宮崎大学学術情報リポジトリ Title Author(s) Citation URL ADHD傾向がある幼児の親への養育スキル個別トレーニン グ 立元, 真 宮崎大学教育文化学部附属教育実践研究指導センター研 究紀要, 9: 25-35 http://hdl.handle.net/10458/3478 Date of Issue 2002-03-27 Right Description 宮崎大学教育文化学部附属教育実践研究指導セ ンター研究紀要 第 9号 ,2 5-3 5 ,2 02 ADHD傾 向があ る幼児の親への養育 スキル 個別 トレーニング 立元 裏 AnI ndi vi dualPar e nt i mgTr ai ni ngf ort hePar e ntOf At t e nt i onDe f i c i t s /Hype rAc t i vi t yDi s or derPr e s c hoolChi l d. Shi nTATSUMOTO 問壕 と目的 昨今の幼児教育 ・保育の現場では,ADHDや虐待,愛着障害 な どに起 因す る, 子 ど もたち の多動性 ・攻撃性 ・反抗 などの問題 に関心が寄せ られている。 この ような問題は,幼稚 園や保 育所での子 どもの不適切 な行動 に手 を焼いていることや,他の子 どもへの影響 などの, その場 その時の問題だけではな く,不適切な関わ りで もって養育 されることによって,反抗挑 戦障害 や行為障害などのより重篤な外在的問題傾向へ と発展する危険性が高いことが指摘 されてい る ( Bar kl e y,1 9 9 8)など,将来的な問題 も懸念 されている。 上記で述べた問題傾向の中で も,最近注 目を集めている ADHDの子 どもは,資料 に よって 若干の差はあるものの,平均 して 4%の確率で存在 しているといわれる。 これは,2 5人 中 1人 は存在することにな り,幼稚園や保育所の各保育室に 1人は ADHD の子 どもが い る こ とにな る。 ADHD は,いまやアメリカ精神医学会の診断基準 ( DSM-Ⅳ,APA,1 9 9 5)に も記載 され ている障害であるが,本邦では,特 に地方では,その診断や治療 システム,保育 ・教育 , あ る いは養育のためのシステムやノウハウは十分 に整い広 まっているとはいえない。 欧米では,子 どもに適切 な行動 を学習 させ, また,不適切 な行動 を消去 してい き,適切 な養 育的関わ りや環境 を形作 ってい くために親の養育スキルを訓練す る行動理論 に基づいた,親訓 練 システム ( PMT)が複 数つ くられ, すで に機能 してい る (た とえば, Bar kl e y, 1 998; ,Ma r ki e Dadds ,でu l l y, & Bor w,2 0 0 0;We bs t e r St r at t on,1 9 9 0 など)。 Sande r s 一方,本邦では,国立肥前病院を中心 に,発達障害児 を対象 に した行動理論に基づ いて作 成 された HPS Tプログラムが開発 され成果 をあげている (山上 ,1 9 9 8) 。 また,養護学校 を中心 9 91) 。 として,特殊教育の領域で行動理論 に基づいた親 トレーニ ングが行われて きている ( 東,1 ところが,保育の現場では,ADHDの ような問題が明 らかにな り,なおかつ,少子化やノー マライゼーシ ョンの流れの中で,ADHDの ような障害や他 の発達 障害 を もつ子 どもを積極 的 宮崎大学教育文化学部 2 6 立元 其 に受け入れるようになった一方で,専 門的な職員研修や必要 に応 じて特化 した保育 システム を つ くれないでいる。 また,保育者養成 において も,幼稚 園教諭の養成科 目の中に保育臨床 に関 連 した科 目が 1つ加 えられたばか りで,十分 な保育臨床能力 をもった保育職員 を養成す るには まだまだ改善が必要である。 