破傷風

後頸部痛、構音障害で救急搬送され た 一例
徳之島徳洲会病院 2年次研修医 士反 英昌
鈴木 大聡
同救急部 斎藤 学
同院長 小野 隆司
58歳 男性
• 主訴
後頸部痛、構音障害
• 現病歴
平成21年11月4日救急搬送。11月3日夕方より
後頸部痛、構音障害を自覚。翌日自力歩行にて
友人宅を訪問。会話が聞き取りにくく、後頸部痛
を訴えるため 脳血管疾患を心配し友人が救急要
請。6日前に自宅庭で釘を踏んでいた。
• 既往症
糖尿病(未治療)
• 社会生活歴
ADL:独居、自立
喫煙歴:40年間×8本
飲酒歴:ビール 350ml/日
アレルギー :(−)
服薬:なし
• 来院時Vital Signs
JCS0 GCS15(E4V5M6)
BP 160/100mmHg
PR 120回/min regular
RR 28回/min
BT 37.8℃
SpO2 98%(room air)
• 身体所見(陽性所見のみ記載)
頭頚部:項部硬直(+)、開口障害(+)
腹部:右下腹部3cm大のOpescar
四肢:左足底に5mm程度の刺創あり
神経学的所見:体幹部に筋緊張(+)
開口時写真
30mm
約2横指
口腔内分泌物多量
血液学的検査
<Hematology>
WBC 11250 /µl
487 ×104/µl
RBC
15.4 g/dl
Hb
45.1 %
Ht
30.5 ×104/µl
Plt
<Coagulation>
PT sec 10.2 sec
PT-INR 0.89
APTT 27.6 sec
<Biochemistry>
TP
7.5 g/dl
Alb
4.0 g/dl
AST
26 IU/l
ALT
26 IU/l
LDH
201 IU/l
ALP
303 IU/l
ChE
391 IU/l
γ-GTP 152 IU/l
T-Bil
1.2 mg/dl
AMY
66 IU/l
CK
201 IU/l
Na
K
Cl
Ca
P
135.5 mEq/l
3.4 mEq/l
88.8 mEq/l
9.2 mg/dl
2.5 mg/dl
BUN
Cre
Glu
HbA1c
T-chol
TG
17.4 mg/dl
0.7 mg/dl
230 mg/dl
9.6 %
253 mg/dl
160 mg/dl
CRP 14.78 mg/dl
診断
• 頭部CTにて脳血管障害認めず。
• 病歴、身体所見(後頸部痛、項部硬直、開口
障害、意識障害がないこと
)より破傷風と診断。
•
しかし 、創部Gram染色では GPR認めず。
Mg 1g/h
MEPM 1.5g
PCG 1600万単位/day
体温
Propofol MDZ
BUN・Cr
PEA
気切
WBC
Sepsis
CMZ 2g
頭部MRI(DWI) 第14病日施行
疫学及び病原微生物
• 破傷風菌(Crostridium tetani)による感染症で外毒素である
tetanospasminにより様々な神経症状が出る。
• 二大症状は運動神経系の亢進(呼吸障害)と自律神経系の
異常
• 創傷部の壊死組織、異物、他の菌の感染などにより嫌気的
な状態になると破傷風菌が増殖、tetanospasminを産生する。
毒素は末梢神経から中枢神経に到達する。
• 破傷風菌はわが国の任意の土壌の30%に検出される 。農村
地帯で、気候が温暖な地域の夏季に男性に多い。予防接種
が実施されていない 国では 臍帯の不適切処理などにより新
生児や小児の死亡数が多い(年間80万人)。
• 受傷後発症までの 潜伏期間は平均7日間。15%は3日以内、
10%は14日以降。
•
大症状は運動神経系の活動亢進と自律神経系の異常
臨床症状
第1期
潜伏期。局所の疼痛、全身違和感。
第2期
開口障害、嚥下障害、発語障害、首、肩、背部の痛み。
第3期
全身性の筋肉の痙攣、後弓反張、呼吸筋の痙攣によ
る呼吸不全。腱反射の亢進、気道分泌物の増加。血圧、
脈拍の急激な変化。
第4期
寛解期
特徴
痙攣はわずかな刺激でも誘発される 。発熱はなく意識
は清明。自律神経障害による血圧、体温、発汗の異常。
診断方法
• 有効な検査法はなく
、臨床症状で診断する。
• 有効な予防接種が実施されている 場合は破傷風を発症する
事はない。わが国では 昭和43年(1968)よりDPT混合ワクチン
として 実施されてい るため 、それ 以前に生まれた 人は特別に
ワクチンを受けていなければ 免疫はない。血清の抗毒素抗
体が0.01U/ml以上あれば 本症は否定的。
• 創部の培養:破傷風菌の検出率は低く、破傷風でない 患者
から検出されることもあ る 。特異的な検査ではな い 。
治療法
• 創傷部位の切開とデブリドマ
ン。
• 抗破傷風免疫グロブリンにより毒素を中和することが最も重
要。3000∼6000単位程の大量を筋注。同時に破傷風トキソ
イドも使用する。
• 10日間のペニシリンG大量投与(1000万∼2000万単位/日)
• 呼吸、循環管理(人工呼吸、気管切開)
• 痙攣のコントロール 。ジアゼパム 、ベンゾジアセピン、GABA
作動薬使用。
予後
• 適切な集中治療を実施すれば 死亡率は10%
程度。
• 新生児、高齢者、潜伏期が長い症例、初発症
状から痙攣発症までの 期間が短い症例では
死亡率が高い。回復するのに4∼6週間、人
工呼吸は3∼6週間程度必要とする 事が多い。
治癒後は後遺症は残さない 。
破傷風の予防
• 破傷風菌が侵入した 危険性のある外傷患者が受診
した 場合破傷風の予防接種歴を聞く。
• 過去1度でも接種歴がある場合は追加免疫として 破
傷風トキソイド を当日1回実施。
• 接種歴がなければ抗破傷風免疫グロブリンの注射
を実施し同時に3回の破傷風トキソイド の3回接種を
実施する。
予防接種:破傷風トキソイ ド の注射を3回(1回目実施後の4∼8週後に2回目、
6∼12ヶ月後に3回目)
その 後は10年経過する度に1回接種
考察
心肺停止の原因
ECG、 心エコー、頭部CT、胸腹部造影CT施行したが
明らかな 異常所見認めず。Tetanospasminによる自律
神経の異常に起因するものと考えられる。
遷延する意識障害の原因
第18病日の現在、脳幹反射なし。髄液検査では 明らか
な髄膜炎は否定的で、頭部MRI
から意識障害の原因
は低酸素性虚血性脳症に起因するものである可能性
が高いと考えられる。 高Mg血症に起因する可能性
は否定できない 。脳波検査を予定して いる 。
結語
• 日本での 年間症例数約50例という 現代では
まれな 疾患を経験できた 。
• 本疾患では 経過中の自律神経系の異常、合
併症に伴う全身管理が重要であると感じた 。
御静聴ありがとうございま
した