金属屋根葺き材の耐風圧試験と耐風性能 - 一般財団法人日本建築総合

試験・研究
金属屋根葺き材の耐風圧試験と耐風性能
Wind Resistant Test and the Performance of Metal Roof Coverings
西村 宏昭*1、苺谷 信次*2、前田 豊*3
1.はじめに
て金属屋根葺き材を固定した2.6m×2.9mの屋根パネルで
平成19年6月の建築基準法の改正によって、これまで
ある(写真-1)。金属板は、働き幅400mm、厚さ0.4mm
建築確認に要求されていなかった外装材の構造計算書も
のガルバリウム鋼板で、金属板どうしは互いにかしめら
建築確認図書に添付する義務が明記された。外装材にお
れ、形成されるハゼの内部にステンレス板製の通し吊子
ける構造計算の要点は、設計荷重の計算とこれを受ける
が400mmのピッチ(屋根葺き材の働き幅と同じ)で設け
建材の強度(耐力)の確認、および両者の比較による建
られている。吊子はビスで、野地板を貫通して母屋(C-
材の安全性の表明である。設計荷重の設定は設計者が行
100×50×50×2、ピッチ600mm)に固定される。したが
うが、使用材料の強度は建材製造者から提供される技術
って、金属板は600mm×400mmのピッチで固定されて
データに基づくのが通例である。
いることになる。
外装材は複数の部材で構成され、荷重を受けたときの
この試験体の作成で特徴的なことは、軒先とケラバを
変形量も大きいことから、想定荷重下での力の伝達は複
再現したことである(図-1、図-2)。一般に、屋根の端部
雑であるため、強度の確認は解析的手法によるのではな
には強い風圧が作用するので、設計では屋根の端部は特
く、試験による方が適切であることが少なくない。試験
に注意が必要な箇所である。実際に、屋根の強風被害は
は、要求される性能と極限荷重を受ける実際の部材の挙
端部の屋根葺き材の剥離が起点となって広がるケースが
動をよく理解して、適切に計画されなければならない。
多い。したがって、屋根端部での屋根葺き材の固定は重
構造計算書における材料強度については許容耐力の表
要であるが、一方で漏水にも配慮が必要であることから、
明が要求されている。「許容」耐力の要求は、設計荷重
屋根葺き材をビス等で貫通して固定することは少ない。
下での建材の健全性と耐力の余裕の確認が必要であるこ
この製品においても軒先やケラバに固定された水切り金
とを意味する。
物(唐草と呼ばれる)を包むように屋根葺き材を折り曲
本報告では、金属屋根葺き材の耐風圧試験を例に挙げ、
げて、風による吸い上げ力に抵抗する方式が採用されて
試験結果を示して、屋根葺き材の耐風性能と試験におけ
いる。ところが、屋根上の金属板は日射や気温変化の影
る注意や考え方を示した。
響を受けて伸縮するので、金属板が熱膨張した状態では、
吸い上げ力に抵抗すべき端部での金属板の水切り金物へ
2.耐風圧試験
2.1
試験体
試験体は、野地板の上にビス留めした通し吊子を介し
*
1
2
*
*
3
の掛かりの長さが短くなることがある。本試験では最悪
の状態でも屋根葺き材の耐風性能が保持されることを確
認するため、故意に軒先部の「掛かり長さ」を短くした。
NISHIMURA Hiroaki:(財)日本建築総合試験所 試験研究センター 耐風試験室 室長 博士(工学)
ICHIGOTANI Shinji:(財)日本建築総合試験所 試験研究センター 耐風試験室 主査
MAEDA Yutaka:(財)日本建築総合試験所 試験研究センター 耐風試験室 主査
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GBRC Vol.33 No.4 2008.10
もともとの掛かり長さは30mmであるが、熱膨張の効果
屋根葺き材に加わるようにした(図-3)。この穴は、も
を考慮して、それを19mmとした。なお、温度変化を
ちろん実物には無く、試験の便宜上設けたものである。
Δt=60 K、実際の葺き材長さをL=30m、鋼材の熱膨張
この試験体の場合には野地板に穴を開けることにより、
−5
率をα=1.2×10 とすると、軒端部での膨張長さは
屋根葺き材が圧力を負担し、野地板は圧力を負担しない
L /2×Δt×α=11mmと計算される(図-1)。
ことになる。屋根葺き材に作用する風圧は吊子∼ビス∼
