第25回 進学実績の向上 - Kei-Net

《シ リ ー ズ 》
わが校の
取り組み・
私の工夫
第
25 回
−進学実績の向上−
学校事例
このシリーズでは、主に高等学校の取り組みや、個々
の先生方の実践事例を紹介する。今回のテーマは「進学
実績の向上」である。東京都立西高校では、生徒の知的
好奇心を刺激するさまざまな取り組みとともに「考えさ
せる授業」で総合的な学力の向上をめざしている。宮城
県仙台第三高校では、教員間の情報の共有と教科指導力
の向上を図り、丁寧な指導で生徒の進路実現に向けて取
り組んでいる。以上の2校の取り組みを紹介する。
Contents
◇学校事例 東京都立西高等学校 ……………… P38
宮城県仙台第三高等学校 ………… P42
東京都立西高等学校
受験指導に偏重せず、大きな器を持った人間を育てる
自らの将来を選び取り目標を達成させる指導で
難関国公立大学への進学実績を向上
東京都杉並区の閑静な住宅街に位置する東京都立
西高等学校は、1937(昭和12)年に創立された府立第
十中学校を母体とする創立75年の伝統校であり、こ
れまでに約27,000名の卒業生を輩出している。2001
年には東京都から進学指導重点校の指定を受けてい
て成長していく。
進路指導も本人が
選んだ第一志望の
大学に合格できる
よう支援すること
る進学校だ。同時に、盛んな部活動、生徒が企画運
を目標としてお
営する行事、生物学・数学オリンピックへの参加など、
り、自分で考え、
さまざまな場で生徒の個性を発揮できる自由闊達な雰
悩み、多くの情報の中から進路を選択する力を養成する
囲気がある。
ことに注力しています。進学校ではありますが、大学受
受験指導に偏重せず、大きな器を持った人間に育
験偏重の指導はしていません」
(櫛部先生)
てることを指導の方針に据えながら、進学実績を向上
させている同校の取り組みを校長の宮本久也先生、
進路部主任で主幹教諭の櫛部義也先生(物理)に伺っ
た。
宮本久也校長
櫛部義也先生
進路指導は、1 年生は「自己理解と職業研究」
(自分
を知る)、2 年生は「大学研究と文理選択」(自分の将来
を考える)、3 年生は「実力養成と進路実現」(自分の進
路を考える)と順を追って考えを構築させる手掛かりを
提示し、生徒に「憧れの大学」という目標を持たせるこ
将来を考え、憧れの大学を見つける指導
とを重視している。目標が決まれば、生徒自身が目標に
向かって頑張る力を持っているからだ。
都立西高校の進路指導は、教育方針に挙げる「文武二
「広い視野を持ち自分の将来を選択する。それは志望
道を奨励し、豊かな人間性や協調性を涵養し、自主・自
大学を考えるときも同じです。自分は何が好きなのか、
律の態度を育成する」に集約される。
「本校では、個々
何をめざしたいのか、どんな職業で社会に貢献したいの
の持っている人間の器を大きく育てることを教育方針に
か、描く自分の姿を実現するにはどの大学に進むべきな
据えています。生徒は学力を伸ばし、教養を身につけ、
のか、さまざまな刺激を与えてとことん考えさせ、
『憧
部活動や行事へ積極的に参加し、さまざまな経験を通し
れの大学』を持つように進路指導を行います」
(櫛部先生)
38 Kawaijuku Guideline 2013.4・5
目標設定のヒントとなる
盛りだくさんの講義や講座
<表1>2011(平成23)年度 訪問講義
分野
メディア
まず、生徒にどのようにして目標を持たせているか見
建築
てみよう。同校では、生徒の意識を喚起させるさまざま
宇宙
な仕掛けを用意している。いずれも、知的好奇心を刺激
国際
し教養を深め、将来を思い描かせ、さらには生徒自身が
未来を選び取っていくヒントでいっぱいだ。そのいくつ
かを紹介しよう。
