Fever Work Upにて発見された子宮留膿症

Fever Work Up
与論徳州会病院
水野 雅春、石田 彩乃、西村 祐紀
高杉 香志也、久志 安範
Back Ground
 93歳女性
介護老人保健施設入所中
 ADL
車椅子 食事自力摂取
 喫煙/飲酒
なし
 アレルギー なし
 家族歴
特記事項なし
既往歴 内服歴
 既往歴
SSS(PM挿入後)
CHF
高血圧症
認知症
CKD
左大腿骨頚部骨折(H20 γ nail)、骨粗鬆症
 内服歴
マグラックス、アリセプト、バイアスピリン、ラベプラゾール、メナ
テトレノン、エディロール、コバシル、アムロジピン、ラシックス
主訴 現病歴
 【主訴】発熱、SpO2低下
 【現病歴】2013年6月上旬、朝からの発熱(37.8℃)を認め、入所中
施設にて点滴開始された。当日21時より体温38.4℃、SpO2 80% と
増悪認め、肺炎疑いとして当直帯に当院へ救急搬送された。
咳・鼻汁なし、吸引にて膿性喀痰あり
嘔吐、嘔気なし
食事:当日昼まで摂取(量は普段通り)
排泄:当日に排便あり、下痢なし
排尿:正常
周囲に同様の症状なし、インフルエンザなし、最近の感染既往なし
身体所見
 【Vital signs】
JCS:Ⅰ‐3(問いかけに応答あるも不明瞭) GCS:E4V3M5
BP110/81mmHg, HR82/min, BT37.8℃, SpO2 97%(O2 5L), RR24回/min
頭部:対光反射 3/3mm +/+
眼球結膜黄染(‐)、眼瞼結膜蒼白(‐)
頚部:リンパ節触知(‐)、頚静脈怒脹(‐)、項部硬直(‐)
胸部:呼吸音 吸気時に両側背面Course Crackles(+)、Wheezes(‐)
心音
S1→、S2→、S3(‐)、S4(‐)、心雑音(-)
腹部:平坦かつ軟、圧痛(‐)、肝脾触知(‐)、腸蠕動音正常
四肢:皮疹(‐)、表在リンパ節触知(‐)、指示動作概ね可能、両下肢に軽度
Slow pitting edema(+)
検査結果
・血液検査
・尿定性沈渣
WBC 5400 /μL
Glu
126 mg/dL
RBC 297万/μL
AST
33 U/I
Hb
ALT
17 U/I
10.7g/dL
MCV 100.4 fL
LDH 261 U/I
PLT
CK
21.4万/μL
39 U/I
Neut 78.1 %
γGTP 26 U/I
Na
139 mEq
ALP
K
Cl
3.9 mEq
100 mEq
AMY 112 U/I
UA 6.2 mg/dL
219 U/I
BUN 33.4 mg/dL TP
6.0 g/dL
Cr
3.8 g/dl
1.3mg/dL
CRP 3.2 mg/dL
Alb
T-Bil 0.4 mg/dL
WBC<1/HPF 細菌(-) ケトン体(-)
・喀痰Gram染色
G4P3
GNR (3+) WBC(4+)
・直腸診
腫瘤触知せず、便潜血(-)
・動脈血ガス分析(5L O2下)
pH
7.45
pCO2 35 mmHg
pO2
108 mmHg
HCO3- 26.8 mmol/L
画像検査
 胸部Xp
画像検査
 胸部CT
画像検査
 胸部CT
入院後経過
 発熱に伴うSpO2低下、画像所見にて肺野に浸潤影を認め
急性肺炎として絶食の上、抗生剤および補液にて加療開始。
(CTRX1g q12h+CLDM600mg q12h)
 当日施行の胸部CT縦隔条件にて拡張した上行〜下行結腸を認
めた。可視範囲での小腸拡張はなく、当日排便認めており腸
閉塞は否定的であったが、精査目的に翌朝、腹部エコー施行。
画像検査
 腹部エコー
腹部エコー
 明らかな閉塞所見や腸管壁肥厚は認められなかったものの、
虫垂連続性を疑わせるCystic lesionを指摘され、虫垂穿孔も
考慮し腹部造影CT施行
画像所見
 造影CT 横断像
画像所見
 造影CT 冠状断
造影CT
 明らかな腸管連続性はなく、Free Airなし。虫垂穿孔等は否定
的であったが、骨盤腔内に壁の造影効果を伴う嚢胞様構造物
を指摘され、腟との連続性認めたため、婦人科疾患疑い経腟
エコー施行
経膣エコー
経過
 経膣エコーにて子宮体部に直径5㎝程度の腫大、内部菌塊様の
構造物を認めた。腫瘤は緊満し、穿孔ないことを確認。
ゾ
ンデ挿入は容易で排膿を認めた。
子宮留膿症と診断
経過
 子宮腔内にフォーリーカテーテル挿入したところ、90ml程度
排膿を確認。生食1000mlにて内腔洗浄を施行。
 排膿液Gram染色 ( GPC4+、GNC4+、GNR1+、WBC4+)
経過
 抗生剤継続および子宮内腔洗浄を連日施行。
 入院3日目には36℃台に解熱、その後発熱なく経過。
 腹部エコーにて子宮腔内のサイズFollowをしたところ、減少
を認めカテーテルは入院5日目に抜去とした。
 入院6日目より食事開始。全量摂取。
培養結果 (入院10日目に判明)
 子宮内膿
Proteus vulgaris
(GNR)
Enterococcus faecium (GPC)
 喀痰培養
Klebsiella oxytoca 3+
α-streptococcus 2+(口腔内常在菌)
 血液培養
陰性
経過
 Proteus vulgaris、Enterococcus faeciumはCTRXおよび
CLDMに対しResistanceであったが、入院後全身状態改善、炎
症反応低下認めたため熱源の主座は肺炎にあると判断。Follow
Xpにて肺炎改善を確認し、抗生剤は10日間で終了とした。
 抗生剤終了後の発熱なく経過し、入院14日目に退院の運びと
なった。
子宮留膿症
 子宮腔内の感染に子宮頸部の狭窄や閉塞が加わって子宮腔内に膿が
貯留する疾患
 全婦人科入院患者中の0.01〜0.5%に認められる
 閉経後の婦人(特に高齢者)に多く、子宮頚管の閉塞・狭窄、E分泌
低下による子宮内膜の萎縮、寝たきりの状態が発生要因として大き
く関わっている。症状は発熱、不正性器出血、膿性帯下、下腹部痛
など
 穿孔することにより汎発性腹膜炎をきたす可能性もあり、破裂は子
宮留膿症の5%に認められる。
 起因菌としてはStreptococcus属やBacteroides属が多い
 治療は子宮頚管の拡張による排膿と抗菌薬の投与。穿孔により急性
腹症を生じた場合には緊急開腹手術が必要となる。
結語
 発熱、SpO2低下にて来院、急性肺炎の診断で入院となり、追加の
Fever Work Upにより子宮留膿症を指摘された一例を経験した。
 肺炎を併発しており有意な熱源であったかは不明であるが、ドレナー
ジおよび抗菌薬の投与で発熱は速やかに改善した。
 診断が遅れると重大な合併症を生じる可能性があり、女性の発熱や腹
痛をきたしうる疾患として念頭に置く必要がある。
ご清聴ありがとうございました