D-3

劣化度の異なるリチウムイオン二次電池を並列接続した
組電池の電流分布に関する検討
伊藤
俊介*
綿引
祥隆
乾
田中
正志
垣本
直人(茨城大学)
義尚(滋賀県立大学)
In this study, current distribution and degradation of parallel-connected battery, which is composed of two batteries with
different degradation level, are investigated through experiments and simulations. At first, simulations were conducted. From the
simulations, it can be demonstrated that the current flowing in the battery with low level of degradation is higher than that flowing in the
battery with high level of degradation. It is considered that each degradation level of two batteries would be approaching to the same level
by cycling of the charge and discharge processes. Next, cycling tests using the parallel-connected battery consisting two batteries with
different levels of degradation were carried out in cases of high and room temperatures of 50˚C and 25˚C. From the experiments, it was
monitored in the case of high temperature condition that the degradation levels and the currents of two batteries were approaching to a same
level by cycles of charge and discharge. On the other hand, it was observed in the case of the room temperature the difference in the
degradation levels and currents between two batteries was not approaching to a save level by cycles of charge and discharge. In the case of
the room temperature, additional confirmation experiment is considered to be needed.
1. はじめに
携帯電話やノートパソコン等の小型携帯用機器
の電源として既に広く実用化されているリチウム
イオン二次電池は,高充放電効率かつ高重量エネ
ルギー密度という特徴を生かして,太陽光発電,
風力発電等の出力平準化用蓄電池や電気自動車の
駆動用電源等の用途で実用化され始めている。
一般的に利用されている 18650 規格の円筒形リ
チウムイオン二次電池は,単体の端子電圧が 3.6V
で電池容量は 2Ah 程度であるので,電動自転車な
どに搭載される駆動モータに適切なトルク・速度
を発生させるには,多数本の単電池を直列あるい
は並列に接続した電池パックとしての利用が必要
である。例えば,電動アシスト自転車の電池パッ
ク(出力電圧 25.2V,容量 8Ah)は端子電圧 3.6V,
容量 2Ah 程度の単電池を 4 並列したものを 7 段直
列接続した構成がとられている。
このように,電池が実際に利用される場合には,
多数の電池が直並列接続されることになる。仮に
その組み立て時に初期特性が同じ電池を選んだと
しても,長時間電池を使用・保管し続けるとサイ
クル劣化[1]あるいは保存劣化[2]が進むが,それら
の劣化は電池自身のもつ個体差に応じて進行度が
異なってくると考えられる。電池は劣化によりそ
の内部抵抗が増加するので,並列接続された組電
池を構成する各電池の間で劣化度のばらつきが発
生すると,各電池に流れる充放電電流が均一でな
くなる。このような現象が発生すると,使用条件
によっては電池が過充電あるいは過放電になり,
最悪の場合発火して危険である。したがって,並
列接続された電池の劣化度のばらつきが組電池の
特性に与える影響を検討しておくことは,電池を
安全に使用するためにも必要である。
さらに,電気自動車等が大量普及した場合,中
古電池を再利用し,新品の電池を組み合わせるよ
うな使用法も想定されるので,劣化度の異なる電
池を組み合わせた場合の電池に流れる電流や劣化
状態の変化を検討しておくことは,将来的に新た
な電池の利用法の確立にもつながるといえる。
これまでに電池の劣化に関する研究は多数行わ
れている[1]-[3]が,それらは単電池を対象とした検
討がほとんどで,数本の電池を並列接続した組電
池を対象として,組電池の系統的な劣化の検討を
行った報告はこれまでにほとんどない。
以上の背景を考慮して,本研究ではまず,新品
状態の劣化前電池と使用後の劣化後電池の合計 2
本を並列接続した組電池を想定して,各電池に流
れる電流値のシミュレーションを行った。さらに,
シミュレーションのみではなく,劣化度の異なる
劣化前電池および劣化後電池を並列接続した組電
池を対象に充放電を繰り返す充放電サイクル試験
を行って,各電池に流れる電流値の測定を行った。
これらの計算と実験で得られた結果を基に,劣化
度の異なる電池が並列接続された組電池の電流値
1
Imaginary part [m]
-75
Fig. 1 Equivalent circuit assumed in the simulation of
current supplied to each battery with different
degradation level.
