グロー放電質量分析法によるジルコニウム合金分析 - 日本金属学会

日本金属学会誌 第65巻 第 1 号(2001)53–59
グロー放電質量分析法によるジルコニウム合金分析
伊 藤 真 二1
山 口 仁 志1
保 母 敏 行2
小林
剛1
1金属材料技術研究所
2東京都立大学大学院工学研究科応用化学専攻
J. Japan Inst. Metals, Vol. 65, No. 1 (2001), pp. 53–59
 2001 The Japan Institute of Metals
Analysis of Zirconium–Based Alloys by Glow Discharge Mass Spectrometry
Shinji Itoh1, Hitoshi Yamaguchi1, Toshiyuki Hobo2 and Takeshi Kobayashi1
1National
Research Institute for Metals, Tsukuba 305–0047
2Department
of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Tokyo Metropolitan University, Hachioji 192–0397
Glow discharge mass spectrometric (GDMS) analysis of zirconium–based alloys has been studied by using a VG 9000 instrument. Disk samples were dry–polished with 120–grit zirconium oxide endless–paper and preliminary exposed to glow discharge
for 1.8 ks in the discharge cell. Optimum glow discharge conditions and the most suitable size of tantalum front mask were examined take the advance of analytical precision into consideration. The relative sensitivity factor (RSF) of each analyzing element
was evaluated from the analytical values of thirteen standard reference materials: JAERI CRMs Z1~Z16. As an example, the
average RSF obtained were 1.612 for iron and 1.332 for hafnium. For the analysis of the zirconium–based alloys NIST SRMs
1234~1239, relative standard deviation (RSD) of repetitive five measurements for each analyzing element was compared with
those of obtained by the X–ray fluorescence spectrometry using theoretical alpha coefficients. RSD of GDMS analytical value
change a little against the varying of analyzing element concentration, and it was within 10 for each trace impurity at mass ppm
level. The GDMS analytical value of hafnium in those SRMs was in good agreement with the certified value and RSD of that was
within 5.
(Received November 2, 2000; Accepted November 28, 2000)
Keywords: zirconium–based alloys, elemental analysis, relative sensitivity factor, analytical precision, X–ray fluorescence spectrometry
using theoretical alpha coefficient, glow discharge mass spectrometry
ジルカロイ分析に関しては日本原子力研究所核燃料・炉材
1.
緒
言
料等分析委員会で共同実験計画が進められ,JAERI Z–11 ~
Z–18 の 8 種類の標準試料を製作し,化学分析法による合金
ジルカロイは水を冷却材とする動力用原子炉の燃料被覆管
元素および同位体希釈質量分析法によるハフニウム(Hf )の
として用いられているジルコニウム – すず系の合金の総称
表示値を決定し3) ,更に,蛍光 X 線分析法( XRF )による合
で,ジルカロイ–1 から –4 の 4 種類があり,実用化されてい
金元素および不純物元素の表示値決定4) が行われた. XRF
る合金の多くはジルカロイ –2 である.近年,軽水炉におい
は非破壊で,繰り返し分析精度に優れ,迅速であるという利
て発電の高効率化のために燃料の高燃焼度化,長寿命化が要
点を有し,品質管理のために Fe, Ni, Cr, Sn および Nb の 5
請されている.軽水炉燃料被覆管の場合,その表面にノジュ
元素について JIS 法5)が規定されている.日常分析法として
ラー腐食と呼ばれる局部腐食が発生することがあり,耐食性
利用されているが,mass ppm レベルあるいはそれ以下の極
の改善とともに腐食によって発生する水素吸収を抑制するこ
微量元素定量には十分な感度が得られず,また, Hf につい
とが要求されている1).耐食性の改善に関して,単独添加元
て は ZrKb2 の 2 次 線 の 影 響 が あ り , イ ッ ト リ ウ ム フ ィ ル
素としては,Fe, Ni, Nb および Cr がノジュラー腐食を抑制
ターの使用なども提案されているが,検出限界は 10 mass
し,Sn および O がこれを促進することが明らかになった.
ppm 程度である3).更に,ほう素(B)等の定量も困難である.