野地板の上に固定される屋根葺き材の耐風圧試験で重
母屋を通って構造骨組に伝達される。ビスは野地板を貫
要な注意点は、屋根葺き材に所定の圧力を掛けることで
通するのみで、野地板には力の伝達がない。したがって、
ある。一般に行われるように、この試験でも試験体を気
穴を吊子のビス位置近くに開けなければ、野地板に開け
密な圧力箱に固定した状態で、圧力箱内の圧力を増減し
た穴は試験結果に影響しないと考えられる。
て試験体に圧力を加える方法、いわゆる圧力箱方式を採
用した。この場合、通常の仕様の試験体を用いると、野
地板が気密であるため圧力は野地板が負担し、屋根葺き
材に圧力が掛からない状態となる。これは、屋根葺き材
を圧力箱の内側に向けて固定しても、圧力箱の外側に向
けて固定しても同じである。そこで、野地板に(吊子固
定部を避けて)適当な穴を開け、その穴を通して圧力が
写真-1
図-3
試験体の外観(屋外側)
2.2
試験の概要
試験目標荷重の設定
試験目標荷重は平成12年建設省告示第1458号に基づい
て設定した。風荷重は、建設地の位置、周りの状況、建
築物の形状やサイズなどによって変化し、設計される建
築物ごとに、設計者によって設定される必要があるが、
ここでは特定の建築物のためでなく、一般に想定される
標準的な低層建築物のための風荷重を次の仮定の下で算
出した。
・地表面粗度区分;Ⅲ
図-1
試験体詳細図(軒先部、寸法単位:mm)
・基準風速;V0=34 m/s
・建築物の高さ;H=15m
ˆ f =−4.3
・ピーク風力係数(屋根の隅角部用);C
この条件での設計風荷重は−2.21kN/m2となり、これ
より試験目標荷重を−2.3kN/m2とした。ここで設定した
試験目標荷重は、種々の設計条件をすべて考慮した実際
に生じ得る最大荷重ではないことに注意する必要がある。
したがって、この試験荷重よりも小さい実際の設計風荷
重についてのみ、試験に用いた製品を採用することがで
図-2
32
試験体詳細図(ケラバ部)
きる。一般的な風荷重算定方法については4.1に述べる。
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2.3
試験方法
と母屋に対する相対変位量の測定結果を図-6に示す。前
試験では、試験体の屋外面を内側にして試験体を圧力
箱に気密に固定し、圧力箱内の圧力を下げることにより、
述のように、変位量の測定は目標荷重までの載荷時に限
った。
屋根葺き材に負圧(表面を引く圧力)を掛けた(写真-2)。
目標荷重の除荷後、屋根葺き材の中央部で、上方向へ
試験体は、装置の都合上、鉛直の姿勢で固定されたが、
の膨らみとして約10mmの残留変位量が確認された(図-
屋根葺き材の重量が載荷圧力に比べて十分小さいので、
6
(a))。この残留変形が有害であるか否かの判断が許容の
結果への影響はないと考えられる。載荷は、図-4に示す
可否基準となる。言うまでもなく、残留変形は小さいこ
ように、段階的に目標荷重まで掛けた後、一旦除荷して
とが望ましいが、いかなる金属薄板においてもいくらか
残留変形を観察した後、再び段階的に載荷して試験体の
の残留変形は避けられない。この製品の場合、働き幅に
終局強度(すなわち、破壊強度)を確認した。
対する膨らみの比は3/100程度で、目視でわずかに認識
試験体各部の変形は目標荷重までの載荷の間のみで測
できる程度である。この残留変形(金属板の膨らみ)は
定した。目標荷重除荷後に残留変位量を測定後、破損を
避けるために変位計を取り外して、以降の載荷段階では
変位量の測定は行なわず、破壊強度の確認のみを行った。
3.試験結果
目標荷重の負圧−2.3kN/m2までの載荷において、試験
体各部での破壊、曲げ等の重大な損傷は観察されなかっ
た。図-5に示す試験体中央部での屋根葺き材のたわみ量
図-5
変位計設置位置
(a)屋根葺き材のたわみ量
写真-2
圧力箱に取り付けられた試験体
(野地板の屋内面が見える)
(b)屋根葺き材、軒先およびケラバと母屋間
の相対変位量
図-4
載荷段階
図-6
変位量測定結果
33
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屋根葺き材の機能を損なうものではなく、積雪や熱収縮
般に、地面から高い位置では風が強く、また市街地の中
の影響によって時間の経過と共に減少する(元に戻る)
