ラウンドテーブル - 福井大学

発達障害が疑われる児童生徒のためのアセスメント・バッテリ
ーの開発と適用-学校での早期の気づきと理解に向けて-
企
画
司 会
話題提供
指定討論
:藤野博(東京学芸大学教育学部)
神尾陽子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
:藤野博(東京学芸大学教育学部)
:神尾陽子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
小山智典(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
中井昭夫(福井大学 医学部 病態制御医学講座 小児科学領域)
田中康雄(北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター)
:安達潤(北海道教育大学旭川校)
【企画主旨】
発達障害の子どもの療育や特別支援教育においては、早期からの児の特性の把握とそれに応じた対応が
重要である。しかし教育や保育などの現場で、発達障害などの問題に気づき理解するために簡便に実施でき
るアセスメント・バッテリーは日本には未だ存在しない。本ラウンドテーブルの企画者である神尾を代表とする
研究チームは全国の小中学校を対象とした大規模調査を行った。この調査では、対人行動の問題をスクリー
ニングできるチェックリストである SCDC、社会的行動の特徴を分析的に評価できる SRS、不器用さなどの運動
面の問題を評価できる MOQ-T、ADHD の評価尺度として世界的に広く使用されている ADHD-RS、などのア
セスメント・ツールを通常の学級に在籍する児童・生徒に適用した。本ラウンドテーブルではこの調査結果を報
告し、アセスメント・バッテリーの有用性と特別支援教育、発達支援の現場での活用の可能性および課題につ
いて検討したい。
【話題提供】
● 小学校児童のメンタルヘルスにおける発達特性の観察の意義
神尾陽子
2002 年の文部科学省の全国調査は、特別な教育的支援を要する児童生徒が小中学校の通常学級に高
頻度に存在することを明らかにし、その多くが発達障害と関連するという推定の根拠となっている。しかしなが
ら、実際にどのくらいの子どもが発達障害と診断されるのか、また診断の有無にかかわらず教育的支援だけで
なくメンタルヘルスの問題も抱えているのかについては明らかになっていない。本研究は、こうした実態を明ら
かにすること、そして今後、教育と医療が連携して子どもの QOL やメンタルヘルスを育むために教育現場でど
のようにしたら子どもの支援ニーズを把握できるかを提案すること、を目的として、地域の小学校教師と親の協
力を得て、子どもとその家族との精神医学的面接を行い、チェックリストの結果と比較検討を行った。この結果
をもとに、学校現場でのチェックリスト活用の意義とその限界について述べる。
● 対人応答性尺度(SRS)日本語版の標準化
小山智典
SRS は、米国で開発された、子どもの親・教師が回答する 65 項目の質問紙である。4 件法で回答を行い、
自閉症スペクトラム障害に関連した各症状について、定量的に把握可能なのが強みである。上記の大規模調
査に基づき、わが国における SRS の標準化データが得られたので、その結果を報告する。スクリーニングや臨
床診断の補助ツールとしてばかりでなく、5 つの下位領域を用いて、医療、教育、福祉など幅広い分野におい
て、多様な活用が期待される。
● Motor Observation Questionnaire for Teachers (MOQ-T)日本語版の作成 中井昭夫
いわゆる「不器用さ」は、DSM-IV の「発達性協調運動障害:Developmental Coordination Disorder:DCD」
に相当し、食事・着衣・排泄など日常生活、描画・書字・楽器・道具操作などの学習、バランス等を必要とする
遊びや運動、これらを通じて認知、社会性、情緒の発達に影響を与える。この「不器用さ」について保育士・教
師は早く気づき、介入できる立場にあるが、我が国ではその認知も低く、現場で利用可能な評価尺度もない。
今回、Motor Observation Questionnaire for Teachers (MOQ-T)の日本語版を作成した。子ども達の「不器用
さ」に関する困り感への気づきや支援、他の発達障害との関連や国際比較に繋がることが期待される。
● ADHD Rating Scale-Ⅳ 日本語版における標準データの解析と検討
田中康雄
注意欠如・多動性障害(以下 ADHD)は,その特性が通常の子どもが示す範疇をどの程度逸脱するのか,そ
の程度を判断することが難しい場合が少なくない。われわれは,ADHD のスクリーニング,診断,治療成績の
評価に使用可能なスケールとして DuPaul,G.L らが開発した ADHD Rating Scale-Ⅳを翻訳し,ADHD Rating
Scale-Ⅳ 日本語版を作成し,日本における家庭版と学校版の標準値の解析を実施した(田中ら,2010)。今回
は,神尾らの大規模調査のデータと比較し更に検討を加えた。