食道癌術後吻合部狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術におけるス

(中間報告)
【研究課題】
食道癌術後吻合部狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術におけるステロイド局注の有用性(多施設共同前向き無
作為化比較試験)
大阪府立成人病センター
消化管内科
鼻岡
昇
【要旨】食道癌術後吻合部狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術におけるステロイド局注の有用性を評価する前
向き無作為化比較試験を2011年3月から開始した。2015年3月27日時点で59例が登録された。目標登録症例数は60
例であり、登録は順調に行われていると考える。登録終了後3ヶ月後に解析を行う予定である。
【キーワード】
食道癌、吻合部狭窄、内視鏡的バルーン拡張術
【背景】
人口動態統計によると、2008 年度の日本人の食道癌死亡者数は11,746 人で、がん死亡の3.4%を占め、がん種
別では日本人男性において6番目に多い疾患である。年齢調整罹患率(人口10万対)は1975年からこれまでに
おいて増減の傾向は見られない。食道癌の外科切除後に発生する合併症の一つに吻合部狭窄がある。その頻度
はおよそ30%であり、内視鏡的なバルーン拡張術によって狭窄を解除する方法が一般的である[1]。しかしなが
ら頻回にバルーン拡張をする必要があり、被検者に対する苦痛が問題となっている。
【目的】
食道癌術後吻合部狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術にトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトA®)の局
所注入を併用することが有用であるかを調べること。
1) Primary endpoint:拡張が不要になるまでに要したバルーン拡張の施行回数
2) Secondary endpoints:拡張が不要になるまでの期間、初回拡張から再拡張までの期間、有害事象発生頻度。
【対象と方法】
・試験デザイン
食道癌外科切除後の吻合部狭窄に対するバルーン拡張術の施行回数をprimary endpoint として、ケナコルト
局注の有用性に関する前向き無作為化比較試験を行う。
・エンドポイントの設定根拠
primary endpointはバルーン拡張の施行回数とした。トリアムシノロンアセトニド(ケナコルトA®)の局所注
入により拡張回数が有意に減少することが証明できれば,現行の治療(バルーン拡張のみ)に置き換わる有用
な治療法であると考えられる。Secondary endpoints は、1)拡張が不要になるまでの期間、2)初回拡張から再
拡張までの期間、3)有害事象発生割合とした。
・臨床的仮説と予定登録数設定根拠
当センターにおいて対象疾患に対して 2008 年 1 月から 2010 年 1 月の間、内視鏡的バルーン拡張術を要する
食道癌術後狭窄の症例は 71 例あり、バルーン拡張の試行回数は平均 5.5 回であった。そこで、本試験において
トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト A®)の局所注入によりバルーン拡張の回数が 2.5 回以下に抑えるこ
とができれば現行の治療に置き換わる有用な治療法であると考えられる。αエラーを 0.05,
βエラーを 0.20
とすると必要症例数は各群 27 例となる。不適格例の存在も考慮し,目標登録例数は 60 例とする。年間約 20
∼25 例の登録が見込まれるため,およそ 3 年間で症例の集積は実現可能であると考えられる。
・患者選択基準
1) 食道癌術後にはじめて狭窄症状をきたしている。
2) 食道-胃管吻合である
3) 再建経路が胸骨後または後縦隔ルートである
4) 主要臓器機能が保たれている。
5) 患者本人から文書によるインフォームドコンセントが得られている。
・除外基準
1)内視鏡治療のための一時的な抗凝固薬や抗血小板薬の中断が不可能である。
2)活動性の重複癌を有し,予後が3カ月以内と推定される症例。ただし、治療によりコントロールされている
場合や局所治療により治癒と判断される表在癌は活動性の重複癌に含めない。
3) コントロール不良な糖尿病のある症例。
4)その他、試験担当医師が本試験を安全に実施するのに不適当と判断した症例。
・登録の手順