保護者や卒業生にも公開する「訪問講義」
(年4回実
施/全学年対象、表1)は卒業生を講演者に迎え、年4
12 分野を聴くことができる仕組みだ。
「土曜特別講座」(全学年対象、表2)は、授業の補習
や受験対策講座だけでなく、教養として知ってほしい
テーマ、知的探究心を刺激するテーマが並ぶ。教員がや
りたいテーマや時期を決めるため、
「比較文明論」
「仏像
鑑賞入門」など大学受験に限らない、学問探究分野の講
座を開催することも可能になる。
「パネルディスカッション」
(3月実施/1年生対象、
表3)は、
「現代社会が抱える問題点」
「社会人としてど
教科
科目
講座名
教養としての大学受験現代文
国語 古典は基本よ、もう一度
漢文実力養成講座
教養としての文化史
世界史
比較文明論
戦後史の理解を深める
日本史 論述問題から考える
2年次の復習
オペラと社会
倫理 仏像鑑賞入門
ギリシア神話を知っていますか
政経 世界と日本の今を読み解く
数学
物理
化学
生物
英語
講座名
大学入試問題の演習と解説
東大数学 2000 ~ 2012
物理基礎講習
Investigation 物理
化学基本
化学 review +α
化学 progress +α
生物の進化
生命科学講座
生物の発展問題対策講座
大学入試英語過去問演習
Shakespeare on Screen
<表3>2011(平成23)年度 パネルディスカッション
テーマ「好きこそ物の上手なれ」
パネリスト
コーディネーター
元主婦の友社取締役
ギャラリー経営者(在スペイン)
NTT ドコモ代表取締役副社長
日本スウェーデン総合研究所代表
シナリオライター
慶應義塾大学医学部講師
の取り組みも進めている。今年度は夏休み5カ所、冬休
す。社会を経験した方に、今の社会の問題点や社会の在
み 1 カ所、春休み5カ所で実施された。社会人の仕事を
り方、社会で生き抜く上で必要な力など、社会全体を俯
見ることにより、視野や興味関心を広げて、人としての
瞰した話をしてもらっています」
(宮本校長)
器を大きくしているという効果を感じているそうだ。生
「進路ガイダンス」(6月、3月実施/2年生対象)は、
徒の間でも、毎回抽選になるほど好評だ。
卒業生である現役大学3年生~大学院1年生を招き、12
加えて、民間企業の社会貢献事業の一環である「高校
の分野に分かれて実施している。話題は「大学受験をど
生の海外派遣制度」に応募し、昨年度はインドネシア、
う乗り切ったか」
「使った参考書」のほか、
「研究テーマ」
今年度は中国に、2週間程度、それぞれ 20 名ずつの生
「大学の学び」などである。6月は志望が固まっていな
徒を派遣した。同時にそれぞれの国からの生徒を受け入
い生徒もいるため、2分野に参加できるようにしている。
れている。「国際交流について、生徒・保護者とも関心
3月は、生徒の文理選択後のため、具体的な勉強法など
が高く、我々も国際社会で活躍できる人材を育てたいと
大学受験を中心としたガイダンスである。
思っています。キャリア教育と国際理解教育を今後も充
さらに、キャリア教育の一環として、社会人に密着し
実させていきたいと考えています」
(宮本校長)
て仕事を肌で感じ視野を広げてもらう「ジョブシャドウ
なお、これらの行事は、卒業生、同窓会、PTAの協
イング」
(全学年対象)を昨年から始めた。仕事をして
力を得ている。ジョブシャドウイングは卒業生だけでな
いる社会人1人に生徒が1人ついて、仕事の様子を1日
く、半分以上は保護者の協力を得ているし、留学生のホー
見学する。もともと、職場体験は東京都教育委員会の取
ムステイ先も生徒の家である。質の高いこれらの行事を
り組みだったが、昨年度からはそれと併用して同校独自
実施できるのは、伝統校の強みといえる。
