4.気体放電の形成 4.1 放電理論と気体の絶縁破壊 4.2 パッシェンの法則 4.3 電子なだれとストリーマ 「プラズマ工学」講義資料 2015年度版 熊本大学工学部情報電気電子工学科 勝木 淳 放電の生成 電離に必要なエネルギー 5~25 eV → 電界で電子を加速 → 加熱して電子の熱速度を大きくする ◆ 直流放電プラズマ 比較的低温。 用途:電気溶接,加工,レーザー ◆ 交流放電プラズマ レーザー用グロー放電 生成容易。 用途:電気溶接,熱源,照明 ◆ 高周波放電プラズマ 無電極(不純物少), 非熱平衡。 ◆ パルス放電プラズマ 高エネルギー密度,高温/低温,非熱平衡 パルスストリーマ放電 4.1 タウンゼント放電理論と気体の絶縁破壊 (1) 電極間における電子衝突電離(α)作用 電界 電子が電界方向に単位距離移動する間に 気体分子と衝突して電離する回数を衝突電 離係数(α)と呼び、電子衝突電離を単に α作用と呼ぶ。 中性粒子 イオン 電子 電子衝突電離 電子衝突電離による荷電粒子数の増殖 陽極および陰極における二次電子放出(γ効果) 金属表面にφより大きいエネルギーを持つ粒子が入射されることにより、 電子が固体表面から放出される現象。 (前出) 粒子: イオン、中性粒子、電子 E E 電子 正イオン 二次電子 二次電子 陰極: イオンの衝突 陽極: 電子の衝突 ただし、電界で電極に引き込まれる。 ※放電では、陰極側で生じる二次電子放出が重要。 α作用が支配的なタウンゼント放電 陽 極 n0 e αd n0 (eαd − 1) 陰 極 n0 n0 (eαd − 1) = n0 M γMn0 eαd γMn0 (eαd − 1) γn0 M γM 2 n 0 (γM )2 n0 電子流 正イオン流 負イオン流 (γM )2 n0 eαd (γM )2 n0 (eαd − 1) 電極間に流れる電流は、 I 0 eαd I = αd 1 − γ ( e − 1) α は電界 E に対して指数関数的に増 加するので、電流も E によって大きく 変化する。 (2) 電極間における電子の付着(η)作用 電子が電界方向に単位距離移動する間に 気体分子と衝突して負イオンを形成 ⇒ η 作用 付着する割合: 電子付着係数 η [cm-1] 右図で η 作用のみが生じる場合、dx間に おける電子の増加数は、 dn = −nηdx ∴ n = n0 e −ηx α作用とη作用が同時に生じる場合、 (α −η ) x ∵α − β = α n = n0 e 実効電離係数 ※絶縁ガスとして用いられる SF6ガスの場合次の関係がある。 "E % α = 27 $ − 87 ' p #p & E > 89p [kV/cm] では電子増殖、 E < 89p [kV/cm] では電子減少。 η作用が支配的なタウンゼント放電 陽 極 n0 e (α −η ) d 陰 極 n0 n0 n0 α α −η {e (α −η ) d = n0 M γn0 M α α −η {e (α −η ) d − 1} − 1} γMn0 e γMn0 { (α −η ) d α α −η {e (α −η ) d − 1} γM 2 n 0 (γM )2 n0 電子流 正イオン流 負イオン流 (γM )2 n0 e(α −η )d (γM )2 n0 α α −η 電極間に流れる電流は、 α (α −η )d η e − α −η α −η I = I 0 γα (α −η )d 1− e −1 α −η α は電界 E に対して指数関数的に 増加するので、電流も E によって大 きく変化。 火花条件(電流無限大) {e (α −η ) d − 1} γα (α −η ) d { 1− e − 1}= 0 α −η } 4.2 気体の絶縁破壊(パッシェンの法則) 衝突電離係数αは、電界 E と圧力 p との間 に次のような関係がある。 各種ガスの定数A,Bの値 放電開始電圧VS [V] " B % α p = Aexp #− & $ E p' ρ d [mg/cm 3 ⋅ mm] パッシェン曲線(窒素) ※Paschen曲線の物理解釈 【考え方】 ・電界によって電子が加速される。 電界,平均自由行程 ・電子エネルギーが十分に大きければ、 衝突によって中性粒子が電離する。 ・正イオンは陰極へ衝突し二次電子を放 出する。 Vbd 左側 右側 Vmin pdmin ・電極間が荷電粒子で充満されたとき、 放電が開始する(絶縁破壊)。 パッシェンミニマム 右の4つのケースについて考える。 右側 (i) d 一定、p を変化 (ii) p 一定、d を変化 左側 (iii)d 一定、p を変化 (iv)p 一定、d を変化 p⋅d (A) Paschen曲線の右側 ( pd>(pd)min) 【特徴】 ・ 電極間に粒子がたくさんある。 Vbd ・平均自由行程が短い。 