腎移植後の発熱の一例

腎移植後の発熱の一例
徳之島徳洲会
研修2年次 篠﨑 智公
71歳 男性
発熱
<現病歴>
来院3日前に転落し、近医で右手骨折、左足関
節捻挫の診断を受けた。それ以後臥床傾向に
なっていた。
来院当日、朝から発熱・頭痛あり、当院受診と
なった。右手関節、左足関節の痛みあり。
<Review of System>
(+)発熱、頭痛、関節痛
(-)悪寒戦慄、咽頭痛、咳、胸痛、腹痛、下痢、
排尿痛、頻尿、皮疹
<既往歴>
#糸球体腎炎で腎移植(3年前)+脾臓摘出
#腹壁瘢痕ヘルニア術後 #虫垂炎術後 #C型肝炎
キャリア
<内服薬>
セルセプト®(250) 2T、グラセプター®(1) 3T、フルイトラン®(2) 1T、
ラシックス®(40) 1T、ジャヌビア®(50)0.5T、フェブリク®(7.5) 1T、
酸化マグネシウム(330) 3T、アモバン®(7.5) 1T、テルネリン®(1) 3T
<生活歴>ADL自立
喫煙:never 飲酒:never
山作業なし、海外旅行なし、
来院7日前にカンパチの刺身を摂取
<身体所見>
Vital:BP;104/54mmHg HR;95回/min 整 BT;38.4℃
RR 30回/min SpO2;98%(room air) 意識:清明
頭部:眼瞼結膜;貧血なし 眼球結膜;黄染なし
頸部リンパ節の腫脹なし jolt accentuation
なし
胸部:呼吸音;清 左右差なし
心音;4LSBを最強点とし、SASH領域に
LevineⅢ度の収縮期雑音あり
<身体所見>
腹部:平坦・軟、右側腹部に圧痛あり
反跳痛なし 筋性防御なし
Murphy’s signなし
背部:CVA叩打痛なし、脊柱叩打痛なし
四肢:右手関節ギプス固定、
末梢に腫脹・疼痛なし
左足関節圧痛あり、
発赤・熱感左右差なし
皮疹:なし
検査所見
<血液検査>
WBC 9470/μl
(Neu 51.9% Ly
17.5% M 30.0%
B 0.6% E 0%)
RBC 418万/μl
Hb 13.4g/dl
Plt 27.2万/μl
CRP 21.49mg/dl
Glu 138mg/dl
CPK 36U/l
GOT24U/l
GPT 22U/l
LDH 224IU/l
ALP 331U/l
ChE 216U/ml
γ-GTP 42U/ml
AMY 29U/ml
T-Bil 2.5mg/dl
TP 7.4g/dl
Alb 3.1g/dl
BUN 11.8mg/dl
Cr 0.7mg/dl
Na 134.8mEq/l
K 3.7mEq/l
Cl 96.8mEq/l
Ca 8.2 mg/dl
<尿検査>
尿蛋白定性 1+
潜血 1+
赤血球 5-9
白血球 1-4
細菌 (-)
胸部X線
写真
腹部単純CT
移植腎のサイズは以前と変化なし
Problem List
#発熱
#頭痛
#右手関節痛
#左足腫脹関節痛
#右前腕骨折
#腎移植後
#脾臓摘出後
#収縮期雑音
#右側腹部圧痛
#高CRP血症
#尿蛋白1+
#潜血1+
#HCV(+)
あなたの診断は?
次に何をしますか?
入院後経過
第1病日、細菌感染は否定的を考え、
抗菌薬を使用しない方針とした。
第2病日、左膝関節の痛みが出現!
膝関節周囲の熱感左右差・腫脹・
圧痛あり、fluidを触知した。
関節液Gram染色
強混濁の黄色の
関節液20mlが採取。
細胞数 16224/3μl
単核球 7.5%
多核球 92.5%
リウマチ因子 (-)
ピロリン酸 (+)
診断
「偽痛風」
入院後経過
PSL 30mg
40
39
38
37
体温
36
35
WBC
CRP
ESR(1hr)
日
5
病
第
日
3
病
第
第
1病
日
34
9470 12290 8150
21.49 30.58 7.16
94
77
7590
2.82
退院
51
その他の検査
血液培養検査:陰性
尿培養検査:陰性
CMV-AG (-)
β-Dグルカン 15.6pg/ml
アスペルギルス抗原 (-)
腎移植後の発熱のpoint
①丁寧な病歴、身体診察が必要。
②臓器別に感染症の有無を除外していく。通常髄
液検査は必要ないが、頭痛・神経学的所見を認め
るときは速やかに行う。
③はっきりとした局所所見・臓器障害認めず、全身
状態良好であれば、抗菌薬は必要ない。
腎移植後の発熱のpoint
①丁寧な病歴、身体診察が必要。
②臓器別に感染症の有無を除外していく。通常髄
いつも通りのことを!
液検査は必要ないが、頭痛・神経学的所見を認め
るときは速やかに行う。
③はっきりとした局所所見・臓器障害認めず、全身
状態良好であれば、抗菌薬は必要ない。
腎移植後感染症の3段階
①周術期(1ヶ月)、②移植後半年間、③半年以後
①:手術関連、尿路感染、移植腎の細菌感染など
②:もっとも免疫抑制が強い;ヘルペスウイルス族、
細胞内寄生菌(リステリア・レジオネラ)、真菌
③:通常の市中感染、結核やMAC、肝炎ウイルス、
ヘルペスウイルス族など
10-15%の発熱の患者で慢性ウイルス感染症(肝炎ウイ
ルス、ヘルペスウイルス、EBV、CMV、HIV)が問題になる
レジデントのための感染症レジデントマニュアル第3版より
腎移植半年以降の感染危険因子
Cr 2mg/dl以上
プレドニン 20mg/day以上
2剤以上免疫抑制剤の使用
レジデントのための感染症レジデントマニュアル第3版より
徳之島の状況
徳之島では13人
の腎移植患者
が生活している
(2015年8月現在)
結語
• 腎移植後で免疫抑制剤使用中の
患者の発熱の一例を経験した。
• 日和見感染症など特殊な患者背景
から鑑別疾患を考慮する必要が
あった。
• 身体所見とGram染色から診断を
決定し、治療することができた。