Kawaijuku Guideline 2013.4・5 39
25
回 ― 進学実績の向上 ―
にお願いしており、毎回5~6名の方に来ていただきま
第
「講演者は、社長や教授などを経験した 60 代の卒業生
教科
科目
んな力が必要なのか」など生き方を考えさせる内容だ。
<表2>2012(平成24)年度 土曜特別講座
わが校の取り組み・私の工夫
回土曜日に実施している。3年間すべて参加すれば、全
講師/テーマ
慶應義塾大学経済学部教授
「環境と経済の文明史」
近代建築研究所主宰 東京藝術大学講師
「住宅から都市・デザインの世界をめざせ」
宇宙航空研究開発機構システムエンジニアリング室
「宇宙開発 一緒にやりませんか」
外務省大臣官房総務課首席事務官
「日本人と国際人」
<進路ノート>
るのです。3年間の進路指導の流れを理解したうえで、
タイミングよく生徒に火をつける存在になってほしいと
思います」
(宮本校長)
考えさせる授業で、総合的な学力の向上をめざす
これらの取り組みとともに、同校が重視しているのが、
「進路ノート」で
節目ごとに自分の生活や学習を振り返る
「授業で勝負」を合言葉にした、生徒と教員で創造する
質の高い授業である。授業や講習では、知識の注入では
なく「考えさせる授業」を心がけている。
これらの進路行事はもちろん受けっぱなしではない。
「物理の授業では、得られた答えや結果について、授
3 年間の進路指導の流れやこれからの 1 年間の行事を俯
業中数回は『どうして』『何か違っていないか』などと
瞰する手助けをするのが、
4 月に各学年に配布される「進
発問し、高校の範囲では学ばない、さらにその先にある
路ノート」だ。ノートには、学年集会資料、年間行事表、
理論に触れるなど、問いかける授業、疑問を発しやすい
年間学習計画表や夏休み計画表、自分で解いた大学入試
授業運営を心がけています」
(櫛部先生)
センター試験(以下、センター試験)の点数記入欄、訪
宮本校長は年2回、すべての教員の授業を参観してい
問講義や進路講演会の内容を整理する欄が用意され、さ
るが、6月には宮本校長が各教科1名の教員を指名して、
らに巻末には、該当学年で提出する書類(進路希望調査
その教員の授業を他の教員にも見てもらい、見学後はレ
書、個人面談表、選択科目履修調査票、証明書発行申請
ポートをまとめて研修会を開く。また、教科内で授業を
書、受験結果報告書など)がミシン目をつけて綴じ込ん
公開し、教材に関する情報交換をするテーマ型の授業研
である。
究を行うなど、授業の質を高める機会を設けている。
「初めは生徒が考えをまとめる程度だった『進路ノー
「私が理系のせいか、国語科の授業が参考になります。
ト』に、進路部からのメッセージや学年集会資料、進路
理系の問題文であっても出題者の意図を読み取るという
情報などを年々追加し、教務部や担任、生徒が利用する
作業が必要になる。これは国語力です」と櫛部先生は、
書類や計画表を一緒に綴じ込んで、数年前に現在の体裁
国語の文章読解の教え方を参考に、昨年度、東京大学の
になりました。書類やプリントの紛失がなくなり、毎回
物理の過去問を使って、設問を読み解くためのヒントを
印刷して配布する教員の手間も省けます」と櫛部先生。
発見する演習を実施した。
年度末には、当該ノートを使用した学年と次年度利用す
「相手によって何がよい授業かは異なります。他校で経
る学年の教員の意見を聞き、改訂に向けて内容や必要書
験を積んだ教員でも、本校でそのやり方が通用するとは
類を精査する。受験カレンダーがあると便利、という声
限りません。教員も研鑽し、生徒の状況に合わせて授業
を受けて次の 3 年生のノートに加えるなど対応は柔軟で、
を臨機応変に組み立てる必要があるのです」
(宮本校長)
毎年進化している。