ジルカロイ –2 の成分規格の範囲で Sn 濃度を低めにし, Fe
試料を溶液化した後,測定する方法として誘導結合プラズ
および Ni 濃度を高めにした合金が開発された.また,ジル
マ(ICP )発光分析法が適用されている.マトリックスを塩素
カロイ–2 規格範囲外でも超低 Sn 合金や Nb を添加したジル
化分離し,ジルコニウム合金中の Fe, Ni, Cu, Co, Mn および
カロイが耐食性・水素吸収特性に優れていることが示され
Pb を定量する方法ではジルコニウムと共に揮散する Sn, Ti
た2).苛酷な環境下で使用するために,現在のジルカロイの
および B は定量できない6).真空紫外領域の発光スペクトル
性能をしのぐ新しいジルコニウム合金を開発することが必要
線を利用する Sn および Al の定量7)が行われたが,マトリッ
であり,それに伴い,合金元素および不純物元素の定量分析
ク ス マ ッ チ ン グ が 必 要 で , 検 出 限 界 と し て そ れ ぞ れ 8.8
が重要となってきている.
mass ppm および 1.4 mass ppm である.更に,高感度な方
2000年10月 1 日日本金属学会秋期大会において発表
法として ICP 質量分析法が適用されたが,マトリックスマ
54
第
日 本 金 属 学 会 誌(2001)
65
巻
以上述べたように, GDMS によるジルコニウム合金分析
ッチング等が必要であると報告されている8).
一方,グロー放電質量分析法( GDMS )は高感度な固体試
について検討し,その結果について報告する.
料の直接分析法であり,原理的に主成分から超微量成分まで
の定量分析が可能である.現在まで鉄鋼をはじめとして,各
種材料の定量分析が報告されている. GDMS 定量分析では
分析信号であるマトリックス元素のイオン強度に対する分析
実
2.
2.1
験
方
法
装置および測定条件
元素のイオン強度の比( IBR: Ion Beam Ratio )を分析元素濃
実験には FI エレメンタル社製 VG 9000 二重収束型質量
度に変換するために相対感度係数(RSF: Relative Sensitivity
分析計を使用した.グロー放電質量分析計の測定条件を
Factor)による補正が必要となる.一般に,RSF 値を実験的
Table 1 に示す.グロー放電は定電流モードで操作し,放電
に求める際には,分析試料の組成と類似する組成を有する複
電圧はガス導入量を変化させることで調整し,800 V–3 mA
数の標準試料を使用することが望ましい.複数の標準試料を
とした.放電セルはディスク試料用の Mega flat セルを用
用いる必要性は既報のチタン合金9) や Ni 基耐熱合金10) 分析
い,絶縁用窒化ホウ素を介して液体窒素で冷却した.放電ガ
結果より明らかである.正確な定量分析にはマトリックス毎
スには超高純度 Ar(99.9999)を用いた.ディスク試料の試
の RSF 値が必要不可欠である.
料マスク(Ta 製陽極の一部)は内径 q15 mm を用い,試料
ピン試料を用いた GDMS によるジルカロイ分析が試みら
と 陽 極 の 絶 縁 に は 内 径 q25 mm の ド ー ナ ツ 型 ア ル ミ ナ
れ た が , メ ー カ ー 推 奨 RSF 値 を 使 用 し て , JEARI CRM
(Al2O3 )を用いた.イオン電流の検出・測定にはファラデー
の定量結果のみが示されている11).試料調整の観点から
カップおよびデイリー光電子増倍管・パルス計数器を用い
ディスク試料は便利であるが,ピン試料と比較してイオン
た.各質量スペクトルは 1 回の走査( 160 ms あるいは 200
Z11
ビームの調整や使用する試料マスク口径などの影響が大き
ms/チャンネル)で得ることとした.質量分解能(m/Dm: 5
い.ディスク試料に対する最適な測定条件について調べ,複
peak 高 さ) は約 4000 に調 整 し た. 試 料を イ オ ン源 チ ャ ン
数の標準試料を測定して得られた IBR 値を用いて Zr に対す
バーに挿入後,グロー放電を点灯し,1.8 ks(30 min)の予備
る各元素の正確な RSF 値を求める必要がある.