よりも海沿いの地形の方が風が強いことはよく知られて
ことも期待できるので、強度の面では許容範囲にあると
いる。受風係数Erはこれらの二つの効果を考慮して、風
判断される。
速の増減の割合を決定する量である。地形の効果は地表
母屋に対する屋根葺き材固定部付近の相対変位量(図-
面の(風にとっては)障害物(建物や樹木のことで、粗
6
(b))と軒先およびケラバ付近の相対変位量(図-6
(c)))
度と呼ばれる)の大きさや密度で表すことができる。地
は、荷重に対して直線的に変化し、それらの残留変位量
形は地表面の粗度によってⅠ∼Ⅳの4つのカテゴリー(粗
は十分小さい。したがって、固定部付近の部材はほぼ弾
度区分)に分類されている。Ⅰは海岸から突き出た埋立
性的に挙動しており、耐力上健全であると判断できる。
地、Ⅱは海岸や湖の沿岸地、Ⅲは通常の市街地、Ⅳは高
残留変位量の確認の後、再び荷重を段階的に上げて、
層建築物が建ち並ぶ大都市の中心地である。通常の建築
荷重−7.7kPaの載荷後における試験体の破壊を確認した。
物では概して粗度区分Ⅲが適用される(詳細は告示第
この破壊荷重は目標荷重の約3.4倍であることから、試験
1454号を参照のこと)。受風係数Erは式(3)で与えられる。
体は許容耐力に対して安全率3.4を有するということがで
きる。実際の安全率の表明では、施工のバラツキや経年
H
Er=1.7 −
−−
ZG
α
………………………………………(3)
変化を考慮して安全率3とすることが望ましいであろう。
ここで、Hは建築物の高さ、ZGは上空大気の、それより
4.解説
4.1
上の高さでは風速が一定と考えられる高さ(大気境界層
風荷重の算定
高さと呼ばれる)、αは風速の高さ方向の勾配を表す指
屋根葺き材の構造計算については、建築基準法施行令
数で、粗度区分ごとに値が定められている。粗度区分Ⅲ
第82条の4に、「屋根ふき材、外装材及び屋外に面する帳
では、ZG=450m、α=0.20と決められている(その他の
壁については、国土交通大臣が定める基準にしたがって
構造計算によって風圧に対して構造耐力上安全であるこ
粗度区分での値は告示第1454号を参照のこと)。
ˆ f は、建築物の種類とその部位ごとに
ピーク風力係数 C
とを確かめなければならない」と定められている。国土
告示第1458号に例示されている。自然風は常に乱れてお
交通大臣が定める基準とは、平成12年建設省告示第1458
り、その結果、風圧力も時間的に変動する。ピーク風力
号を指す。告示第1458号では、風圧力は式(1)で求めら
係数は変動する効果が考慮された風力係数の最大瞬間値
れる。
で、概ね1秒間程度の変動の最大値が採用されている。
ˆf
−は時間平均値であるが、風力係数 C
式(1)では、速度圧q
−ˆ
C f ………………………………………………(1)
W=q
に最大瞬間値が採用されているため、両者の積である風
−は平均速度圧(N/m2)、
ここで、Wは風圧力(N/m )、q
ˆ f は屋根葺き材のピーク風力係数である。q
−は式(2)で表
C
えられる構造骨組用風圧力の式も式(1)と似ているが、
される。
定義は対照的で、速度圧に最大瞬間値、風力係数に時間
2
−
q =0.6Er2V02 …………………………………………(2)
圧力Wでは最大瞬間値が計算される。告示第1454号で与
平均値が与えられている。このことから、両者の風力係
数を混同しないように特に注意しなければならない。告
ここで、Erは平成12年建設省告示第1454号で与えられる
示第1454号の風力係数を式(1)に代入すると、設計荷重
建設場所周辺の地形や建築物の高さに依存する係数で、
は所定の半分程度にしかならない。
ここでは受風係数と呼ぶ(正式の呼称は告示では与えら
外装材の風力係数は、その面の表と裏に作用する風圧
れていない)。V 0は基準風速と呼ばれ、建設地の行政区
係数の差として定義される。建築物の表面に作用する風
画ごとに30m/sから46m/sの範囲で定められている。基
によって生じる風圧を外圧、室内面に作用する風圧を
準風速は過去の強風の観測記録から統計的に決められた
(室)内圧と呼び、速度圧で基準化されたそれぞれの風
値で、台風の襲来を頻繁に受ける九州、沖縄地方では高
圧係数を外圧係数、内圧係数と呼ぶ。したがって、風力
い値が設定されている。V0は10分間平均風速で、この値