また、学校全体の課題を検討する教科主任会議(参加
進路ノートは生徒だけでなく、教員にもわかりやすく
者:校長、5教科主任、進路主任、教務主任)を導入し、
工夫されている。進路ノートの項目や提出書類の右肩に
組織力を強めて教育のセーフティーネットを構築する動
は該当月が記載され、生徒だけでなく赴任したばかりの
きも出ている。
教員も、どの時期に何が行われるかが一目でわかるよう
に工夫されている。
生徒に目標を突破させるための指導・支援も充実
「昨今人事異動が多くなり、進学校の進路指導に慣れ
これらの取り組みだけでなく、生徒に自学自習の態度
ていない教員、若手の教員が担任を持つことが増えてい
を身につけさせ、目標としている大学に合格させる指導
ます。学校として生徒を預かっているので、教員の力量
もしている。ペースメーカーとしての役割を果たしてい
による差は極力少なくする必要があります。すべての担
るのが、学年集会である。学年集会では、家庭学習習慣
任が、どの時期に何をすればいいのか把握する必要があ
化の必要性や、部活動と両立させるコツ、特に時間の効
40 Kawaijuku Guideline 2013.4・5
率的な使い方や気持ちの切り替えの重要性をデータとと
もに説明する。
<表4>2012(平成24)年度 夏期講習(一部抜粋)
教科
適切な指導の際に重要なのが、客観的なデータである。
過去の生徒の 3 年間の校内実力テストの点数とその偏差
「例えば、目標の大学はあるものの学力が伸び悩んで
いる生徒には、現役と1浪時の合格者・不合格者の分布
をまとめた冊子を用いて『現時点でこのくらいの成績で
教科
数学
子を作成し、それを参考に指導をしている。
国語
値、合格大学と進学した大学などから傾向を分析した冊
講座名
古文実力養成講座
漢文実力養成講座
古典文法(基礎)
現代文記述問題演習
東大問題概要解説・演習
京大問題概要解説・演習
一橋大問題概要解説・演習
古文助動詞講座
古文入試問題演習
現代文入試問題を読む
古文は基本よ もう一度 3年生特別講座
古典2
も、受験時点ではこのくらい伸びて十分に目標の大学に
講座名
微分法(数Ⅲ)
積分法(数Ⅲ)
数Ⅱ B 演習
整数
確率
ベクトル
数列
関数盛り合わせ
軌跡と領域
もう一度数学Ⅱ B
夏休み課題解説
もう一度2次関数
東大「数理工学見学会」
数学Ⅱ B・NG 解説
役で合格する生徒もいます。生徒を納得させるのに必要
を持って学習できる生徒を育てることが、ひいては骨太
なのは、
『頑張れ』という声かけではなく、データに裏
の人間に育てることにつながっていきます」
(宮本校長)
付けされた励ましだと思います」と櫛部先生は説明する。
自分が決めた目標に向かって妥協せず邁進する生徒を
客観的な根拠の積み重ねがあるからこそ、説得力のあ
育てる進路指導があるからこそ、結果的には、高水準の
る指導や共感の得られるアドバイスが可能になるのだ。
進学実績につながっていく。「その基本となるのが、家
また、「夏期講習」(全学年対象、表4)も実施してい
庭学習です。塾や家庭教師に引っ張ってもらう学習では
る。基礎的な内容から高度な演習まで、幅広くかつ多数
自主自律とは言えません」と櫛部先生。
の講座が並んでいる。講座の内容は、
「もう少し深くや
同校では、「小論文を添削してほしい」や「過去問を
りたい」
「この単元は 2 日使えば完成できるので、夏期
解説してほしい」など、生徒からの要望で、放課後に講
講習でやっておこう」
「今年の生徒はこの辺が弱い」など、
座を開催することは珍しくないそうだが、そんな同校で
状況に応じて教員がテーマを決める。なお、例年、延べ
も、近年、自学できる生徒が減ってきていると実感して
約 8,000 人の生徒が受講しているそうだ。