放電を行った.各元素の IBR 値はいずれも予備放電終了
また,新たに求めた RSF 値を用いて標準試料の分析を行
い,その定量値の精度を確認することが重要となる.そこ
後,測定 5 回の平均値とした.
比較分析に使用した蛍光 X 線分析計はフィリップス社製
で,ジルコニウム合金分析の JIS 法に制定されている XRF
PW2400 を使用した.X 線管球はエンドウィンドー型 Rh 対
を比較分析法として選択し,それぞれの分析法による定量値
陰極( 3 kW )で印加電圧・電流,分光結晶等の測定条件を
および分析精度として相対標準偏差( RSD )を評価し,本法
Table 2 に示した.なお,各元素の分析線は全て ka 線であ
の妥当性を確認することとした. XRF では理論 a 係数を用
る . 使 用 し た 試 料 ホ ル ダ ー は 内 径 q27 mm で , 内 径 q25
mm のコリメータマスクを用いて試料ホルダーからの X 線
いる検量線法について検討した.
対象元素は GDMS では B, Al, Si, Ti, Cr, Mn, Fe, Co, Ni,
Cu, Nb, Mo, Sn, Hf, W および Pb の16元素,XRF では JIS
規格で規定されている Cr, Fe, Ni, Nb および Sn の 5 元素と
した.
を除去した.定量分析プログラム Super–Q(Ver. 4)で処理,
定量した.
2.2
試料および試料形状
実験に用いた試料はいずれもディスク試料で RSF 値を求
Table 1 Instrumental parameters of glow discharge mass spectrometer.
Mass spectrometer
Mass resolution
Detector
FI–VG 9000
>4000 (m/Dm: 5 at peak height)
Faraday cup
Daly multiplier–pulse counting
Constant current mode
3 mA
800 V
Mega flat cell
Ar(99.9999 )
Glow discharge
Discharge current
Discharge voltage
Discharge cell
Discharge gas
Table 2
めるために日本原子力研究所 JAERI Z1 ~ Z7, Z11 ~ Z14 の
11 種を用いた.それらの化学組成を Table 3 に示す. Hf に
ついては Z15(2 mass ppm)および Z16(37 mass ppm )の 2 試
料も使用した.また,分析精度を確認するために, NIST
SRM 1234~1236(ジルコニウム),1237~1239(ジルカロイ
–4)の 6 種を用いた.
試料調整は測定面をジルコニア研磨布#120による乾式ベ
ルト研磨により,表面仕上げをした.アルコール洗浄後,真
空乾燥し,測定に供した.
Instrumental parameters of X–ray fluorescent spectrometer.
2u angle (deg)
Rh tube
Element
Cr
Fe
Ni
Nb
Sn
kV
mA
60
60
60
60
60
50
50
50
20
50
Crystal
Collimator
Detector
LiF200
LiF200
LiF200
LiF220
LiF200
300 mm
300 mm
300 mm
150 mm
150 mm
FC+SC
FC+SC
FC+SC
SC
SC
FC: gas flow proportional counter. SC: scintillation counter. PK: peak. BG: background.
Counting time (s)
PK
BG
PK
BG
69.335
57.483
48.631
30.364
13.950
±1.50
±1.20
±1.00
-0.45
±0.80
40
40
40
40
40
10
10
10
10
10
1
第
号
55
グロー放電質量分析法によるジルコニウム合金分析
Table 3
Chemical composition of the JAERI CRMs zirconium alloys.
