下肢悪性腫瘍切除に伴う血行再建後の皮弁による被覆術 - MT Pro

■ 原
著
日 血 外 会 誌8573-579,1999
下肢 悪性腫瘍切除 に伴 う血 行再建後 の皮弁 による被覆術
要
堀
直博1
長 谷川
片桐
浩久3
山村
隆2
鳥山
和宏2
鳥居
修 平2
茂紀3
桜井
恒久4
錦見
尚道4
旨:下 肢悪 性腫瘍 におい ては腫瘍 の浸潤 に よ り主要動 静脈 まで合併 切除 され る場 合
が ある.こ の場合 血行再建 が必 要 な こ とに加 え,死 腔 も大 き くな るのが特徴 であ る.こ の
ような症例 に対 しわれ われ は積極 的 に皮 弁 ・筋 皮弁 ・筋弁 を用 いた被 覆術 を行 って い る.
血行 再建 と同時 に皮 弁 ・筋 皮 弁移植 を行 った10例
底 か ら鼠径部 の悪 性腫瘍切 除 ・血行 再建症 例6例,膝
につい て検 討 した .そ の 内訳 は骨…
盤
部 の悪性 腫瘍 切 除 ・血行 再建 症 例4
例 であ る.前 者 では6例 すべ て にお いて反対 側 の腹直筋 皮弁 を用 いた .後 者 で は2例 で 同
側 腓腹 筋弁・1例 で同側逆行 性伏在 皮弁,1例
でマ イ ク ロサ ー ジ ャ リー を用 いた遊 離 広背
筋 皮弁 を用 いた.
すべ て の症例 において移植血 管 の閉塞 な どの問題 はな く,創 部 について も感染 な どの合
併症 な く治癒 して い る.下 肢悪 性腫瘍切 除後 に血行再 建 のた めに置換 した血管 を血流豊 富
で健 常 な組 織 で被 覆 し,か つ,死 腔 を充填 す る こ とは有 用 と考 え られ た.
(日血外 会誌8:573-579,1999)
索引 用語:下 肢悪性 腫瘍,血 行再建,血
管移植,筋 皮 弁,腹 直 筋皮 弁
感染 予 防や創 の治癒 促進 をはか る こ とが必要 と考 えて
は じめ に
い る.こ のた め積極 的 に皮弁 ・筋 皮弁 を用 いて お り,
下肢 の骨 ・軟 部悪性 腫瘍 にお いて は広範 切除 ととも
有用 と考 え られ たので報 告す る.
に腫瘍 の浸潤 によ り主要動静脈 が合併 切 除 され る場 合
が あ る.こ の場 合 の問題 点 として は1)血
要 な こ と,2)大
対象 ・方法
行 再建 が必
きな死腔 が形成 され る こと,3)創
離
血行 再建 と同時 に皮 弁 ・筋 皮弁移 植 を行 った症 例 は
開,感 染 な どの可能性 が高 い こ とな どで あ る.そ こで,
10例 で あ る.そ の 内訳 は骨 盤 底 か ら鼠 径 部 の悪 性 腫
われ われ形 成外 科医 の立場 か らは,再 建 された血管 を
瘍 拡大切 除後 の外腸骨 ∼大腿 動脈血行 再建症 例6例,
血 流豊富 な組織 で被覆 す る と ともに,死 腔充 填 に よ り
膝 部 の悪 性腫瘍 拡大切 除後 の膝 窩動 脈血 行 再建 症例4
例 で あ る.大 腿 動脈 の血 行再建 は原則 的 に 自家伏在 静
1大
垣 市 民 病 院 形 成 外 科(Tel:0584-81-3341)
〒503-8502大
2名
脈 を使用 した が,2例
垣 市 南 頬 町4-86
去 無効 のた め,1例
古 屋 大 学 医 学 部 形 成 外 科(Tel:052-741-2111)
3同
整 形 外 科(Tel:同
上)
4同
第1外
上)
科(Tel:同
〒466-8550名
で は術 直後 の血 管 閉塞 ・血 栓 除
で は動静脈 再建 で その長 さが約30
cmと 長 いた め人工 血 管 を使 用 した .自 家伏 在 静 脈 に
よる再建 の長 さは15∼20cm,人
工 血 管 は8mmリ
ン
古 屋 市 昭 和 区 鶴 舞 町65
グ付 ゴア テ ックス製 の もの を使 用 し,再 建 長 は15∼
受 付:1999年1月4日
