NTERV IE W 卒業生 へ贈る言 葉 学長 山﨑 純一 地球レベルの視野で、隣人を、 そしてあらゆる生命を慈しんでほしい 卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。東邦大学での学びを終え、いよいよ社会へ巣立っていく皆さんに、 山﨑純一学長がはなむけのメッセージを寄せてくださいました。その熱のこもった言葉をお届けします。 人生は一度きり 限りある時間を大切に 満足した人生を ―卒業生にとって、母校とはどういった存在であると言 えますか? また、母校との関わりをどのように持ち続けて ほしいとお考えですか? 本学は今年、創立90周年を迎えますが、これまで歩ん できた歴史は決して平坦なものではありませんでした。 ここで改めて本学の歴史を振り返りたいと思います。 大正14(1925)年、初代理事長である額田豊先生と初 代校長である額田晉先生によって、大森の地に帝国女子 医学専門学校が設立されました。同年11月には新たに完 成した付属病院での診療も開始されました。医学と薬学 は車の両輪であるとの観点から、昭和2(1927)年に薬 ます。この姿勢はごく近い隣人である「ご家族、教職員、 学科が開設され、昭和5(1930) 年、帝国女子医学薬学専 先輩、後輩」 に対する「感謝の念」 と同じものと考えます。 門学校と改められました。一方、看護婦を養成するため ― 卒業生たちは今春から、それぞれが所属する組織の の看 護 婦 養 成 所 も大 正15(1926)年 に設 置。昭 和 5 中で新人と位置づけられます。どんな志を持ってスタート (1930) 年の医学科第1回生卒業時には同窓会が発足し、 ― 卒業生が社会へ巣立っていくにあたり、東邦大学の を切ってほしいと思われますか? 「鶴風会」と命名されました。昭和16(1941)年には、帝 OB・OGとして、彼らのマインドのヒントになるメッセージ 皆さんの人生には、入学、卒業、就職、結婚など、大きな 国女子理学専門学校が設置され、数学科など6学科から をお願いします。 転機がいくつも訪れますが、そのたびに従前と異なる価 なる本格的な女子への理科系教育が始まりました。しか ご卒業、おめでとうございます。 値観、生活スタイル、人間関係への対応が求められます。 し、昭和20(1945)年4月の東京大空襲により、本学周 新しい人生における皆さんの活躍を心から祈り、大い その折々には、責任と信念を持った自己管理が最も重要 辺は壊滅状態になりました。木造の病院も例外なく一面 に期待しています。卒業に際し、皆さんに贈りたい言葉 になると思います。これまでは学修環境が整えられてい 焼け野原となりましたが、幸いなことに本館だけが被災 は、第一に「感謝の念」です。これまでの皆さんの大学生 て、それに歩調を合わせていれば良かったでしょう。確か を免れました。そして戦後の昭和22(1947)年、帝国女 活を温かく見守り、今日まで支援してこられたご家族の に多くの卒業生が国家資格取得のために試験へ臨んだこ 子医学薬学専門学校、帝国女子理学専門学校は、それぞ 方、そして勉学のサポートをしてくださった教職員や先 とは事実でしょうが、これは単なる通過点にすぎません。 れ東邦女子医学薬学専門学校、東邦女子理学専門学校と 輩方に対して、今こそ「感謝」の気持ちを伝えてほしいと 大学生活を終えた今こそ、自分を鍛えてくれる環境を 変更されました。 のためにも皆さんの活躍している姿を見せていただきた 思います。 自分で選ぶ態度を身につけ、これからはいっそう主体的 上記のような歴史背景も十分認識し、 「自然・生命・人 いと思います。 さて、グローバル化がいっそう進む社会は今、政治・経 にライフスタイルを模索し、確立していかなければなり 間」という建学の精神を常に念頭に置いて行動してくだ ― 最後に人生の先輩として、 「 生き方」について一言ア 済・文化・教育・科学など、あらゆる面で世界・地球の連 ません。