-50
-25
0
25
Before degradation
After degradation
Fitting after degradation
Fitting before degradation
50
75
0
25
50
75 100 125 150
Real part [m]
Fig. 3 Fitting of circuit constants (R and C) into
impedance on Cole-Cole plot.
3. 並列接続した組電池の電流シミュレーション
組電池を構成する劣化前電池と劣化後電池にそ
れぞれ流れる電流のシミュレーションには,これ
までに著者らが開発してきた電池の電圧応答シミ
ュレーション手法を改良して用いた。本章では,
研究で用いたシミュレーション手法を説明した
後,シミュレーション結果を述べる。
場合には起電力は一般的にネルンスト式を用いて
理論計算できるが,リチウムイオン二次電池の場
合には電極内部の活物質量の推定が困難であるた
め,起電力を理論的に計算することは容易ではな
い。そこで,この問題点を解決して起電力を決定
するために,本研究では図 2 に示すように充電と
放電を同じ電流値で行い,充電と放電で得られた
端子電圧の測定値の平均を起電力とすることにし
た。この場合,同じ電流値を設定して充放電する
ことにより内部抵抗による電圧降下分をほぼ同じ
レベルに調節できるので,起電力の妥当性に問題
はないと考えられる。
また,図 1 の等価回路を用いて各電池に流れる
電流をシミュレートするためには抵抗やコンデン
サなどの回路定数(R や C)の値が必要である。
それらの回路定数の決定に関しては,電池の交流
インピーダンス特性を測定し,回路定数をさまざ
まに変化させて,図 3 に示すように,計算と測定
で得られるインピーダンスの軌跡が一致するよう
に回路定数をフィッティングすることで,電池の
回路定数の値を決定した。
各電池に流れる電流値の計算に関しては,図 1
の等価回路を使って,まず,とりあえず電池パッ
ク全体に与えた電流(I)が各電池に等しく流れる
ものと仮定し,各電池の端子電圧を個別に計算し
た。その後,2 本の電池は並列に接続されているの
で,両電池の端子電圧が等しくなるまで各電池に
流れる電流値を繰り返し修正することにより,各
電池に流れる電流値(I1 および I2)を求めた。
なお,本研究で想定した電池の等価回路の妥当
性に関しては,著者らの前論文[5]で確認されてい
るので,そちらを参照されたい。
3.1 シミュレーション手法
まず,著者らの前論文と同様に,電池の等価回
路として図 1 に示す回路を採用することにした。
回路中の起電力の決定に関しては,燃料電池の
3.2 並列接続した組電池のシミュレーション結果
前節で述べたシミュレーション手法を用いて,
劣化前電池と劣化後電池を並列接続した組電池を
対象に,満充電状態から 1C(2.27A)で定電流放
Fig. 2 Determination of electromotive force (EMF) in
equivalent circuit.