とはいえ,ADHD をは じめ とした発達上の問題 を持つ子 ど もた ちは,現実 に存在す るので あ り,現行の保育制度の中で育 っているのである。 この中では,十分な保育臨床のシステムの 構築 と保育臨床能力 をもった保育職員の養成 ・教育が急務である。 本研究は, このような保育 現場の必要性 に対応すべ く計画 した一連の研究の一環である。 保育所や幼稚園の保育臨床システムを構築 ・改善 してい くためには,以下 に示す 4つの方向 性が挙 げ られる。 ① 理論 ・実践 に基づいた,基礎的研究。 ② 保育者や親が身につけるべ き,子 ども-の関わ り方 についての個別セ ッシ ョンに よる治 療的な実践の蓄積。 ( 参 保育者や親 を介 した,子 どもへの予防的関わ りについての集団セ ッシ ョンの開発。 ④ 保育臨床 を担 う保育者の養成や系統的な研修。 本研 究は, この うち( 勤番 に該当する。 幼稚 園あるいは保育所 といった保育施設では, 多 くの 場合 ADHDの子 どもに対す る臨床的な関わ りを行 ったことがないのが現状 であ る。 しか しな が ら,多動 ・攻撃 ・反抗 などの激 しい症状 をお さえ,子 どもの望 ましい発達 を支援す ることは 重大 な任務であ り, この ような場で,個別 に臨床的関わ りを指導 し問題の改善 を図る中で,保 育施設のなかでの臨床的関わ りのあ り方 を考察 してい くことが重要である。 さて,幼稚園や保育所 に通 う ADHDの子 どもにとって,臨床的関わ りを持 ち うる人的資源 としては,親お よび担任の保育者が挙 げ られる。先行の親 トレーニ ングプログラムは 「親 こそ が最良の治療者 になることがで きる」とい う考え方に基づいている。この考 え方 を少 し広 げる と,親 に匹敵する ぐらい長い時間を子 どもと接 し,十分 な信頼関係が得 られ, しか も多 くの子 どもを客観的に観察するなどの技能 を持 った保育者 もまた,十分 に 「 最良の治療者」 とな りう ると考 えることがで きる。 また,一方で,幼い幼児 には,幼稚 園や保育所での保育者の関わ り 方 と親の関わ り方にズ レが生 じると,混乱 して望 ましい成果 を示せ な くなって しまう。 た とえ ば, まわ りの大人の注 目を獲得 したいために, きょうだいや周囲の友だちに攻撃的な行動をとっ て しまう子 どもに対 して,仮 に,母親は子 どもが攻撃 を加 えた ときにあえて無視する消去 の手 続 きを行い,その一方で,幼稚園の担任教諭が他の子 どもに危害が及ぶのを恐れて大声 を挙 げ て制止するような対応 をとりがちだった とす る。 この ような矛盾 した状況だと,子 どもは大 人 の注意 を引 くために,家庭 において試 し行動 としての攻撃の頻度 を高めた り維持 した りして し まい,一方で,幼稚園においては,結果的に担任の先生の注 目を占有で きるためにさらに攻撃 行動 を持続 させて しまう。 したがって,保育臨床的な関わ りを子 どもに行 う場合,家庭 での親 の関わ りと,保育施設での保育者の関わ りが矛盾 な く一貫 していることが重要である と考 え ら れる。 そのため,本研究では,親 と保育者 に対 して同時に養育スキルの トレーニ ングを行 うス タイルの親 トレーニ ングを検討することを第 1の 目的 とする。 さらに,行動論 に基づ く親 トレーニ ングを行 うと,そのなかで まず最初の成果 として,親 の 養育スキルが向上 し,養育スキルが機能す る結果 として子 どもの問題行動傾向が改善 され,親 の養育ス トレス も軽減す るとい う単純 な構造のモデルが立て られる。一方,保育者 と親が同時 ADHD傾向がある幼児の親-の養育スキル個別 トレーニング 2 7 に トレーニ ングを受 ける本研 究の ような臨床 ス タイルにおいて, どの ような構造が生 じうるの かについては, さまざまなケースが想定 され治療 モデルを構想 しに くい。