片側に設置するバットレスの強度・変形性状 その1 荷重変形関係 Strength and Deformation Property of Buttress at one side Part1 Load and Displacement Curve 2.構造 - 8.鉄筋コンクリート構造 準会員○内藤 はるか Naito Haruka*1 正会員 神谷 和輝 Kamiya Kazuki*2 正会員 高橋 之 Takahashi Susumu*2 正会員 市之瀬 敏勝 Ichinose Toshikatsu*3 耐震補強 外付けブレース 正会員 神谷 隆 Kamiya Takashi*4 正会員 上田 洋一 Ueda Yoichi*4 バットレス 加力実験 *4 正会員 小平 渉 Kohira Wataru 1. はじめに 形性能を把握することを目標とし , 試験体形状は文献 2) 建築基準法の改正によって補強が必要となる現存の の実験で使用した 1 層 1 スパンの既存躯体と補強体か 建物は多いが , 現行のバットレス工法は建物の両側に らなる試験体から切り出したもので , 既存躯体の柱と 1) バットレスを配置することを原則 としているため , 補強体で構成されている。また , 文献 2) の実験により , 敷地面積にゆとりの無い建物などはバットレスを配置 試験体 B-02W の引張アンカー筋がすでに降伏しており , しにくいという問題がある。そこで , 筆者らは外付け 両試験体とも , 多数の初期ひび割れが見られるなど影 ブレース工法とバットレス工法を併用し , バットレス 響がある。 を片側に配置して補強する工法 ( 図 1) の開発を目的と 既存躯体の柱は , 1958 年以前の既存不適格建築物を 2) して研究 をしてきた。しかし , 文献 2) の実験の外付 想定し , せん断破壊先行型として設計した。そのため , 2 けブレースおよびバットレスによる補強試験体は , バッ 低強度コンクリート (Fc=11.5N/mm ) を用い , 鉄筋は丸 トレスの最大耐力を発揮する前に既存躯体の柱と上梁 鋼とする。補強体は , 加力直交方向の補強を想定した の接合部での破壊が先行し , バットレス自体の耐力お 鋼板内蔵型コンクリートの外付けブレース (200kN 相 よび変形性能を把握することができなかった。また , 当 ) と , 加力方向の補強を想定した柱梁型バットレスか 本工法は既存躯体と補強体との接合部で破壊が生じる ら構成される。 恐れがあり , その場合には補強体が機能しなくなると 2.2 試験体種類 いう難点がある。 試験体は計 2 体である。試験体パラメータを表 1 に そのため , 本研究では , 接合部での破壊に留意しなが 示 す。 試 験 体 B-01W お よ び 試 験 体 B-02W は せ ん 断 ら , バットレス単体での耐力および変形性能を得るこ アンカー筋量が異なっている。また , 本研究では試験 とを目的として実験的に検討を行った。 体 B-01W をせん断破壊先行型に , 試験体 B-02W を曲 2. 実験概要 2.1 試験体形状 試験体の形状を図 2 に示す。試験体は 1/3 の縮尺模 型とする。本研究ではバットレス単体の耐力および変 げ破壊先行型になることを目標としており , 載荷の際 に負荷する一定軸力を変えている。試験体 B-01W は 600 外付けブレース 既存部柱 800 バットレス 外付けブレース 1200 300 バットレス 345 495 500 図 1 工法イメージ 400 400 500 200 100 図 2 試験体形状 ( 単位 mm) *1 名古屋工業大学・大学生 Undergraduate Student, Nagoya Institute of Technology *2 名古屋工業大学・大学院生 Graduate Student, Nagoya Institute of Technology *3 名古屋工業大学・教授・工博 Professor, Nagoya Institute of Technology, Dr.Eng. *4 矢作建設工業(株) Technical Research Institute for Earthquake Engineering, Yahagi Construction Co. , Ltd. 270kN(=0.6bDσB), 試験体 B-02W は 90kN(=0.2bDσB) の軸 力を負荷しており , 試験体 B-01W は , 実際の建物にお いて下階壁抜けにより軸力が増加した状態を模擬して いる。 