平成23年度長期研修生研究報告概要 鳥取県教育センター研修企画課 長期研修生 1 研究テーマ 山下 洋美 国語科における言語活動のあり方 ~伝統的な言語文化に関する指導を通して~ 2 はじめに 今までの実践を振り返ると、教材文の読み取りが中心で児童に生きて働く国語の力をつけることができたと は言い難い。本研究では、新設された「伝統的な言語文化に関する事項」の指導を通して、児童が先人たちの 生活や思いに共感しながら思考力や表現力を高めていくことのできるような言語活動のあり方について考え ていきたい。 3 研究目的 児童が伝統的な言語文化の学習で学んだことを生活の中で生かしていこうとする国語科学習にしたいと考 え、研究仮説を次のように設定した。 <研究仮説>児童が先人たちの生活や思いに共感しながら思考力や表現力を高めていくことのできるよう な言語活動を伝統的な言語文化に関する学習の単元に意図的に位置づければ、児童は伝統的な言語文化と自 分たちの生活との関わりに気づき、親しみをもちながら学んだことを生活に生かしていこうとするだろう。 4 低学年…楽しさを実感させる。 研究内容 中学年…身近なものとして感じさせる。 (1) 伝統的な言語文化の学習でねらうこと 昔話や神話・伝承(低学年)、短歌や俳句、ことわざや慣 高学年…自分を豊かにさせるもので 用句、故事成語(中学年)、古文や漢文、近代以降の文語調の あることを実感させる。 文章、古典について解説した文章(高学年)などの学習を通して、伝統的な言語文化に親しませること が重要である。本研究では4年生の短歌やことわざの学習での言語活動のあり方を中心に考えていく。 (2) 授業実践 【授業実践Ⅰ】(7月 全6時間 単元名「自分たちのことわざブックを読んでもらおう」 教材名「ことわざブックを作ろう」東京書籍4年上) ① 「追い読み」 「一斉読み」「たけのこ読み」 「リレー読み」など多様な音読を毎時間行うことで、多 くのことわざや故事成語に親しめるようにした。語呂の楽しさや文語調の言葉の響きを味わった。 ② 参考例を提示してから、ことわざを 使った短文を書く活動を行った。学校 や家庭、スポーツ少年団などでの経験 をもとに短文を仕上げた。 ③ ペアやグループを中心に調べたことや 作った短文を紹介し合う活動を行った。 〔ことわざを使った短文づくり〕 ことわざの意味を 理解し、自分の生活と結 びつけながら短文を書 いている。 〔成果〕 学習を通して、児童はことわざや故事成語と自分たちの生活との関わりに気づき、会話や日記 の中でことわざや故事成語を進んで使うようになった。 児童の 児童の感想より 感想より 学習後の 学習後の児童のアンケートより 児童のアンケートより(4年生27名11月実施) ・ ことわざを使って会話してみた ○先生や友だちとの会話でことわざや故事成語を使った。 い。 ○ことわざや故事成語に関する本を読んだ。 ・ 昔の人の生活の様子を想像し て、今の自分たちの生活にも生 きているんだと思った。 ○日記の中でことわざや故事成語を使った。 0 (%) 20 40 60 〔課題〕 児童の関心・意欲を継続させるために、言語環境を整えることの必要性を感じた。 80 100 【授業実践Ⅱ】(11月~12月 全3時間 単元名「短歌の世界へようこそ」 教材名「百人一首を声に出して読んでみよう」 東京書籍4年下) ① 「追い読み」 「指で音を数えながらの音読」 「上の句下の句に分かれて読む二人読み」などを行った。 教科書の十首を使った十人一首かるたを教室に置いたり、絵札と字札を並べて印刷したカードを配布 したりすることで、文語調の言葉の響きや五七五七七のリズムを感じながら、好きな短歌を暗唱する 姿も見られた。 ② 短歌から情景や心情を思い浮かべ、好きな短歌を選んだ理由を書く活動を行った。 好きな短歌を選んだ理由を書くことを通し て、短歌と現代語訳とを併せて音読した時の ことを振り返りながら、作者の心情を想像し たり共感したりすることができた。 ③ グループごとに発表し感想を伝え合う活動が、表現力を高めることにつながった。 〔成果〕多様な音読や作者の心情にふれることにより、生活の中で親しんでいこうとする意欲につながっ た。 遊びとしての十人一首かるたの中で、次のような児童の姿が見られた。 ・好きな短歌を自発的に暗唱し、上の句を聞いてすぐに札を取る児童もあった。 ・さまざまな方法で音読して短歌に親しむことで、読み手は五七五七七のリズムに のって、みんなに聞こえる張りのある声で短歌を読み上げることができた。また、 情景や心情を想像しながら気もちを込めて読んでいた。 児童の 児童の感想より 感想より ・ 百人一首に何の興味ももってなかったけど、学習をしていくうちに興味がわいてきた。 ・ リズムをとるのが上手になった。他の短歌も調べてみたい。 ・ これからもたくさんの短歌を読んだり、見つけたりしていきたい。 〔課題〕 単元のゴールで百人一首に主体的に関わろうとする児童の姿を具体的にイメージし、それに向 けて単元構成することの重要性に気づいた。 5 研究のまとめ (1)多様な方法で音読することは、文語調の言葉の響きを感じながら伝統的な言語文化に親しむ活動に有効 だった。 (2)自分の考えを整理しながら短文づくりをしたり、短歌から情景や心情を想像して理由を書いたりする活 動を通して、作者の意図や思いを読み取るような思考力を高めることにつながった。 (3)伝え合う活動を設けることにより、文語調の言葉の響きを読み合って楽しんだり、短歌やことわざに関 する作品交流をしたりして、相手に思いや考えを伝える力や聞き手にわかりやすく話す姿勢が高まった。 (4)ことわざや短歌と自分たちの生活との関わりを学ぶことによって、伝統的な言語文化を身近に感じ、積 極的に使おうとすることがわかった。 6 今後の課題 (1) 児童が先人たちとのつながりをより感じることのできる言語活動を選定する。 (2) 各学年のつながりをふまえた指導や、言語環境の整備・充実に努める。 7 おわりに 指導者自らが古典の精神やその楽しさを味わうことが、伝統的な言語文化を指導する出発点であることを認 識し、児童が楽しみながら先人とつながることができるような指導を工夫していきたい。
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