のばらつきおよびそれが劣化プロセスに及ぼす影
響を検討した。
2. 本研究で想定した供試電池及び電池パック
本研究では,電動アシスト自転車のバッテリー
パック(定格電圧 25.2V,定格容量 8Ah)から 18650
型単電池[4]を取り出して供試電池とした。
以上の方法で準備した単電池一本の初期容量を
測定するために 4.2V まで定電流充電,3 時間の定
電圧充電を行い満充電状態にした後,0.2C で 2.7V
まで放電する手順で実験を行い,最後の 0.2C の定
電流放電プロセスで放電された放電電荷量を求め
た。その結果,供試電池の新品状態での電池容量
は 2.27Ah であった。
2
Discharge current [A]
電した場合に各電池へ流れる電流値のシミュレー
ションを行った。結果を図 4 に示す。
図より,劣化前電池に流れる電流の方が劣化後
電池に流れる電流よりも多いことがわかる。これ
は,劣化前電池の方が劣化後電池よりも内部抵抗
が小さいことに起因している。
また,図より,劣化前電池と劣化後電池に流れ
る電流値は,放電が進むとともに差が小さくなっ
ていくこともわかる。これは,劣化前電池に放電
電流が多く流れることに起因して劣化前電池の起
電力の低下率が劣化後電池のそれに較べて大きい
ことが原因であると考えられる。
以上より,劣化前電池と劣化後電池を並列接続
した場合,劣化度のばらつきに起因して各電池に
流れる電流値にばらつきが発生することが明らか
となったが,これまで発表されている論文[1][2]に
よれば,電池に流れる電流値が高いほど劣化が促
進されるので,劣化前電池と劣化後電池を並列接
続した組電池において電流のばらつきが発生した
状態のままで使用を続けると,劣化前電池の劣化
は相対的に促進される一方で,劣化後電池の劣化
は抑制されることになる。そして,最終的に各電
池の劣化度は同じレベルに近づくと考えられる。
換言すれば,並列接続した組電池において各電池
の個体差に応じて劣化度が異なったとしても,使
用ともに劣化度は平準化されていくものと考えら
れる。この平準化によって,各電池に流れる電流
値もある程度の範囲を逸脱せずに,充電量,電流
値および劣化度などの著しい電池状態のばらつき
は発生しないものと予測される。
2.8
After degradation
Before degradation
2.6
2.4
2.2
2.0
1.8
0
360
720
t[s]
Fig. 4 Simulation results of current supplied into each
battery with diffenret degradation level.
Fig. 5 Experimental setup for measurement of
currents supplied into individual battery with
different degradation level.
パソコンからの制御指令に応じて,バイポーラ電
源から並列接続した組電池全体に充放電電流が供
給され,その電流は各電池の状態に応じてそれぞ
れ流れる。そして,図 5 に示すとおり,並列電池
の各電池に流れる充放電電流はシャント抵抗にも
流れ,シャント抵抗の電圧をデジタルマルチメー
タで測定することにより各電池に流れた電流値を
測定できるようになっている。各電池に流れる電
流データは GPIB インターフェースを介して,1 秒
間間隔でパソコンに記録される。
4. 実験手法
シミュレーション結果に基づく推論(劣化度の
異なる電池を並列接続して充放電を繰り返した場
合に各電池の劣化は同じ劣化レベルに平準化され
ていく)を確かめるために,本研究では劣化度の
異なる電池を並列接続して,充放電サイクル試験
を行い,各電池に流れる電流値を測定した。本章
では,各電池に流れる電流値を測定する実験装置,
劣化電池の製作手順,実験結果とその考察の順に
説明する。
4.2 劣化電池の作製
劣化前と劣化後電池を並列接続した組電池を用
意するために,劣化後電池を作製するサイクル劣
化実験を行った。
具体的な劣化後電池の作製法に関しては,まず
新品状態の電池を 50ºC 一定の恒温水槽内に置き,
電池の端子電圧が 2.7V になるまで 1C(2.27A)定
電流放電を行った後,180 秒の待機,端子電圧が
4.2V に達するまで 1C(2.27A)定電流充電,3 時
4.1 劣化前と劣化後電池を並列接続した組電池の
測定に用いた実験装置
本研究で用いた実験装置は,図 5 に示すとおり,
恒温水槽(ヤマト科学,BU200)
,バイポーラ電源
(菊水電子工業,PBX20-10)
,デジタルマルチメー
タ(岩崎通信機,VOAC7521)
,0.1Ω のシャント抵
抗(アルファエレクトロニクス,PSB XR 1000 B)
,
パソコンから構成される。具体的な動作としては,
3
= 20 C
Imaginary part [m]
-75 Tcell
-50
-25
0
SOC 0.4
SOC 0.5
SOC 0.6
SOC 0.7
SOC 0.8
25
50
75
0
25
50
75 100 125 150
Real part [m]
Fig. 6 Profile of current supplied into each battery
before and after degradation at 50ºC in case of
discharge process.