Certiˆed values, w (mass ppm )
Element
B
Al
Si
Ti
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zr
Nb
Mo
Sn
Hf
W
Pb
Z1
Z2
Z3
Z4
Z5
Z6
Z7
Z11
Z12
Z13
Z14
0.3
42
20
33
0.150
―
0.073
―
0.021
51
Bal.
―
―
2.13
71
―
―
3.1
174
165
187
0.110
―
0.151
206
0.058
393
Bal.
―
90
1.54
244
92
―
1.1
92
62
88
0.055
―
0.209
83
0.115
38
Bal.
―
32
0.87
144
45
―
―
―
―
―
―
―
0.088
―
―
―
Bal.
3.95
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
0.146
―
―
―
Bal.
2.63
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
0.153
―
―
―
Bal.
1.69
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
0.289
―
―
―
Bal.
1.38
―
―
―
―
―
1.1
15
57
28
0.041
5
0.209
6
0.021
40
Bal.
―
10
1.83
71
13
12
3.7
86
95
93
0.013
28
0.129
20
0.094
98
Bal.
―
46
0.92
128
32
11
<0.2
53
21
4
0.098
4
0.136
<3
0.058
8
Bal.
―
<2
1.48
72
7
5
<0.2
130
124
3
0.150
7
0.093
49
<0.001
11
Bal.
―
<2
0.47
220
43
3

: mass unit.
実験結果および考察
3.
3.1
3.1.1
放電パラメータの検討
マスク径および放電電圧
試料として JAERI CRM Z2 を用いて,放電電流 3 mA と
し,試料マスク径 q10, q12 および q15 mm について,各元
素の IBR 値と放電電圧の関係を調べた.一例として Fig. 1
に Sn, Fe および Hf の結果を示した.いずれのマスク径に
おいても放電電圧の上昇と共に各元素のイオン電流値は上昇
した.450 ~950 V の範囲で,図中(□)および(△)で示した
マスク径 q10 および q12 mm の場合, Sn および Fe の IBR
値は直線的に減少した.図中(●)で示したマスク径 q15 mm
の場合,減少するもののその変化は穏やかであった. Hf の
場合,いずれのマスク径においても IBR 値の変化は穏やか
であった.
3.1.2
放電電流
試 料 マ ス ク 径 q15 mm , 放 電 電 圧 を 800 V と 一 定 に し
て,放電電流と各元素の IBR 値の関係を調べた.一例とし
て Sn, Fe, Ti, Hf ,および B の結果を Fig. 2 に示した.放
電電圧と同様にマトリックスイオン電流値および各元素のイ
オン電流値は放電電流の増加に伴い上昇したが,Fig. 2 に示
した各元素の IBR 値はほとんど変化しないことが分かった.
Fig. 1 Influence of mask size and discharge voltage on ion
beam ratios of each analytes.
定量精度を考慮した場合, IBR 値の変動が小さいことが
望ましい.以上の観点に加え,放電の安定性やスリットの損
傷を考慮して,試料マスク径として q15 mm を選択し,放
ように本実験条件の質量分解能で分離され,影響しなかっ
電パラメータとして,マトリックスイオン電流値が高く,各
た.また, Fig. 3 ( b )に示した 93Nb+ あるいは 95Mo+ の場
元素のイオン強度の変化が少ない,800 V–3 mA を選択した.
合,隣接するマトリックス元素である 92Zr+ あるいは 94Zr+
3.2
スペクトル干渉
のピークの裾がバックグラウンドとして現れ,mass ppm 以
下 の 定 量 は 困 難 で あ る . 更 に , マ ス ク 径 q10 お よ び q12
測定対象元素の中でスペクトル干渉を起こす可能性のある
mm の使用時には出現しなかったマトリックス元素 Zr の 2
マトリックス元素および放電ガスに起因するイオン種,すな
原子分子イオン(dimer ion)91Zr92Zr+ が 183W+ の近傍に認め
わち, Zr および Ar に関わる妨害イオン種について検討し
られるので,ピーク同定には注意を要することが分かった.