そのため,本研 究 の 第 2の 目的は, この事例研 究 を通 して,親 と保育者- の養育 スキル トレーニ ングを行 った場 合 の,問題行動 や親 の養育 ス トレスの改善 についての資料 を収集す るこ ととす る。 方 法 対象児 宮崎市 内 に居住 し,某保育所 に通 う男児 。 トレーニ ング開始時 において 5歳の姉 と 2歳 の弟 がお り,同 じ保育所 に通 っていた。両親 は健在 であ り,共 に定職 を持 っていた。 2年 1 2月か ら,今 回の対象児 を含 む 2名 の男児 について, 保育 当該の幼児 については,平成 1 者 に行動論 的な関わ りの仕方 を指導す ることをとお して,子 どもの問題行動 の変容 を図る "煤 2年 11月第 4週 :ベースライン観察 とターゲ ッ 育者 トレーニ ング" を行 った。その概要 は,平成 1 2年 1 2月第 1週 ;保育者- の対象児 の分析結果 と対 処 方 ト行動 に関す る因果学習の分析 ,平成 1 2 年1 2月第 2週 法 ( 問題行動 に対す る括抗す る行動習慣 の学習 ・計画的 な無視 )の策定,平成 1 - 4週お よび平成 1 3年 1月第 2週 ;ターゲ ッ ト行動 に対す る対処法の実施 と経過 の観察 , とい うものであ った。 この結果,対象児 の行動 については,若干の ターゲ ッ ト行動 の減少 が 見 られ たが,総 じて明確 な改善がみ られた とはいえなか った。 3年 4月 には,対象児 は本来の年齢別 クラス よ り 1つ小 さな子 どもたちの,担任 保 育 者 平成 1 。 これは,前 回 の "保 が 2名いるクラスに移 った (この とき担任保育者 も 2名 とも交替 した。) 育者 トレーニ ング "の介入 の際の もう 1人の子 どもと一緒 にいる際 に,特 に問題行動 が激 し く なる傾向か ら,意図的 に 2人 を分離す る保育所側 の配慮 であった。同年 5月に,対象児 の母 親 に対 して保育所 での対象児の現状 を詳細 に説明 し,本介入 に参加す ることを勧 めた。同時 に, 医学的な診断 を受 けることを勧 め,その結果対象児 は ADHDの診断 を受 け, 中枢 神経 刺 激 薬 を服用す る ようになった。 手続 き 0回のセ ッシ ョンに分 け て, 「養 育 ス キ 対象児 の母親お よび,担 当の保育者 2名 に対 して,1 l e1.に示 とお りであった。各セ ッシ ョ ル」 トレーニ ングを行 った。各 セ ッシ ョンの概要 は Tab Tabl el.養育 スキル トレーニ ングの概要 概 要 セ ッシ ョン 2 6月 1 3日 6月2 0日 学習の原理,強化 セ ッシ ョン 3 6月2 8日 記憶 の原理,行動 の分析 ,スモールステ ップの原則 セ ッシ ョン 4 7月 4日 困った行動 の消去 の方法 ( 計画的無視 ) セ ッシ ョン 5 7月11日 制 限の設定, タイムアウ ト セ ッシ ョン 6 7月1 8日 タイムアウ トの応 用 セ ッシ ョン 7 7月2 5日 家族 のルール,効果的 な指示 セ ッシ ョン 8 8月 1日 8月 8日 8月2 2日 試 し行動 に対す る対処 セ ッシ ョン 1 セ ッシ ョン 9 0 セ ッシ ョン1 イ ンテー ク ADHD児 の さまざまな問題 に対す る対処( 1) ADHD児 の さまざまな問題 に対す る対処( 2 ) ,総復習 と評価 2 8 立元 真 ンでは, A 4用紙 6-1 0 枚 ほ どの資料,お よびその資料 を虫食いに した宿題 を用意 した。また, セ ッシ ョン 3か らは,望 ま しい行動の強化や不適切 な行動 の消去 を計画 し記録す るための記鍾 帳 を作成 し,適宜用いた。 尺 度 母親の養育スキルを測定す るために,佐藤 ・佐藤 ・岡安 ・立元 ( 2 00 0)によって標準化 され た,養育 スキル尺度 を用い,母親の育児 ス トレス を測定す るために,新名 ・坂 田 ・弥富 ・本 間 ( 1 99 0) を用 い,介入開始時点,介入終了直後,介入終了 4カ月後 に回答 させ た 。 