30cmで
受 理:1999年7月15日
23
あった.被 覆 には6例 すべ て にお い て反 対側
日血外会誌8巻5号
574
表1症
症例
部位
例一覧
鼠径 部
再建血管部位 再建血管
動脈
大腿
股 関 節 軟 骨 肉腫
大腿
総 揚 骨 一大 腿
3.32M骨
外性骨肉腫
大腿
総 揚 骨 一大 腿
4.67M脂
肪 肉 腫(再
再 発)
骨盤底
総 揚 骨 一大 腿
5.70F脂
肪 肉 腫(再
発)
骨盤底
総 腸 骨 一大 腿
6.58M脂
肪 肉 腫(再
発)
骨盤底
総揚 骨 一大 腿
7.12F骨
肉腫
大腿
大腿 一膝 窩
8.30M骨
肉腫
大腿
大腿 一膝 高
9.15F線
維肉腫
膝関節部 膝窩
病理
1.23F滑
膜 肉 腫(鼠
2.58M左
径 部 転 移)
の 腹 直 筋 皮 弁 を 用 い た.膝
窩 動 脈 の 血 行 再 建 は4例
べ て に 自 家 伏 在 静 脈 を用 い,そ
あ っ た.被
覆 に は2例
行 性 伏 在 皮 弁,1例
人工血管
大伏在 静脈
動脈
動脈
人工血管
動脈+静 脈 人工血管
す
腹 直筋皮弁
腹 直筋皮弁
なし
Minorcomplicationと
で マ イ ク ロ サ ー ジ ャ リー を利 用 し
保 存 的 に 治 癒 した.
して 膝 窩 部 再 建 例 の1例
に追
に縫 合 創 一 部 離 開 が お き た が,
症
果
症 例467歳,男
腔 の充 填 が で
中
診
断:後
腹 膜 原 発 の 脂 肪 肉 腫 局 所 再 発 例.再
繰 り返 し す で に3回
tionは 認 め られ ず 良 好 な 結 果 を得 た.鼠
の 再 発 で あ る.
径 部 再建 例 で
に お い て 腹 腔 内 感 染 ・癌 性 腹 膜 炎 に
手
目に患 側 肢 の股
術:骨
例
性.
5例 で 創 感 染 ・術 後 血 栓 形 成 な ど のMajorcomplica-
よ る全 身 状 態 悪 化 の た め 再 建 術 後5日
術後腹腔内感染のため股関節離断
以 下 に 典 型 的 な2症 例 を呈 示 す る.
窩 部 再 建 例 全 例 お よ び 鼠 径 部 再 建 例 の6例
人 工 血 管 置 換1例
なし
関 節 離 断 を施 行 し た.
た 遊 離 広 背 筋 皮 弁 を 用 い た(表1).
きた.膝
なし
加 植 皮 術 を施 行,1例
皮 弁 は全 例 完 全 生 着 し 創 部 の 被 覆,死
なし
腹直筋皮弁
腹直筋皮弁
で 同側 逆
結
なし
大 伏 在 静 脈 逆 行性 伏 在 皮 弁 な し
動脈
追加植皮術
動脈+静 脈 大伏在静脈 腓腹筋皮弁
の 長 さ は10∼15cmで
で 同 側 腓 腹 筋 弁,1例
合併症
大 伏 在 静 脈 遊離 広 背 筋 皮 弁 縫合創一部離開
動脈
なし
動脈+静 脈 大伏在静脈 腓腹筋皮弁
膝関節部 膝窩
10.22MEwinsarcoma
動脈
動脈
移植血管 使用皮弁
大伏在静脈 腹直筋皮弁
大伏在静脈 腹直筋皮弁
発を
の 手 術 を受 け て お り,今 回3回
目
盤 底 部 よ り大 腿 動 静 脈 ま で 腫 瘍 浸 潤 が 認
め られ た た め腫 瘍 と と も に 合 併 切 除 し た.約20cmの
自家 伏 在 静 脈 に よ る外 腸 骨 ・大 腿 動 脈 の 血 行 再 建 が な
さ れ た(図1).創
部 皮膚 の単純 閉鎖 は可能 であ った
が 移 植 血 管 周 囲 の 死 腔 が 大 き く,ま た,移
植血管直上
w
図1自
家 伏 在 静 脈 に よ り再 建 さ れ た大 腿 動 脈
図2腹
24
直 筋 皮 弁 の デ ザ イ ンの シ ェー マ
1999年8月
堀 ほか
下肢悪性腫瘍切除 に伴 う血行再建後 の皮弁 に よる被覆術
図4図3の
575
シェーマ
閉 創 後 移 植 血 管 閉塞 の た め人 工 血管 に置 換.
