子宮内膜症治療のガイドラインESHRE 2014 - 山形大学医学部

産婦人科教室抄読会
平成 26 年 12 月 1 日
NAME
高橋 俊文
TITLE
子宮内膜症治療のガイドライン ESHRE 2014 guideline から
SUMMARY
背景:子宮内膜症は異所性に子宮内膜あるいは類似組織が異所性に発育する疾患である。生
殖年齢の女性の約 5~10%に発生し、痛みと不妊を引き起こす。近年、卵巣チョコレート嚢胞
の癌化も問題となっており、女性のライフスタイル全般にわたり問題となる疾患である。
子宮内膜症治療に関する治療ガイドラインは、①産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編
2014 CQ220、CQ221 ②子宮内膜症取り扱い規約 第 2 部治療編・診療編 ③ESHRE(ヨーロ
ッパ生殖医学会)guideline for the diagnosis and treatment of endometriosis (2005) が存在する。
今回改訂された ESHRE guideline 2014 は、子宮内膜症の診断、治療に関する 22 の clinical
question に対して 83 の推奨を示した。
ESHRE guideline 2014 では、新たに①閉経後の子宮内膜症への対応、②偶発的に見つかった
無症候性子宮内膜症への対応、③子宮内膜症の予防、④子宮内膜症と癌 の 4 項目が追加され
た。
ESHRE guideline 2014 の 83 の推奨の内 32 の推奨については、エビデンスレベルが高くなく、
good practice point としての推奨レベルにとどまっている。今後さらにエビデンスの蓄積が必要
である。
References
① 産婦人科診療ガイ ド ラ イ ン 婦人科外来編 2014 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会
編 2014
② 子宮内膜症取り扱い規約 第 2 部治療編・診療編 日本産科婦人科学会編 2010
③ Kennedy et al. ESHRE guideline for the diagnosis and treatment of endometriosis. Hum Reprod.
2005 20: 2698-2704,
④ Dunselman et al. ESHRE guideline: management of women with endometriosis. Hum Reprod.
2014 29: 400-412
抄読会 2014.12.1
子宮内膜症治療のガイドライン
ESHRE guideline 2014
山形大学医学部
髙橋 俊文
子宮内膜症とは?
子宮内膜組織が異所性に発育する
骨盤内:
•腹膜
•卵巣(チョコレート嚢胞)
•直腸・尿管・膀胱
骨盤外:
•肺(月経随伴性気胸)
正常
子宮内膜症
1882年James Pagetは、月経周期
に一致した前眼房内出血を記載
子宮内膜症の発生頻度
日本の子宮内膜症患者
13万人
推定
(平成9年度厚生省心身障害研究)
子宮内膜症の発生頻度
生殖年齢女性の
骨盤痛:12-32%
月経困難症:50%
不妊症女性:50%
子宮内膜症の症状・問題点
生殖年齢の女性
•痛み
•不妊
QOLの悪化
少子化
治療が長期にわたる
•卵巣チョコレート
嚢胞の悪性化
ESHRE
European Society of Human Reproduction and Embryology
2014年版にアップデート
推奨レベル
ガイドラインの大項目
1.診断
2.疼痛に対する治療
3.不妊に対する治療
4.生殖補助医療と内膜症
5.閉経後の内膜症への対応
6.無症候性内膜症
7.内膜症の予防
8.内膜症と癌
内膜症治療の診断
腹腔鏡検査+組織生検を行う事
が重要
(チョコレート嚢胞・深部子宮内膜症)
推奨レベル GPP
内膜症治療の診断
CA125などのバイオマーカーを
診断に用いてはいけない
推奨レベル A
子宮内膜症の治療
疼痛
不妊症
チョコレー
ト嚢胞
疼痛に対する治療
経口避妊薬(B)、黄体ホルモン剤(A)、抗黄
体ホルモン剤(A)、GnRHa(A)は内膜症の疼痛
治療に推奨される
推奨レベル A-B
疼痛に対する治療-再発予防I.
3 cm以上のチョコレート嚢胞は核出すべき
である(A)
II.
チョコレート嚢胞核出後、挙児希望のない場
合は、術後経口避妊薬またはLNG-IUS
を使用する(A)
推奨レベル A
不妊に対する治療
I.
ASRM Stage I/II 内膜症には病変除去は術
後妊娠に有効である(A)
II. チョコレート嚢胞の核出は穿刺・嚢胞壁焼
灼より術後の自然妊娠が多い(A)*
*術後卵巣機能の低下についてカウンセリングすること
(GPP)
推奨レベル A
不妊に対する治療
術前・術後のホルモン療法は内膜症性
不妊の患者の妊孕性向上に寄与しない(A)
*痛みを伴う場合、手術待機期間や生殖補助医
療開始までの期間はホルモン療法を中止するべ
きではない
推奨レベル A
生殖補助医療と内膜症
I.
II.
3 cm以上のチョコレート嚢胞をART前に核
出することで妊娠率は向上しない(A)
3 cm以上のチョコレート嚢胞は、疼痛を伴う
場合または採卵が困難な場合に考慮する
(GPP)
推奨レベル A, GPP
閉経後の内膜症への対応
内膜症根治術後(子宮全摘後)のホルモン補充
は、エストロゲン単独投与は避けるべき
である
推奨レベル GPP
無症候性子宮内膜症
I.
無症候性の内膜症病変を見つけた場合、外
科的切除や蒸散術をルーチンに行うべきでは
ない
II.
術前に内膜症が合併することについてカウ
ンセリングを行う事を推奨する
推奨レベル GPP
内膜症の予防
I.
経口避妊薬の内服が、内膜症に対して予防
効果があるかどうかは明らかでない(C)
II.
運動が、内膜症に対して予防効果があるか
どうかは明らかでない(C)
推奨レベル C
内膜症と癌
I.
内膜症は癌を引き起こすかどうかは明らか
ではない
II.
内膜症を合併した女性において、癌の発生
数は増加しない
III. 内膜症を合併した女性において、卵巣癌と
non-Hodgkinリンパ腫はやや多く認める
推奨レベル GPP
卵巣チョコレート嚢胞の治療
-卵巣癌の合併Endometrial cyst合併卵巣癌に対
するガイドライン
-卵巣チョコレート嚢胞の悪性化-
卵巣チョコレート嚢胞と診断
さ れ た 症 例 の 0.72 %
(46/6398)に卵巣癌が発見
チョコレート嚢胞の卵巣癌合併率
13
49
9
22
0
4
5
0
(日産婦生殖・内分泌委員会;エンドメトリオーシス研究会会員を対象
としたアンケート調査による)
卵巣チョコレート嚢胞の治療
-チョコレート嚢胞の取り扱い40歳以上、10cm以上で卵巣癌合併が高率
20歳代でも10cm以上では手術を勧める
30歳代では4cm以上で卵巣癌合併がある
フォローアップする場合は、常に悪性化する可能性に
ついて言及すること
手術により卵巣機能の低下が起きる可能性に言及す
ること
 チョコレート嚢胞の癌化率(本当は何%?)
 ホルモン療法はチョコレート嚢胞の癌化を防
げるか?
 手術療法はチョコレート嚢胞の癌化を防げる
か?
11年後に明らかになるはず
(2021年8月)