さらに,対 RSの 〔ADHD的 象児の保育所 内での問題傾向 を調査す るために,担任 保 育者 2名 に ADHDな行動傾 向 〕, 〔ODD的な行動傾向 〕による測定 を求めた。 結果 と考察 05 32 [ 養育 スキルの変化 】 0 5 2 1 「罰の使用」については,対 象児の母親 は,介入開始前 にお いて,非常 に高い値 を示 してい 0 1 た ( Z-2. 99,p<. 0 5) 。介入終 了直後 においては,介入 開始前 ざ了 莱 〆 に比べて明 らか に 「 罰の使 用 」 が減少 したが,その値 は, 保 育 き 所 に通 う子 どもを もつ662名 の Fi g.1. 「罰の使用」の変化 7 1 親 による 「 養育スキル尺度」 の 6 1 十 一貫性 5 1 4 1 1 1 1 1 三 m+一sd 3 2 1 0 エ M m-lsd X 標準化 デー タの平均値 よ りもや や高い値であった。 この 「罰 の 使用」の値 は,介入開始前 か ら 介入終了後 4ケ月後 にか けて統 Z 計的に有意 な低下 を示 した ( 1 0. 3 6,p<. 0 5) 。す なわち,本 介入 によって,母親 による 「罰 ㌔ の使用」 は明 らかに低下 したが. &= ,i : Fi言 ㌔ ♂ /諌 それで も,一般的な親 に比べ る Fi g.2.「一貫性 のない しつけ」の変化 とやや高い水準である こ とが 明 0 5 5 2 1 0 1 らか になった 。 十 援助 」 「 一貫性のな しつけ」 につ い -■一 m+1sd ては,介入前か らほぼ標 準 的 な 十 M 値であ り,ほ とん ど変化 がみ ら -う卜 m-lsd れなか った。 「 援助的な言葉かけ」につ い 〆 l S-e-I; i : j t了 t? Q Fi g.3. 「援助的な言葉かけ」 の変化 ては,一般的な親 に比べ て, 介 入前 か ら低 い値 を示 して お り ( Z--1 . 9 5,p<. 1 0) , ほぼそ ADHD傾向がある幼児の親-の養育スキル個別 トレーニング 2 9 2 1 0 i .H r L∩ .ri Ji . i98 7 6 の ままで推移 していた。 ご くわ ずかな改善の傾向が伺 えるが, これは明確 な変化 とは認 めが た い 。 「関心」については,介入 開 始時点では,一般的な親 の平均 値周辺の値 を示 していたが, 介 入終了直後,介入終了 4カ月後 ♂ ♪ においては,統計的には有意 に ♂ 縛 達 しない ものの,介入前 よ りも Fi g.4.「関心」の変化 2 1 0 98 7 6 l LL .11 1 r 低い値 を示 していた。これ は, 介入開始時点において, 本介入 に参加す ることを決意するほど, 非常 に困っていた母親が,本介 入において多少安心 して しまっ たことが理由 として挙 げ られ る か もしれない。子 どもの養育 の ためには,母親が安心感 を持つ ㌔ 0 9 8 7 6 1 1 沖 4' F Fi g.5.「コ ミュニケーシ ョン」の変化 ことは非常 に重要 なこ とであ る が, もともと子 ども-の 「 関心」 が低 い場合 や , 極 端 な安 心 が + 制限 三 m+一sd M -×-m-1! ミ d + 「 油断 」 につ なが る ような場合 も懸念 され,慎重 な判 断 を要す るものであると考 えられる。 54 「コミュニケーシ ョン」につ いては,介入終了直後か ら,介 入終了 4カ月後 にかけて, わず かな向上がみ られるが, 全体 と ;・ L ;i -I: 番 3㌢ ㌔ Fi g.6.「 制限」の変化 して,一般的な親の 「コ ミュニ ケーシ ョン」の平均値 に比べ て 低い値 を示 していた。 