断面リスト , 鉄筋引張試験結果およびコンクリート 圧縮試験結果を表 2 ∼ 4 に示す。また , 試験体の配筋 図 ( 試験体 B-01W) を図 3 に示す。なお , 既存躯体と補 強体の接合は , 梁部分の引張アンカー筋 (2-D16) と柱部 分のせん断アンカー筋 (D6, 表 1 参照 ) により力を伝達 させる。 2.3 載荷方法 加力装置の概略を図 4 に示す。加力は油圧ジャッキ を用いて前述の一定軸力を負荷した後 , 既存部柱の上 部スタブに設置した油圧ジャッキ ( メインジャッキ ) を 用いて , 変位制御による 2 回繰り返し正負交番加力と する。但し , 試験体 B-01W では接合部での引張破壊を 防ぐため , 引張アンカー筋の降伏耐力の約 2/3(150kN) までの加力をメインジャッキで行い , それ以上の加力 を行う場合は補強部柱の柱頭に設置したサブジャッキ を同時に使用して両側加力とする。なお , 本研究では , 図 4 でバットレスが引張られる方向 ( 右方向 ) に水平力 表 1 試験体パラメータ 表 2 断面リスト 補強部柱 補強壁 外付け ブレース 既存部柱 b×D 200×200 500×50 100×200 200×200 主筋 8-D10 D6@100 PL 6×140 4-φ13 4-φ9 帯筋 D6@100 D6@100 φ4@50 φ3@100 断面 表 3 鉄筋引張試験結果 (3 本平均 ) 種別 降伏強度 2 (N/mm ) SWM SWM SR235 SR235 SD295A D6 SD345 D10 SD295A D16 SD390 鋼板 SN400 607 499 346 327 323 370 380 476 366 φ3 φ4 φ9 φ13 試験体 形状 せん断アン カー筋本数 軸力 (kN) B-01W 既存部柱 ( せん断柱 ) +ブレース+バットレス 24 270 位置 B-02W 既存部柱 ( せん断柱 ) +ブレース+バットレス 40 90 既存部 補強部 引張強度 弾性係数 2 5 2 (N/mm ) (×10 N/mm ) 606 524 442 438 506 529 522 623 488 2.09 1.95 2.01 2.05 1.87 1.76 1.84 1.91 1.80 表 4 コンクリート材料試験結果 (3 体平均 ) 圧縮強度 弾性係数 2 4 2 (N/mm ) (×10 N/mm ) 12 39 2.54 2.89 引張アンカー筋:D16(SD390) 補強部梁主筋 :D10 (SD295A) 主筋:D10 (SD295A) 帯筋:D6@100 (SD295A) 補強部梁あばら筋 :D6@100 (SD295A) 鋼板:140×6 (SN400) せん断アンカー筋 :D6 (SD345) 割裂防止筋 :Ǿ4@50 (SWM) 壁縦筋:D6(SD295A) 既存部基礎梁主筋 :Ǿ9 (SR235) 壁横筋:D6(SD295A) 既存部基礎梁あばら筋 :Ǿ4@100 (SWM) (a) 補強部柱 (b) 側面図 (c) 外付けブレース 図 3 試験体配筋図 ( 試験体 B-01W)( 単位 mm) 主筋:Ǿ13 (SR235) 主筋:Ǿ9 (SR235) 帯筋:Ǿ3@100 (SWM) (d) 既存部柱 載荷方向 が作用する場合を正載荷 , バットレスが圧縮される方 向 ( 左方向 ) に水平力が作用する場合を負載荷とする。 図 5 に変位計位置を示す。また , 変位制御には既存 部柱で測定した層間変形 ( 変位計 D1-D2) を用いる。 φψ正 負 3. 試験体の設計 3.1 接合部の引張破壊 想定した崩壊系と , その時の計算耐力を図 6 に示す。 