係数は外圧係数と内圧係数の差であり、ピーク風力係数
を用いて計算される速度圧 −
q も10分間平均値である。
は式(4)で表される。
基準風速は地域ごとに決められた風速であるが、同じ
地域にあっても風速は高さと地形によって変化する。一
34
ˆ pe−C
ˆ pi ……………………………………………(4)
Cˆ f =C
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ˆ pe はピーク外圧係数、C pi はピーク内圧係数で
ここで、C
ある。
外圧が伝わり、内圧が正となるケースがある。この場合、
ˆ pi=0.0ではなく、いくらかの正の値
ピーク内圧係数は C
圧力は注目する面に垂直に作用し、その面を押す方向
を設定し、結果として、いくらか大きいピーク風力係数
に作用する圧力を正圧と呼び、正の符号で表し、その面
を設定する必要がある。シャッターが正の風圧で壊れた
を引く方向に作用する圧力を負圧(または引圧)と呼び、
その符号を負で表す。両者の差で表される風力係数の符
場合には、残りの建築物では開放型建築物としてのピー
ˆ pi=1.5を設定することが求められる。実際
ク内圧係数 C
号は、その部材を外側から内側に押す方向に作用する力
には、シャッターが壊れることを前提として設計するこ
の符号を正、その部材を内側から外側に引く方向に作用
とはあり得ないが、空気の流通する隙間が一つ(または
ˆ pi=0.5程度の
二つ)だけの壁面に偏在する建築物では、C
する力の符号を負で表す。
ˆ pe は、告示第
陸屋根の屋根葺き材のピーク外圧係数 C
1458号で図-7のように与えられている。この図は、陸屋
ピーク内圧係数を見込んでおくことは、良い設計習慣と
して推奨される。
根には負圧だけが作用し、屋根の周縁部、特に隅角部付
屋根の端部がその下の壁面から外に突き出されている
近で負圧が強いことを示している。それぞれの領域のサ
場合、つまり軒の出をもつ場合の軒の裏面は、図-8に示
イズは建築物の大きさから決定される。
すように、室内に面しておらず(厳密には、軒天井を付
ピーク内圧係数は、通常の建築物(閉鎖型建築物)の
場合、式(5)、
(6)のように与えられる。
ˆ pi=−0.5 ……………………………(5)
Cˆ pe ≧0のとき、C
ˆ pi=0.0 ………………………………(6)
Cˆ pe <0のとき、C
けない場合)、外気に面している。この部分の下面の風
圧係数に内圧係数を当てはめることはできない。軒の出
の裏面にも外圧が作用するが、この部分の圧力はすぐ下
の壁面に作用する外圧とほぼ等しいと考えることができ
る1)。したがって、軒の出の風力係数は屋根表面(上面)
前述したように、陸屋根には負圧しか掛からないので、
ˆ pi=0.0と設定できる。つまり、建
ピーク室内圧係数は C
Cpe1−Cpe3で表される。ここで、Cpe1は図-7の周縁部また
築物外装材のピーク外圧係数が負であるとき、ピーク内
は隅角部の強い負圧が適用され、壁面に作用するC pe3は
圧係数はゼロを与え、その結果ピーク風力係数の値はピ
正圧であることから、Cf1は強い負の風力係数が設定され
ーク外圧係数の値と等しくなるが、これを内圧は作用し
る。Cf1は屋根一般部の風力係数Cf2より大きい負の値を示
ないと理解してはいけない。ここでは、ゼロという値を
すことに注意する必要がある。
の外圧係数Cpe1とすぐ下の壁面の外圧係数Cpe3との差Cf1=
もつピーク内圧係数が作用する状態を考えていることに
図-8の風圧分布から、軒の出の長さëeの変化による屋
なるが、これは風荷重の設定条件としていつも正しいと
根葺き材軒固定部における浮き上がり力の計算例を図-9
は限らない。工場建屋などで、大きいシャッターが一つ
に示す。同部分での浮き上がり力はëeとともに直線的に
の壁面だけにある場合、そのシャッターに正対して風が
増加する。建築基準法には軒の出がある場合の荷重の計
吹く風向では、シャッターの隙間から比較的大きい正の
算方法を示していないが、軒の出によってかなり荷重が
増加することがあるので、特に注意を要する。
なお、建築基準法に基づく風荷重算定プログラムを当
試験所のホームページ(http://www:gbrc.or.jp)に用意
しているので、自由にお使いいただきたい。
図-7