いる。早い段階で家庭学習の重要性に気付かせ実践させ
さらに、教務部では過去 10 カ年のセンター試験の問
ることが、同校の目下の課題となっている。
題を準備し、生徒が持ち帰ることができるようにした。
問題を解いてマークシートに記入して提出すると、採点
し、自分の得点だけでなく、全国平均、校内平均も返却
東京都立西高等学校
する。データベースと関連させているため、生徒の学力
◇所在地:東京都杉並区宮前 4-21-32
がどれくらいついているかの参考にもなるそうだ。
◇沿革:1937 年 府立第十中学校創立
このほか、平日の放課後、卒業生に日替わりで常駐し
てもらい、日常の学習方法や大学入試対策などの質問や
1950 年 東京都立西高等学校に改名
2007 年 創立 70 周年式典挙行
相談に乗ってもらう「チューター制度」も好評である。
◇学級編成:
[全日制]普通科 1 学年8クラス
これらの取り組みや指導により、国公立大学現役合格
◇生徒数:1,000 名(男子 528 名 女子 472 名)2013 年 3 月現在
者(防衛医科大学校含む)は 2010 年の 74 名→ 2012 年
◇特色:
「自主自律」
「文武二道」のもと、ほとんどの生徒が4年制
の難関大学を志望する進学校。私服でのびのびとした自由な校風
98 名、旧帝国大学に東京工業大学と一橋大学を加えた
現役合格者は 25 名→ 41 名と増加している。
自主自律のカギは、家庭学習にあり
さまざまな体制を整えてはいるものの、何を利用する
か選択するのは生徒自身であり、教員は参加を強制しな
のもと、
「授業で勝負」を合言葉に、生徒と教員で質の高い授業
を創造している。関東大会や全国大会に出場するなど 40 以上の
部活動・同好会活動も盛んだ。
◇卒業生の進路:2012年3月卒業生 342 名
・進学先:4年制大学 178名 ・合格者の内訳
(現役生、
延数):国公立大学
(大学校含)
98名
私立大学 429名
Kawaijuku Guideline 2013.4・5 41
25
回 ― 進学実績の向上 ―
ことに一役買っている。
「人に頼らず自分でテーマや目標
第
気持ちの余裕が生まれるようで、その後学力が伸びて現
い。こうしたスタンスが、生徒が自分で考え決めていく
わが校の取り組み・私の工夫
合格できる』と数値を見せながら説明すると、生徒にも
学校事例
宮城県仙台第三高等学校
「情報の共有」と「教科指導力の向上」を推進し
丁寧な指導を心がけながら、進学実績向上を実現
仙台市宮城野区の高台にある宮城県仙台第三高等学
校は、1963 年に全日制普通科の男子校として開校し、
1968 年には県内で初めて理数科が設置された進学校
だ。制服の着用は自由だが、
服装の自由を通して自主性・
自律性を高めあうことを生徒には求めており、開校以
来の文武両道の精神を実践している。
90%以上が国公立大学を志望するようになり、大学入試
センター試験(以下、センター試験)の高い出願率(2011
年度 100%、2012 年度 98.7%)にもつながっているのだ。
さまざまな進路行事や課外講習の実施
施設の充実で生徒を支援
同校ではここ数年、国公立大学の合格者数を順調に
同校ではこれまでも、全学年対象の夏期や冬期の課外
伸ばしており、2012 年の国公立大学の合格者数は 218
講習だけでなく、1 年生は 12 月、2年生は 10 月、3年
人(対前年比 115%)
、特に現役生の合格者数が 178 人
生は4月からスタートする平日課外講習も実施している。
(対前年比 122%)と大きく増加した<図表1>。従来
からの指導の良い部分は継承しつつも、学校を取り巻
く環境の変化に対応して、よりきめ細かな指導に着手
している同校の取り組みを進路指導部長の佐藤彰彦先