接合部の引張破壊では , 文献 2) の実験より , 既存フレー ムのみの無補強試験体の耐力は 72kN であることが得 られた。そこで , 既存部柱 1 本あたりの耐力 (Qc=36kN) 軸力用ジャッキ サブジャッキ メインジャッキ および引張アンカー筋の降伏耐力を考慮し , 下式によ り算定する。 Qtu = at ⋅ V y +Qc (1) 図 4 加力装置概略 atσy=188kN 層間変形:δ D1 D3 Qtu=atσy+Qc =224kN Qc=36kN 層間変形角:R D4 at, σy:引張アンカー筋全断面積および降伏強度 3.2 壁せん断破壊 壁のせん断終局強度は下式の修正荒川 mean 式により 算定する。 ⎧0.068 ⋅ pte 0.23 ⋅ (18 + Fc) ⎫ Qsu = ⎨ + 0.85 pse ⋅ V wy + 0.1 ⋅ V 0 e ⎬ ⋅ be ⋅ je ⎩ M /(Q ⋅ l ) + 0.12 ⎭ (2) D2 ただし , 1 ≤ M /(Q ⋅ l ) ≤ 3 図 5 変位計の位置 (a) 接合部の引張破壊 Qsu=307kN je=lw=800 pte=100at /(be・l):等価引張鉄筋比 at:引張側柱の主筋全断面積 be=∑A/l:等価壁厚 pse=ah /(be・s):等価横筋比 ah, s, σwy:1 組の横筋の断面積 , 間隔および降伏強度 σ0e=N/(be・l):軸方向応力度 ( 負載荷時のみ考慮 ) je:応力中心間距離 ( je=lw とする ) Qmu=213kN lw=800 (b) 壁のせん断破壊 (c) 補強部柱側の壁曲げ破壊 3.3 補強部柱側の壁曲げ破壊 補強部柱側の壁曲げ破壊は , 補強部柱主筋および壁 縦筋が曲げモーメントを負担すると考えられる。また , 引張側柱である補強部柱に軸力は負荷されないので , 下式により算定する。 w B-01W Qsu=-347kN B-02W Qsu=-333kN je=lw=800 lw=800 B-01W Qmu=-405kN B-02W Qmu=-287kN l =750 l =1000 w w b w (d) 壁せん断破壊 (e) 既存部柱側の壁下曲げ破壊 図 6 崩壊系と計算耐力 M u = at ⋅ V sy ⋅ lw + 0.5∑ (awv ⋅ V wy ) ⋅ lw (3) at, ∑awv:補強部柱主筋および壁縦筋の全断面積 σsy, σwy:補強部柱主筋および壁縦筋の降伏強度 lw:両側柱の中心間距離 3.4 既存部柱側の壁下曲げ破壊 既存部柱側の壁下曲げ破壊では , 既存部柱と下部ス タブの接合部および既存部基礎梁にせん断ひび割れが 入ると考えられる。そこで , 壁縦筋による曲げモーメ ントの負担はないとし , 既存部柱主筋 , 既存部基礎梁の 下端筋の折り曲げ定着部分およびあばら筋が曲げモー メントを負担するとする。また , 引張側柱である既存 部柱には軸力が負荷されるので , 下式により算定する。 300 M u = c at ⋅ c V sy ⋅ lw + b at ⋅ b V sy ⋅ b lw + w at ⋅ wV sy ⋅ w lw + N ⋅ lw (4) 200 全断面積および降伏強度 wat, wσsy:既存部基礎梁あばら筋の全断面積および降 (a) Qtu=224kN (c) Qmu=213kN F=1.5 (計算値1.0) 100 水平力(kN) N:既存部柱の全軸力 cat, cσsy:既存部柱主筋の全断面積および降伏強度 bat, bσsy:既存部基礎梁下端筋の折り曲げ定着部分の (b) Qsu=307kN 0 F=2.5 (計算値2.0) -100 -200 伏強度 lw, blw, wlw:既存部柱 , 既存部基礎梁の下端筋の折り曲 げ定着部分およびあばら筋と補強部柱の中 心間距離 -300 -400 -30 (d) Qsu=-347kN -20 -10 0 10 20 30 -3 層間変形角(×10 rad.) および (d) 壁せん断破壊 (-347kN) と概ね一致した。靭 性指標は正載荷で F=2.5, 負載荷では F=1.5 となり , 文 献 3) による計算値 ( 正載荷 2.0, 負載荷 1.0) より大きな 値となった。 