後 の ヘ ル ニ ア を 防 止 した.閉
図3腹
腔 を経 由 し移 動 した 腹 直 筋 皮 弁
創 直 後 に左 下 肢 の 色 調 が
悪 く,足 背 動 脈 も触 知 し な い た め 再 開 創.移
植血管が
が縫合部 とな るため反対側 の腹直筋皮弁 による充填術
閉 塞 し て い た た め 血 栓 除 去 術 を2回 施 行 す る も効 果 な
を施行 した.腹 直筋皮弁 は血管茎 のみの島状 皮弁 とし
く人 工 血 管 に 置 換 し て 同 様 に 閉 創 し た.
て挙 上 し,無 理 な く欠損部 に移動 で きるよ う腹腔 を経
由 して移動 した(図2,図3,図4)。
術 後 経 過 は 順 調 で 創 部 は 感 染 もな く治 癒 し た.術
後
6ヵ 月 経 過 し て い る が 腫 瘍 の 再 発 も な く,血 管 被 覆 に
皮弁移植 によ り
創部移植血管部 に緊脹 がかか らない ように被覆 ・閉鎖
も全 く問 題 は な い.ド
ッ プ ラ ー 血 流 計 に よ る検 査 で 血
が可能で あった.皮 弁採取部 は前鞘 を縫合閉鎖 して術
管 の 開 通 も良 好 で あ り足 背 動 脈 も触 知 可 能 で あ る.日
常 生 活 で は腹 壁 ヘ ル ニ ア を 認 め ず,杖
使 用 で 歩行 して
い る(図5).
症 例712歳,女
性.
診
断:左
大 腿 骨 遠 位 骨 肉 腫.
手
術:腫
瘍 部 を拡 大 広 範 切 除 した.膝
大 腿 骨 遠 位 約20cm切
烈\ 遥
関 節 を残 し
除 し,膝 窩 動 静 脈 も約10cm切
曝も
戦
域'三
ひへ も
鰯
パ 簸
・
・
ペ
ノ
、
サ
ウ
く鷲
ノ
纈 醜{
ペ
鱒 一
叢ご
憾 響 燃t
熾 欝欝 ,
,菟
麟
◇鞠!ポ
図5術
後6ヵ
図6再
月
25
建 され た膝 窩 動 脈,大 腿骨
日血外会誌8巻5号
576
遷
メ'
図7広
図8閉
背 筋皮 弁 に よる被覆 ・保護
創時
合 血 行 再 建 が 必 要 な こ とに加 え,移 植 血 管 周 囲 の 死 腔
除 され た.
も大 き くな り感 染 の 危 険 性が 高 ま る の が 特 徴 で あ る.
自家 伏 在 静 脈 に よ り大 腿 ∼ 膝 窩 動 脈 血 行 再 建 を施 行.
閉 創 とい う点 で は 単 純 に縫 合 可 能 な 場 合 も あ るが,創
骨 は腓 骨 ・腸 骨 と髄 内釘 に よ り再 建 した(図6).