Vmin (i) d 一定、p を変化 pdmin p⋅d (ii) P 一定、d を変化 Vbd Vmin ⊕ pdmin E E 長ギャップ ⊕ 短ギャップ p⋅d (B) Paschen曲線の左側 ( pd <(pd)min) 【特徴】 ・平均自由行程が大きいので、電子の エネルギーはガス分子の電離エネル ギーに比べて十分大きい。 (i) d 一定、p を変化 Vbd Vmin pdmin p⋅d (ii) p 一定、d を変化 Vbd Vmin pdmin ⊕ ⊕ 短ギャップ 長ギャップ p⋅d 【問4.1】 気体の圧力 p、電極間隔 d の放電開始(絶縁破壊)電圧 Vb が pd に対して極小値を持つ理由を、放電メカニズムに基づい て説明せよ。 Vb Vmin pdmin p⋅d 4.3 電子なだれとストリーマ 電子なだれの形成 電界 気体中 電子なだれ:1個の電子がなだれ的に衝 突電離をして電子の集団が形成される。 ⇒ 後方にイオン集団がとり残される。 電子集団は電子なだれの進行と垂直な 方向に拡散する。集団の大きさは拡散の 速さで決まる。 - + - - ++++ - - + - - 拡散 - + - - ++++ - - + - - 電子なだれ 電子の 移動方向 電子なだれによる電界の歪み タウンゼント放電では… (条件:低圧、短ギャップ間隔、低過電圧率) 1個の電子なだれによって生成される空 間電荷数 N が小さい。このため、 Es は電極間電界をほとんど歪ませない。 陰極 陽極 印加電界E0 + —― ⇒ 一方、(高圧、長ギャップ、高過電圧率等) の条件下において、 N がある臨界値 Ncr を超えると… 右図のように、 ※ 臨界電子数 Ncr E(x) E0 d 電子なだれの空間電荷による電界歪み ストリーマの発生 から 絶縁破壊へ 空間電荷による電界と外部印加電界が 同程度になると、増強された電界や放電 光(光電離)によって二次的な電子なだ れが発生。 陽 極 最初に発生したなだれは二次なだれを 取り込みながら成長し、陽極に到達。 電子なだれの後には、イオンの集団が 取り残され、これが新たな電子なだれを 形成しつつ吸収し、電気伝導度の大き いチャンネル(ストリーマ)が形成される。 (a) ストリーマがさらに電子なだれを伴いな がら電極間を進展し、陰極に到達する。 このあと、急速にチャネルが加熱されて さらに伝導度が大きくなり、最終的に絶 縁破壊(アーク放電)に至る。 陰 極 (b) 正ストリーマ、負ストリーマ Anode 陽 極 Anode 陽 極 二次なだれ 放電光 (a) (b) 陰 極 Cathode 正ストリーマ (陰極向きストリーマ) Meek のモデル 負ストリーマ (陽極向きストリーマ) Raether のモデル タウンゼント放電とストリーマ放電の生成条件 Air Streamer 過電圧率 K= Townsend V −VDC VDC タウンゼント放電とストリーマ放電の生成条件 ※ 境界は、電極材料、ガス 種類、初期電子供給方 法等にも依存する。 例) 窒素ガス、1気圧、電極間隔 1 cm: ※直流破壊電圧= 31 kV ⇒ 換算電界 E/p = 41 V/(cm・Torr) 過電圧率 K = 10% ⇒ E/p = 45 V/(cm・Torr) N 〜 4.0 x 106 個 大気圧空気中におけるストリーマの外観 線対平板電極 任意形状の線電極 ストリーマの時間分解観測 装置 Coaxial Blumlein line 120 ns, 50 kV 軸方向からの静止写真 (時間積分像) (10ns) ICCD camera 4PICOE 1.5 ns gate Pickup coil Triggered gap switch Voltage divider Pickup coil Trigger module Discharge chamber (40ns) Oscilloscope 1.5 GHz Controller FIG. Experimental setup for the observation of streamer. The discharge chamber is a wire to cylinder geometry. The wire and cylinder diameters are 0.5 and 70 mm, respectively. A fastgated (1.5 ns) ICCD camera was synchronized with the discharge. 大気圧空気中におけるストリーマの挙動 線対円筒同軸電極 80 nsパルス、+50 kV 5 ns 5~105 ns dt = 100 ns 35 ns dt = 1.5 ns 15 ns 25 ns 45 ns 65 ns
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