試験体 B-02W の最大耐力は , 正載荷および負載荷 -3 -3 で 239kN( 層 間 変 形 角 12×10 rad.), -302kN(-12×10 rad.) となり , 図 6 で算定した (c) 補強部柱側の壁曲げ破壊 (213kN) および (e) 既存部柱側の壁下曲げ破壊 (-287kN) と概ね一致した。靭性指標は正載荷で F=2.8, 負載荷で は F=2.6 となり , 計算値 ( 正載荷 2.0, 負載荷 1.5) より大 きな値となった。 両試験体の最大耐力は , 正載荷はほぼ同程度であっ たが , 負載荷では試験体 B-01W がより大きな値を示し た。最大耐力後の耐力は , 正載荷で緩やかに減少した のに対して , 負載荷では大きく減少した。また , 試験体 B-01W の耐力減少は試験体 B-02W よりも顕著であっ た。これらは , 軸力による影響と考えられる。 正負交番加力終了後 , 既存部柱の軸支持能力を検 証するため , 水平力を零とした状態 ( 層間変形角 25 ×10-3rad.( 試 験 体 B-01W), -3×10-3rad.( 試 験 体 B-02W)) で 既 存 部 柱 に 軸 力 を 負 荷 し た。 試 験 体 B-01W は 282kN(0.6bDσB), 試 験 体 B-02W は 257kN(0.5bDσB) の 軸 支持能力が得られた。 (a) 試験体 B-01W 300 (b) Qsu=307kN (a) Qtu=224kN 200 100 水平力(kN) 4. 実験結果 荷重変形関係を図 7 に示す。なお , 図 7 に記した直 線は図 6 で算定した耐力である。また , 靭性指標 F は 最大耐力の 80% まで耐力低下したときの層間変形角か 3) ら求めた 。 試験体 B-01W の最大耐力は , 正載荷および負載荷で 241kN( 層間変形角 11×10-3rad.), -383kN(-8×10-3rad.) とな り , 図 6 で算定した (c) 補強部柱側の壁曲げ破壊 (213kN) (c) Qmu=213kN F=2.6 (計算値1.5) 0 F=2.8 (計算値2.0) -100 -200 (e) Qmu=-287kN -300 (d) Qsu=-333kN -400 -30 -20 -10 0 10 20 30 -3 層間変形角(×10 rad.) (b) 試験体 B-02W 図 7 荷重変形関係 5. おわりに 本研究で得られた成果を以下に要約する。 (1) 試験体の耐力は , 本論で導出した曲げ終局強度式お よびせん断終局強度式で求めた値と概ね一致した。 (2) 靭性指標 F は計算値より大きな値となった。 (3) 試験体がせん断破壊した後も , 既存部柱は 0.5bDσB 以上の軸支持能力を有していた。 参考文献 1. 日本建築防災協会:既存鉄筋コンクリート造建築物の外側耐震改 修マニュアル , 2002 2. 何庸他 : 片側に設置するバットレスを用いた RC 建物の耐震補強 , 日本建築学会東海支部研究報告集 , pp.301-304, 2008 3. 日本建築防災協会:2001 年度改正版 既存鉄筋コンクリート造建 築物の耐震診断基準・同解説 , pp.288, 14-15, 2001 片側に設置するバットレスの強度・変形性状 その2 ひび割れと変形 Strength and Deformation Property of Buttress at one side Part2 Crack and Deformation 2.構造 - 8.鉄筋コンクリート構造 耐震補強 外付けブレース バットレス 加力実験 正会員○神谷 和輝 Kamiya Kazuki*1 準会員 内藤 はるか Naito Haruka*2 正会員 高橋 之 Takahashi Susumu*1 正会員 市之瀬 敏勝 Ichinose Toshikatsu*3 正会員 神谷 隆 Kamiya Takashi*4 正会員 上田 洋一 Ueda Yoichi*4 正会員 小平 渉 Kohira Wataru*4 1. はじめに 外付けブレースとバットレスの組み合わせによる耐 震補強の開発においては , 耐力の向上だけがその対象 ではなく , 破壊モードの特定や接合部の状態等の理解 も必要である。