た . 合 金 元 素 で あ る Sn の 2 価 イ オ ン は 59Co+ の 近 傍 に
118Sn2+, 60Ni+
に 120Sn2+ が認められたが, Fig. 3 ( a )に示す
56
第
日 本 金 属 学 会 誌(2001)
Fig. 3
Mass spectra of
59 Co +
and
65
93Nb+.
Fig. 2 Influence of discharge current on ion beam ratios of
each analytes.
3.3
相対感度係数(RSFX, Ag )
相対感度係数の算出には,マトリックスの濃度 CS を考慮
した次式を用いた.
(CX/Cs )=RSFX, S×( IX/IS )
(1)
CX および CS の値は,それぞれ分析元素濃度およびマトリ
ックス元素(Zr)濃度を表し,単位は massである.また,
IX および IS はそれぞれ分析元素およびマトリックス元素の
イオン強度を表す. Fig. 4 および Fig. 5 には結果の一例と
して,それぞれ Fe および Hf の元素濃度比と RSF 値との関
係を示した.更に Table 4 には Table 3 で示した試料11種の
IBR 値を用いて式( 1 )に基づいて計算された各元素の RSF
Fig. 4
Relative sensitivity factor for iron in zirconium matrix.
( Zr = 1 )値およびその RSD を示した.また,装置のソフト
ウェアに組み込まれている推奨 RSF 値( FI と略記したカラ
ム)を Zr に 対す るも のとし て再 計算 し, その値 を併 記し
た.本研究での RSF 値の RSD は合金元素 Fe, Cr, Ni, Nb お
よ び Sn で 2  以 内 , 微 量 元 素 で Hf の 1.38  か ら Mo の
8.68  で あ っ た . 微 量 元 素 の RSD は そ の 表 示 値 が mass
ppm オーダーであることから,妥当な値であると判断され
た.また,本研究の RSF 値と推奨 RSF 値を見ると,多く
の元素で両者の値は異なり,正確な定量分析のためにはマト
リックス毎の RSF 値を求めることが重要であることが確認
できた.
3.4
蛍光 X 線分析
XRF により,Table 2 に示した測定条件を用いて Table 3
に示した試料を測定し,Cr, Fe, Ni, Nb および Sn の検量線
を作成した.定量計算モデルは
Fig. 5 Relative sensitivity factor for hafnium in zirconium
matrix.
巻
第
1
号
57
グロー放電質量分析法によるジルコニウム合金分析
Ci=( Di+E・
i Ri )
(
n
1+‚ aij・Cj
j= 1
)
ここで m は分析元素 1 mass あたりの X 線強度( cps ) , Rb
(2)
はバックグラウンド強度(cps), T は全測定時間(s)を表す.
で示され, Ci は i 元素濃度( mass ), Ei は検量線の勾配,
3.5
Di は検量線の切片, Ri は測定 X 線強度( cps ), aij は j 元素
分析精度
の理論 a 係数, Cj は j 元素濃度( mass )である.いずれも
ジルコニウムおよびジルコニウム合金 NIST SRM 1234~
装置ソフトウェア Super–Q により処理した.その一例とし
1239 の 6 試料中 Cr, Fe, Ni, Nb および Sn の 5 元素について
て Fe および Nb の検量線を Fig. 6 に示したが,ほぼ原点を
GDMS 定量値と XRF 定量値の比較を行い,参照値および
通る直線性の良い検量線が得られた.また,検出限界を求め,
Table 5 に示した.検出限界は次式12)によって計算した.
L.L.D=
2 2
Rb
・
m
T
(3)
Table 4 Relative sensitivity factors for the analysis of zirconium–based alloys by GDMS.