創 部 の 皮 膚 欠 損 は小 さ く縫 合 可 能 で あ っ た が 創 内 の
部 の 皮 膚 は主 に切 除 され た 血 管 か ら血 行 栄 養 支 配 を受
死 腔 は 大 き く,単 純 閉 創 で は死 腔 が 残 る う え,再 建 血
け て い るた め,腫 瘍 切 除 に よ り皮 下=剥離 を受 け また 主
管 は血 行 の な い 遊 離 骨 と接 触 し た状 態 とな り創 治 癒 の
血 管 が 損 傷 され る と血 流 不 良 を きた す.こ
遷 延 や 術 後 の 合 併 症 も お きや す い と考 え られ た.し
た
開,再 建 血 管 の 露 出 ・感 染 な どの 合 併 症 が お こ る可 能
が っ て 移 植 血 管 と骨 を分 離 ・被 覆 し死 腔 を充 填 す る た
性 が 高 くな る.ま た,人 工 血 管 に よ り血 行 再 建 が 行 わ
め遊 離 筋 皮 弁 に よ る再 建 を施 行 し た.女 児 の た め 腹 直
れ た 場 合 で は そ の頻 度 は よ り高 くな り,い っ た ん人 工
筋 皮 弁 に よ る再 建 よ り広 背 筋 皮 弁 に よ る再 建 を行 っ た.
血 管 に感 染 が 及 ぶ と患 肢 も し くは生 命 を も犠 牲 に しか
3×10cmの
ね な い 重 篤 な 合 併 症 と な る場 合 も あ る.人 工 血 管 の 感
皮 島 と広 背 筋 全 体 を挙 上 し再 建 に 用 い た.
の結果 創離
筋 皮 弁 の 栄 養 血 管 で あ る胸 背 動 静 脈 は と も に 外 径 約
染 率 は全 体 で0.8∼4.3%1),発
1.5mm,移
鼠 径 部 に 多 い こ とが 報 告 され て い る2∼4).人 工 血 管 の
植 床 血 管 で あ る外 側 大 腿 回 旋 動 静 脈 下 降
枝 も外 径 約1.5mmで
動 脈,静
脈(2本)と
感 染 率 に つ い て は 下 肢 のASOや
あ り,吻 合 は手 術 用 顕 微 鏡 下 で
も に 手 縫 い で10-0ナ
生 部 位 で は 下 肢,特
に
動 脈 瘤 に伴 う報 告 で
あ り,悪 性 腫 瘍 切 除 の場 合 は さ らに頻 度 が 高 くな り予
イ ロ ンを
後 も不 良 に な る と考 え られ る.
使 用 し端 端 吻 合 し た.皮 弁 採 取 部 は 一 期 的 に縫 縮 した.
そ こで,形 成 外 科 医 の立 場 か ら は,再 建 さ れ た 血 管
移 植 骨 を広 背 筋 筋 体 で 包 み 込 む と と も に移 植 骨 ・血 管
を血 流 豊 富 な組 織 で 被 覆 ・保 護 し,周 囲 の 死 腔 を充 填
間 の 死 腔 を 充 填 した(図7)。
皮 島 は血 行 観 察 用 モ ニ タ ー と して 用 い た(図8).
し,創 の 治 癒 促 進 を計 り合 併 症 を予 防 す る こ とが 必 要
術 後 経 過 は 感 染 もな く順 調 で 皮 弁 縫 合 部 は 問 題 な か
と考 え る.こ の た め 創 部 か ら離 れ た 独 立 し た 血 流 を持
っ た が,皮 下 剥 離 さ れ 単 純 縫 縮 を行 った 部 位 に血 行 障
つ 健 常 な 組 織 を利 用 す る必 要 が あ る.こ
害 を生 じ一 部 創 離 開 を生 じ た が 保 存 的 に 治 癒 し た.術
るの が 皮 弁 ・筋 皮 弁 で あ る.こ れ ら を使 用 す る こ と に
後5年 経 過 し,腫 瘍 の再 発 は な く創 部 に は 問 題 は な い.
よ り皮 下 剥 離 され た 創 縁 の 閉 創 時 の 緊 張 を軽 減 し血 行
ドッ プ ラ ー 血 流 計 に よ る血 管 の 開 通 も良 好 で 足 背 動 脈
障 害 を予 防 した り,死 腔 に対 し て健 康 な組 織 を充 填 す
も触 知 可 能 で あ る.骨 が まだ 未 癒 合 で松 葉 杖 歩 行 と な
る こ とに よ り血 腫 な ど の貯 留 を予 防 で き創 治 癒 の 促 進
っ て い る.今 後 血 管 柄 付 骨 移 植 を 予 定 し て い る.
を はか る こ とが 可 能 で あ る と考 え る.
考
の 目的 に合 す
これ まで に も筋 皮 弁 は人 工 血 管 感 染 創 に対 す る組 織
察
充 填 法 と して そ の 有 用 性 が 報 告 さ れ て き て い る5∼8).