Fig. 8 Dependence of Nyquist plots on state of charge
(SOC) when bettery temperature of is 20ºC.
セス(並列電池の端子電圧が 3.4V まで 1C(4.54A)
で放電)→②待機(180 秒の待機)→③充電プロセ
ス(並列電池の端子電圧が 4.2V に達するまで 0.2C
(0.908A)の定電流充電)→④待機(180 秒の待機)
であり,これを 1 サイクルとして 100 回繰り返し
た。
なお,実験装置では電池を恒温水槽内に設置す
るので,恒温水槽によって電池温度は 80ºC まで調
節可能であるが,本研究では測定の温度条件とし
て高温状態を模擬した 50ºC および室温を模擬した
25ºC の 2 ケースを設定した。
図 6 および 7 に,各温度条件における充放電サ
イクル中の放電プロセスで測定された各電池に流
れる電流値を示す。ただし,図が煩雑になるので,
電流値は 4 サイクル毎の値を示している。
これらの図より,まず 1 サイクル内の電流値の
みについて考察すると,電池温度を 50ºC および 25
ºC とした両ケースにおいて,劣化後電池に流れる
電流よりも劣化前電池に流れる電流値の方が多い
ことがわかる。この傾向はシミュレーション結果
と同じであり,内部抵抗の大きさの違いが原因で
ある。また,放電が進むと共に劣化前電池と劣化
後電池の電流値の差は小さくなることがわかる。
この傾向に関してもシミュレーション結果と同じ
である。つまり,このようになるのは,内部抵抗
が低い劣化前電池には放電電流が相対的に多くな
るので,放電に伴う起電力の低下率が劣化後電池
よりも高くなるのが原因であると考えられる。
ところで,放電とともに劣化前および劣化後電
池の放電電流が近づく要因としては内部抵抗の変
化も考えられる。しかし,これに関しては,20ºC
一定の条件でかつ充電容量(State of charge, SOC)
が 0.4 から 0.8 までの条件を設定して電池の交流イ
Fig. 7 Profile of current supplied into each battery
before and after degradation at 25ºC in case of
discharge process.
間の 4.2V 定電圧充電,180 秒の待機を 1 サイクル
として,これを 100 回繰り返すことにより,電池
を劣化させた。
4.3 劣化前と劣化後電池を並列接続した組電池の
電流のばらつきに関する検討
前節で述べた手順で作製した劣化後電池と新品
状態の劣化前電池を並列接続した組電池を用意し
て,図 5 の装置で充放電サイクル試験を行った。
まず充放電サイクル試験を行う前に,劣化前電
池と劣化後電池を同じ状態で並列接続するため
に,それぞれの電池に対して 4.2V になるまで 1C
(2.27Ah)定電流充電,その後 3 時間の 4.2V 定電
圧充電を行い,劣化前と劣化後の電池の電圧を
4.2V に合わせた。
その後,劣化前電池と劣化後電池を並列に接続
し,図 5 の装置を利用して充放電サイクルを繰り
返した。具体的な充放電サイクルは,①放電プロ
4
Fig. 9 Profiles of charged capacity in parallelconnected batteries before and after degradation at
50ºC in case of discharge process.
Fig. 10 Profiles of charged capacity in parallelconnected batteries before and after degradation at
25ºC in case of discharge process.