Element
B
Al
Si
Ti
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zr
Nb
Mo
Sn
Hf
W
Pb
Relative sensitivity factor (RSFX,Zr)
Proposed
FI
2.619(1.98)
1.132(5.98)
2.517(6.97)
0.678(5.15)
3.252(1.85)
2.359(4.50)
1.612(1.67)
1.462(2.41)
2.411(1.92)
7.065(2.34)
=1
1.030(1.27)
1.786(7.68)
3.941(0.89)
1.332(1.38)
2.669(4.74)
4.470(7.75)
1.521
1.621
2.172
0.566
2.600
1.716
1.176
1.289
1.770
6.052
=1
0.922
1.316
2.900
0.765
1.578
3.010
Fig. 6 Relation between XRF analytical values and certified
values of iron and niobium.
Table 5 Sensitivities, lower limits of detection and background
intensities of XRF for zirconium–based alloys.
The values recommended from FI Elemental Analysis Ltd.
Values in parentheses are relative standard deviation ().
Table 6
Element
Sensitivity (m )
(Net cps/mass)
Background (Rb)
(cps)
Lower limit of
detection (L.L.D)
(mass)
Cr
Fe
Ni
Nb
Sn
22000
42844
78400
22483
10074
826
1335
2217
6373
6899
0.00058
0.00038
0.00027
0.0016
0.0037
Sample: JAERI CRM Z1–Z14, X–ray tube: Rh target
Analytical results for alloying elements in NIST SRMs 1234 to 1239.
Analytical values, w (mass ppm )
Element
Cr
Information value
Chemical analysis
XRF value
GDMS value
Fe
Information value
Chemical analysis
XRF value
GDMS value
Ni
Information value
Chemical analysis
XRF value
GDMS value
Nb
Information value
Chemical analysis
XRF value
GDMS value
Sn
Information value
Chemical analysis
XRF value
GDMS value
SRM 1235
SRM 1235
SRM 1236
50
86
82.4(3.48)
86.4(2.63)
60
81
81.6(4.43)
84.2(2.94)
250
260
270.0(1.54 )
265.0(1.01 )
240
292
285.2(1.02)
276.4(2.09)
850
769
777.0(0.59 )
842.0(3.99 )
20
20
7.8(17.1)
18.6(5.48)
65
60
58.0(8.05)
65.2(3.81)
1700
1650
1683(0.30)
1710(1.08)
SRM 1237
1510
1550
1587(0.23)
1606(1.77)
1650
1650
1658(0.39)
1683(1.99)
SRM 1238
580
557
578.4(0.72 )
582.6(2.57 )
2500
2900
2900(0.18)
2934(1.58)
SRM 1239
1055
1050
1036(0.35)
1065(1.18)
2300
2360
2306(0.20)
2389(0.93)
140
130
135.6(1.72 )
140.0(0.90 )
40
19
13.0(10.8)
19.4(6.99)
100
120
118.4(1.78 )
123.2(1.19 )
85
550
220
―
636.4(1.29 )
643.4(0.64 )
―
310.6(3.26)
318.0(1.59)
55
200
600
―
48.2(9.63)
54.6(2.19)
―
274.4(3.86 )
279.2(1.90 )
―
675.8(1.39 )
692.2(0.51 )
15
6
29.8(16.0)
16.4(2.98)
25
30
58.6(10.7)
56.0(3.74)
60
72
97.6(8.31)
113.8(1.70 )
Ref. 13), Figures in parenthesis are relative standard deviation (RSD ).
―
105.8(8.44)
109.8(1.36)
1.90
1.93
1.986(0.29)
1.976(0.40)
1.26
1.22
1.249(0.38)
1.262(0.59)
45
59
52.8(5.27)
59.6(1.34)
1.61
1.60
1.606(0.37)
1.618(0.95)
58
第
日 本 金 属 学 会 誌(2001)
Table 7
65
巻
Analytical results for minor and trace elements in NIST SRMs 1234 to 1239.