このわず かな向上は,母親の養育 スキル の変化のみに起因するもの と考えるよりは,保育者の保育的関わ りや親の養育スキルの向上 な どの結果,対象児のコミュニケーシ ョン能力が向上 して きたことによる ものではないか とも考 えることがで きる。 「 制限」の領域で 目指 しているのは,子 どもが適切 な行動 を身につけ, また,不適切 な行動 を繰 り返 し学習 して しまわないですむように,子 どもの生活や活動 に r 適切 な制限」 を設 け る ことであ り,単 に 「 子 どもの 自由な活動 を制限する」ことではない。 対象児の母親は,介入開始時点か ら介入終了直後にかけて 「 制限」 を減少 させ,その後 ,介 入 4カ月後にかけてその値 を維持 していた。この母親が,介入開始時点か ら介入終了直後か け 3 0 立元 其 て低下 させ た ものの,依然 として高い 「 罰の使用」を示 していた こ とを考 え合 わせ る と, 「罰 の使用」 を伴 う,過剰 な 「 制限」が減少 して しまった もの と考 えることがで きる。 また,他 方 で,本介入の対象児 は,後述す る ように問題行動傾向の減少や,望 ま しい行動形成 な どであ る 程度の成果 を示 した。 このため,介入終了直後 には,「 制限」 を行 う必 要 が減少 したのか も し れない。 もっ とも, ここでの 「 制限」 の減少 は,一般的な親の 「制 限」の平均値 ± 1s dの範 囲内での変化であ り,統計的には問題 にす るほ どの変化ではない。 母親の 「 養育スキル」の変化 を概観す る と,望 ま しい 「 養育スキル」の方向に変化 した もの は,「 罰の使用 」のみであ り, しか も,その 「 罰の使用」 は一般 的 な親 に比 べ る とや は りが高 」「援助的な言葉かけ」「関心」「コミュニケ ー い水準 を示 していた。 また,「 一貫性 のな しつ け 」 シ ョン 「 制限」については,望 ま しい方向- の変化が必ず しも明確 にみ られた とは言 いが た い 。 [ 母親の育児ス トレスの変化 ] 新名 ら ( 1 9 9 0)を用 いて測定 した,母親のス トレス反応 を,感情的反応お よび認知 ・行動 的 反応 ごとに整理 した。 感情的反応 2 1 誓 毒を 0 5 5 ;革 や ㌔ Fi g.7.「抑 うつ反応」の変化 Fi 8 「不安反応 」の変化 g . ㌔ , 怒 り反応」,「 不機嫌 反応」 ス トレス反応 の うち感情的反応 は,「 抑 うつ反応」,「 不安反応」 「 か らなる。 これ ら 4つ ともが, きわめて類似 した変化のパ ター ンを示 した。す なわち,介入 開 始前 においては,「 抑 うつ反応」,「 不安反応」,「 怒 り反応」,「 不機嫌反応 」の 4つのすべ てが , 一般的な親のス トレス反応 の平均値 ± 1s dの範囲 を超 えて高い値 を示 してい た ものが,介入 終了後 には平均値前後 に低下 し,その状態が介入終了 4カ月後 まで維持 されているというパ ター ンである。 つ ま り,介入前 には,対象児の保育所での問題その ものによって,あるいは, それ に対 して どう対応 して よいかわか らない ことや,問題 に起 因す る社会的な圧力 な どによって, 高い感情的反応 を示 していたが,介入終了直後 までに, これ らの感情的反応が軽減 された と考 えることがで きる。 ADHD傾向がある幼児の親への養育スキル個別 トレーニング 3 1 I ll, i 5 0 L L 'O ' L L 2 2 ■ -1 5 050 50 22 1 1 0 ♂ 湘 露 幣 ㍗ Fi g.1 0 . 「不機嫌反応」 の変化 Fi g.9.「怒 り反応」の変化 認知 ・行動的反応 ス トレス反応の うち認知 ・行動的反応 は,「自信喪失」,「 不信」,「 絶望」, 「 心配」, 「思考 力 下」,「 非現実的願望」,「 引 きこもり」,「 焦燥」 の 8つの観点か ら示 される。 