パートナーシップの成立要件―80年代パートナーシップとの相違

トナーシップの実効性、有効性が大きく左右され
1.前号の整理
ため、PPP事業を成功させるためには法令、規
制についての制度的構造を明確化する必要がある。
本政策研究レポート No.83・2004 年 6 月【論説】
「パートナーシップの本質と成立要件−80年代
その第1は民間企業の参入障壁となる要因、実
パートナーシップとの相違−」では、以下の点を
現可能性に影響を与える要因、民間企業の優位性
指摘した。
を低下させる要因、第2はPPP事業の経営者の
PPPを実効性・有効性高い取り組みとするに
法的地位や役割の変更についての柔軟性、再構築
は、PPPの実施を制約する法令、規制等を明ら
の可能性、第3はPPP事業に関連する規制構造
かにしPPPの事業範囲を明確に設定すること、
とそれに対する変更ニーズ、民間企業の監視・モ
とくに関係する法令や規制が民間事業者の意思決
ニタリングに関する制度設計、第4はPPP事業
定や行動に如何なる影響を与えるかによってパー
の規制に伴うリスクの整理と対処方法である。
(図表1)明確化すべき制度的構造
参入障壁・優位性低下要因等
経営者の地位等
PPP事業に関する法令・規制構造の明確化
規制構造、監視・モニタリング
規制がもたらすリスク
PPPの事業モデルに対して法令構造が適して
監視・モニタリングによって生じるPPP事業
いない場合には、法令の未整備・不適正によって
モデル内の規制は、可能な限り事業の初期段階か
生じるリスクを認識し、それに伴って民間企業が
ら導入し一貫性のある規制とすることが必要であ
負担しなければならないリスクの軽減を図る必要
る。監視・モニタリングでは、事業の透明性を確
がある。また、法令の未整備等によって生じるリ
保する有効なシステムの形成を第1の目的とする
スクに対して、最も対応できる能力を持つ民間企
ことが重要である。また、PPP事業の目標を達
業等を選択する必要があり、維持管理等の安定化
成するため、事業に参画する各当事者間の利害差
においては地元民間企業の事業モデルへの参画が
をプロジェクト全体の視点から調整することも契
有効性を持つ場合も少なくない。なお、法令変更
約形成の重要な課題ととらえる必要がある。この
によるリスクは、特定の事業を対象とするなど特
ため、契約の中では有効なガバナンスの下での柔
別な要件があるものを除き、通常の事業展開でも
軟性が規定に盛り込まれること、契約に多くの事
発生するリスクであり、法令の未整備によって生
項を盛り込み過ぎず簡明さを確保すること、など
じるリスクとは区別して考えることが基本となる。
が重要な課題となる。
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的リスクを可能な限り把握することが必要となる。
PPP事業に関連する法令は、従来の公法・私
法といった主体的区別から官民関係形成のための
基本的リスクとしては、①PPPモデルに対する
法令に進化する必要があり、現在、そのための取
支配権、マネジメント権の安定性、②資金調達コ
り組みが進められている。そこで、進化の流れも
ストの変動、③需要予測の変動、④モデル設計や
踏まえて事業モデルの設計を慎重に行うことが不
納期に関する安定性、⑤技術の不適切な選択、⑥
可欠となる。
資産価値の変動、⑦雇用情勢、雇用慣行の変動、
⑧不可抗力、⑨民間の破綻、消滅、機能不全、⑩
物価等経済情勢の変動等が上げられる。
2.モデル選択
【構成要素の選択】
事業モデルを選択する上で、重要な判断要素と
第3は、PPPに組み込む構成要素の選択であ
なるものは、以下の通りである。
る。サービス提供の如何なる部分を民間に委ねる
かは難しい問題であり、PPPが対象とする事業
【目標の明確化】
第1は、PPPによって実現すべき目標を明確
の内容によっても異なる判断が必要となる。しか
化することである。PPPを通じて如何なる成果
し、その判断においては共通の要素がある。それ
を生み出すことが必要か、その姿を具体的に示す
は、①PPPのモデル設計と実施において民間が
必要がある。PPPの目標は、抽象的な内容では
公共部門に比べてどれほど効率性と改善の面で影
不適切であり、モデルの選択や分析を可能にし資
響力を有しているか、②資本コストだけでなくラ
金調達やリスク管理の判断と準備を容易にするた
イフサイクル・コストの削減に民間がどの程度寄
め、定量的に測定できる内容でなければならない。
与できるか、③モデル設計に必要となる資源を適
たとえば、リスク管理は当該リスクに対してもっ
切且つ敏速に調達・供給できるのは民間・公共い
とも効率的且つ適切に対応できる主体に委ねるべ
ずれの部門か、④施設やモデルの実質的な所有は、
きである。いうまでもなく、より多くのリスクを
民間・公共いずれの部門による方がメリットがあ