Analytical values, w (mass ppm)
Element
SRM 1234
SRM 1235
SRM 1236
SRM 1237
SRM 1238
SRM 1239
0.4
2
0.25
―
0.56(10.7)
―
6.56 (9.22)
―
0.31(6.86 )
B
Information value
Chemical analysis
GDMS value
Al
Information value
Chemical analysis
GDMS value
Si
Information value
Chemical analysis
GDMS value
Ti
Information value
Chemical analysis
GDMS value
Mn
Information value
Chemical analysis
GDMS value
Co
Information value
Chemical analysis
GDMS value
Cu
Information value
Chemical analysis
GDMS value
Mo
Information value
Chemical analysis
GDMS value
Hf
Certiˆed value
Chemical analysis
GDMS value
W
Information value
Chemical analysis
GDMS value
Pb
Information value
Chemical analysis
GDMS value
<0.2
―
0.08(28.2)
2
―
8.50(5.71 )
7
―
20.8 (3.59)
25
37.0(16)
30.8(7.51)
105
101.0(9.5 )
90.2(5.12 )
350
314.8 (15)
263.0 (3.04)
15
18.4(26 )
19.6(8.28)
105
114.4 (3.3)
105.4 (3.37)
50
64.2(14)
55.6(4.19)
40
62.2(24)
45.8(6.38)
95
111.0(20)
99.8(3.37 )
205
219.2 (16)
247.8 (1.68)
35
49.6(36 )
36.0(4.96)
170
183.4 (17)
214.2 (4.95)
95
82.2(9.8)
97.4(4.62)
20
15.0(5.4)
15.2(2.63)
90
81.6(1.4)
91.0(3.54 )
185
165.4 (3.6)
173.2 (1.11)
30
14.0(12 )
15.2(2.63)
100
97.0 (2.7)
103.8 (2.61)
40
48.3(5.5)
52.2(2.23)
10
21.7(7.8)
21.2(3.52)
25
24.4(15)
25.4(4.01 )
45
47.7 (9.7)
50.4 (1.58)
10
―
6.64(3.63)
60
58.7 (0.8)
54.0 (2.34)
50
48.4(2.4)
50.0(1.79)
20
19.9(8.9)
21.2(9.14 )
50
44.4 (5.2)
43.8 (0.91)
10
5.0(44)
5.08(1.47)
40
40.7 (8.6)
41.8 (0.96)
15
17.8(8.3)
15.8(2.53)
80
96.0(6.2)
90.2(7.02 )
250
243.3 (4.0)
237.2 (1.31)
<10
7.4(21)
6.8(9.1)
60
83.7 (4.0)
84.8 (5.56)
30
41.8(6.1)
35.8(2.09)
<10
5
4.8 (50)
4.80(2.28)
<10
35.1(7.8)
30.4(7.94)
40
100
120
45
―
20.4(3.92)
―
51.8(2.25 )
―
118.2 (1.35)
―
13.6(3.60)
―
118.4 (0.41)
―
55.8(1.34)
46
52.6(8.8)
49.2(1.99)
95
103.1(5.3 )
95.6(4.97 )
198
209.9 (2.8)
205.2 (3.45)
31
178
―
33.4(2.39)
―
190.6 (2.03)
77
73.4(7.4)
80.0(0.79)
25
23.5(14)
20.0(3.16)
50
73.0(3.4)
83.2(4.39 )
140
150.0 (4.7)
190.8 (2.76)
25
21.2(21 )
23.8(3.14)
95
86.3 (4.3)
106.8 (2.54)
45
39.0(5.1)
47.2(3.38)
2
5
15
25
15
80
30
―
9.84(3.25)
―
25.0(9.8)
―
52.6 (2.28)
―
11.2(3.57)
―
98.4 (2.37)
―
44.0(3.52)
Ref. 4), Figures in parenthesis are relative standard deviation (RSD).
文献値13) とも合わせて結果を Table 6 に示した. XRF の分
Mo の定量値は参照値と大きく異なる場合が見られた.最重
析精度を 5 回繰り返し測定の定量値の RSD で評価したとこ
要元素である Hf については認証値と非常に良く一致し,
ろ,ジルコニウム合金 NIST SRM 1237~1239 の Sn および
RSD 5以内の精度で定量できることが示された.