ンピーダンス特性を測定したところ,図 8 に示す
とおり,充電容量が変化しても内部抵抗の変化は
わずかであるという結果を得ている。したがって,
放電が進むと共に放電に伴って劣化前および劣化
後電池の電流値の差が小さくなる原因としては,
内部抵抗の影響よりも劣化前電池と劣化後電池の
充電容量の違いに起因した起電力の差の影響が支
配的であると考えられる。つまり,放電が進むと
共に劣化前電池と劣化後電池の電流値の差が小さ
くなるのは,放電に伴う劣化前電池の起電力の低
下率が劣化後電池の低下率よりも高いことが支配
的な要因であると考えられる。
算していくことにより電池に蓄積されている電荷
量の変化を計算した。その結果得られた,温度が
50ºC における劣化前および劣化後電池の蓄積電荷
量の時間変化を図 9 に示す。
図 9 より,劣化度が異なる電池を並列接続して
いるので,充放電サイクル実験開始時については,
劣化前と劣化後電池の放電プロセスに起因した電
池の蓄積電荷量の減少量および充電プロセスに起
因した電池の蓄積電荷量の増加量は異なっている
が,サイクルを重ねるごとに充放電サイクルに起
因した劣化前と劣化後電池の蓄積電荷量の増減量
は同レベルに収束していることがわかる。
この図からも,両電池の劣化度が同じレベルに
近づいていると明らかとなった。
一方,図 7 より,電池温度を 25ºC とした場合は,
シミュレーション結果に基づく予測とは異なり,
充放電が繰り返されてサイクル数が増加したとし
ても,電流量はほとんど近づいていかないことが
わかる。
これは,電池の劣化は電流値のみでなく温度に
も依存性があるため,室温程度の温度レベルの場
合には性能に影響を与えるような著しい劣化が発
生しにくいので,充放電サイクルを 100 回程度繰
り返しただけでは,電池の劣化度が平準化してい
く現象が確認できないことが原因であると考えら
れる。
この点をより詳細に明らかにするために,電池
温度が 50ºC の場合と同じように,測定温度が 25ºC
の場合も,充放電サイクル試験の開始から終了ま
での全電流を積算していくことにより,電池に蓄
積されている電荷量の変化を計算した。その結果
得られた,温度が 25ºC における劣化前および劣化
後電池の蓄積電荷量プロファイルを図 10 に示す。
図 10 より,25ºC 程度の室温で充放電を繰り返し
4.4 劣化前と劣化後電池を並列接続した場合の電
流のばらつきと劣化の関係に関する検討
つぎに,図 6 および 7 の電流値に関して,1 サイ
クル内の電流のばらつきのみに注目するのではな
く,サイクルが繰り返されていく間に電流値がど
のように変化していくのかを検討する。
図 6 より,電池温度を 50ºC とした場合には,シ
ミュレーション結果から推察されるとおり,充放
電を繰り返してサイクル回数が増加するにしたが
って,充放電電流値が近づいていく傾向を示して
いることがわかる。
これは,充放電を繰り返すことによって電池の
劣化が進行し,電池に流れる電流値が相対的に高
くなる劣化前電池の劣化が促進される一方で,電
流値が少ない劣化後電池の劣化は抑制されるのが
原因である。つまり,シミュレーション結果から
予測された両電池の劣化度が同じレベルに近づい
ていく現象が実際に起こることを,実験により実
証することができた。
この点をより詳細に明らかにするために,充放
電サイクル試験の開始から終了までの全電流を積
5
たとしても,劣化前と劣化後電池の充放電サイク
ルに起因した蓄積電荷量の増減量は一定で,常に
劣化前電池の増減量が劣化後電池の増減量より多
いことがわかる。したがって,温度が室温レベル
程度である場合には,シミュレーションから予測
されたような電池の劣化度の平準化プロセスがほ
とんど確認できないことが明らかとなった。
したがって,室温状態で劣化度の異なる電池を
並列接続して充放電を繰り返すと,電池の劣化度
は平準化せずに電池の充電状態の差が縮まらない
ため,最悪の場合,過充電あるいは過放電によっ
て電池が故障する場合も想定されることが示唆さ
れる。一方,50ºC 程度の高温状態で劣化度の異な
る電池を並列接続して充放電を繰り返すと,電池
の劣化度は平準化し,電池の充電状態も収束する
ことが明らかとなった。
以上より,劣化前電池と劣化後電池を並列接続
した組電池の室温状態での充放電サイクルにとも