Mathesら9)は
下 肢 の 骨 ・軟 部 悪 性 腫 瘍 にお い て は腫 瘍 の 浸 潤 に よ
動 物 実│験に お い て も筋 皮 弁 は 局 所 皮 弁
と比 較 し ブ ドウ球 菌 の 発 育 を抑 制 し,酸 素 分 圧 が 高 い
り主 要 動 静 脈 まで 合 併 切 除 され る場 合 が あ る.こ の場
26
1999年8月
堀 ほか:下 肢悪性腫瘍切 除に伴 う血行再建後 の皮弁 による被覆術
577
こ とか ら細 菌 感 染 創 の被 覆 に も有 効 で あ る こ と を 述 べ
弁24∼26)などが 有 茎 皮 弁 と し て 利 用 で き る が そ の 移 植
て い る.
量 や 移 動 距 離 は 比 較 的 少 な い.ま
人 工血 管 の感 染頻 度 の高 い鼠径 部 にお い て は充填 材
た,切
除 範 囲 に よっ
て は こ れ ら の 栄 養 血 管 が 損 傷 さ れ た りす る こ と もあ る.
料 と し て 縫 工 筋 弁10・11),大網12)な ど が 報 告 さ れ て い る.
そ の 場 合 に は症 例7の
しか し,下 肢 悪 性 腫 瘍 切 除 の場 合 に は 縫 工 筋 は合 併 切
利 用 し た 遊 離 複 合 組 織 移 植 を積 極 的 に 用 い る こ とが 必
除 さ れ て い た り,温 存 さ れ て い た と し て も組 織 量 が 足
要 と考 え られ る27).
りな い 場 合 が 多 い.ま
よ う に マ イ ク ロ サ ー ジ ャ リー を
た,大 網 は そ の 組 織 量 に個 人 差
結
が あ り,距 離 的 に もや や 遠 い た め 十 分 組 織 量 を移 植 す
る こ とが で き な い 場 合 も あ る.そ
のた め この部 位 で 最
語
下肢悪性腫瘍切除後 に血行再建 のため に置換 した血
も有 用 な の は対 側 の 腹 直 筋 皮 弁 で あ る と考 え られ る.
管 を血流豊富 で健常 な組織 で被覆 し,か つ,死 腔 を充
わ れ わ れ の 症 例6例
填す る ことは有用で ある と考 え られた.
に もす べ て 腹 直 筋 皮 弁 を 用 い て い
る.腹 直 筋 皮 弁 は 上 ・下 腹 壁 動 静 脈 の2本
有 す る 筋 皮 弁 で あ り,1977年Drever13)が
の血 管 茎 を
上腹 壁動脈
を 茎 とす る 筋 皮 弁 を,1983年Taylor14・15)が
下腹 壁動
脈 を茎 とす る 筋 皮 弁 を報 告 した.そ
茎皮 弁 と
の 後,有
文
1)
川 哲 哉,北
市
隆 他:人
染 に 対 す る 再 手 術 症 例 の 検 討.日
2)
な ど の 再 建 に,遊 離 皮 弁 と し て 頭 頸 部 を は じ め とす る
心 血 外 誌,26:
Landreneau,M.D.andRaju,S
.:Infectionsafter
electivebypasssurgeryforlowerlimbischemia:
常 に用 途 の 広 い 筋 皮 弁 で あ
Theinfluenceofpreoperativetranscutaneous
る20∼22).そ の 安 定 し た 血 行 に よ りデ ザ イ ン の 自 由 度
arteriography.Surgery,90:956-961
も高 く,豊 富 な 組 織 量 を 得 る こ とが で き,血 管 茎 の み
の 島 状 皮 弁 に す る こ と に よ り,さ
ら に症 例4の
3)
ごとく
Lorentzen,J.E.,Nielsen,0
,1981.
.M.,Arendrup,H.et
a1・:Vasculargraftinfection:Ananalysisof
腹 腔 を 経 由 す る こ と に よ り到 達 距 離 を延 ば す こ とが で
sixty-twograftinfectionsin2411consecutively
き る.こ
の た め 広 範 な 欠 損 部 で も皮 弁 採 取 部 と と も に
implantedsyntheticvasculargraft
,1次
81-86,1985.