1000 mass ppm 以上の Cr, Fe 定量値の RSD は XRF が優れ
GDMS 定量値は主成分から微量元素までいずれも化学分
ている.微量 Sn および Nb 定量値の RSD は 10 以上であ
析値と良く一致し,また,その精度も主成分元素 Cr, Fe, Sn
ったが,Table 5 に示した検出限界から判断して妥当なもの
で 2以内,微量不純物元素で10以内と良好な結果であっ
である.
た.
一方,GDMS 定量値の RSD は異なる含有量においてもそ
の変動は少なく,ほとんどの元素で 3 以内であった.ま
結
4.
言
た,両分析法による定量値は化学分析値と良く一致した.参
照値で示されている一部の値,例えば NIST SRM 1238 の
Fe など,不確実な値であると判断されるものがあった.
Table 7 にはそれ以外の微量不純物元素の GDMS 定量結
果を示した.参照値および文献値4) を併記した.文献値の
GDMS によるジルコニウム合金分析について検討した.
得られた主な結果を以下に示す.


最適な放電パラメータについて検討した結果,試料マ
スク径 q15 mm の使用では放電電圧に対する IBR 値の変化
RSD は室間精度であり,本研究の RSD と直接的な比較はで
が穏やかであった.また,放電電流に対する IBR 値の変化
きないが,GDMS 定量値の RSD は mass ppm レベルにおい
がほとんどないことが分かった.
ても多くの元素について 10 以内の精度であった. B, Cu,


RSF 値算出に用いた JAERI CRM Z1 ~ Z16 の測定で
1
第
号
グロー放電質量分析法によるジルコニウム合金分析
得られた RSF 値の変動は Fe, Cr, Ni, Nb および Sn など合金
元素で 2以内,微量元素では10以内であった.


4)
分析精度を RSD で評価し, XRF による値と比較し
た 結 果 , ジ ル コ ニ ウ ム 合 金 の Sn, Cr, Fe な ど を 除 い て
5)
GDMS が優れており,また, GDMS 定量値の RSD は分析
元素濃度に対しての変動が少なかった.


検出限界から判断して, XRF では新たに開発された
超低 Sn 合金などの微量分析には対処できないが, GDMS
はほとんどのジルコニウム合金の実用分析法として有用であ
る.
6)
7)
8)
9)
10)
11)
文
献
1) M. Ichikawa: Genshi–ryoku–Kogyo 31(1985) 43–50.
2) T. Kinoshita: Journal Atomic Energy Society of Japan 41(1999)
97–98.
3) Japan Atomic Energy Research Institute report, JAERI
12)
13)
59
M83–241, Preparation of zirconium and zirconium–base alloy
certified reference materials JAERI Z11 to Z18(1984).
Japan Atomic Energy Research Institute report, JAERI
M86–198, Cooperative analysis of zirconium and zirconium–base alloy by fluorescent X–ray method (1987).
Japanese Industrial Standard JIS H1669, Method for X–ray
Fluorescence Spectrometric Analysis of Zirconium Alloys
(1990).
K. Kato: Bunseki Kagaku 39(1990) 439–444.
K. Takashima and K. Kato: Bunseki Kagaku 39(1990) 533–538.
S. K. Luo and F. C. Chang: Spectrochim. Acta B, At. Spectrosc.
45B(1990) 527–535.
S. Itoh, F. Hirose, S. Hasegawa and R. Hasegawa: Mater.
Trans. JIM 36(1995) 664–669.
S. Itoh, H. Yamaguchi, T. Kobayashi and R. Hasegawa: Bunseki Kagaku 45(1996) 529–536.
T. Shimamura and T. Kagaya: Abstracts of the Japan Society
for Analytical Chemistry (1987) 3C19.
R. Jenkins and J. J. de Vries: Worked example in X–ray analysis,
(Macmillan Press, New York, 1972) pp. 52.
Japan Atomic Energy Research Institute report, JAERI
M85–038, Decision of certified values for alloying elements in
JAERI Z11 to Z14 (1985).