抗血栓薬内服の必要な ITP患者の管理 ○杉本健1)、大幡真也1)、髙橋利匡2)、阿部智喜3)、古賀明日香3) 竹内健人2)、髙吉倫史2)、西山勝人3)、原賢太2)、安友佳朗3) 北播磨総合医療センター 1)血液腫瘍内科、2)糖尿病・内分泌内科、3)内科・老年内科 内容の一部は日本内科学会第206回近畿地方会に発表されたものです 抗血栓療法の必要な疾患とITP • 抗凝固療法 – 心房細動 – 深部静脈血栓症 – 抗リン脂質抗体症候群 – 弁膜症手術後 • 抗血小板療法 – PTCA適応症例 – CABG後 – 心筋梗塞 – 脳梗塞後 ITP 1 目的 • ITP患者の診療において、並存疾患のために 抗血栓薬内服の必要な場合がある。 • この場合出血リスクは高くなると判断しつつ 診療を行うことになる。 • 抗血栓薬投与の必要なITP患者の管理につ いて検討する。 検討 • 2014年1月~12月の1年間に当科を受診しITPと確定診断もしく は疑いと判断した患者:32名 • 抗血栓薬の内服を必要とする患者は9名(28%) – 抗凝固薬:心房細動、ペースメーカーや除細動器の挿入の ために投与(5例) • ワルファリンカリウム:4 • 凝固第Ⅹa因子阻害薬:1 – 抗血小板薬:脳梗塞後再発予防やCABG後、陳旧性心筋梗 塞のために投与(4例) • アスピリン:2 • サルポグレラート(アンプラーグ®):1 • シロスタゾール(プレタール®):1 • 抗凝固薬内服中に血小板数が1万/μL未満となり出血を認め た症例が2例存在した 2 症例1: 85歳男性 • 主訴:紫斑 • 既往:僧帽弁・三尖弁形成術、心房細動、慢性心不全、 慢性腎機能低下 • 現病歴:既往疾患のフォローにて当院循環器内科受診中。 汎血球減少傾向を指摘されていた。当科紹介の約1カ月前 から四肢の紫斑を自覚したが、皮膚の出血傾向が明らかと なり紹介される • 家族歴:特記所見なし • 内服薬:抗血栓薬:ワルファリンK 3.5mg/day。他5種類 • 診察所見: • 前胸部に出血斑が散在 • 両側四肢に出血斑あり。点状出血斑を下肢に認める 症例1胸部写真(紹介時) 3 症例1検査所見 (血液学検査) WBC (/μl) 4440 Stab (%) 2 Seg (%) 45 Lym (%) 39 Mono (%) 7 Eos (%) 6 Baso (%) 1 RBC (104/μl) 303 Hb (g/dl) 9.7 3 MCV(μm ) 92.7 Ht (%) 28.1 Ret (x104/μl) 1.4 (4-8) Plt (104/μl) 1.3 (生化学検査) T-Bil (mg/dl) I-Bil (mg/dl) AST (IU/l) ALT (IU/l) ALP (IU/l) LDH (IU/l) BUN (mg/dl) Cre (mg/dl) Na (mEq/l) K (mEq/l) Cl (mEq/l) CRP (mg/dl) 0.7 0.2 27 21 222 240 49.9 1.67 141 5.2 104 0.1 症例1検査所見(続) (免疫学的検査) IgG (mg/dl) 1593 IgA (mg/dl) 214 IgM (mg/dl) 36 Haptoglobin (mg/dl) <10 DAT (-) ANA x40 PAIgG 146 (感染症検査) HBs-Ag HCV-Ab HIV-Ag/Ab UBIT (凝固検査) PT-INR APTT (sec.) Fib (mg/dl) FDP (g/ml) 1.87 34 (24-39) 296 0.9 (-) (-) (-) (-) 4 症例1骨髄穿刺検査 有核細胞数 巨核球数 M/E比 2.7 50 1.56 x104/μl /μl 成人特発性血小板減少性紫斑病 (ITP) の診断基準(案) • 血小板数減少(10万/μl以下) • 末梢血塗抹標本で3系統すべてに明らかな形態異常を認めない • 以下の所見のうち3つ以上を満たす – 貧血がない – 白血球数が正常 – 末梢血中の抗GPⅡb/Ⅲa抗体産生B細胞の増加 – 血小板関連抗GPⅡb/Ⅲa抗体の増加 – 網状血小板数比率の増加 – 血漿トロンボポエチン値は軽度上昇にとどまる(<300pg/ml) • 他の免疫性血小板減少性紫斑病(SLE、リンパ増殖性疾患、HIV 感染症、肝硬変、薬剤性など)を除外できる •富山佳昭ほか. ITP(特発性血小板減少性紫斑病)研究報告. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業血液凝固異常症に関する調査研究. 平成20-22年度総括・分担研究報告書. 5 症例1入院後経過 PC 10U PSL(mg) 20 15 10 PCP肺炎 5 Warfarin 25 入院 20 15 Plt (x104/uL) 10 Plt 5 0 7/1 8/1 9/1 10/2 出血は軽度であり、赤血球輸血を行わず。ワルファリン継続 症例1 PCP肺炎 6 症例2:70歳男性 • 主訴:紫斑、黒色便 • 既往:陳旧性心筋梗塞、心室頻拍(ICD植込み術施行)、糖尿 病、脂質異常症 • 現病歴:既往疾患のフォローにて近医受診中。来院19日前 の血液検査では異常を指摘されず。来院3日前から全身に 紫斑が出現し、来院当日朝に黒色便を認め緊急受診 • 家族歴:特記所見なし • 内服薬:抗血栓薬:ワルファリンK 2.5mg/day。他14種類 • 診察所見: • 眼瞼結膜に出血点や貧血なし • 口腔内出血あり • 臍部および両側四肢に点状出血あり。