有機農業に対する普及指導活動

[雑草と作物の制御]vol.10
2014 p19~21
神奈川県の水稲有機栽培における雑草防除の現状
~有機農業に対する普及指導活動~
神奈川県農業技術センター 普及指導部
1
はじめに
藤田信行
面積はおよそ 370a、水稲は 120a 作付している。労
神奈川県では、平成 21 年4月に有機農業推進計
働力は、経営主と両親の3人の他、就農希望者を
画を策定(23 年4月に改定)し、有機農業に適用
研修生として多く受け入れている(表-1)。
可能な技術の開発、有機農業者の取組支援、有機
【雑草対策】米ぬかやアイガモ、チェーンを利用
農業への参入支援、県民の理解促進などの取組を
した雑草対策を行っていたが、効果が不安定だっ
進めている。
たことなどから、現在は実施しておらず、人力作
普及指導活動の中では、有機農業を含む、持続
業を基本としている。現在は、移植3日後以降の
可能な環境にやさしい農業生産に向けた技術導
深水灌漑と手取り除草(1回)で対処している。
入・普及に対する支援を行うこととしている。し
ノビエは少ないが、コナギ、オモダカの発生が目
かしながら、有機農業では農業者によって栽培方
立ち、効果は十分でない。2回代かきを行ってい
法が異なり、体系的な栽培技術が確立されていな
るが、田植え時期が遅い地域であることから、2
いことから支援が難しく、農業者との関わりも少
回目の代かきを遅くすると作期が大幅に遅くなり、
ないことから、栽培現場の実情が十分把握できて
本格的な実施は難しい(表-2)。
いない状況であった。
【課
題】近年、作付面積が増えてきたことか
そこで、県内で行われている水稲有機栽培の現
ら、手取り除草が追いつかなくなっており、新た
状を把握する調査を行ったので、日ごろの活動で
な抑草技術の導入が必要である。チェーン除草を
把握している情報とあわせ、県内で実践されてい
再度検討しているが、活着が良好な健苗の育成が
る雑草防除対策を2事例紹介する。
課題である。
2
(2)B酒造株式会社(海老名市)
雑草防除対策の実際
(1)A農場(藤沢市)
【経営概要】自社水田で酒造好適米の有機栽培を
【経営概要】1980 年から有機農業を実践している。
行う。水稲作付面積およそ 310a のうち 85a で有機
有機水稲作と有機野菜作の複合経営である。経営
栽培を実施している。同社の社員3名が農作業に
表-1
調査事例の水稲有機栽培の作付面積、単収及び労働力
水稲作付面積 (a)
単収
調査事例
労働力
有機栽培
(kg/10a)
A農場
120
120
350
家族3人、研修生4人
B酒造(株)
310
85
320
社員3人
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表-2
調査事例で実践されている雑草対策
抑草技術
調査事例
有機
水稲
作付
面積
(a)
A農場
120
B酒造(株)
85
冬
期
湛
水
△
2
回
代
か
き
△
深
水
灌
漑
米
ぬ
か
施
用
チ
ェ
ー
ン
除
草
○
■
■
△
△
○
機
械
除
草
(
中
耕
除
草
機
)
○
手
取
り
除
草
ア
イ
ガ
モ
除
草
○
■
△
効 果
現状では不十分(コナギ、オモダ
カの残草目立つ)
概ね問題がない水準に抑草
(株間にコナギの残草あり)
(注) ○:中心となる対策、△:補完的な対策、■:過去に取り組んでいた対策(現在は実施していない)
表-3
県内で導入されたことがある雑草対策
抑草技術
導入状況
アイガモ除草
平成10年頃から導入が始まる。一部地域では、アイガモ米として学校給食に利用さ
れている。水田をネットで囲う手間、アイガモ引き上げ後の処分方法が課題。導入
されても数年後には止めてしまう例が見られる。
紙マルチ除草
過去に小面積で試験導入された例はあるが、専用田植機が必要となることなどか
ら、実証導入にとどまった。
液体マルチ除草
過去に、アイガモ除草と併用して小面積で試験導入された例はあるが、実証導入に
とどまった。
従事している(表-1)。
【雑草対策】冬期湛水田において、歩行型中耕除
3
今後の方向と課題
草機を主体に対処しており、米ぬか散布とチェー
有機農業者は、立地条件や作付面積、労働力等
ン除草を組み合わせて補完している。深水灌漑も
に応じて、様々な抑草技術を試行錯誤しながら実
併用し、対策を年々積み重ねてきた。社員労働力
践しているのが実情であり、対処法を模索し続け
の確保により対応できているのが実情である。
ている(表-3)。ただし、神奈川県の場合、水稲
収穫期には概ね問題がない水準に抑草されてい
るが、年によっては残草が目立ち、特に株間にコ
ナギが残草する(表-2)
。
【課
作の経営規模が小さく、雑草対策は最終的に人力
に頼っているといえる。
しかし、これには多大な労働力を必要とし、規
題】現状の対策は、マンパワーによって
模拡大を妨げているほか、他経営部門の作業と競
いる面が大きく、省力化することができれば有機
合する場合には、対策が不十分となることがある。
栽培の面積拡大につながる可能性がある。
県内の有機農業者は野菜の少量多品目の複合経営
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が多く、水稲作の規模拡大の指向は少ないが、よ
するには、現場での技術実証が必要となるが、有
り安定した抑草技術が求められており、現地での
機栽培の場合にはリスクが大きいことから、どの
実証を進めていく必要がある。また、育苗(苗質)
ように支援を進めていくか苦慮している。
がその後の雑草対策に大きな影響を及ぼすことか
ら、健苗の育成が必要であると考えられる。
有機農業に係る普及指導を進めていくためには、
少なくとも、①県内はもとより全国の具体的な技
術事例を数多く、しかも詳細に収集する、②その
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有機農業に対する普及活動
中から立地条件等に応じて現場にあった技術にア
水稲有機栽培の雑草対策としては、様々な抑草
レンジして農業者に提案する、③そこで実践され
技術が開発されているが、土壌や水もちなどの条
た技術を新たな事例として、ほかの農業者に提案
件によって結果が異なることから、現場にそのま
していく、というサイクルを回していくことが大
ま適用することは困難である。新たな技術を導入
切ではないかと考えている。
コラム
河津桜
2 月通勤途中、駅で河津桜のポスターを見
美氏が昭和 30 年に河津川沿いの冬枯れ雑草
かけ一足早い桜に誘われて、週末ふらりと踊り
の中で芽咲いている桜の苗を見つけて、現在
子号に乗車し「伊豆河津」を訪れてみました。
の地に植えたものだそうです。
河津川の土手沿いに 4km 余り続く濃いピンク
日本では固有種・交配種を含め 600 種以上
色の「河津桜」に圧倒されるはずでしたが、ま
の品種が確認されているそうですが、間もな
だ少し早く一分咲き程度でした。しかし、桜の
くすると、桜前線のニュースが届くと思いま
下には黄色に染まった菜の花、スイセンが咲き、
すが、今年の「ソメイヨシノ」の開花は何時
川沿いの足湯に浸かり一足早い春は感じるこ
頃になるのか楽しみです。
とができまた。
荒
「河津桜」の原木は、河津町田中の飯田勝
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信二(埼玉県)