212 - 日本機械学会

212 リモート診断によるアセットマネジメント
Asset Management System for Remote Diagnosis
○正 佐藤信義(旭エンジニアリング株式会社)
Nobuyoshi Sato, ASAHI Engineering Co., Ltd. 1-8,Kohnan 4-chome,Minato-Ku,Tokyo
It is very important to improve ASSET MANAGEMENT for process plant. Especially, Remote
Diagnosis is the main tasks in ASSET MANAGEMENT. We have the Asset Management system
that is called PAM SYSTEM(PAM:PLANT ASSET MANAGEMENT). And the tasks of remote diagnosis
which used PAM SYSTEM we call “ e−ment. servise”
.
The new maintenance system
e-ment. service is very useful.
1.最適資産管理の考え方 第3ステップは、ITを活用した以上の総合システム化である。
総資産利益率の向上は、企業の基本戦略であるが、 欧米では、PAMシステムとして、その思想が定着化しつつある。
その達成のため、最適資産管理への取り組みが重要視 「PAMシステム」を用いたリモート診断を筆者らは「e―メンテ」
されてきている。それには、生産設備の状態を適切に とよんでおり、最適資産管理に効果を上げている。
監視し、その適否と寿命を把握すること、弱点を補修
改善すること、生産効率を高めることが極めて重要で 2.CBMシステム
あり、以下の3ステップが必要である。 資産の最適活用には、プラント設備の状態を適切に監視・把握
第1ステップは、CBMシステムの構築とその運営 及び解析することが重要であり、それを具体的に行う方法が、
である。設備管理の方法を画期的に革新し、不要の仕 CBM(Condition Based Maintenance)である。
事や、突発的な仕事を発生させない。 CBMは、劣化状態の観測・計測技術と、その解析・評価技術に
第2ステップは、プラント・設備の寿命延長、生産 依存する。予測される劣化の想定と、それに対し、適切な部位を、
コストの低減である。CBM化による寿命延長やプラ 適切な技術で適切な周期計測すること、計測結果に対して適切な
ント・設備改善による寿命延長、設備の性能回復や適 評価を下すことは、相応の実績データが必要であり、臨床に基づく
正化によるエネルギー削減、安定運転化による運転・ 技術であるといえる。
保全人員のスリム化などがあげられる。 本講演では、
「e−メンテ」
「CBMシステム」
「PAMシステム」及び
そ
の
効
果
に
つ
い
て
、
論
じ
る
。
PAMシステム
システムの全体構成
PAMシステムの全体構成
PAMシステム
ユーザ (PAMツール)
保全情報
システム
(TMQⅢ)
<標準機能>
<標準機能>
・機器台帳
・保全計画
・保全履歴
・予実算管理など
DB
CBMツール
連携
反映
保全計画
検査計画
保全項目
問合せ
収集
データ
報告
情報提供
高付加
サービス
インタネット
インタネット
解析ソフト
情報提供機能
情報提供機能
・標準保全計画
・標準保全計画
・安全基準
・安全基準
・設計基準
・設計基準
・保温保冷基準
・保温保冷基準
・検収書
・検収書
・ナレッジエンジ情報
・ナレッジエンジ情報
の活用
の活用
:
:
PAM管理システム
管理システム
診断
ノウハウ
改善
ノウハウ
・MD-220
Co-Moツール
・点検マン
・LEONEX21
・A-TIMなど
従来の
一括診断
PAMサービス報告機能
サービス報告機能
・最適保全計画
・劣化診断、寿命予測
・性能診断
・原因系診断
・品質診断
計画保全
情報
測定データ
。。。
2002/7/6
日本機械学会〔№02-9〕Dynamics and Design Conference 2002 CD-ROM論文集〔2002.9.17-20,金沢〕
設備診断
評価
寿命評価
性能診断
原因系診断
品質診断
AEC ee-メンテセンター
PAM:Plant Asset Management
2.CBMシステム
資産の最適活用には、プラント設備の状態を適切に監視・把握及び解析することが重要であり、それを具体的
に行う方法が、CBM(Condition Based Maintenance)である。
CBMは、劣化状態の観測・計測技術と、その解析・評価技術に依存する。予測される劣化の想定と、それに対
し、適切な部位を、適切な技術で適切な周期計測すること、計測結果に対して適切な評価を下すことは、相応の
実績データが必要であり、臨床に基づく技術であるといえる。
通常、設備は、時間の推移とともに故障率が増加すると考えがちであるが、設備を構成する各部品単位の故障