そして、これまで皆さんが漠然と考えていた「し さい。また、本学は教育理念を「自然に対する畏敬の念を ドバイスをお願いします。 環の中にあります。そこでは当然、世界人類が交流し、助 たいこと」と「しなくてはならないこと」、つまり「権 利」 持ち、生命の尊厳を自覚し、人間の謙虚な心を原点とし せっかくですから、私が生き方の拠り所にする、先人 け合うことで人類社会の進歩、発展に寄与しているので と「義務」を今後は明確にする必要があります。 「したい て、かけがえのない自然と人間を守るための、豊かな人 たちの言葉のうち2つを紹介します。 すが、昨今、マスコミでも毎日取り上げられているよう こと」とは、自身が望む事象ですが、これのみを追求する 間性と均衡のとれた知識・技能を育成する」として、多数 に、利害が鋭く対立する国際的競争関係という難しい問 と困難なことに遭遇したときに、それを避けてしまうか の人間性豊かな医療人や研究者などを世に送り出してき です。 (エレノア・ルーズベルト) 」 題も起こっています。そんなとき、自然科学を学んだ皆 もしれません。また、避 けずとも「したいこと」が「でき た歴史ある大学であることを誇りに思ってください。 幸せとは何か? それは満足することだと思います。程度 さんが社会に出てすべきことは、地球レベルで物事を考 ない」場 面 も多 々 出 てくるでしょ う。つまり「したいこ 私たちは皆さんを在学中にのみ繋がりがある存在であ の差こそあれ、不満を抱いてはいけません。いかなる人生を えていくということです。46億年前の地球誕生から今日 と」をするだけでは自身の器量に見合ったことしかでき るとは思っていません。卒業後もともに歩み続ける人生 歩んでも、それがその人の人生であり、人生そのものが宝だ までの生命進化の歴史を振り返ったとき、信じられない ず、自らの能力の限界を超えることはできないのです。 の大切な後輩だと思っています。本学はこれまでも信頼 と言えます。 ほどの自然現象や偶然が重なって今日に至っています。 ですから社会人として飛躍するためには、 「しなければ される社会人育成のため、4学部とも質の高い教育の提 「時間は最も乏しい資源であり、それが管理できなければ 青い海と緑の大地、澄みきった大気の中に生命が誕生し、 ならないこと」 、つまり「与えられた義務」を見定めたう 供に尽力してきましたが、近年はアウトカム基盤型教育 他の何事も管理することはできない。」 (ピーター・ドラッ 進化し続けた私たちの原点である地球を今、私たち自身 えで、渾身の努力を傾注してその実現を図るべきです。 の必要性が叫ばれています。つまり、いかに社会貢献で カー) が破壊しています。その結果が環境問題の一つになって 人生において、 「与えられた義務」は「与えられたチャン きる人材を育成するかが求められていますので、これか 時間は無限ではなく人生は一度きりです。時間を有効 いる「地球温暖化現象」です。温暖化を防ぐためにさまざ ス」でもあるのです。 「与えられたチャンスを最大限に生 らは、卒業生のフォローアップについてもより積極的に に管理できる人が大成するということを胸に刻み、これ まな会議が開催されていますが、とくに自然科学系で学 かす」 「今日できることを明日に延ばさない」という言葉 取り組んでいく予定です。ぜひ母校の動向に注視しなが からの人生を歩んでください。 んだ皆さんには、あらゆる生命を慈しんでほしいと思い を、社会の新人である皆さんへのアドバイスとします。 ら、こうした大学の取り組みを活用するとともに、後輩 今後の皆さんのご活躍を祈念しています。 「与えられた義務」は 「与えられたチャンス」 でもある 2 TOHONOW 2015.March I NT E RV I E W 「幸せはゴールではなく、満足に生きた人生の副産物なの March.2015 TOHONOW 3
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