特に接合部の状態は , 2 方向の組み合わ せ補強の可能性も左右するため重要である。前報その 1 では , 実験の概要および耐力算定式と実験結果の対応 性を述べた。そこで , 本論では上記のことを中心に実 験結果を述べる。 2. 破壊経過 前回の実験 1) による試験体のひび割れを初期ひび割 れとして図 1 に示し , 今回の実験による層間変形角 -16 ×10-3rad. 終了時の試験体のひび割れを最終ひび割れと して図 2 に示す。 -3 試験体 B-01W の正載荷では , 層間変形角 R=2×10 rad. -3 で補強部柱中央にひび割れが生じ , R=4×10 rad. で既存 部柱上部と外付けブレースの接合面にひび割れが生じ , R=8×10-3rad. で補強部柱曲げひび割れが急激に増加し , R=12×10-3rad. でバットレスおよび既存部柱柱脚・基礎 梁のせん断ひび割れが繋がった。また , 外付けブレー スとの接合面でひび割れが生じた。負載荷では , R=-8× 10-3rad. で補強部柱下部にせん断ひび割れが生じ , バッ トレスのせん断ひび割れと繋がった。 -3 試験体 B-02W の正載荷では , R=2×10 rad. で補強部柱 -3 下部にひび割れが生じ , R=4×10 rad. で既存部柱上部ス タブと外付けブレースの接合面でひび割れが生じ , R=8 ×10-3rad. で補強部柱のひび割れが増加した。また , 既存 部柱上部にせん断ひび割れが生じ , バットレスのひび割 -3 れと繋がった。R=12×10 rad. で基礎梁に大きなせん断 -3 ひび割れが生じた。負載荷では , R=-4×10 rad. で既存 -3 部基礎梁のコンクリートが剥落し始め , R=-12×10 rad. で既存部柱 , バットレスおよび補強部柱のせん割れひ び割れが繋がった。 (a) B-01W (b) B-02W 図 1 初期ひび割れ状況 (a) B-01W (b) B-02W 図 2 最終ひび割れ状況 3. 接合面のはがれ ・ ずれ 3.1 変位計 図 3 に試験体に設置した変位計の測定位置と変位計 番号および変位計の節点番号 (A ~ H) を示す。試験体 の伸縮の計測にはトランスデューサー型変位計 (I シ リーズ ) を使用し , 既存部柱と外付けブレースのはがれ およびずれの計測には変位計 I17 と 2 方向の変位を測 定できる亀裂変位計 (K シリーズ ) を使用した。 3.2 はがれ・ずれ - 層間変形関係 はがれ幅 - 層間変形角関係を図 4 に示す。縦軸にお いて正符号ははがれ幅を表し , 負符号は試験体のめり *1 名古屋工業大学・大学院生 Graduate Student, Nagoya Institute of Technology *2 名古屋工業大学・大学生 Undergraduate Student, Nagoya Institute of Technology *3 名古屋工業大学・教授・工博 Professor, Nagoya Institute of Technology, Dr.Eng. *4 矢作建設工業(株) Technical Research Institute for Earthquake Engineering, Yahagi Construction Co. , Ltd. 12×10-3rad.) であった。 I1 1 B I5 C I1 I8 I9 I6 D 2 I1 3 G I1 I2 K1-X(はがれ) K1-Y(ずれ) F K3-X(はがれ) K3-Y(ずれ) I3 H 650 165 図 3 変位計の位置 はがれ幅(mm) こみ量を表す。 はがれについて , 試験体 B-01W では , 全体的に小さ い値であったが , これは試験体を両側から加力したた めである。正載荷では最大耐力以降 , 接合面中央のは がれ幅が増大し上部よりも大きな値を示した。これは 軸力 0.6bDσB を負荷させたことと接合面中央付近の既 存部柱および外付けブレースにせん断ひび割れが増加 したことが影響したと考えられる ( 図 2(a) 参照 )。