なう劣化現象を詳細に解明するためには,さらに
長時間の充放電実験を行う必要があると考えられ
るので,今後も引き続き実験による検討を行って
いく予定である。
以上より,劣化前電池と劣化後電池を並列接続
した組電池の室温状態での充放電サイクルにとも
なう劣化現象を詳細に解明するためには,さらに
長時間の充放電実験を行う必要があると考えられ
るので,今後も引き続き実験による検討を行って
いく予定である。
謝辞
本研究は,日本学術振興会学術研究助成基金助
成金(基盤研究(C),研究課題番号:25420264)
および一般財団法人関東電気保安協会(平成 25 年
度研究助成)の支援を受けました。記して,謝意
を表します。
文 献
[1] Soo Seok Choi, Hong S. Lim: "Factors that Affect
Cycle-Life and Possible Degradation Mechanisms of a
Li-ion Cell Based on LiCoO2" , Journal of Power
Sources, 111, pp. 130-136, (2002).
[2] M. Broussely, S. Herreyre, P. Biensan, P. Kasztejna,
K. Nechev, and R. J. Staniewicz: "Aging Mechanism in Li
Ion Cells and Calendar Life Predictions" , Journal of
Power Sources, 97-98, pp. 13-21, (2001).
[3] K. Takeno, M. Ichimura, K. Takano, J. Yamaki:
"Influence of Cycle Capacity Deterioration and Storage
Capacity Deterioration on Li-ion Batteries Used in
Mobile Phones" , Journal of Power Sources, 142, pp.
298-305, (2005).
5. 結論
本研究では,まず.新品状態の劣化前電池と使
用後の劣化後電池の合計 2 本を並列接続した組電
池を想定して,各電池に流れる電流値のシミュレ
ーションを行った。
シミュレーション結果から,劣化前電池の電流
値の方が劣化後電池に流れる電流値よりも多いこ
とがわかった。この結果より,電池に流れる電流
値が多いほど劣化が促進されるので,劣化前電池
と劣化後電池を並列接続されている場合には,そ
の状態で使用を続けると,劣化前電池の劣化が劣
化後電池のそれよりも促進されて,最終的に各電
池の劣化度は同じレベルに近づくと考えら,さら
に劣化度が近づくということより各電池に流れる
電流値も平準化されていく現象が発生することも
予測できた。
一方,実験結果より,実験の電池温度を 50ºC と
した場合は,シミュレーション結果から推察した
とおり,充放電が繰り返されサイクル回数が増加
すると共に,充放電電流値が近づいていくことを
観測し,劣化度の異なる電池を並列接続した場合
には劣化度が平準化される現象が起こることを実
証することができた。一方,実験で電池温度を 25
ºC とした場合には,シミュレーション結果から推
察した結果とは異なり,25ºC 程度の室温で充放電
を繰り返したとしても,電池の劣化度が平準化し
ていく現象を確認することはできなかった。
[4] T. Tanaka, M. Muramatsu, T. Endo, T. Sano, N.
Kakimoto, Y. Inui, "Study on Current Pattern of
Lithium-ion Secondary Battery Pack Installed in Electric
Power-assisted Bicycle" , The International Conference
on Electrical Engineering 2012, IS-1, (2012).
[5] 田中正志, 乾義尚,北村保彦,朝倉章太:「高
出力タイプリチウムイオン二次電池のパルス充放
電時の電圧応答シミュレーション」,電気学会論文
誌 B, Vol. 131, No. 2, pp. 231-237, (2011).
6