率は、必ずしも時間の推移とともに増加はしない(図―1)
。また、設備の故障率が統計的にある程度分かって
いても、目の前にある設備がいつ故障するかは不明であり、ここに、故障傾向を把握可能な周期で設備状態を計
測する必要が生ずる。
CBMは万能なわけではなく、例えば、劣化状態の観測・計測技術と、その解析・評価技術が十分確立されてい
ない設備には、適用できない。また、CBMに要する費用よりも更新等の費用が安価な場合は、経済性の面から
CBMを採用しないことが普通である。それらの典型的な例は、電子部品や蛍光灯であろう。
しかし、設備の劣化を表す状態量は1種類ではないため、新たな観測・評価技術が開発されれば、CBMを採
用し、適切な管理と総資産利益率の向上を目指すことが可能となる。
また、従来の状態量でも、コンピュータの進化により信号処理技術が格段に進歩していることから、分からな
かった現象が解明されており、さらに多変量解析技術の進化から予測・評価技術は格段と進歩しており、CBM
化は今後さらに加速されていく。
3.CBMプログラム
図―2は、CBMの導入プログラムを示したもので、縦方向に左側のフローがCBM導入ステップを、中央
が各ステップの内容を、右側が各ステップの主要な「しくみ」を表している。
CBM導入ステップは、図の通り、現状診断、目標設定、CBMシステムの構築の計画段階、診断、修理、改
善の実施段階、及び評価の段階より構成されている。
「診断の評価」結果により、CBMシステムが妥当であれ
ば診断のステップに戻り実務を繰り返すが、妥当でなければ「CBMシステムの構築」またはそれ以前に戻り、
計画の見直しを実施する。
CBMシステムの構築上重要なポイントは、
・劣化の予測、部位
・最適な状態計測技術、計測内容、計測箇所、計測周期
・適切な基準値の設定
・余寿命評価技術、評価方式の設定
・異常値(しきい値を超えたもの)への対処方法
・CBMを実施するための現場の準備
等である。
上記で、劣化の予測とそれに対する最適な計測内容、さらには、しきい値を超えた場合の対処方法など、まさ
に臨床医の経験がなければ判断が下せない。CBMは、実環境、実負荷下の設備が実際に劣化する状況を観察ま
たは推定して行う保全であり、当然ながら実績、経験・ノウハウと、故障物理の知識ベース・適用技術力が必要
であり、ユーザーサイドの経験が必要である。
4.
「e−メンテ」
どのような環境下においても企業の競争力は、品質、コスト、技術にあるが、小人数化する体制において、か
つてないスピードの変革と激しい国内・国際競争に直面した現在、かつて可能であった、熟練した技術者、高度
な専門技術を持った技術者を、潤沢に各現場へ配置することは、ほぼ不可能に近くなったと言わざるを得ない。
こうした環境下で、企業、工場が生き残る方策の1つは、
①各現場へ配置した多数の専門技術者を、少数化して集中配置しても、現場が機能するしくみを作り上げる
こと
②専門技術をアウトソーシングし、必要な機能を確保すること
等であろう。
とりわけ、専門技術者の保有が難しくなっているメンテナンスの分野で、こうしたニーズが高まっている。こ
れらのニーズに対応するしくみとして、
「e―メンテ」が重要である。すなわち、
(a)遠隔地でも設備状態が適切に監視できること
(b)監視結果を評価・診断し、次回の管理内容を提示できること
(c)必要に応じて、補修及び改善等の具体的な対策を提示できること
(d)設備の最適運用・最適状態が実現できるよう、蓄積データを解析して各種の有効な改善案が提示できる
こと
(e)必要に応じ現地作業を実行できる「しくみ=現地実行体制」のあること
等である。
筆者の経験からいって、保全技術は日本が世界に誇れる分野であり、グローバル競争に勝ち残れる技術である。
緻密な現場管理技術をITで武装化し、世界に対していきたいと考えている。
5.PAMシステム
1頁にPAMシステムを示す。総資産利益率の向上には図に示すようなIT化が不可欠であるが、こうした中で
は、知識の集約が加速するため、CBMの技術レベルが飛躍的に向上する。
状態量把握としての診断は、通常、診断技術者が現地に出かけていって行う方法がとられている。一般的な診
断器の場合、それが普通であった。しかし、図に示すIT化診断システムでは、コストの高い診断技術者が診断
システムを抱えて現地へ出向く必要性は少なく、効率的である。省人化が絶え間なく進む昨今では、現地で必要
な業務は極力減らす必要がある。
診断レベルは診断技術者の技術力で決まるため、診断技術者がいちいち現地に赴くのは、コストも嵩むし、診
断の即時性というニーズにも対応できない。処理量にもおのずと制限が出ざるを得ない。それに比較して、IT
化診断システムでは、基本の業務が遠隔地にある診断センターで行われるため、低コストで即時性のある、高診
断レベルを期待できる。
6.PAMシステムの構成
PAMシステム図中、下方がe−メンテセンター(診断センター)におけるデータベース、解析システム類を、
上方にユーザー側のシステムを表している。
個々のシステムの説明は割愛するが、ユーザー側で計測された設備状態量は、インターネットを通じて診断セ