一 時 閉鎖
治 癒 が 期 待 で き る.ま
た,術
中 の体 位
4)
変 換 も不 要 で あ り同 一 術 野 で 手 術 で き る と い う利 点 を
持 つ.な
お,こ
の 症 例4に
脈 が 閉 塞 し た.そ
八 柳 栄 治,笹
嶋 唯 博,郷
.Surgery,98:
一
一 知 他:下
建 術 後 グ ラ フ ト 感 染 症 例 の 検 討.日
お い て は 移 植 した 大 伏 在 静
の 理 由 と し て は,1)静
工 血 管 感
40-45,1997.
して 胸 壁 ・乳 房 再 建16),腹 壁17),鼠 径 部18)・会 陰 部19)
各 種 の 再 建 に使 用 され,非
伊 藤 健 造,北
献
肢 血 行 再
血 外 会 誌,
3:657-663,1994.
脈 を採 取 し
5)
て か ら移 植 す る ま で の 時 間 が 長 か っ た こ と(腫 瘍 切 除
中 島 伸 之,安
藤 太 三,安
達 盛 次 他:人
工 血 管 感
染 創 に対 す る 組 織 充 填 法 を 応 用 し た 治 療 法 に つ
開 始 と同 時 に静 脈 を 採 取 し た た め 約4時
静 脈 の 距 離 が 長 い こ と(約20cm),3)上
間),2)移
植
い て.日
記理 由 によ
6)
り筋 皮 弁 に よ る圧 迫 の 影 響 も受 け や す か っ た こ とな ど
が 考 え ら れ た.症 例6に
八 巻
心 血 外 誌,26:1074-1075,1990
隆,野
崎 幹 弘,佐
.
々 木 健 司 他:末
梢 血 管
領 域 の グ ラ フ ト 感 染 に 対 す る 筋 皮 弁 移 植 の 検 討.
お い て腹 腔 内 感 染 に よ る全 身
日 血 外 会 誌,6:705-711,1997.
7)
状 態 の 悪 化 の た め や む な く患 側 肢 の 股 関 節 離 断 を施 行
八 巻
隆,野
崎 幹 弘,仲
した が 皮 弁 移 植 部 お よ び 被 覆 さ れ た 人 工 血 管 に は感 染
植 後,感
は 及 ん で お らず,血
手 術,48:587-593,1994.
管 の 開 通 も問 題 な く,本 法 の 有 用
8)
性 が 立 証 さ れ て い る と考 え られ た.
沢 弘 明 他:人
工 血 管 移
染 創 に 対 す る 筋 皮 弁 移 植 に よ る 再 建.
Mehran,R.J.,Graham,A.M.,Ricci,M.A.etal.:
Evaluationofmuscleflapsinthetreatmentof
腹 直 筋 皮 弁 の 問 題 点 と し て は,腹 壁 ヘ ル ニ ア を お こ
す 場 合 が あ る の で,皮
infectedaorticgrafts.J.Vasc
弁 採 取 時 にお い て は弓状 線 よ り
下 方 は 前 鞘 を で き る だ け 温 存 し て 縫 合 し予 防 す る.ま
た,左
右 の 腹 直 筋 を採 取 した 場 合 は,仰
.Surg.,15:487-494,
1992.
9)
臥 位 よ りの 上
Mathes,S・J・,Alpert,B.S.andChang,N.:Useof
muscleflapinchronicosteomyelitis:Experimen-
体 引 き お こ し が 困 難 と な る こ と が あ る.
talandclinicalcorrelation.Plast.Reconstruct
Surg.,69:815-828,1982.
膝 窩 部 に お い て は 腓 腹 筋 弁23),逆 行 性 伏 在 皮
27
.
日血外会誌8巻5号
578
agroindefect.Br.J.Plast.Surg.,37:351-353,
10)Fernandez,M.A.M.,Quast,D.C.,Geis,R.C.et
1984.
al.:Distallybasedsartoriusmuscleflapinthe
treatmentofinfectedfemoralarterialprostheses.
19)
、
・
節 部,会
J.Cardiovasc.Surg.,21:628-631,1980.