負載 荷でも最大耐力以降 , 接合面中央のはがれ幅が増加し た。試験体 B-02W では正載荷で接合面上部でのはがれ が顕著に見られた。それとは対照的に , 中央・下部で のはがれはほとんど見られなかった。負載荷において も同様の傾向が見られた。試験体 B-02W の最大耐力以 前の最大はがれ幅は接合面上部での 2.5mm( 層間変形角 3 I17 K1-X K3-X 負載荷時最大耐力 層間変形角(−8×10-3rad.) 1 −10 −5 0 5 10 層間変形角(×10-3rad.) 15 20 (a) B-01W はがれ幅(mm) 3 2 となる。よって , E 点の水平変位 δE は , 正載荷時最大耐力 層間変形角(12×10-3rad.) E F F C G D H B 壁下曲げ δA A A 1 F 0 B B (b) B-02W 図 4 はがれ - 層間変形角関係 15 20 25 C G C θF α C δA+δE δF e FG θF 壁曲げ (a) 壁・壁下曲げ変形図 I17 K1-X K3-X 負載荷時最大耐力 層間変形角(−12×10-3rad.) −1 −25 −20 −15 −10 −5 0 5 10 層間変形角(×10-3rad.) δE E B −1 −20 −15 4 FG 間が eFG だけ伸びた状態を同図 (b) に示す。このと きの線分 BF および FG の傾きは , T F eFG / 650 (1) A 0 5 する。壁曲げ成分の算出を例に曲げ成分の算出方法を 以下に示す。 壁曲げ成分の算出は , C および G 点の水平変位・鉛直変位を零 を仮定する。まず , 下段のみの変形を求める。 A 正載荷時最大耐力 層間変形角(11×10-3rad.) 2 試験体接合面のずれについて , 最大耐力以前の最大 ずれ量は , 試験体 B-01W では 0.29mm, 試験体 B-02W で は 0.33mm と , ごく僅かであった。 4. 変形成分の分離 4.1 分離方法 変位計の測定値から試験体の変形成分の分離を以下 のように行う。変位計番号と節点番号は図 3 に記した ものと対応している。 ・接合部はがれ成分 変位計 I17 の値を接合部はがれ成分とする。 ・壁曲げ成分 , 壁下曲げ成分 曲げ成分による変形は , 節点の鉛直方向の移動と考 える。図 5(a) に示すように線分 CG を境に上の変形成 分を壁曲げ成分とし , 下の変形成分を壁下曲げ成分と する。よって , 壁曲げ成分は A, B, E, F 点の鉛直変位か ら算出し , 壁下曲げ成分は C, G 点の鉛直変位から算出 500 0 I1 1000 I4 I17 500 I7 E 200 A 650 G (b)FG の伸びによる変形 E E A F B G (c) 概念図 図 5 曲げ変形分離方法 C δE F G T F u 1000 (2) となる。同図 (c) に示す概念図のように , 同様にして 500 上段 B 下段 を仮定する。CF 間が縮んだ状態 (eCF< 0 ) を同図 (b) に 示す。F 点の水平変位 δF は , G F eCF / cos D (5) となる。同様にして BG 間が伸びた状態 (eBG > 0 ) から B 点における水平変位も算出し , それらの算術平均をせ ん断による変形成分とする。上段に関しては , B および F 点の変位を零と仮定して下段と同様にして算出する。 すなわち , 次式となる。 GB GF 2 6502 5002 eBG eCF 2 u 650 G A GE 6502 5002 (せん断・上段) 2 2 u 650 eAF eBE (6) (7) 壁曲げ・壁下曲げ変形および壁せん断変形の成分算 出式は図 5 および図 6 と対応させて負載荷時のもので ある。正載荷時も同様の方法で算出式を求めることが できる。 4.2 変形割合 - 層間変形角関係 分離結果を図 7 に示す。