ンターに送信され、解析・評価の結果と、それに基づく最適保全計画が、新たに提案され、ユーザー側の保全情
報管理システム(CMMS:Computerized Maintenance Management System)に提示される。
設備状態量の計測は、あらかじめ定められたCBMシステムに基づいて行われ、必要に応じてオンラインシス
テムも用いられる。
ユーザー側から連続的にまたは定期的に送られてきたデータは、診断システム、エキスパートシステム、解析
システム等により診断・評価し、最適保全計画を明確にすると共に、必要に応じ改善内容を検討して、ユーザー
に改善内容も提示する。
例えば回転機器診断の場合、ユーザー設備稼働中に診断する内容は、初期診断、定期診断、異常診断、分解整
備前後診断、性能診断等であり、初期診断では主として初期データの採取、適正・不適正設備の診断を、定期診
断では状態傾向、正常状態の確認等を、異常の有無の評価と共に行う。
遠隔診断のための主な技術は、振動法、AE法、温度法、潤滑油法、赤外線法、各種非破壊検査法等多岐に渡
るが、OSI等の通常行われている巡回点検のデータも、日常点検管理システムを通して取り込めるようにし、
そうした業務の大幅な効率化と定量化も計れるものとした。
7.さいごに
設備管理のIT化は、物理的距離を大幅に短縮する。すでに筆者らは、携帯モバイルで遠隔地工場の設備状態
を、リアルタイムに入手するシステムを開発・実用化したが、同一敷地内の工場内でも、省人化が極限まで進ん
でくると、個々の運転員、保全員にとっては離れた設備は遠隔地にあるのと同様であり、こうした技術が急速に
普及すると思われる。
IT化は、また、情報を集約化し、より適切な設備管理情報を提供してくれることになるであろうことは、本
文の通りである。
日本の製造業は、こうしたIT武装を加速して国際競争力を回復し、国内生産を継続してほしいと願っている。
そのためには、企業合併よりも、設備管理技術の統合の方が、より短時間で具体的な成果を生み出すかも知れな
い。
e-メンテの内容
メンテの内容
顧 客
高付加サービス
設備一括診断
契約内容
・年間契約
・個別契約
①定期診断サービス
・劣化診断
・原因系診断
・品質診断
・性能診断
②異常診断サービス
③定修診断サービス
遠隔診断
現地診断
データベース
1.検査・診断機能の代行
①保全最適計画提案
②データ解析、評価
③改善の提案・実施
④異常時対応
2.新技術の導入
①設備管理のIT化支援
②PAMシステムの導入支援
協力会社
AEC
・修繕費削減による競争力アップ ・エネルギーコスト低減による競争力アップ
・運転,保全部門のスリム化 ・長期安定運転による生産利益アップ
<参考文献>
1.プラント設備の診断、保守・保全技術の変遷と将来展望、化学装置、98年12月号別刷、佐藤信義
2.
「AECのリモート診断システム」のご紹介、日本メンテナンス協会第39号会報、佐藤信義
3.TMQⅢによるプラント設備管理の情報化とその効果、配管技術、99年4月号、佐藤信義
4.コンピュータ支援によるプラント設備の遠隔診断とその効果、配管技術、2000年4月号、佐藤信義
5.21世紀は情報管理が決めて、プラントエンジニア、2000年4月∼10月号、佐藤信義
6.新時代のプラント設備の安全管理と保守保全、化学装置、2000年12月号、佐藤信義
7.プラントのリモート診断システム、検査技術、2001年4月号、佐藤信義
8.プラントのリモートメンテナンス「e―メンテ」の構築と展開、オートメーション、2001年5月、佐
藤信義
9.プラント・設備の高度化とメンテナンス、化学装置、2001年11月号、佐藤信義
10.リモート一括診断「e―メンテ」サービス、配管技術、2002年5月号、佐藤信義
航空機機械部品の劣化特性
11% の 部 品 が
4%
定期予防保全
2%
可能な劣化特性
5%
A
B
7%
14%
C
89% の部品は
定期予防保全
D
(TBM)で
は効果のない
劣化特性
68%
E
F
図―1.航空機部品の劣化特性
AEC’
AEC’s 「e
「e-メンテ」サービスメニュー
現状診断の実施
工場の現状診断を実施
課題、対応策を明確化
します
自己評価
システム
(自己評価表)
目標の設定・提案
現状改善のための
アクションプログラムを
設定します
計画保全
システム
CBMシステムの構築・提案
設備重要度
最適な計測技術・周期
基準値、寿命評価設定
異常時の対処法、現場整備
重要度
設定基準
診断の実施or支援(e-メンテ)
定期診断
原因系診断、劣化診断
性能診断
品質診断
CBM
システム
設備診断基準
設備診断内容に対応
した修理・整備を実施
します(高度施工技術保有)
検収システム
各設備ごとの
検収書
短寿命機器について
は、長寿命化の提案
および施工を行います
設備改善
事例
改善技報
診断結果を定期に
報告します。
かつレベルアップを目指
したご提案をします
寿命解析評価
性能品質評価
保全最適計画
機器修理・整備の実施
設備改善の実施
診断成果の評価
図―2.CBM導入プログラム