11)田
原 真 也,薄
丈
夫,菊
井 知
よ る 鼠 径 部 の 人 工 血 管(ダ
修 復.形
12)森
染
染 例
グ ラ
す
術(会
子 他:縫
ク ロ
ン)感
工 筋 弁
染 露
フ
ト に 対
議
録).日
に 対
血
す
外
腹 直 筋 皮 弁 に よ る 股 関
陰 部 お よ び 陰 嚢 部 の 再 建.形
成 外 科,
に
20)
出 の
Harii,K.:Inferiorrectusabdominisflap.In:
MicrosurgicalReconstructionoftheHeadand
る 再 手 術
る 有 茎 大 網 被 覆
心
山 凱 夫:下
35:769-773,1992.
成 外 科,27:100-103,1984.
本 典 雄 他:感
遠 藤 隆 志,中
を 用
鼠 径 部 感
Neck,Baker,S.R.ed.,NewYork,1989,Chur-
い た 再
chillLivingstone,pp.191-210.
手
21)
誌,21(Suppl.):103,
Nakatsuka,T.,Harii,K.,Yamada,A.etal.:
Versatilityofafreeinferiorrectusabdominisflap
1992.
ofheadandneckreconstruction;Analysisof200
13)Drever,J.M.:Theepigastricislandflap.Plast.
cases.Plast.Reconstruct.Surg.,93:762-768,
Reconstruct.Surg.,59:343-346,1977.
1994.
14)Taylor,G.1.,Corlett,R.andBoid,J.B.:The
22)
extendeddeepinferiorepigastricflap;Aclinical
矢 島 和 宜,山
本 有 平,杉
technique.Plast.Reconstruct.Surg.,72:751-764,
お け る 腹 直 筋 皮 弁100例
ig83.
flowaugmentationの
15)Taylor,G.1.,Corlett,R.andBoid,J.B.:The
原 平 樹 他:再
建 外 科 に
の 使 用 経 」験−Blood
有 用 性 に つ い て 一.形
成 外
科,38:3-11,1995.
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28
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1999年8月
堀 ほか:下 肢悪性腫瘍切除 に伴 う血行再建後 の皮弁 による被覆術
579
FlapCoverageafterVascularReconstructioninCasesof
MalignantTumorResectionintheAreaoftheLowerExtremities
NaohiroHori1,TakashiHasegawa2,KazuhiroToriyama2,ShuheiTorii2,
HirohisaKatagiri3,ShigenoriYamamura3,TsunehisaSakurai4andNaomichiNishikimi4
1
DepartmentofPlasticandReconstructiveSurgery,OgakiMunicipalHospital
2
DepartmentofPlasticandReconstructiveSurgery,NagoyaUniversitySchoolofMedicine
3
DepartmentofOrthopedics,NagoyaUniversitySchoolofMedicine
4
FirstDepartmentofsurgery,Nagoyauniveristy,schoolofMedicine
Keywords:Flapcoverage,Vascularreconstruction,Malignanttumorintheareaoflowerextremities,
Musculo-cutaneous廿ap,Rectus-abdominusmusculo-cutaneousflap
Therearesomecasesthatmainarteryandveinareresected,whenmalignanttumorsareinvasivein
theareaoflowerextremities.Suchcasesrequirevascularreconstructionandsincethedeadspaceisvery
large,weactivelyuseskinflaps,musculo-cutaneousflaps,andmuscle且apstocompensate.
Weusedthesemethodsin10cases.Sixcasesweremalignanttumorsfromthepelvicfloorextending
tofemorallesionsand4casesweremalignanttumorsoftheknee.Allcasesneededvascularreconstruction.
Inthefbrmergroup,weusedcontralateralrectus-abdominusmusculo-cutaneousHapsinallcases.In
thelattergroup,weusedipsilateralgastrocnemiusmuscleHapsin2cases,reversesaphenousHapinlcase,
andamicrosurgicallatissimus-dorsimusculo-cutaneous廿aptransferinlcase.Therewasnocaseof
vascularobstructionorinfectionatthewoundsite.
ItisveryusefUltocoverreconstructed-vesselsandfilldead-spacebyskinflaps,musculo-cutaneous
且apsandmuscleHapsafterwideresectionofmalignanttumorintheareaofthelowerextremities.
(Jpn.J.Vasc.Surg.,8:573-579,1999)
29
ご