生(英語)に伺った。
これまでの指導を基盤としつつも
学校を取り巻く環境の変化に対応
また、課外講習だけでなく、進路講演会や大学院生によ
る研究室紹介、社会人出前授業など、各種講演会を年に
複数回開催し、生徒の進路意識喚起にも積極的に取り組
んできた。模擬試験についても、分析して各教科のコメ
ントとともに「進路情報」の形で結果を開示するなど、
データ活用にも積極的だ。
さらに 2009 年に完成した新校舎では、生徒の学習を
バックアップできるような環境が整えられた。個別ブー
仙台第三高校を取り巻く環境はここ数年で大きく変
スが 70 席並ぶ学習室に加え、図書室にも学習コーナー
わった。2009 年4月の新校舎完成と男女共学校への移
が設置された。職員室前の廊下は広く設計され、
「学習
行、2010 年度には文部科学省より SSH(スーパーサイ
エンスハイスクール)に指定され(5年間)
、2012 年度
からはコア SSH の指定を受けた(3年間)
。さらには、
2010 年度から高校入試が全県一区となったこともあっ
て、入学してくる生徒の気質も変わってきた。
進学実績については、
「国公立大学に現役で合格させ
るために、生徒には3年生の最後まで5教科(6教科)
7科目に取り組ませ、模擬試験や
課外講習も、実施前には動機付け
を行い、実施後もやりっ放しには
せず丁寧に事後指導を行う、とい
<図表1>国公立大学合格者数推移
(人)
250
藤先生は分析する。このように丁
佐藤彰彦先生
寧な指導を行うことで、生徒の
42 Kawaijuku Guideline 2013.4・5
218
200
178
190
188
175
162
170
150
146
125
う本校が以前から継続してきた
指導が基盤になっています」と佐
224
225
139
130
国公立大学合格者
100
75
現役生合格者
2008
2009
2010
2011
2012 (年度)
指導コーナー」と名付けられた。イスとテーブル、ホワ
<写真>職員室前の廊下にある学習指導コーナー
イトボードがいくつも設置され、生徒が教員にさまざま
な質問ができるようになっている<写真>。また、職員
室はガラス張りになっており、廊下の「学習指導コー
ナー」
からは、
教員の在席状況が一目でわかるようになっ
ている。こうした細かな配慮が教員と生徒の距離を縮め
るのに役に立っている。
こまめな情報交換で3年生の進路指導を見直し
教員が同じ方向性で生徒と向きあう
こうした指導で進学実績を伸ばしていた同校だったが、
るようになった。「今年度のセンター試験では思ったほ
の向上」の2点を重点課題に挙げ、4年前より新しい取
ど点数が取れない生徒が多かった(注)のですが、出願校
り組みに着手してきた。
決定の面談は限られた時間のなかでスムーズに行うこと
まずは「情報の共有」の取り組みから見ていこう。こ
ができました。12 月の個人面談で綿密にシミュレーショ
れは「第3学年担任会」と「3学年担任引継会」と「3
ンを行っていたため、生徒が納得できるレベルにまで信
学年進学検討会」から成る。3年生で行っている「第3
頼関係が育っていたのだと思います。これも、学年団で
学年担任会」は、2週間に1度開かれる学年会だけでは
情報の共有化が図られてきたからだと思われます」
情報の共有が不十分と考えて取り入れた。定期的に開催
するために時間割に組み込み、毎週 1 回、学年主任、担
任、進路指導部の佐藤先生が膝を交え、生徒の動向や進
入試問題の分析や他校の取り組みを参考にして
教科指導力の向上をめざす
科指導力の向上」である。その中でも力を入れているの
ら、その生徒にどんな対応をするかを話し合ったり、翌
が、大学入試問題の分析である。現在は、センター試験