対象患者が適格規準をすべて満たし、除外規準のいずれにも該当しないことを確認し、登録適格性確認票に必要
事項をすべて記入の上、研究事務局に電話連絡または登録適格性確認票をFAX 送信する。その後、研究事務局で
割り付けを行い、担当施設に電話連絡またはFAXを送信する。
・治療計画と治療変更規準
プロトコール治療内視鏡的に狭窄を認めた場合、最大15または18mm径のバルーンダイレーターでバルーン拡張
術を行う。拡張径15mmまでを拡張の目安とする。
・バルーン拡張術直後の処置
バルーン拡張術直後の狭窄部(吻合部)にトリアムシノロンアセトニド水溶性懸濁液(ケナコルトA®)または生
理食塩水を局所注入する。方法は以下の通り。
[ステロイド注入群]
5mlの水溶性懸濁液(10mg/ml)を作成し、23または25Gの局注針を用いて拡張直後の狭窄部(吻合部)に1ml
ずつ合計5ml注入する。
[プラセボ群]
拡張直後の狭窄部(吻合部)に生理食塩水を1mlずつ合計5ml局所注入する。
・盲検化
二重盲検化:外来主治医(外科医)と対象症例患者はどちらの群に割り付けられたかどうかを不明にする。実
際の拡張術に従事する医療スタッフ(内視鏡操作者、介助者)にも割り付けを不明にするが、局注液を準備する
医療スタッフには割り付け群を明らかにする。
・経過観察
経過観察期間:狭窄解除後、3カ月間
プロトコール治療後は経過観察するが、狭窄症状が出現した場合には電話連絡をしてもらう。食事の通過が困難
な状況(dysphagia score 1以上)であれば1週間以内に内視鏡検査を施行し、狭窄の状態を評価する。狭窄部位を
内視鏡(XQ240またはXQ260)が通過しない場合、それぞれの群の初回プロトコール治療を同様に行う。
・中止基準
以下のいずれかに該当する場合は,プロトコールに基づく治療を中止する。
1)被験者が同意を撤回した場合。
2)合併症の発症または増悪により,医師が治療の継続を困難と判断した場合。
3)有害事象により医師が治療の継続を困難と判断した場合。
4)被験者が転院した場合。
5)登録後,不適格症例であることが判明した場合。
6)その他の理由で、医師がプロトコール治療の継続ができないと判断した場合。
・有害事象の許容範囲
本試験で予想される有害事象の中で、臨床的に問題となる可能性が高いものは局所注入に伴う食道穿孔とそれに
関連した皮下気腫、縦隔気腫、縦隔炎である。局所注入 に関連するGrade 3 以上の「消化管穿孔-[食道]」*1の観
察された発生頻度が、それぞれ10%を超えることは許容できない。以上より関連するGrade 3 以上の「消化管穿
孔-[食道]」*1が7 名発生した時点で、最終的な発生割合が上記の規準を超える可能性が非常に高いため、登録中
止を検討する。
*1: Grade 3 の「消化管穿孔-[食道]」とは、局所注入後に生じた外科的な処置を要する食道穿孔を指す。
【結果】
現在症例を集積中。2015年3月末時点で59例が登録された(目標登録症例まで残り1例)。全症例を登録後に解析
予定。
【考察】
本試験の意義
本試験においてケナコルトを併用することで食道癌術後吻合部狭窄に対するバルーン拡張の回数を抑えることが
できれば,現行の方法(バルーン拡張術のみ)に置き換わる有用な治療法となりうる。
【本研究に関連した自著論文】
Hanaoka N, Ishihara R, Takeuchi Y, et al. Intralesional steroid injection to prevent stricture after endoscopic
submucosal dissection for esophageal cancer : a controlled prospective study. Endoscopy;44:1007-11. 2012
【文献】
1. Dewar L, Gelfand G, Finley RJ, et al. Factors affecting cervical anastomotic leak and stricture formation
following esophagogastrectomy and gastric tube interposition. Am J Surg. 1992; 163: 484-9.
2. van Heijl M, Gooszen JA, Fockens P, et al. Risk factors for development of benign cervical strictures after
esophagectomy. Ann Surg. 2010; 251: 1064-9.