紫斑あり 症例2来院時の紫斑 7 症例2画像検査 腹部単純CT 上部消化管内視鏡検査 症例2検査所見 (血液学検査) WBC (/μl) 10200 Stab (%) 3 Seg (%) 57 Lym (%) 27 Mono (%) 5 Eos (%) 7 Baso (%) 1 RBC (104/μl) 330 Hb (g/dl) 10.7 3 MCV(μm ) 94.8 Ht (%) 31.3 Ret (x104/μl) 11.3 (4-8) Plt (104/μl) 0.2 (生化学検査) T-Bil (mg/dl) I-Bil (mg/dl) AST (IU/l) ALT (IU/l) ALP (IU/l) LDH (IU/l) BUN (mg/dl) Cre (mg/dl) Na (mEq/l) K (mEq/l) Cl (mEq/l) CRP (mg/dl) Fe (μg/dl) 1.7 1.5 29 26 659 282 35.6 1.47 137 4.0 102 0.63 71 8 症例2検査所見(続) (免疫学的検査) IgG (mg/dl) 2451 IgA (mg/dl) 871 IgM (mg/dl) 62 Haptoglobin (mg/dl) <10 DAT (+) ANA x80 ADAMTS-13 (%) 50 PAIgG 202 (感染症検査) HBs-Ag HCV-Ab HIV-Ag/Ab UBIT (凝固検査) PT-INR APTT (sec.) Fib (mg/dl) FDP (g/ml) 3.63 55 (24-39) 317 3.0 (-) (-) (-) (+) 症例2骨髄穿刺検査 有核細胞数 巨核球数 M/E比 17.3 131 1.74 x104/μl /μl 9 症例2経過 IVIG 20g/日 プレドニゾロン 60mg 50mg RBC 2U PC 10U FFP 4U 16 14 12 10 8 6 4 2 0 ワルファリン Hb (g/dl) PLT (×104/μl) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 病日 下血 症例2 上部消化管内視鏡検査 治療前 治療29日目 10 問題点 • 抗血栓薬(特に抗凝固薬)内服患者がITPを 起こした場合 – 出血時の止血対応 – 血小板数のコントロール – 抗血栓薬の中止と再開の基準 成人ITP治療の流れ(2012年度版) ITPの確定診断 陽性 除菌療法 ピロリ菌検査 陰性、除菌無効例 治療対象:血小板数≦2万/μl 或いは重篤な出血症状、多発する紫斑、点状出血、粘膜出血 First line治療:ステロイド Third line治療: TPO受容体作動薬、ダナゾール Second line治療:脾摘 アザチオプリン、シクロホスファミド ビンカアルカロイド緩速点滴静注療法 デキサメタゾン大量療法、ステロイドパルス療法 (藤村欣吾, 他. 臨床血液 53: 433-442, 2012) シクロスポリン療法、リツキシマブ 11 薬剤の効果発現までの時間の比較 治療薬 投与期間 プレドニゾロン 1〜4mg/kg/日 (1〜4週) 治療効果発現 までの日数 治療効果最大 までの日数 4〜14日 7〜28日 摘脾 - 1〜56日 7〜56日 トロンボポエチン 受容体作動薬 50〜70mg/日 7〜28日 14〜90日 1〜3日 2〜7日 免疫グロブリン 0.4〜1g/kg/日 (1〜5日) 大量療法(IVIG) (Rodeghiero et al. Blood. 113: 2386-2393, 2009) IVIG投与後の血小板数上昇(n=40) IVIG投与後24-48hrで血小板数5万が期待できる 5万 Spahr JE, et al. Treatment of immune-mediated thrombocytopenia purpura with concurrent intravenous immunoglobulin and platelet transfusion: a retrospective review of 40 patients. Am J Hematol. 83:122-5, 2008. 12 91歳男性。慢性心房細動にて抗凝固剤内服下でのITP出血 Immune thrombocytopenia and anticoagulation: the role of romiplostim in the early treatment British Journal of Haematology. Volume 157, Issue 5, pages 639-641,2012 治療アルゴリズム 抗凝固療法の必要な血小板減少が遷延するITP患者 重篤な出血有り (WHO Ⅲ/Ⅳ) 出血は認めないか軽度 (WHO 0/Ⅰ/Ⅱ)のみ Plt<5万/μL 抗凝固療法なし 抗凝固を半量から 開始(未分画ヘパ リン推奨) Plt>5万/μL 抗凝固を通常の治 療量から開始 症状により抗凝固療法の強度を変える。出血増悪で抗凝固は減量/中止。 血栓増悪で抗凝固を強める。DVTでは血栓再燃の危険度が高ければ下大 静脈フィルターを考慮する。 Axel Matzdorff , Juerg-Hans Beer Immune Thrombocytopenia Patients Requiring Anticoagulation—Maneuvering Between Scylla and Charybdis Seminars in Hematology, Volume 50, Sup1, 2013, S83 - S88 13 まとめ 重篤出血を伴うITP患者対応 • 局所止血対応 • 血小板数を速やか安全レベル(3-5万/μL)に迄上げる – IVIG – (血小板輸血) – 副腎皮質ステロイド • TPO受容体刺激剤(TRAs)の使用 – 副腎皮質ステロイドの減量を試み、 IVIGの効果が現弱し 始める時期に使用 • 抗凝固剤投与の中止継続基準について – 明らかなガイドラインは存在しない – 血小板数5万未満、及び赤血球輸血を必要とする程度の 出血があれば抗凝固剤の中止・減量を考慮 14
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