoiku.gakken.co.jp
⑴
金井 肇
元文部省視学官
●道徳ジャーナル72号● 平成23年4月発行
発行所 株式会社 学研教育みらい 発行人 石津正文/編集人 清水晃一
本誌のお問い合わせ先…学校教育事業部
(〒141-8416)
東京都品川区西五反田2−11−8
内容については…………TEL(03)
6431−1565(編集) それ以外のことは…TEL
(03)6431−1151(販売)