試験体 B-01W の正載荷 ( 同 -3 図 (a)) では , 層間変形角 R=4×10 rad. まではせん断変 60 40 20 (b)FG の縮みによる変形 140 120 100 80 60 40 20 0 −20 −40 2 4 8 12 16 層間変形角(×10-3rad.) (a) B-01W 正載荷 80 60 40 20 4 8 12 16 20 層間変形角(×10-3rad.) (c) B-02W 正載荷 接合部はがれ 壁せん断(上段) −4 −8 −12 −16 (b) B-01W 負載荷 100 2 −2 層間変形角(×10-3rad.) 120 0 −20 G 図 6 せん断変形分離方法 80 0 α 変形成分割合(%) 変形成分割合(%) ・壁せん断成分 せん断成分による変形は , 水平方向の節点の移動と 考える。そこで , 対角線方向の変位計と水平軸と対角 線のなす角から水平変位を求める。図 6(a) に示すよう に線分 BF を境に上段と下段とし , それぞれのせん断変 形成分を算出する。下段の壁せん断成分の算出を例に せん断成分の算出方法を以下に説明する。 同図 (a) において , C および G 点の水平変位・鉛直変位を零 変形成分割合(%) 1200 eGH eCD (壁下曲げ) (4) 650 δF e CF C G (a) 上段・下段の変形図 D および H 点の水平変位・鉛直変位を零 (せん断・下段) α 650 100 なる。 B F C 1000 500 eFG eBC eEF eAB (壁曲げ) (3) 650 650 壁下曲げ成分の算出は , と仮定し , 同様の方法で算出する。すなわち , 次式と F 500 BC 間が縮んだ状態 (eBC< 0 ) から A 点における下段のみ の水平変位 δA も算出し , 水平変位 δA, δE の足し合わせを 下段の曲げ変形成分とする。上段も同様の方法で算出 し , 下段と上段の層間変形の足し合わせを壁曲げ変形 成分とする。 すなわち , 次式となる。 E A 変形成分割合(%) GE 140 120 100 80 60 40 20 0 −20 −40 −2 −4 −8 −12 −16 −20 層間変形角(×10-3rad.) (d) B-02W 負載荷 壁下曲げ 壁せん断(下段) 壁曲げ 最大耐力時 図 7 変形分離 -3 形の割合が大きいが , R=8×10 rad. 以降 , 壁曲げ変形が 卓越した。これに対し , 負載荷 ( 同図 (b)) では R=-8× 10-3rad.( 最大耐力時 ) までは , 壁下曲げ変形が卓越し , それ以降は , 下段の壁せん断変形が卓越した。また , R=-8×10-3rad. 以降は , 壁曲げ変形がマイナスの値とな る。これは軸力 0.6bDσB を負荷させたことにより EF 間 ( 図 3 参照 ) が縮んだためである。 -3 試験体 B-02W の正載荷 ( 同図 (c)) では , R=4×10 rad. -3 まではせん断変形の割合が大きいが , R=8×10 rad. 以降 , 壁曲げ変形が卓越した。また , 接合部はがれの割合も 層間変形角の増加とともに増加している。負載荷 ( 同 -3 図 (d)) では , R=-12×10 rad.( 最大耐力時 ) までは , 壁下 曲げ変形が卓越し , 最大 80%となった。それ以降は , 表 1 鉄筋が降伏した時の層間変形角 ( × 10-3rad.) B-02W A-3 補強部柱脚 A-4 A-5 A-6 A-7 A-8 B-1 B-2 B-3 B-4 降伏なし データなし -16 -12 降伏なし 8 8 12 8 12 降伏なし -16 -24 4 4 12 8 データなし データなし データなし 始めから降伏 下段の壁せん断変形の割合が卓越した。また , R=-8× 10-3rad. を超えると試験体 B-01W と同様に壁曲げ変形が マイナスの値となる。しかし , これは BC 間 ( 図 3 参照 ) が伸びたためである。 5. 鉄筋降伏点および応力度からの検証 5.1 ひずみゲージ 前回の実験に使用したひずみゲージを再度使用す る。ゲージ貼付け位置を図 8 に示す。A シリーズで 引張アンカー筋 D16(SD390) およびせん断アンカー筋 D6(SD345) のひずみを測定し ,B シリーズで補強部側柱 の主筋 D10(SD295A) を測定する。