8 7 6 5 4 3 2 1 0 2 0 1 5 1 0 5 0 25 _ l l . ・ . ・ . ・ . ⊥ ・ . . _ . l l . ・ . ・ . 」 ㌔ 運 ♂ 掛 Fi g.ll .「自信喪失」の変化 Fi g.1 2 . 「不安」の変化 これ らの 8つの領域の認知 ・行動的反応 の時系列的な変化 は,感情的反応 の変化 とは異な り, dの範囲内で推移 した。 これ らの, 認知 ・ 主に一般的な親の認知 ・感情的反応の平均値 ± 1s 行動的反応 は,介入前 においては比較的高い得点 を示 したが,介入終了直後 には一般 的 な親 の デー タの平均値 を下回る値 に低下 し,その状態 は介入終了 4カ月後 に も維持 されていた 。 介入 d. -1.5s dほ どの大 きさ 前か ら介入終了直後 にかけての認知 ・行動的ス トレスの減少 は, 1s の値であった。つ ま り,母親の認知 ・行動的なス トレスは,平均的な値の範囲ではあるが , 本 介入 によって,明 らかな低下 を示 した と解釈す ることがで きる。 対象児が,本介入 を受 けることになった きっかけは,多動,攻撃,不従順 , といった保 育所 内での不適切 な行動が,保育所 内で問題視 されるようになった ことであった。 この間題 に対 し て, まず,保育所内での保育者 による関わ りの改善によってある程度の開港の解決 を図 り, そ の結果 を以て, さらなる介入,すなわち親- の介入 を行 ってい く方針 をとった。 まず, 問題 が 提起 されたのが,保育所内での対象児の問題行動傾向であった ことか ら,次 に,保育所 内での 3 2 立元 真 対象児の問題行動傾向 を通 して,本介入の効果 を検討する。 7 8 6 2 0 ≡ 。21。 ♂ 甲 5 。 6 4 蛋 QtL,) 絶望」の変化 Fi g.1 3 .「 ㍉ 葦 Fi g.1 4 .「 心配」の変化 1 0 8 6 4 2 0匡 ≡≦ I , I- 二 、・ ㌔ Fi g.1 5 .「 思考力低下」の変化 牢 言 〆 Fi g.1 6 .「 非現実敵願望」の変化 h W m o 8 6 4 2 0± ㌔ミ ー ;東 京 1 Fi g.1 7 .「引 きこもり」の変化 ㌔幸 _ _ _ 萱 ≡ 誓 Fi g.1 8 .「焦燥」の変化 3 3 ADHD傾 向が あ る幼児 の親へ の養 育 ス キル個 別 トレーニ ング [ ADHD的な行動傾向の変化 ] 2名の担任保育者 に よって測 喝 虻 至 0 3 0 0 0 0 4 2 1 定 され た ,ADHD 的 な行 動 傾 向の変化 をFi g. 1 9.に示す。A ・ B2名の担任保育者 の うち, 煤 凸Y 育者 Aが主に対象児への関わ り とクラス全体の活動の リー ドを ⊆ ⊥ F ・担当 し,保育者 Bが対象児以外 の子 どもたちをフォローす る と - - い う役割分担であった。保育者 ♂ ♂ A は,対象児 に直接 に関わ る こ √ 謹 とが多 く,保育者 Bはクラス内 Fi g. 1 9 .ADHD傾向の変化 の他の子 どもの世話 を しつつ そ れを観察 していた, とい った役 割分担 に よるバ イ スの ためか,保育者 A は ADHD傾向を比較的低 く見積 もり,相対 的 に, ア 保育者 Bは ADHD 傾 向 を比較 的高 く見 積 も る傾向が ある。 この相違にもかか わ らず ,両者 と 後 も,介 入開始時点 よ りも 介入終 了直後 に お いて ,介入終了 直 よりも介入終 了 4カ月後 をよ り 低 く見積 もってい る。す なわち,ADHD 動 傾向 の減少 を 報告 しているとみ る ことがで きる。 行 反抗挑戦的な行動傾 向 につい ては,対象児 に直接 にか かわ っ ら介入終了時点にかけ ての反抗 挑戟的な行動傾向の減 少 を報告 している。他方,対象児 に直接 かかわることが少なか った保育 S .