陸屋根のピーク外圧係数Cpe(告示第1458号)
図-8
屋根の軒先部と一般部の風力係数
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る。例えば、金属屋根葺き材の場合では、金属板を固定
金具間のスパンで支持される単純支持梁と考え、
(2)で計
算される等分布荷重を適用して、曲げモーメントを求め、
その値を断面係数で除して発生する応力度を計算する例
は多く見られる。また支持金物では計算された荷重と受
風面積から軸力を計算し、断面積で除して応力度を計算
することもできる。しかし、多くの外装材では、各部の
変形が比較的大きく、単純な仮定で発生応力度を計算す
ることがいつも安全側であるとは限らない。本稿で取り
上げた薄板金属板を吊子を介してビスで母屋に固定する
工法では、力の伝達は複雑で、発生応力度は外力に対し
て非線形な挙動を示すと考えられることから、単純な応
力度計算の有意さには疑問が残る。つまり、確実ではな
い仮定を多く含む外装材固定部の応力度を計算すること
が適切でないことも多くある。このような場合には、外
力に対する外装材の安全性を試験で確認することを前提
として、
(3)の要求資料は、
(2)で計算された風圧力が作
用するときの外装材に加わる「力」を示せば良い。
図-9
軒の出による軒部での浮き上がり力の例
要求資料(4)は、許容応力度または許容耐力が、作用
する応力度または荷重を下回ることがないことを示す計
4.2
建築確認で要求される構造計算書
外装材の構造計算書の様式は建築基準法施行規則第1
条に規定されており、設計者は以下の使用構造材料一覧
表、荷重・外力計算書、応力計算書、屋根葺き材等計算
書を用意しなければならない。
算書である。上で述べたように、外装材では部材の許容
耐力と設計荷重の比較を記すことが多い。
4.3
許容耐力と確認試験
前節で、外装材では、ある力を受けたときに発生する
応力度の推定が困難であることが多いことを述べた。こ
(1)使用構造材料一覧表;屋根葺き材、外装材及び屋外
の場合、外装材の強度を確認するための試験が必要であ
に面する帳壁に使用されるすべての材料の種別(規
る。試験には、部材全体を再現して設計荷重に相当する
格がある場合には当該規格)及び使用部位。使用材
力(または圧力)を加えて、部材全体で安全性を確認す
料の許容応力度、許容耐力及び材料強度の数値並び
る全体試験(アセンブリ試験とも呼ばれる)と、部材の
にそれらの算出方法。法第37条の認定を受けた建築
一部を取り出してこの部分に生じると考えられる力を加
材料である場合にあってはその使用位置、形状及び
える部分試験(個材試験とも呼ばれる)がある。試験の
寸法並びに当該構造計算において用いた許容応力度
規模は全体試験の方が大きく、したがって費用も通常多
及び材料強度の数値並びに認定番号
く掛かる。部分試験は、比較的小規模で計画でき、費用
(2)荷重・外力計算書;風圧力の数値及びその算出方法
は少なくできる利点がある。金属屋根葺き材の耐風強度
(3)応力計算書;屋根葺き材及び屋外に面する帳壁に生
を知るための試験では、全体試験は本稿で述べた圧力箱
ずる力の数値及びその算出方法
(4)屋根葺き材等計算書;令82条の4に規定する構造計
算の計算書
要求資料のうち、(1)については、使用材料の特定と、
方式の屋根パネルの耐風圧試験などがこれに当たり、部
分試験は吊子の垂木からの引き抜き試験などが相当す
る。
一般に、外装材は複数の材料で構成され、力の伝達は
許容応力度または許容耐力および強度の明示が要求され
非常に複雑である。それは外力を受けた外装材がどのよ
ており、節4.3で詳しく述べる。また、
(2)の風圧力の計
うに壊れるかを考えると分かる。金属屋根の場合を例に
算方法については節4.1で述べた。
損傷の可能性を挙げると、金属板が風圧で曲げ変形して
計算された荷重によって生じる各部の応力計算の要求
壊れる場合、金属板が吊子から抜け出す場合、吊子穴が
資料(3)は、力の伝達が明確な場合には容易に準備でき
ビス頭から抜ける場合、ビスが破断する場合、ビスが母
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GBRC Vol.33 No.4 2008.10
屋から抜け出す場合などが考えられ、それらのいくつか
れる。
