特殊法人の倒産法と変革のコスト

【視点・論点】
【視点・論点】
特殊法人の倒産法と変革のコスト
政府与党で特殊法人の倒産法制定に関する議論が開始されている。当面、資金繰りが限界に
来ている本州四国連絡橋公団や石油公団の処理をターゲットにした制度設計であるものの、広
く特殊法人全体そして地方自治体の第三セクターや公営企業等への適用をも睨んだものとな
っている。そのため、地方自治体にとっても行政が果たす役割や組織のあり方を考える場合に、
政策評価と並んで将来的に重要な制度として位置づけられる可能性がある。
現在の倒産法体系は、株式会社など民間企業を対象とするものであり、公的部門の組織を対
象とはしていない。収益確保を原則とする営利企業と、政策決定に基づく政府の命令等によっ
て事業実施する特殊法人とではその自立性に違いがあり、後者では単なる収支尻の赤字・黒字、
あるいは累積債務の存在だけで組織のあり方を決定することができない場合も少なくない。特
殊法人の倒産法は、その意味で組織の財務実態を明らかにし、一定の赤字額や債務残高に達し
た段階で、業務・組織のあり方について再検討する仕組みのルール化を求めるものといえる。
したがって、一定の赤字額や債務残高に至った場合に、画一的に組織を廃止するなど単純な整
理ではなく、業務・組織の今後のあり方を議論する前提としての環境づくり、そして議論の開
始を義務づける仕組みと考えるべきである。
本州四国連絡橋公団には、すで多くの国費のほか、地方自治体や民間金融機関の資金も投入
されている。仮に、民間企業の倒産法の理念に則った処理が行われるとすれば、債務免除等の
措置により地方自治体や民間金融機関にも大きな損失を与えることになる。公団の組織は、明
示の政府保証が提示され国の信用保証が確立されたものではない。しかし、株式会社形態の第
三セクター等とは異なり、特別な設立行為等によって設けられた特殊法人、とくに社会資本整
備を主に担ってきた公団組織は、暗黙の政府保証の他、国策としての事業転換という極めて強
い政策性を有している。こうした性格を有する公団組織の整理に関して、民間金融機関に対し
てどのような負担を求めるべきかは、株式会社形態の第三セクターと異なり、重要な論点であ
ると同時に、慎重に判断されるべき課題である。また、地方自治体についても、受益の範囲内
を基本に責任を負うことが必要となる。しかし、国と異なり課税権が極めて限定されている地
方自治体に対して、国の政策としての事業にどこまで責任を負担させるかも議論の的となる。
とくに、本州四国連絡橋公団の場合には、組織経営が破綻することと国策としての事業が破
綻することがほぼ同義となる性格を有している。加えて、今後も巨大施設等を維持していかな
ければならず、その処理は組織のとりつぶしだけでは完結しない。債務と利払いの棚上げや無
コスト資金の投入など事業を料金収入等で成り立つ仕組みに再生することが必要となる。
石原行革担当大臣は、特殊法人への補助金等の削減を提示している。一次的な削減ではなく、
特殊法人の組織・業務の改革による削減でなければ意味がない。その取り組みには、これまで
の事業が抱える破綻的コストを負担する前提が必要となる。改革には、変革のコストが伴う。
その変革のコストを明確にすれば、国・地方自治体等の実質的財政負担は拡大せざるを得ない
ことが明かとなる。改革論議は、コスト削減の収支議論に矮小化されがちである。したがって、
公的部門の倒産法制定等においては、変革のコストをストックベースと将来コストも含めて明
らかにする仕組みを組み込むことが必要である。
「PHP 政策研究レポート」
(Vol.4 No.51)2001 年 6 月
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