瞭 芸 凸0 た保育者 A は ,介入開始時点か 6 0 06 4 2 0 L J4 J JH い い2 ¶ _1 1 日いい目0 [ 反抗挑戦的な行動傾 向の変化] ■ ■ ■ ●● ● ● ◆ _ ll. ll. ・. 」 者 Bは,保育者 A よ り遅 れて, 介入終了直後か ら,介 入終 了 4 ケ月後にかけて,反抗 挑 戟的 な i 1 ・ 1 . 1 t j; I -: j1 行動傾向が大 きく減少 した と感 Fi g. 2 0 .ODD傾向の変化 じている 。 二人の保育者 の, お そ らく役割分担 に起因す るズ レ はあるものの,対象児の反抗挑 戦的 な 行 動 は減少 し , 総 じ 問題 が改 善 され . : : て てきた様 子 が 明 ら かである。 ADHD的 な行動傾 向,反抗挑戦的 な 行 動 傾 向 を総 じて 見 る と,本 介 入 は , 対象 児 のADHD 的な行動傾向や反抗挑我的な行動 傾 向 を 少 させ,事 態 を改善す 減 よう。 る一 因 とな りえた と判 断で き 3 4 立元 真 総合的考察 本研究の第 1の 目的は,親 と保育者 に対 して同時 に養育スキルの トレーニ ングを行 うス タイ ルの親 トレーニ ングを検討す ることであった 。 この介入の 目的は,なによ りもまず,対 象児 に おける ADHD に特有 な,多動性 ,衝動性 また,保育所 内で問題 とな ってい る攻 撃性 や不従順 な どの問題行動 を改善す ることであった。担 当の保育者 2名 の評価 に よる と, ADHD 的 な問 題行動 も, また反抗挑戦的な行動 も,明 らかに減少 した。 この ことか ら,保育者 と親へ の養 育 スキル トレーニ ングを行 う本研 究の介入 は,一応 の成果 は挙 げた と判断す ることがで きる。 本研究の第 2の 目的は,親 と保育者-の養育スキル トレーニ ングを行 った場合の,問題行動 や親の養育 ス トレスの改善 についての資料 を得 ることであった。本研 究 の介入 は, 「養 育 スキ ル」 を親お よび担任 の保育者 に教授す ることであ った 。 本研 究では,保育者の 「 養育ス キル」 についての測定 は行 っていない。そのため,本介入 によって保育者の 「 養育スキル」 が 向上 し たか否かについては言及で きない。 もっとも,保育者 については,そ もそ も極端 に低 い 「養育 罰 の使用 」 スキル」 を示 さない ことが前提 である。 母親 については,介入開始前 の測定では,「 が標準的な値 に比べて極 めて高 く, また,「コミュニケーシ ョン」や 「 援 助 的 な言葉 か け」 が 標準的な値 に比べて低 い ことが特徴 的であった。 この うち 「罰の使用」 は,介入開始前 か ら介 入終了直後 にかけて大 きく減少 した。 しか し,「コミュニケーシ ョン」や 「 援助的な言葉 か け」 のスキルは,わずかな上昇 の傾向 をみせ たのみに留 まった。つ ま り,母親の養育スキルのうち, 明確 な改善がみ られたのは,「 罰の使用」の減少 だけであった。それ に もかかわ らず, 対 象児 の 保育所 内における ADHD に特徴 的な行動や反抗挑戟的な行動 は明確 な減 少 をみせ た 。 この こ とか ら,「 罰の使用」 自体が,子 どもの問題行動 に非常 に大 きな影響 を及 ぼ してい た こ とが推 測 される。 この母親の 「 罰の使用」は,介入 によって大 きな減少 を示 した とはいえ, まだ,標 準 的な値 に比べ れば高い値 にあ った。 トレーニ ングセ ッシ ョンをさらに追加 した り,レクチャー の方法 を工夫す ることによって, よ り確実 なスキルの学習 を行 うことがで きれば,「 罰 の使用 」 をさらに減少 させ, また 「コ ミュニケーシ ョン」や 「 援助的な言葉かけ」 のスキルを向上 させ て,子 どもの ADHD に特徴 的な行動や反抗挑戦的 な行動 をさらに改 善す る こ とが で きるので はないだろ うか。 