週の進路行事の狙いについて確認したりする。
「進路指
と東北大学前期日程試験の問題を実際に教員が解き、問
導に関することが、年数を経るにつれ形骸化してしまう
題と解答例、分析を生徒に配布している。センター試験
危険性もあります。行事も模擬試験も、教員が常にその
の分析は2月の LHR で1、2年生に配布して傾向を解
意義を明確に認識して、生徒に伝えていかなければ意味
説し、東北大学の入試分析結果<図表2>は職員室前に
が薄れてしまいます。教員の意識を統一するためにも、
設置して希望者が入手できるようにしている。同校では、
第3学年担任会には重要な意味があります」
例年3年生1学期時点の東北大学志願者が 100 名を超え
4月早々に開催する、
新旧3年生学年主任・担任の「3
るため、教員が東北大学の入試問題に精通していること
学年担任引継会」は、旧3年生担任の反省点、成功事例
は必須の要件となっている。「センター試験や東北大学
などの体験を、最新の情報とともに新3年生担任に引き
の入試問題を本校の教員が知らない、解いていないでは
継いでいくのが目的だ。現役合格した生徒の日々の様子
話になりません。半面、教員がきちんと理解していれば、
や指導の失敗談など臨場感あふれるアドバイスが多く、
生徒は教員に聞こうとします。そうした体制を作ってお
初めて3年生を担任する教員にも好評だ。
くことが、思った以上に信頼関係を作り出すのです」
このほかにも、3年生の正副担任と進路指導部が行う
なお、職員室前の「学習指導コーナー」に用意した東
「3学年進学検討会」は、年4回の面談の前に開催され、
北大学の入試分析資料はすぐになくなってしまうそうだ。
面談の方針についてじっくり話し合う。
「進学検討会」
教員にとっても、入試問題を解くことは授業運営に重
での綿密な情報交換が増えてからは、担任の発言は一個
要なヒントを提供してくれる。「本校の生徒は問題のど
人の意見ではなく、学校の総意であるという自信が持て
こを解けるかを想像しながら問題を解きます。この辺は
(注)…2013 年度センター試験では、
総合型の平均点は、
7科目文系型(900 点満点)が 530 点(- 42 点)
、
7科目理系型(900 点満点)が 550 点(- 36 点)
と文理ともに前年度から大きくダウンした。
(総合型の平均点は河合塾推定)
Kawaijuku Guideline 2013.4・5 43
25
回 ― 進学実績の向上 ―
た。例えば難関大学を志望する生徒の模擬試験の成績か
第
重点課題としてもう一つの柱に掲げているのが、
「教
路行事について話し合い、情報を交換し共有する場とし
わが校の取り組み・私の工夫
さらなる改善をめざして「情報の共有」と「教科指導力
<図表2>東北大学入試問題分析(数学理系)
2013 年度 東北大学 前期日程(数学理系)
出題数
6
トさせた。同校の生徒に合った授業スタ
科目
試験時間
イルを「三高スタイル」と名付け、実践
数学ⅠⅡⅢ ABC
可能な授業法を開発するプロジェクトだ。
150分
全体講評
宮城教育大学と連携し、ワークショップ
による研修や授業の評価法の開発、先進
( 1 ~ 3 略)
4 <難易度:中> 数学Ⅲの積分、極限の問題
的な取り組みを行っている小・中・高等
(1)じゃまなもの(たとえばsinθ)をtと置くと簡単に積分できます。
学校への視察を積極的に実施している。
(2)定積分と不等式の関係です。
「授業でしかできないことをやろう、と
(3)(2)を使うことは容易に想像できるでしょう。はさみうちですね。
いう方向性を確認しました。従来の講義
5 <難易度:中> 数学Cの行列の問題
(1)Aが回転を表すことに気づけば簡単。気づくというか、回転であったらうれしい
習を取り入れようとする研究です。とは