民間に移転すれば、民間はより多くのリターンを
るか、⑤マーケティングの効果をもっとも引き出
求める。民間へのリスク移転とリターンのバラン
せるのは誰か、などである。こうした構成要素に
スを判断する基準となるのは、具体的且つ定量的
ついては、個々の要素ごとに最適な提供主体を選
な目標である。PPPの実行過程だけでなく、終
択することが必要であり、最適な提供主体を如何
了後の評価のためにも、目標を具体的に定めるこ
にコラボレートするかが重要となる。
とが前提条件となる。
【財務の改善】
第4は、PPPを展開する財務の改善である。
【基本的リスクの把握】
第2は、基本的リスクの把握である。PPP事
従来どおり公共部門の予算執行によりサービス提
業モデルの選択は、基本的リスクを把握しリスク
供した際に必要となるコストを明確にし、PPP
を如何に配分・構成するかの問題でもある。第1
で実施した場合と比較することが必要となる。こ
の「目標の具体化」が成果を生むためにも、基本
こで比較とは、単にコストの多寡だけでなく、P
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PP参加者の提案が斬新であり、サービスの質が
「リスク評価」、「資金査定」、「社会的査定」
大きく改善されるか否かの視点も含まれる。とく
の三つが重要な要素となる。リスク評価について
に、PPPモデルによる提供コストが公共部門の
は、次回以降の「PPP実践の理論」編で説明す
従来方式によるそれよりも大きい場合には、改善
ることとする。「資金査定」で重要なのは、民間
の斬新性とサービスの質的向上が決め手となる。
資金のPPPモデルへの参画により公共部門が実
施していた従来モデルの体質を変革する意識をも
つことである。具体的には、民間部門と公共部門
3.具体的モデル設計
では、資金査定に対する関心事が異なり、とくに
資金調達の実現可能性、収益の分配、リスク評価
以上を踏まえて、PPP事業モデルを具体的に
において違いが明確化する。
設計する上で重要な点は、PPP事業参加者のニ
ーズを明確にし、最善のサービス提供を可能にす
資金調達の実現可能性は、基本的財務分析から
る方法を生み出すことである。PPPのモデル選
生み出される情報をベースに評価され、金融機関
択では実現可能性と形態の選択が課題となるのに
あるいは投資家が調達の実現可能性について実証
対して、具体的設計においては選択されたモデル
できる内容でなければならない。とくに、(イ)
が如何にすれば実現できるかに重点が置かれる。
PPPプロジェクトの期間を通じた元利返済の確
具体的モデル設計では、①PPPを実現可能と
保と長期プロジェクトが生み出すリスクに見合っ
するための技術的水準、②PPPを実現するため
たリターンの確保、(ロ)将来の不確実性を認識
の資金評価、③契約形態の設計、④入札過程の設
しながら、長期負債、固定金利の最大化と借り換
計、⑤監視・改善等の設計などがポイントとなる。
えリスクの最小化等を踏まえ、異なる資金源をパ
ッケージ化することが重要となる。
(1)PPPを実現可能とするための技術的水準
次に、「収益の分配」では、PPPモデルがキ
PPPを実現可能とするための技術的水準の設
ャッシュ・フローを、いつの時点から、どの程度
計においては、(イ)如何なる民間部門がPPP
生み出すか判断することにポイントがある。PP
モデルの目標とする技術水準を提供できるか、
Pモデルが参加民間部門の財務基盤の規模、能力
(ロ)如何なる民間部門が従来の技術に改善を加
を大きく上回る場合、モデル遂行に必要なキャッ
え、あるいは新技術を導入しPPPモデルの質に
シュ・フローが発生する前にモデル全体の維持が
向上をもたらすことができるか、(ハ)如何なる
困難となる場合もあり、注意を要する。また、収
入札プロセスを選択すれば、民間部門の持つ技術
益分配に関する評価は、PPPモデルの立ち上げ
を最も適切に引き出すことができるか、(ニ)入
から終了に至るまで一貫して実施しなければなら
札評価と監視において必要となる技術水準は何か、
ない。収益分配など資金査定は民間部門が中心と
(ホ)サービス提供の改良、緊急時の対応には如
なって担う機能である。しかし、早期に問題点を
何なるプロセスが必要か、などがポイントとなる。
認識し、公共部門と協議する体制を確立させてお
くことは極めて重要である。
「社会的査定」とは、PPPモデルから生み出
(2)PPPを実現するための資金評価
される便益が如何なる領域に配分されるかについ
PPPを実現するための資金評価においては、
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て検証することである。PPPモデルが公共サー
などが重要となる。なお、PPP事業は、公共サ
ビスとして展開される以上、公共性の側面からの