は同時に発生するかもしれない。これらの損傷形態はど
全体試験と部分試験ともに注意しなければならないの
れも起こりそうで、一つに限定できず、またそれらは互
は、強度を確認するための試験体と実際の製品との仕様
いに影響し合うことがあるので、部分試験からは限定的
の差異である。実際の製品と試験体の仕様が異なる場合
な情報しか得られないことが多い。
は、安全側の評価ができるように、試験結果の補正やさ
また全体試験は設計荷重に相当する力(または圧力)
らなるマージンを考えることが必要となることがある。
を加えるので、要求される荷重に対する評価が容易であ
例えば、1スパンのみを再現した試験体を用いた折板の
るが、注目する部分に生じる力を想定して行う部分試験
耐風圧試験結果は、多くの連続するスパンをもつ折板の
では最終評価が困難なケースがある。例えば、−2.3kPa
固定部の強度確認には使えない。折板の変形やモーメン
の設計圧力下で耐力が確認された屋根葺き材はその圧力
トの効果を考えないとしても、1スパンの折板で片側の
に対して安全であると言えるのに対して、この圧力に吊
支持部に掛かる力の合計は連続するスパンの場合の半分
子の負担面積(0.4m×0.6m)を乗じて得られる引き抜き
であり、これによって連続スパンにおける支持部の強度
力550Nについて強度が確認された吊子の試験結果だけか
が確認されたことにはならない(図-10参照)。折板の支
ら、屋根葺き材が設計荷重に対して安全であると直ちに
持部の強度確認に2スパン分の試験体が必要であること
は言えないであろう。したがって、外装材の強度確認の
はオーストラリア規格 2)やアメリカ規格 3)では明記され
目的では、全体試験は部分試験よりも優位であると言え
ている。わが国には長いスパンの2スパン折板を試験す
る。設計者が、A社から全体試験の結果、B社からは部
る装置(例えば、1スパン長さが4mの場合、試験装置の
分試験の結果の提供を受けて、どちらの製品を採用する
全長は8m以上が必要である)はないので、実物のスパン
かは言うまでもなく明らかであろう。実際に、海外の多
よりも短い試験体で試験せざるを得ないが、圧力負担面
くの試験方法では、実物を忠実に再現した全体試験を強
積の違いを試験圧力に上増しして安全性を確認するなど
制しているものが多い。
の工夫が必要である4)。
しかし、部分試験のコストパフォーマンスの良さも見
建築基準法施行規則第1条では、材料の許容応力度ま
捨てることはできない。全体試験の結果から、外装材の
たは許容耐力が求められている。外装材の場合は、外力
強度上の弱点部が明らかにされ、これを克服するための
に対する変形の応答が、変形の初期においてさえ、必ず
改良品の効果を費用が掛かる全体試験ではなく、安価な
しも線形でない。したがって、設計荷重を受けた後の外
部分試験で事前に確認するなどの利用価値は高いと思わ
装材に外装材としての機能が損なわれない程度の変形が
残留することは許されるであろう。この場合、許容応力
度または許容耐力の設定には、残留変位量の考慮を含な
ければならない。
前述のように、外装材構成材間の力の伝達は複雑で、
実際に発生する各構成材での応力度を予測するのは困難
であることが多い。このような場合、設計荷重を試験体
に直接掛けることができる全体試験で、許容耐力と終局
耐力(破壊強度)を求めることが適切である。許容耐力
(a)1スパンの折板試験
(b)2スパンの折板試験
図-10
スパンの数による固定部の負担面積(網掛け部)
図-11 外装材の一般的な荷重―変形曲線
37
GBRC Vol.33 No.4 2008.10
は終局耐力を安全率で除した値で、いわば名目上の耐力
を考慮した耐力のほぼ最小値が推定できると考えられ
である。したがって、許容耐力は、常に安全率を付して
る。
表すことが望ましい。安全率は通常、1.5∼3.0程度の値が
採用される。
5.おわりに
図-11で示したような、荷重−変形曲線が試験から得
屋根葺き材はしばしば強風で被害を受ける。多くの外
られていれば、許容耐力Paを設定する原則は次のような
装材がそうであるように、金属板は屋根の一部だけの被
ものである。終局耐力Pmaxを安全率S.F.で除して得られる
害に留まらず、屋根全体または広い面の被害に拡大する
曲線上の強度(仮の許容耐力)から接線を求め、荷重が
ことがある。これらの被害を軽減するには、確実に耐風