なと考える。
(2)よくわからないので帰納法を使うしかないかなと思ってやってみたら解けました。
最後 E = (E−A)(E+A)
形式だけでなく、グループ学習やペア学
−1
と変形すればよいことに気づけば簡単。
3
(3)
(2)
の式を使います。A は πの回転を表す行列です。これを繰り返していけば、
4
3
3
、
、・・・などと考えていくことにより、An が8パターンしか
4 π×2 4 π×3
ないことが分かります。
いえ、単語や文法をコツコツ積み上げる
学習も大切です。活発な授業は、基礎部
分がきちんとできていることが前提です
から。宿題や補講の在り方を考えながら、
6 <難易度:中> 数学Ⅲの積分の問題
同時に『三高スタイル』と呼べる授業形
(1)断面が二等辺三角形だけでなく、台形になることもあることに気づくかどうか。
態を模索している最中です」
(2)それに気づけば後は計算頑張ってもらいましょう。
今後について佐藤先生は、新入生の初
期指導にも力を入れていきたいと考えて
合格への学習対策
1 ~ 3 までは方程式、ベクトル、確率の単体問題でした。このような単体問題は教科書
の章末Bレベル~チャートコンパス3・4レベルからの出題と考えて良いでしょう。確実
に解答できる力が求められます。逆にここで解けないと合格は難しいです。教科書に書い
いる。「三高スタイル」を早い時期に伝
え徹底したい。初期指導がうまくいけば、
てある内容全てが「基礎」ですので、問題演習を通じて基礎力をつけて下さい。数Ⅲ、数
2~3年生になってからさらに成長が見
C分野は他分野との融合問題となります。数Ⅲ・Cの基礎を踏まえ、複合問題に数多く取
込まれると実感しているからだ。
り組み、複合パターンまで押さえていくと合格できる力が付くことでしょう。
引っかかるかな、この辺は弱そうだな、と考えながら解
くことで、授業の進め方が工夫できます。そんな観点が
宮城県仙台第三高等学校
普段の授業も生きてくるのです」
◇所在地:仙台市宮城野区鶴ヶ谷 1-19
こうした地道な改善が徐々に成果に結びついている今
◇沿革:1963 年 開校
1968 年 理数科開設
2003 年 創立 40 周年記念式典挙行
だからこそ、佐藤先生はどこかに落とし穴がないかを探
すよう心がけている。その一環として、県内の高校はも
2009 年 新校舎完成 男女共学開始
ちろんのこと、他県の高校の進路関係者とも連携し、情
◇学級編成:
[全日制]普通科6クラス 理数科2クラス
報交換を行う会議を常設している。また、予備校が主催
◇生徒数:954 名(男子 660 名 女子 294 名)2013 年3月現在
する研究会や勉強会にも多くの教員に参加してもらって
いる。
「授業でしかできないことをやろう」を合言葉に
三高スタイルの開発にも着手
さらに同校では 2010 年に、生徒の潜在能力を掘り起
し、問題解決力や応用力を身につけさせる授業方法の開
発をめざして、
「授業づくり三高プロジェクト」をスター
44 Kawaijuku Guideline 2013.4・5
◇特色:校訓は『心身の健康』
『真・善・美の追求』
『愛と知の稔り』
。
『TEAM 仙台三高』をキャッチフレーズに、一つのチームとして
互いに励ましあい頑張る集団を標榜する。部活動が盛んで、運動
部・文化部とも全国大会に送り出す実績を持つ。野球、ラグビー、
サッカー、ハンドボール各部はそれぞれ専用グランドを持つ環境。
19:00 完全下校の中で、生徒は学業とのバランスを取りながら
取り組んでいる。
◇卒業生の進路:2012年3月卒業生 318名
・進学先:4年制大学
(大学校含)
266名 専門各種学校7名 ・合格者数内訳(現役生、延べ数)国公立大学 178 名 私立大学 416 名