ービスを提供する事業であるため制約が生じるこ
評価が不可欠となる。公共の利益の最大化や向上
とを、当事者間で共有する必要がある。
以上の契約形態を確保するため、契約モデルに
を妨げるリスクが存在する場合、その認識を明確
ついて国が統一的に定めた一般的要件を踏まえ、
化することも社会的査定の重要な要素となる。
事業の性格に合わせて契約内容を変更する必要が
ある。とくに、PPP事業の業績・能力に関する
(3)契約形態の設計
PPPの契約は、当該PPP事業の全当事者の
詳細規定を、技術的・資産的・サービス的要件か
行動を律するものである。PPPの契約において
ら規定し、当事者間の義務を契約によって具体的
は、第1に、全当事者の目標を把握しその実現に
且つ明確にする必要がある。また、契約当事者だ
資する内容とすること、第2に、当事者の目標と
けでなく、契約当事者がPPP事業推進のために
それに伴う利害の差をPPP事業全体に照らして
必要とする下請け等関係事業者との契約関係のあ
調整する上で不可欠な柔軟性の規定を設けること、
り方についても規定する必要がある。契約当事者
第3に、契約内容の着実な実施を確保するための
が下請け等関係事業者の業務について直接的に責
管理規定を設けること、第4に、契約には以上の
任を負うことを明確化すると同時に、他の当事者
点を盛り込む必要があるものの、効果を高めるた
が一定の厳格な条件の下でPPP事業を遂行する
めに多くの内容を簡明に整理した形態をとること、
ために介入する権利についても規定すべきである。
(図表2)PPP事業の契約設計の主要要件
一般的合意事項
・事業目的と当事者関係の明確化
資金調達
・事業遂行のための法アプローチ
・契約期間の資金負担関係
・料金設定と料金管理
・事業合意の結論
リスク管理
・下請け条項
・資産関係リスク
・当事者関係リスク
・利用者等第三者との責任関係
建設関係
・計画の承認条項、見直し条項
・業務保証
・契約期間に対する監視規定
・条件変更
・事業条件の多様性
・不履行規定と対処法
・保証期間
・不可抗力等免除条項
運営等
・業績評価基準
事業当事者の
・法的組織形態
・サービスの範囲と継続性
組織化
・資本形態
・利用者の平等性等利用条件
・資金管理形態と適用会計基準
・ネットワークアクセス条件
・土地も含む事業資産の所有関係
・ディスクロージャー要件
事業資産関係
・過渡期プロセスの明確化
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着実に実施されているか契約管理を実施すること、
PPP事業の契約設計では、当事者の目標実現
とそれに対する最善の供与を可能にすることを課
②当事者全員が契約書に対する詳細な知識を持つ
題として取り組まなければならない。その際、契
ように努力すること、が大前提となるほか、③契
約の管理・監視に関する規定は極めて重要となる。
約によって定めた水準を下回る状況が生じた場合
の当事者間への影響と対処に関する規定、④契約
によって定めた水準を下回る状況が生じた場合の
(4)契約管理
当事者間のリスク管理に関する規定、⑤技術進歩、
PPP事業の可否は、事業モデルの形成と共に
契約管理が如何に有効に展開できるかによって決
規模の変更等状況変化に関するマネジメント規定、
まる。契約によって規定された厳格な要件に基づ
⑥継続的に一定水準を下回るサービス提供が続い
くサービス提供を着実に実施するには、サービス
た場合の対処規定、などを設ける必要がある。
提供の過程管理と組織化が必要となる。
契約管理の目的は、サービス提供の質において
高い価値を実現することである。このため、中心
となるのは業績管理である。業績管理は、契約内
容に合わせて業績を評価するものであり、事業者
に対する支払い決定、リスク移転の適正性、さら
には契約不履行やペナルティを判断する上でも前
提となる機能である。PPP事業では、サービス
提供が長期継続的となることから、他の事業形態
と比べても、とくに業績管理が重要となる。具体
的には、①事業が如何なる業績を上げているか評
価分析すること、②サービスの質を維持し改善す
るためのシステムが効果的に機能していること、
③事業者自身で実施している監視・改善の取り組
みが効果的であること、④契約で規定されている
サービスが独自の測定方法によって検証されてい
ること、などである。
こうした業績管理の視点は、①PPP事業を遂
行するための資源配分が初期の段階から適切に行
われること、②効果的・不可逆的なリスク移転を
確保すること、③PPP事業の改善に向けた実験
的経験と事業への反映プロセスを実現すること、
などを可能にする。
継続的に良質な業績管理を実現するためには、
①事業管理と並行して契約書に記載された内容が
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