本介入 における母親の情緒的ス トレスや認知 ・行動的ス トレスの減少 は,養育スキル を身 に つけた 自信や手 ごたえによる もの とい うよ り,本介入 に参加 して,み ながバ ックア ップ して く れている,サポー トされている とい う感覚 を得た ことが, よ り大 きな原因になっていたのか も しれない。保育者 と同席 した上 での,養育スキルの レクチ ャーは,仮 に養育スキルの習得 が完 全 な ものでなか った として も,サポー トされている とい う実感が得 られ,対象児 につ い て じっ くり話 し合 い協力 しあえる体制 をつ くれた ことが,母親 のス トレス状態の緩和 につ なが ったの ではないか と考 え られる。 保育現場 での臨床 においては, この ような心理的な効果が あ るこ と もまた本介入 を行 った上での発見であった。 引用文献 1)東 正 :1 9 91 行動教育- の招待 一子 どもの可能性 を切 り開 く心理学的アプ ローチ ー 川島書店 2)Bar kl ayR. A.1 9 9 8At t e nt i onde f i c i tHype r ac t i vi t yDi s or de r-AHandbookf orDi a g nos i sandTr e at me nt- Se c ondEdi t i on.Gui l f or d, Ne wYor k. ADHD傾向がある幼児の親への養育スキル個別 トレーニング 3)佐藤正二 ・佐藤容子 ・岡安孝弘 ・立元 真 への対人行動訓練 3 5 2 0 01 地域子育て支援 セ ンターにお け る親子 一養育 スキル査定法の開発 一 研究成果報告書 4)Sande r sM. R. ,Ma r ki e DaddsC. ,Tul l yL. A., andBo r w., 2 0 00;1 990TheTr i pl e PPos i t i vePar e nt i ng Pr ogam :A Compar i s on ofEnhanc e d, St andar d, and Se l f Di r e c t e dBe havi orFami l yi nt e r ve nt i onf orPar e nt sofChi l dr e nWi t h Ear l y Ons e t 8 ( 4) ,6 2 4 6 4 0. Conduc tPr obr e ms .Jour nalofCons ul t i ngandCl i ni c alPs yc hol ogy.6 9 9 0 心理的ス トレス反応尺度の開発 心 身医 5)新名理絵 ・坂 田成輝 ・弥富直美 ・本間昭 1 0,1 ,2 9 3 8. 学 3 6)We bs t e r St r at t on, C 1 990Par e nt sandChi l dr e n Vi de ot apeSe r i e sBASI C Par e nt Pr o gr amS1-4 ( Chi l dr e nage3- 7y e ar s ) .Ⅰ nc r e di bl eYe ar s . 7)山上敏子 :発達障害児 を育てる人のための親訓練 プログラム お母 さんの学習室 謝 二弊社 辞 本研究の遂行 に当たって,介入 に参加 していただいたお子様 とその ご家族の方 に感謝 申 し上 げます とともに,お子様の健やか な発達 とご家族の発展 をお祈 りいた します。 また,本研究の介入 を受け入れていただいた,保育所のス タッフの皆様,特に,熱心に トレー ニ ングに参加 していただいた担任のお二人の保育者の方 に感謝いた します。 さらに,本研究の遂行 に当たっては,研究室の学生 ・卒業生の岡本憲和君,那須友美 さん, 水 田幸児君,有村省吾君,松川亜美 さんの献 身的な協力 を得 ま した。記 してお礼 申 し上げます。
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