破壊モードの判断に 重要となる既存部側柱主筋のひずみゲージは前回の実 験による損傷のため使用できなかった。 5.2 残留ひずみ 試験体は 2 度目の使用となるため , 鉄筋の残留ひず みの存在が考えられ , ひずみゲージの測定値に残留ひ ずみを加える必要がある。ここでは , 前回の実験のひ ずみゲージの最大値が降伏ひずみに明らかに達してい なかった鉄筋については , 前回の実験の最終ひずみを 残留ひずみとみなし , それ以外の鉄筋については , 始め から降伏していたとする。 5.3 鉄筋降伏点・アンカー筋の応力度 - 層間変形関係 鉄筋が降伏した時の層間変形角およびせん断アン カー筋の応力度 - 層間変形関係を表 1 および図 9 に示す。 ここでは , ひずみゲージの値が降伏ひずみの 90%に達 した時を鉄筋の降伏点とみなし , データが得られなかっ たゲージにはデータなしと記録する。 表 1 において , 試験体 B-01W の正載荷では , 引張ア -3 ンカー筋の降伏はなく , 層間変形角 R=8×10 rad. で補強 -3 部側柱の 2 本の主筋が降伏し , R=12×10 rad. ですべて の補強部側柱の主筋が降伏した ( その 1 の図 6(c) 参照 )。 -3 試験体 B-02W の正載荷では , R=4×10 rad. で補強部側 -3 柱の 2 本の主筋が降伏し , R=12×10 rad. ですべての補 強部側柱の主筋が降伏した ( その 1 の図 6(c) 参照 )。 図 9(a) において , 試験体 B-01W の A-7 のせん断アン -3 カー筋は負載荷の影響により R=-8×10 rad. を超えると 図中の矢印のように応力が急増している ( 図中の矢印 は , その 1 の図 7(a) の矢印と対応している )。そして , R=-12×10-3rad. で降伏した ( その 1 の図 6(d) 参照 )。図 A-1,A-2 A-3,A-4 接合部の測定 A-1∼A-4:引張アンカー筋 A-5 壁の測定 A-5∼A-8:せん断アンカー筋 A-6 A-7 柱の測定 B-1∼B-4:補強側柱主筋 A-8 B-2 B-1 B-4 B-3 図 8 ゲージ位置図 90%降伏応力度(333N/mm2) 350 300 250 200 150 100 50 0 −15 −10 −5 0 90%降伏応力度(333N/mm2) 応力度(N/mm2) B-01W A-2 降伏なし データなし 降伏なし せん断アンカー筋 応力度(N/mm2) A-1 引張アンカー筋 5 10 15 層間変形角(×10−3rad.) (a) B-01W(A-7) 350 300 A-7 250 200 A-5 150 100 50 0 −20−15−10 −5 0 5 10 15 20 層間変形角(×10−3rad.) (b) B-02W(A-5,A-7) 図 9 せん断アンカー筋の応力度 - 層間変形関係 9(b) より試験体 B-02W の A-5 のせん断アンカー筋は正 載荷の影響により降伏したが , これは接合部の目開きが 大きくなったためと考えられる ( その 1 の図 6(a) 参照 )。 A-7 のせん断アンカー筋は負載荷の影響により R=-12× 10-3rad. 以降に大きな応力を受け始め , R=-16×10-3rad. で 降伏した ( その 1 の図 6(d) 参照 )。 6. おわりに 本論で得られた成果を以下に要約する。 (1) 軸力比 0.2, 0.6 の試験体とも , 既存部柱が圧縮を受 ける載荷では , 曲げ変形が卓越した。逆の載荷では , 最大耐力以前は曲げ変形が卓越したが , 最大耐力以 降はせん断変形が卓越した。 (2) 最大耐力以前の補強部と既存部の接合部のはがれは 最大 2.5mm 見られたものの , ずれは最大 0.33mm と 小さかった。 参考文献 1. 何庸他 : 片側に設置するバットレスを用いた RC 建物の耐震補強 , 日本建築学会東海支部研究報告集 , pp.301-304, 2008
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