ゼロのときの変形軸上の切片が推定残留変位量δ pであ
設計を行うことが必要である。耐風設計では、適切な荷
る。この推定残留変位量が外装材の機能を損なわない量
重の設定と、建材の十分な強度の確認が必要である。建
であれば、仮の許容耐力を、試験体の許容耐力とするこ
材の強度を確認する作業が試験である。本報告は金属屋
とができる。推定残留変位量が許容されない程度に大き
根葺き材の耐風試験について述べた。
ければ、さらに安全率を大きく設定して、上の手順を繰
試験の方法は、野地板に穴を開けて屋根葺き材に圧力
り返して、推定残留変位量が所定の許容される残留変位
が加わるように計画した。屋根葺き材の強度上の弱点部
量を下回るまで繰り返す。
となり易い軒先とケラバを試験体で再現し、さらに屋根
以上のように、変位量の測定は非常に重要であるが、
葺き材の熱膨張の影響を考慮して安全側に強度を評価で
注目する部位で意図した通りに変位量が測定できるとは
きる試験体とした。試験の目標荷重は建築基準法に基づ
限らない(変位量測定位置と異なる部位で破壊すること
いて設定し、その目標荷重までの変位量測定とその荷重
もある)。また、試験体が破壊に至るまで変位量を測定
を超える破壊荷重を確認した。その結果、目標荷重除荷
すると、破壊時に高価な変位計が損傷することもある。
後の残留変形が比較的小さい(許容できる)ことから目
したがって、設計荷重までの載荷が終了すると、一旦除
標荷重を許容耐力とした。破壊荷重と許容荷重の比から
荷して、残留変位量の測定と試験体各部の観察を行い、
安全率3であることが確認された。
変位計を取り外して、以降は変位量の測定を行なわず、
金属屋根葺き材の耐風性能試験を例に挙げ、外装材に
試験体の破壊荷重のみを確認することが多い。この場合、
要求される耐風性能を試験で確認する方法を解説した。
設計荷重除荷後の残留変位量が許容される範囲にあれ
解説は、厳密な表現を避け、分かり易さを優先した。そ
ば、想定した設計荷重が許容耐力となる。
のため、関連基規準を熟読することをお勧めする。
4.4
材料強度のバラツキ
一般に建材の強度は、材料自体や施工によって生じる
バラツキをもつ。設計に用いられる許容耐力は、これら
のバラツキを考慮して、その最小値を基準にしなければ
〔謝辞〕
本試験は、株式会社川上板金工業の依頼で行われた。
本稿への転載を許可していただき感謝します。
ならない。通常、強度のバラツキは多くの試験体を用い
た試験結果によって統計的に評価される。しかし、数多
くの試験体の製作費用と試験費用は、特に全体試験を計
画した場合には、製造者の過大な負担となることがある。
本試験の場合、屋根葺き材の耐風強度は、吊子の引き
抜き強度、屋根端部における屋根葺き材の掛かり部の引
き剥がし、および屋根葺き材の曲げ破壊のいずれかで決
定されると考えられる。それらはいずれも複数個または
ある程度の広がりが一つの試験体の中に存在し、例えば、
本試験体の中にある吊子の数は24個、軒先の全長は4.8m、
ケラバの全長は5.5m、曲げ破壊の可能性のある屋根葺き
材の全長は13.8mである。試験体の破壊はそれらのうち
最も弱い部位で生じる。したがって、このような複数の
部材が組み込まれている全体試験の場合には、バラツキ
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【参考文献】
1)浅見,西村,高森,染川:住宅における軒天井の設計用風圧
係数,日本建築学会大会学術講演梗概集,B-1,pp. 233-234,
2009.
2)Australian Standard, AS 4040.0-1992, Methods of testing
sheet roof and wall cladding, Part0:Introduction, list of
methods and general requirements, 1992.
3)ASTM E 1592-05, Standard Test Method for Structural
Performance of Sheet Metal Roof and Siding Systems by
Uniform Static Air Pressure Difference, 2005.
4)日本金属屋根協会&日本鋼構造協会,鋼板製屋根構法標準
SSR2007,2008.